見た目は仮面ライダーデモンズだけど親愛なる隣人スパイダーマンでやります 作:hachi hachi
夜の街を走った。
僕はスーツの装甲を解除しベルトを腰に巻いたまま路地を縫うように進んだ。街の灯りが遠くに見える。二十年前と変わらない景色。だが、僕の目に映るすべてが違って見えた。空気の匂い。風の冷たさ。地面の硬さ。すべてが本物で、すべてが自由だった。
向かう先は決まっていた。
ダニエルの家。僕の親友だった男。二十年前、僕がV.T.C.に連れ去られる直前まで毎日のように一緒にいた。彼の家はこの街の外れ、小さな工務店を営む父親の敷地内にあった。僕とダニーはよくそこで、壊れたラジオや古い自転車を直して遊んだ。
記憶を頼りに路地を曲がる。角の自動販売機。小さな公園。錆びた看板。どれも二十年前のままだ。だが、建物はいくつか建て替えられ街の輪郭は少しだけ変わっていた。
やがて、見覚えのある門が見えた。木製の古い門。その横には「ロペス工務店」と書かれた看板。ダニーの父親の店だ。だが看板の文字は新しく塗り直されている。ダニーが継いだのだろう。
僕は門の前で足を止めた。家の中から灯りが漏れている。窓に近づき、そっと中を覗いた。
そこに、ダニーがいた。
四十歳近くになっていた。二十年前の面影はある。だが、肩幅が広がり顔には皺が刻まれ、髪には白いものが混じっている。その隣には、マリーがいた。僕たちのクラスメイトだった女の子。僕が研究所の見学に行った後に、ダニーが「マリーに告白したい」と相談してきたのを覚えている。僕は背中を押した。頑張れ、と。
そして、その傍らには小さな女の子がいた。五歳くらいだろうか。マリーに似た笑顔で、ダニーの膝に乗っている。
三人は、笑っていた。
テーブルを囲み、夕食を食べている。ダニーが何か冗談を言い、マリーが笑い女の子が真似をして笑う。温かい光景だった。僕の胸の奥が、じんわりと熱くなった。
——良かった。
心からそう思った。僕はこの二十年、白い部屋で過ごした。だがダニーは違う二十年を生きた。マリーと恋をし、結婚し子供を授かり、家族を作った。僕が奪われた時間を彼はちゃんと生きていた。
それだけで、僕がここに来た意味があった。
僕はそっと窓から離れた。会おうと思えば会えた。だが、この幸せな食卓に二十年ぶりの幽霊のような自分が割り込むのは違う。ダニーにはダニーの人生がある。僕は僕の道を行くべきだ。
踵を返し、歩き出した。
???「——ユウト?」
背後から、声がした。
僕は立ち止まった。振り返る。そこにダニーが立っていた。玄関から出てきたらしい。ゴミ袋を片手に、目を大きく見開いている。
ダニー「ユウト……? お前……ユウトなのか?」
ダニーの声が震えていた。僕は黙って頷いた。
ダニー「お前、二十年前……いなくなって……死んだって……」
ダニーはゴミ袋を落とした。その手が、微かに震えている。
ダニー「生きてたのか……?」
ユウト「うん……生きてた」
その瞬間、ダニーが走り出した。僕に抱きつきそのまま抱きしめた。二十年前と同じ、力強い抱擁だった。彼の肩が震えている。泣いているのだと気づいた。
ダニー「馬鹿野郎……二十年だぞ……二十年……みんなお前のことを……」
ユウト「ごめん」
それ以上の言葉が見つからなかった。
ダニーは僕を離し顔を見た。涙を拭いもせず、まじまじと僕を見つめる。
ダニー「お前……変わってないな。二十年経ったのに……」
ユウト「うん。色々あって」
ダニーは何も聞かなかった。ただ、僕の肩を抱き家の裏手にある小屋へと連れて行った。修理用の作業部屋。工具の匂い。オイルの染みた作業台。二十年前と変わらない空間だった。
ダニー「ここなら誰も来ない……話してくれ」
僕は話した。
蜘蛛に噛まれたこと。V.T.C.に連れ去られたこと。不老の処置を施されたこと。二十年、白い部屋で実験され続けたこと。マックスとオクタビアスという二人の隣人のこと。彼らが僕を逃がすために命を落としたこと。アンヘルという女のこと。D.E.E.P.のこと。
全部話した。
ダニーは黙って聞いていた。途中何度か拳を握り、何度か歯を食いしばった。話し終えると長い沈黙が訪れた。
ダニー「……そりゃあ、ひでえ話だ。俺がマリーと結婚できたのも、お前が背中を押してくれたからだ。なのにお前はそんな……」
ユウト「ダニーは悪くない。それに、マリーと子供と幸せそうで良かった。本当に」
ダニーは目を拭った。
ダニー「これから、どうするんだ」
ユウト「少し離れた街へ行く。V.T.C.は僕を追ってる。ここにいたら、ダニーたちに迷惑がかかる。だから離れた場所で、困ってる人を助けながら生きていく。この力を、今度こそ誰かのために使いたい」
ダニーは僕を見つめた。その目に、二十年前と同じ光があった。僕が何かを決意した時、いつもダニーはこうやって見ていた。
ダニー「待ってろ」
ダニーは立ち上がり、作業台の引き出しを開けた。中から古い財布を取り出し、札束を僕に押し付けた。
ダニー「二ヶ月分の金だ。足りるかどうかはわからんが、持ってけ」
ユウト「ダニー、こんな——」
ダニー「黙って受け取れ。俺がマリーと恋人になれたのは、お前のおかげだ。あの時お前が背中を押してくれなかったら、俺は告白できなかった。それ以来ずっとお前に返したかった。この金は、そのお礼だ」
僕は札束を受け取った。手のひらに、ダニーの想いの重さがあった。
ダニー「今夜はここで寝ろ。マリーには……まだ言わない。お前が会いたくないなら、それでいい。だが俺はお前に生きていてほしい。だから、せめて一晩だけでもちゃんと休め」
僕は頷いた。
ダニーは毛布と枕を持ってきて簡易ベッドを作ってくれた。そして、去り際に振り返った。
ダニー「なあ、ユウト」
ユウト「なに?」
ダニー「お前、これから人を助けるんだろ。なら名前がいる。スパイダーマンでも名乗ればいい」
ユウト「スパイダーマン……」
ダニー「蜘蛛の力を持ってるんだろ。なら、それでいい。誰かを守るヒーローの名前だ」
ダニーはそう言って、小屋を出て行った。
僕はベッドに横になった。天井は木でできていた。透明じゃない。本物の、温かい木の天井だった。二十年ぶりにちゃんとした布団で眠った。ダニーの言葉が、頭の中で繰り返される。
——スパイダーマン。
悪くない、と思った。
翌朝、僕は日が昇る前に目を覚ました。ダニーはまだ寝ているだろう。マリーも、子供も。僕は毛布を畳み作業台の上に手紙を置いた。ダニーの工具の傍らに、そっと。
ダニーへ
ありがとう。全部、ありがとう。
マリーと、子供と、幸せに。
僕は、僕の道を行く。
いつかまた会えたら、その時は笑って会おう。
親愛なる隣人スパイダーマンより
P.S. ダニーの言った通り、この名前を使うよ。
僕は小屋を出た。朝の光が街を包み始めていた。誰もいない道を歩き、隣の街へと向かう。ベルトは腰に巻いたまま。スーツの力も、蜘蛛の力も捨てるつもりはなかった。これから先、必要になる日が必ず来る。誰かを守るために。
ダニーの家が遠ざかる。振り返らずに歩いた。だが、心の中で、もう一度だけ呟いた。
——ありがとう、ダニー。
朝日が昇る。新しい街が、僕を待っていた。
親友と再開と別れは辛く感じる
次回はラプチャー襲来です!
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