かぐや様は告らせたい if ~伊井野ミコは勝ち取りたい~ 作:つねこう
『愛させてほしくなった』というあの特攻の告白から一週間。
秀知院学園高等部は、ついに卒業式当日を迎えていた。
「――かつての私は、ルールという盾に隠れ、自分の正義だけを振りかざす、独りよがりな子供でした」
静まり返った体育館に、卒業生代表・伊井野ミコの凛とした声が響き渡る。
「でも、秀知院での日々が教えてくれました。人は、どんなに優秀であろうと、自分を正しく見てくれる人がいなければ、本当の力を発揮することはできません。私たちが困難な壁の前で諦めず、前を向けるのは――決して見捨てず、陰から見守ってくれている人がいるからです」
式典はちょうど、卒業生答辞の場面に差し掛かっていた。
壇上には、二期連続で生徒会長を務め上げ、この学園を支えきった功績から、伊井野ミコが真っ直ぐに立っている。
熱弁するミコの視線が移動する。ふと、客席の一角へと落ちた。
そこには、喧嘩もしたけど、ミコの辛い時期からずっと隣で支え続けてくれた、大切な親友の大仏こばち。つばめ先輩との勝負に負けそうで心が折れそうだった時も、誰よりもミコに寄り添ってくれた、普段はクールなのに今は涙が止まらずに両手で顔を押さえている小野寺麗。
そして――もう一人の、一言では到底言い表せない大切な存在。
壇上の彼女の姿を、どこか誇らしげに、真っ直ぐに見つめ返す石上優がいた。
(そんな彼らのさらに後ろ、一般の保護者席の片隅に、バッサリと髪を切り落とした一人の麗人が、誰にも気づかれないようにこっそりと座り、誰よりも温かい視線で壇上を見守っていることなど、今のミコは知る由もなかった)
「時に、圧倒的な生き様の輝きで導いてくれた先輩たち。幼い頃からずっと寄り添い続けてくれた親友。不器用な私に新しい扉を開いてくれた友。そして……私の暴走すらも、遠くから笑顔で祝福してくれた人。皆さんがいてくれたから、私は今日、一人ではありません」
たくさんの人たちの顔が脳裏をよぎる。けれど、その中でも特に眩しく輝く人たち――自分を信じて成長できた生徒会へと入れてくれた最高の先輩たち、白銀御行、四宮かぐや、藤原千花。ずっと近くで見守ってくれた親友たち、大仏こばちと小野寺麗。影ひとつない愛おしい思い出を共有した、かけがえのないライバル、子安つばめ。そして、愛する人、石上優。
「――秀知院学園は、サイコーの場所でした!! みなさん、これまでどうもありがとうございました!! そして、これからもよろしくお願いします!!」
すべての絆を乗せたミコの答辞は、歴代最高クラスの感動を呼び、体育館は割れんばかりの拍手と温かい涙に包まれた。
――式典後、喧騒から少し離れた中庭。
石上は、ミコの前で少し照れくさそうに頭を掻いていた。そして、背中に隠していた一輪の花をそっと差し出す。
「これ。卒業、おめでとう」
「うん……おめでとう。オレンジの……バラ? 教えてくれるんだよね? 花言葉……」
「ああ。花言葉は『絆』とか『信頼』。……あと、『健やか』」
「……ふふっ。健やかって……優くんらしいね」
ミコは嬉しそうに目を細め、その一輪を両手で大切に包み込んだ。
そんな彼女を愛おしそうに見つめながら、石上は小さく深呼吸をして、あの日からずっと胸に秘めていた本気の言葉を紡ぐ。
「ミコちゃんがいてくれてよかった。…………愛させてほしい」
「……っ///」
その言葉に、ミコは顔をカッと赤くして、恨めしそうに石上を上目遣いで睨んだ。
「そ、それって……私の言ったこと、バカにして……っ」
「いや。からかってなんかない。……本当に、オレが愛したいんだから」
石上の真っ直ぐな黒い瞳には、一切の誤魔化しがなかった。
その本気の熱量にあてられ、ミコの目からポロリと大粒の涙がとめどなくこぼれ落ちていく。それを隠すように、ミコはバラを持ったまま、少しだけ背伸びをして石上の胸元にピタッと体を寄せた。
「……もう一回……言って」
「……っ/// 愛させてください!!」
「……うんっ!!////」
ミコが石上の背中に腕を回して、力いっぱい「ぎゅーっ」と抱きつく。
石上も大きな腕で、彼女の小さな体を気遣うように優しく「ぎゅっ」と抱きしめ返した。けれど、ミコは彼の胸に顔を埋めたまま、服の裾をぎゅっと握りしめて小さく声を震わせる。
「ぎゅーーが良い///」
不意にねだられたその愛らしさに、石上は一瞬言葉を失って、それから耳の裏まで真っ赤に染めながら、愛おしそうに小さく吹き出した。
少しだけ躊躇った後、彼はミコの小さくて華奢な体を慈しむように、けれどもう二度と離さないと言わんばかりの、強くて確実な腕の力で、今度こそ「ぎゅーーー」と彼女を強く抱きしめ返すのだった。
――その光景を少し離れた場所から覗いていた小野寺麗は、「……っ、よかった……本当によかったぁ……っ」と両手で顔を覆ってボロ泣きしている。その隣で、大仏こばちも「……良かったね石上……ミコちゃんも……」とポロポロと涙をこぼしていた。
「あははっ! 二人とも泣きすぎだよぉ!?」
そこへ、ポンッと二人の肩を叩く陽気な声。
麗とこばちが同時に振り返る。そこに立っていたのは、黒い短髪のスーツが生える麗人。それは、わずかな期間で完璧な変貌を遂げた、ある人物だった。
「つばめ先輩! 本当に来てくれたんですね!」
麗は驚かなかった。ミコとカフェで語り合った翌日、ある決意と共に髪を切り落としていたつばめから、「自分勝手だけど、自分のケジメとして卒業式に行きたい」と相談され、今の姿の自撮り写真とともに連絡をもらっていたからだ。
一方のこばちは、あまりの激変ぶりに一瞬誰なのか脳の処理が追いつかず、目を丸くして立ち尽くしていた。しかし、麗の「つばめ先輩」という言葉を聞いてハッと息を呑み、よく顔を見ると、目の前の麗人があの学園のマドンナなのだとようやく理解する。
「えっ……つ、つばめ先輩……!?」
すべてを吹っ切った眩しい笑顔。新しい大人の階段を軽やかに登り始めているつばめは、感動で涙ぐむ後輩二人を両腕でガシッとまとめてヘッドロックした。
「ちょ、つばめ先輩っ!?」
「ほらぁ、見てよ二人とも!! 私、やっぱり勝ってたぁ!!」
オレンジのバラ一輪を輝かせて、抱きしめ合うミコと石上を指差し、つばめは底抜けの笑顔で高らかに『完全勝利』を宣言する。あの夕暮れのカフェでミコに語った「二人が幸せなら、私、自分も勝った気がするんだよ」という言葉を、今この瞬間に、100%の真実の勝利として証明してみせたのだ。
「秀知院、サイコーーーッ!!」
涙と笑いと、圧倒的な祝福。
最高のハッピーエンドを迎え、伊井野ミコは、名実ともに世界で一番『愛される』少女となったのだった。