伊井野ミコは勝ち取りたい   作:つねこう

7 / 8
※本作は、作者が作成したプロットと原稿をベースに、AIを推敲・校正のアシスタント(壁打ち相手)として使用して文章を整えています。ストーリー展開やキャラクターの解釈は100%作者の妄想です。


◆最終章:藤原千花は苦悩する

あの一点突破の、命懸けの刺突から、2年が経った。かつてはトゲトゲとした正論の棘で全身を武装していた伊井野ミコだったが、子安つばめという巨大な壁から「特別な場所」を勝ち取り、石上優の隣という絶対領域を手に入れた。

 

その結果……!!

 

彼女の恋愛脳のブレーキは、文字通り跡形もなく木っ端微塵に粉砕されていた。

 

「……というわけで、皆さんお久しぶりです!」

 

都内の某高級個室居酒屋に集まったのは、元・秀知院学園生徒会の面々。アメリカの大学に進学した白銀御行、四宮かぐや、そして藤原千花である。久しぶりの再会を喜ぶ先輩たちの前に現れたのは、昔の犬猿の仲が嘘のように、石上への愛が溢れすぎて完全に知能が急降下した「優くん全肯定・優くん大しゅきモード」の伊井野ミコとその横に立つ石上優だった。

お互いの陰陽を、すべてさらけ出し合ってきた二人だからこそ、今の二人には周囲の視線など一ミリも視界に入っていない。

 

「優くん、これ美味しいよ。はい、あーん……」

「あ、あーん……」

「あ、ちょっとお口の端にタレが。じっとしててね?」

「ちょ、ミ、ミコちゃん? みんな見てるから……っ」

 

顔を耳の裏まで真っ赤にしながらも、大人しくミコに口元を拭われている石上。彼もまた、あの放課後にミコが見せた「理屈をこねくり回した命懸けの特攻」に脳髄まで撃ち抜かれ、見事に心を打ち砕かれた「世界一ちょろい男」と化していた。

 

白銀とかぐやは、生温かい目でその空間を見つめる。あまりの糖度の高さに、部屋の空気そのものが甘ったるく濁っていくようだった。

 

「おいおいお前ら。さすがにもうちょっと場を弁えろ!! ってあーんがキターーーーッ!!」

 

白銀がすかさず、かつて石上から言われ続けていたようなセリフを大音量で叩き込む。しかし、そんなツッコミなど耳に入らないほど、白銀の隣の四宮かぐやの目はオタクのように潤んでいた。

 

「と、尊い……(うるうる)」

 

その瞬間、かぐやの脳内のタガが完全に外れた。

 

「あ、今の『あーん』もう1回やって!! ほらっ!! 最初から!!」

「ちょ、かぐやさん、何言ってるんですか!?」

 

つまらなそうに頬杖をついていた藤原千花が、あまりの衝撃発言に声を裏返して身を乗り出す。

 

「いいからいいから! ほら石上くんも恥ずかしがらないの。御行くんも早くスマホ持って!」

「いや、俺は別に……」

「早くっ!!」

「あ、はい」

 

かぐやの放つ、かつての氷の女王時代を彷彿とさせる圧倒的な圧迫感。言われるがままに、完全に面白がりモードのスマホレンズを向けられ、再び硬直しながらも「あーん」をスローモーションで再現させられる石上とミコ。その様子をキラキラとした少女の目で連写しながら、かぐやは心の底から満ち足りた、別人格のような至高の微笑みを浮かべている。

 

「(ふふ……。あの時あんなに殺伐としていた二人が、今や人目も憚らずイチャついているわ。……最高だわ、この構図)」

 

そんなかぐやの限界突破ぶりに、藤原が「もー」とジュースをすすりながら、ジト目を向けた。

 

「かぐやさんって、こんな人でしたっけ?」

「そうだぞ? かわいいものだろう?」

「うわー。超いやだこの空気」

 

白銀のナチュラルな惚気に、藤原が盛大に顔をしかめる。

 

ここで、完全にのけものにされていた藤原千花は、最後のプライドを懸けて頑張ってみることにした。

 

「じ、じゃあ二人はお互いのどこが好きか、お、教えてもらいたいなぁ!」

 

どんないじりをしようか思いついてもいないくせに、勢いだけで聞いてしまう。回答次第でピュアな恋人をいじめるという、むなしい勝利を得たいがための邪念――すなわち『恋弱の足掻き』であった。

 

「「どこ!? えっと……」」

「(うわーハモりやがった)」

 

藤原の心に第一撃。

 

かぐやは目を輝かせ、白銀は聞き耳を立てるように、刺しみ盛りのつまを過剰に醤油にくぐらせていた。

 

「オレから」

「私から」

「うぅ……(……なんかウザいなぁこいつら)」

 

藤原の心に第二撃。

 

「じゃあ……ミコちゃんから……お願い」と石上が話を振る。

「えっと……。優しいところ。不器用だけど愛してくれるところ。ちょっと口が下手だけど愛情だけは外さないところ。顔、体つき。こんな感じです。本当は全部なんですけど、全部ってだけ言っちゃうと不誠実なのでこんな感じです!!」

 

エッヘンと胸を張るミコ。

 

「うわぁ……すてき//!」

「あーん(全部じゃねぇか)」

 

かぐやが溶けるような表情でうっとりし、白銀はやれやれと言わんばかりに平然とつまを咀嚼している。この二人は自分たちも同様のバカを日々やっているので、目の前の展開に1ミリも羞恥がない。

 

「んぐぐぐぐぐ……全部じゃねぇかよぉ!! なにそれ!? 窒息させる気ですか!? いま一瞬、確実にこの部屋の酸素なくなってましたよ!?」

 

藤原千花はこの空間における圧倒的敗北者であった。

 

完敗だ。

 

しかし、悪夢は終わらない。

 

千花の雑な煽りを純度100%の直球で撃ち抜いたミコに続き、今度は石上側のターンがやってくる。

 

「じゃあ、オレの番ッスね……」

 

「ぐっ(もうお腹いっぱいなんですけど……! これ以上若い二人の愛の軌跡を見せつけられたら私の胃酸が逆流しちゃうんですけど……!!)」

「……ミコちゃんの、すぐ真っ赤になってくれるところとか、逆境でも絶対折れないとことか、あと、泣き虫だけど最近はちゃんと強がらずに甘えてくれるようになったところ。……正直、出会ったころは面倒くせえ奴だと思ってたけど、今は全てが世界で一番……かわいいと思ってます。ね? ミコちゃんかわいいですよね?」

 

石上は目をむき出して同意を求め始める。

 

「っっっっっっ――!?!?!?!」

 

やる時はやるくせに、いざ言われる側になると耐性ゼロのミコは、自分の頭から物理的に湯気が出そうなほど真っ赤になり、両手で顔を覆って椅子からずり落ちそうになった。

 

(バシャバシャバシャッ! ※高速連写モード)

「おいかぐや、お前いつの間に連写設定に……」

「御行くん!! 今は黙ってて。歴史的瞬間を逃す気!?」

「ぐはあっ……!!」

 

胸を押さえて床に崩れ落ちる藤原。

 

綺麗に自爆して大汗をかき、意識が大気圏外まで発射したミコを、石上が「お前な、急にそんな恥ずかしいこと言うなよ。まったく、かわいいんだから……」と耳まで真っ赤にしながら汗を拭き取っていた。

 

その姿すらも、見ているこっちの寿命が縮まるほどの特大の甘酸っぱさを放っていた。

 

完敗。

 

完全なる敗北。

 

右を見れば限界突破のバカップルな後輩、左を見ればナチュラル惚気夫婦の同級生。

完璧に仕上がった、いや、限界を知らないリア充の群れ。

 

逃げ場のない高濃度リア充空間に完全に毒され、実質一人だけ「のけもの」になったリアル恋弱お姉さん・藤原千花は、床を涙で濡らしながらマントルに向かって爪で床をひっかき、遠い目をして最後の力を振り絞る。

 

「……もういいです。私、床掘ってマントルまで潜るか、地球の裏側に引っ越します……」

「ダメよ藤原さん。ここ、特等席よ?」

「酷なことを言うなよかぐや……いや、でも確かに良い眺めではあるが」

 

元生徒会の絆という名の地獄絵図の中で、千花は今日もまた、一人静かに遠い空を見つめるのだった。

 

「あーーーー隕石降ってこないかな」

 

(伊井野ミコは勝ち取りたい おわり)




◆ あとがき(つばめ編のネタバレ含みます)
赤坂先生の原作終盤における伊井野ミコは、それまでの厳格で融通の利かない風紀委員としてのイメージよりも、石上優に恋をしながらもあと一歩を踏み出せない、あの純朴な姿が本当に魅力的でした。
だからこそ、「彼女が全身全霊の告白をした世界線があったなら」というIFを、どうしても見てみたくて、そして「こうあってほしい」という理想を形にしたくてこの物語を書き始めました。
この二次創作で、ミコは『愛している』という非常に重い言葉を使っています。
彼女は本来、こうした言葉を安易に消費するような子ではありません。
それでもあの瞬間、石上とつばめの間にあった『友達以上恋人未満』という絶対的な一線を打ち破るには、凡百の「好き」という言葉では質量が足りない、と判断した。この言葉の「質」の選択にこそ、彼女の秀才ゆえのロジックと、恋への異常な必死さが表れるようなキャラ付けを意識しました。
また、ミコの「愛しています。先輩はどうなんですか?」という決死の問いに対し、つばめ先輩が一呼吸置いて「好きだよ」と返答したシーンがあります。
ミコから「違う、好きなのは知ってる。私が聞いてるのは愛しているかだ」という、ある意味で無粋なツッコミを入れさせないよう、つばめ先輩が間髪入れずに「私が今から恋人にしたら身を引いてくれる?」と駆け足気味に挑発を被せたのは、つばめ先輩側の「過去のトラウマゆえに、それでも『愛』を語ることができないもどかしさ」の表現でもありました。
また、つばめ先輩も相応に石上のことを好意に思っているのに「足りない」と言われていると感じたことへの軽い仕返しでもあります。
原作の解釈と大きく相違していなければ、ミコはつばめ先輩の過去のトラウマを深くは知りません。
そのため、彼女のことを「圧倒的な恋愛強者の陽キャ」だと盛大に勘違いしています。作中で「捕食者の目」や「魔女」といった、つばめ先輩本来の人柄とはかけ離れた物々しいワードが並ぶのはそのためです。
ただ、ここで自分自身の最大の武器を「理論武装」だと思い込んでいるところこそが、彼女の愛すべきポンコツさです。
ミコの真の武器は、本人が思っているような理屈ではなく、本人に言わせた通り、その不器用なまでの全速力で一点を刺し抜く「純度100%の凛々しさ」にあります。
融通の利かない頑固な彼女だからこそ、本当は小難しいロジックなんていらなくて、その真っ直ぐなパッションだけで事足りる。
こういう健気なことを大真面目にやってしまうからこそ、伊井野ミコはこれほど多くの人に愛される人気キャラなんだと思います。
主観的に言わせていただければ、めちゃくちゃ可愛くて良い子なんです。
そもそもこのお話は、ミコの「先輩が本格的に動き出したら私なんて簡単に吹き飛ぶ!」という盛大な思い込みからスタートしています。
シンプルに石上に告白すればよかったはずのところを、なぜかつばめ先輩のところに直談判(宣戦布告)しに行き、その勢いのまま翌日に石上くんへ特攻を仕掛ける。
何事も曖昧なままにできず、白黒ついている方が安心できるミコにとって、つばめ先輩との対峙は避けては通れない大切な「通過儀礼」だったのだと思います。
つばめ先輩にとっては、ある日突然巻き込まれた形にはなりましたが、あの子の強情な特攻のおかげで、最後はちゃんとスッキリして自分自身の道へと前を向いて歩き出すことができました。
私によるご都合主義だと言われればそれまでですが、泥沼でドロドロとした関係を続けるよりも、みんなが本音をぶつけ合ってスッキリと前を向くエンドの方が、読んでいて気持ちが良いですよね。
この不器用で、愛おしい二人のヒロインの聖戦を、最後まで温かく見守ってくださり本当にありがとうございました!
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