見た目は仮面ライダーデモンズだけど親愛なる隣人スパイダーマンでやります   作:hachi hachi

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今回は早く出来ました!
スパイダーマンを見てる人はこれを読んだら『あっこの2人知ってる』って思いますよ!………思いますよね?


5話:似た物同士

最初の実験は、三時間に及んだ。

 

ユウトは白い部屋で白い機械に繋がれた。針が腕に刺さり、電極がこめかみに貼られ、彼の身体が発するあらゆる数値が記録されていく。筋力の測定。反射速度の計測。感覚の閾値。蜘蛛の糸を射出する器官の走査。痛みはなかった。ただ、自分が標本として扱われているという事実だけが、静かに彼の内側を削っていった。

 

実験が終わると、またガラス張りの部屋へ戻された。だが今度は、部屋そのものが動いた。

 

床が微かに振動し、景色が流れる。白い廊下を滑るように移動し、やがて巨大な空間へ入っていく。そこには同じ大きさのガラス室が等間隔に並んでいた。まるで虫籠を陳列した標本棚のように。

 

ユウトの部屋は、その中央に差し込まれた。

 

そして、彼は初めて自分以外の「収容者」を見た。

 

右隣のガラス室には黒人の男がいた。四十代半ばといったところか、筋肉質な体躯に剃り込んだ頭。腕を組み、壁にもたれて座っている。ユウトが視線を向けると、男はゆっくりと顔を上げた。その目は長い時間を閉じ込められた者の目だった。濁っているのに、奥底で何かが光っている。

左隣のガラス室には、茶髪の男がいた。五十代。細身で背筋は不自然なほどに伸びている。四本の機械の腕が背中から伸び、それぞれが独立した生き物のように空中で微かに動いていた。彼はユウトを見ると、眼鏡の奥で目を細めた。

 

黒人「新しい子か」

 

右の男が、低い声で言った。ガラス越しでもその声ははっきりと届く。部屋と部屋の間に、通気孔か何かがあるらしい。

 

黒人「マックスだ。マックス・ディロン。まあ、一応エレクトロって呼ばれてたがな」

 

中年「オクタビアス…ドクター・オットー・オクタビアス。……君は?」

 

ユウトはしばらく黙っていた。名前を言うことに、意味があるのかどうか分からなかった。だが、この白い牢獄で唯一の隣人だった。

 

ユウト「ユウト………ただのユウト」

 

マックス「ユウト…いい名前だな。……で、あんたは何をやらかした?」

 

ユウト「何も…蜘蛛に噛まれただけ」

 

マックスは小さく笑った。乾いた、長い時間を経た者の笑い方だった。

 

マックス「俺は電気ウナギだ。正確には、電気ウナギの遺伝子を組み込まれ発電所を作った。クリーンエネルギーで、街一つを賄える規模のな。そしたらV.T.C.が来た。『人類の未来のために』ってよ」

 

彼は自分の手のひらを見つめた。指先で小さな火花が散る。

 

マックス「五十年だ。五十年、ここにいる。あの女アンヘルって言ったか? あれは最初から変わらない。ずっと同じ顔で、同じ声で同じことを言う。『あなたを大切にします』ってな」

 

オクタビアス「私も同じだ」

 

オクタビアスが言った。四本の機械腕の一本が、彼の茶髪を撫でるように動いた。

 

オクタビアス「私は太陽を生み出す装置を作った。地上に、小さな太陽を。エネルギー問題を根本から解決するはずだった。……だがV.T.C.は、それを兵器として見た。私を連れて行き装置を分解し、私の頭脳を研究した」

 

彼は眼鏡を外し、拭いた。レンズの向こうの目は疲れているのに、知性の光を失っていなかった。

 

オクタビアス「五十年。私はここで、五十年分の研究をさせられた。だがその研究成果は、決して外には出ない。V.T.C.の中にだけ、蓄積されていく」

 

ユウトは、二人の話を聞きながら自分の内側で何かが冷えていくのを感じた。五十年。彼らは五十年、この白い箱の中で過ごした。老いることなく、ただ実験され記録され、蓄積される対象として。

 

ユウト「不老の処置は…いつされたの?」

 

マックス「連れてこられた直後だ。眠っている間に、な。目が覚めたらもう歳を取らなくなってた。……地獄だよ。永遠に、ここにいるってことだ」

 

オクタビアス「だが、諦めてはいない。五十年、私は考え続けた。この檻の構造を。V.T.C.のシステムを。アンヘルの習慣を。いつか、必ず出る。そのために私は生きている」

 

ユウトはオクタビアスを見た。五十年の重みが、その細い肩にかかっている。だがその背筋は真っ直ぐだった。

マックス「あんたは、まだ来たばかりだ。だが、覚えておけ。ここでは時間が一番の敵だ。五十年、百年、経っても外の世界は変わらない。だが、お前は変わる。……いや、変えられる」

 

ユウト「どうやって?」

 

マックスは答えなかった。ただ、指先の火花を消し目を閉じた。

 

オクタビアス「まずは、生き延びることだ。そして、忘れないことだ。自分が誰だったか。何を失ったか。何を守りたかったか。……V.T.C.は、それを奪おうとする。お前を単なるデータに変えようとする。だが、心まで渡してはいけない」

 

ユウトは頷いた。ガラス越しに、二人の隣人が見える。五十年という時間を共にした、二人の囚人。そしてこれから自分も同じ時間を歩むのだ。

マックスが目を開けた。その瞳の奥で消えかけた光が、もう一度灯ったように見えた。

 

マックス「ようこそ、ユウト…地獄へ」

 

三つのガラス室が、白い光の下で静かに並んでいる。それぞれの中に、異質な力を持つ者が一人ずつ。彼らは言葉を交わし、やがて沈黙した。だがその沈黙は以前の孤独な沈黙とは違っていた。

 

ユウトはベッドに横になり天井を見上げた。透明な天井の向こうには、何もない。ただ白い光だけが永遠に続いているように見えた。

 

——いつか、必ず出る。

 

オクタビアスの言葉が、頭の中で繰り返される。

ユウトは目を閉じた。指先に蜘蛛の糸の感覚が蘇る。まだ制御できない。だが、いつか。いつかこの力でこの白い檻を破る日が来る。

ユウトは鏡を見なくなった。

正確には、鏡の存在しない部屋に移されてから自分の顔をまじまじと見る機会がなくなった。だが、ガラス越しに映る自分の姿を時折目にする。二十年前と何も変わらない顔。十七歳のまま止まった身体。髪も爪も伸びることはあるが、肌の張りも目の下の隈も、あの日のままだ。

 

二十年前、この場所に連れてこられた時ユウトは少年だった。今も少年のままだ。

 

アンヘルもまた、変わらなかった。

 

白いシスターの衣装。顔を覆うヴェール。静かな微笑み。声の調子。歩く時の足音のなさ。すべてが二十年前と一字一句違わない。ユウトは最初の数年、それに気づかなかった。だが五年が過ぎ、十年が過ぎるうちにある疑問が芽生えた。

 

——なぜ、この女は老いないのか。

 

不老の処置はユウトだけに施されたわけではないのか。それともアンヘルは人間ではないのか。あるいは、ユウトと同じくこの施設に囚われた存在なのか。

 

問うたことはなかった。アンヘルはいつも「あなたを大切にします」と言うだけだ。その言葉の温度も、二十年前と変わらない。

 

実験は続いた。週に三度時には五度。筋力の測定、感覚の閾値蜘蛛の糸の制御テスト。ユウトの身体から糸は出ない。彼の内側で蜘蛛の因子は確かに脈打っているが、糸を射出する器官は存在しなかった。代わりに、彼の力は別の形で現れた。壁を登る。信じられない跳躍。常人を超える反射。そして、周囲のあらゆる音を拾う聴覚。

 

アンヘルはその一つ一つを丁寧に記録し、時折、ユウトに質問をした。

 

アンヘル「今の感覚を、言葉にできますか・その動きをする時、身体のどこに意識が集まりますか・恐怖を感じる時、あなたの力はどう反応しますか」

 

ユウトは答えた。最初は拒んでいたが、いつしか答えることが習慣になった。答えることで、自分自身の力を理解できるようになったからだ。アンヘルは嘘をつかない。少なくとも、ユウトの身体に関する限りは。彼女の記録は正確で、彼女の質問は鋭くそして彼女の微笑みは決して崩れなかった。

 

だが、二十年生きてユウトは気づいた。アンヘルは彼を大切にしている。だが、その「大切」は、標本を大切にするのと同じ種類のものだ。壊さないように扱い、しかし決して自由にはしない。

 

この日も、実験が終わり部屋が移動された。白い廊下を滑り、いつもの巨大な空間へ。右隣にはマックス。左隣にはオクタビアス。二十年経っても、その配置は変わらない。

 

マックス「おう、ユウト」

 

マックスの声は二十年前と同じ低さだが、その響きには長い時間が染み込んでいた。彼は壁にもたれたまま、指先で小さな火花を散らしている。その光は、二十年前よりずっと繊細で制御されたものになっていた。

 

ユウト「今日も実験?」

 

マックス「ああ。電気の出力測定だ。五十年前からずっと同じだよ。俺の身体はもう、彼らの知りたいことを全部知ってるはずなのにな」

 

オクタビアス「彼らは知りたいんじゃない。彼らは確認したいんだ。自分たちの支配が続いていることを」

 

オクタビアスは眼鏡を直した。そのレンズの奥の目は、二十年前と変わらず知性に満ちている。

 

オクタビアス「ユウト、君の力はどうだ」

 

ユウト「制御はできるようになった。壁を登るのも、跳ぶのも、音を聞くのも。でも糸は出ない。やはり僕の中に、蜘蛛の糸を生み出す器官はないらしい」

 

オクタビアス「ならばそれは、君の力の形だ。蜘蛛の力といっても、全てが同じではない。君の身体は君の必要に応じて力を形作っている。糸がなくても、君は蜘蛛だ」

 

ユウトは自分の手のひらを見た。二十年の実験で、彼の手は少年のままだ。だがその内側には確かな力がある。壁を掴む力。地面を蹴る力。そして、この白い檻の中でさえ生き延びる力。

 

その時、空気が変わった。

 

三人が同時に顔を上げた。ガラス室の外白い廊下の向こうから、静かな足音が近づいてくる。足音——アンヘルはいつも音を立てない。だが今回は、微かにしかし確かに、床を打つ音がした。

 

やがて、アンヘルの姿が現れた。

 

アンヘル「ユウト」

 

アンヘルはユウトのガラス室の前に立ち、ヴェールの奥から彼を見つめた。その声には、初めて聞く響きがあった。心配。あるいは懸念。

 

アンヘル「体調はどうですか。ここ数日、数値が安定していません。何か感じることはありますか」

 

ユウトは眉をひそめた。アンヘルが体調を気にするのは初めてではなかったが、こんなに直接的にしかも「心配」の色を滲ませて来るのは珍しかった。

 

ユウト「別に。いつも通り」

 

アンヘル「そうですか。ですが、念のため、明日は精密検査を行います。蜘蛛の因子が何らかの変化を見せている可能性があります」

 

ユウト「変化?」

 

アンヘル「ええ。良い方向の変化であればよいのですが」

 

アンヘルはそれだけ言うとしばらくユウトを見つめ、やがて静かに去っていった。足音はやはりほとんどしなかった。

 

マックス「なんだ、ありゃ」

 

マックスが低く唸った。彼の指先の火花が、一瞬大きくなる。

 

マックス「初めてだ。あの女が、あんな顔をするのは」

 

オクタビアス「警戒しろ。あれは、何かを知っている。そしてそれを我々に隠している」

 

ユウト「オクタビアスさん、あなた、あの人のことをどう思います?」

 

オクタビアスは長い沈黙の後、静かに答えた。

 

オクタビアス「五十年以上、私はあの女を見てきた。彼女は老いない。感情を見せない。だが、今日、初めて感情らしきものを見た。それは我々にとって良いことではない」

 

ユウト「なぜ?」

 

オクタビアス「支配者が揺らぐ時、支配される者は危険に晒される。彼女が何かに怯えているなら、我々はその何かの一部だ。あるいは……」

 

オクタビアスは言葉を切った。機械腕の一本が、ガラスの壁を撫でる。

 

オクタビアス「あるいは、我々が彼女の知らない何かに変わりつつあるのかもしれない」

 

ユウトは自分の手のひらを見た。蜘蛛の力。二十年前、目覚めたばかりの頃は制御できなかった力。だが今は、指先に集中させれば壁を掴み脚に込めれば跳べる。耳を澄ませば、隣のガラス室のマックスの心臓の音まで聞こえる。そして今日、アンヘルが来た時ユウトは気づいた。

 

彼女の心臓の音が、聞こえなかった。

 

人間なら、必ず心臓の音がある。だがアンヘルの胸からは、何の音も聞こえなかった。二十年前ユウトの聴覚はまだそこまで鋭くなかった。だが今は違う。

 

アンヘルは、人間ではない。

 

ユウトはその事実をまだ二人には言わなかった。だが、胸の奥に静かにしまった。この白い檻の中で、新たな事実が一つ加わった。

 

——あの女は、何かだ。

 

ユウトはベッドに横になった。天井は相変わらず透明で、その向こうには何もない。だが指先に感じる力の感覚は、二十年前とは比べ物にならないほど明確だった。糸は出ない。だが、彼の身体の内側で蜘蛛の因子が静かに、しかし確実に何かを変えつつあった。

アンヘルが明日精密検査を行うと言った。その検査で、何が見つかるのか。そしてそれが自分にとって何を意味するのか。

 

ユウトは目を閉じた。右隣からはマックスの低い寝息。左隣からはオクタビアスの機械腕が微かに動く音。二十年前と同じ音。だが、その音の意味はもう同じではない。

 

——変わり始めている。

 

自分が。この檻が。そして、アンヘルが。

 

ユウトは静かに息を吐いた。蜘蛛の力が指先から腕へ、腕から全身へゆっくりと巡っていく。制御できる。だが、その制御の向こうにまだ見ぬ何かが待っている。

 

明日の検査が、その何かの扉になるかもしれない。

 




次回は脱出になります!
楽しみに待ってください!
ニケ出るのはまだ先です(汗)

ヒロインするなら?

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