「はぁ……後輩だけど本当にいい友達。友愛……愛か……なんてね」
あの二人はこれから、どんな風に愛を紡いでいくのかな。
私とは、これからは少しドライな距離感ができていくと思う。お互い同い年で大学生ならともかく、年上の私が就職しちゃったら、かぐやちゃんたち『元生徒会』くらいの距離感がないと、気軽に誘う理由なんてそんなにないもんね。
それにしても、ミコちゃんの笑顔、綺麗だったなぁ。本当にかわいかった……。本気で妹にしたい。
でも本当に、もうこれからの人生の中で、そう何度も会うことはない気がする。
二人にとっての私の役割は、もう終わったんだ。
――そして、私にとっても、あの恋の終わりに。
「あっ、そうだ……!!」
感傷に浸って少し涙ぐんだまま、ちょうど目の前を通った実家近くの馴染みの酒店へ入って買い物を済ませる。カクテルを作ろう。
この大切な思い出に――優くんとミコちゃんをしっかりイメージした、私だけのオリジナルのカクテルを。私は、静かな実家の自室でぽつりと声に出して独白する。
「今度はいつ会えるかな? 二人とも……って、さっき自分でもうそんなに会えないって言いながら、一体何言ってんだ私。でも、これが一番いい終わり方じゃん。『友達』……ほんといい響き。結婚式には呼んでほしいなぁ。って、ちょっと気が早いか。あの二人なら絶対結婚するだろうけどね」
買ってきたお酒や冷蔵庫の中身をガサゴソと漁りながら、構想を紙に書き出して、カクテルを作り上げていく。
カラン……。グラスに落とした氷の音が、静まり返ったステンレスのキッチンにやけに高く反響して耳に刺さる。
ベースはバーボンにする。あの日の思い出だから。ボトルの栓を開けると、ほのかな甘い香りが鼻をくすぐり、一瞬であの頃に引き戻されそうになる。
そこに注ぐのは、ミコちゃんをイメージしたオレンジジュース。
……そっか。最近無意識にオレンジばかり選んでいたのは、私、ミコちゃんという夜明けをずっと待っていたからなんだ。
優くんのイメージは……クラフトコーラにしよう。シュワシュワと心地よい音をたてながら、黒い液体がじんわりと鮮やかなオレンジ色に溶けていく。一見すると反発しそうなのに、完璧に混じり合っていくこれからの二人みたいだ。
「(私はその二人を包み込むベース……なんてね。ちょっと都合良すぎかな)」
二人がテーマなら、これまでの苦味もちゃんと欲しい。コーヒーリキュールを合わせて……アクセントにブラックベリーのシロップなんてどうだろう。優くんがミコちゃんに見せていた不器用な照れ隠しって、ブラックベリーのあの甘酸っぱくて深い感じがすごくする。
「……って、私、優くんのことどれだけ見てたのよ」
我ながら呆れるほどの解像度に、自嘲気味な笑いが漏れた。苦味も、酸いも、甘いも、全部の感情を詰め込んだ、ちょっと欲張りな私だけのグラス。
「できた」
一口、グラスに口をつける。
「……苦っ。コーヒー、入れすぎちゃった……」
舌に落ちた強烈なエスプレッソの苦味。その痛覚みたいな刺激が引き金になったように、ツー……っと、頬を温かいものが伝い落ちた。
「……。優くん……。優くん……っ」
声に出した途端、もう誤魔化しがきかなかった。
「……ありがとう、ね……。ちゃんと愛していたよ……本当は。そして好きだよ……これからも。ミコちゃんと幸せになってね。二人とも大好きだから、お互いをよろしくね」
溢れる涙と一緒に、愛おしい過去のすべてを、勢いよくカクテルごと喉に押し込む。
「ヨシッ!! スッキリした!!」
夕陽に代わって、部屋をオレンジ色に輝かせる照明に向かって、パンッと両手で自分の頬を叩いた。
こうして、私、子安つばめはしっかりと前を向く。
(子安つばめは前を向く・完結)