私の脳内補完では、つばめは確実に石上との恋を引きずっていた思います。どのように日々を消化していたのかは、結構疑問に残るところであり、書いて見たくなったら書いて見るが正解。元々はミコの目線だけのつもりでしたが、つばめがどう思っていたかのかは、ミコとは悲しいぐらいに違った。ということで書いてみました。
大学生になり、ハタチを迎えた私の日常は、相変わらず誰もが羨むほどに華やかだったと思う。
サークルの賑やかな飲み会。洗練された都会のバー。お互いの腹の内を探り合うような、男の子たちからのスマートで、どこか軽いアプローチ。そんな「大人の適当な恋愛ゲーム」の戦場に身を置くたび、私はグラスの縁を見つめながら、いつも静かに冷めていく自分を感じていた。
周りのみんなは器用に恋をして、傷つかない、あるいは相手を傷つけない距離感で付き合っている。本音を隠して薄汚い欺瞞を交わし合うことこそが、大人のマナーなのだと言わんばかりに。
「(……なんか、違うんだよねぇ)」
どれだけお洒落なお店に行っても、美味しいカクテルを口にしても、それらは私の心の渇きをこれっぽっちも潤してはくれなかった。
2月。大学生の春休みは長い。アルバイトを終えて、一人暮らしの部屋に灯る、間接照明の暗いオレンジ。それは、私が抱く今のやるせない、行き場のない気持ちを鏡のように映して、ぼんやりと部屋を濁らせている。
正直になるために、少しだけ強く、そして苦いお酒で酔いたかった。
冷蔵庫から取り出したオレンジジュースにテキーラを合わせ、グラスの底に、沈み込むような赤いシロップを落とす。即席で作った『テキーラ・サンライズ』。
グラスの中に広がる、不気味なほどに鮮やかな朝焼けのレプリカ。
ふと、自嘲気味な笑いが漏れた。
最近の私は、カクテルを作る時、どうしてこうも無意識に「オレンジベース」ばかりを選んでしまうのだろう。
グラスの大部分を満たす甘酸っぱいオレンジに青春を投影させているのかな。オレンジの引力に、今の私を象徴するかのように、ザクロの赤がじわじわと飲み込まれていく。
出来上がったそれを静かに口に含みながら、私はこの心の渇きの理由について、思考を落とす。
お酒の力は偉大だ。ロマンティックな気持ちにさせてくれる。私は、この終わらない灰色の夜に、辟易としている。だからお酒の力を借りてまで、必死に「夜明け」を求めているんだな。夜明けをくれる人を……。
考えなくても引っ掛かりなんて明確だ。やはり、私の心の片隅――いや、人生の一番贅沢な特等席には、高校時代のあの一幕が、今も鮮烈な光を放ったまま鎮座しているからだろう。
石上優くんという、不器用で、泥臭くて、私のために世界のすべてを敵に回すような「命懸けの純情」をくれた、あの男の子の残像。
その、傷つくことを恐れない真っ直ぐな重さを知ってしまったからこそ、今の自分の周りにある、誰も傷つかない代わりに誰も本気にならないグレーな世界が、ひどく退屈で、欺瞞に満ちたものに思えてしまうのだ。
――けれど、そうやって周囲の軽い関係に辟易とするたび、巨大なブーメランが私自身の胸に突き刺さる。
じゃあ、私が優くんに突きつけた『友達以上恋人未満』というあの線引きは、私が今ここで冷めた目を向けている他人の人間関係と、一体何が違うというのだろう。
形を変えて、綺麗に包装しただけじゃないか。
何かが違うと思いたいけれど、本質は何も変わらない。いや、彼が全力の本気で向かってきてくれた分、それを「その他大勢とは違う特別な地位」という甘い檻に閉じ込めて、永遠の夜のように誤魔化した私の方が、よっぽどタチが悪いし、ずるい。
私の中に、彼に対する特別な感情があることは認める。でも、その特別がどう特別なのかという、世間一般の『恋愛』の型にハマる答えを私は持っていない。だから誰に対しても、納得できる言葉で説明することなんてできない。
なのに、彼を忘れたことはない。私はただ、彼のひたむきな純情をいつまでも手放したくないだけの、わがままで、傲慢な人間なのだろう。
コトッ、と飲み干したグラスをテーブルに置く。片付けることすら億劫で、このまま思考を放棄してしまおうとした、その時だった。
ピコンッ。
机の左側に置いていたスマートフォンの画面が、淡く光った。
画面を開いた私は、小さく、本当に小さく、肺の底から息を吐き出す。
【子安先輩、ご無沙汰しております。突然のメッセージで申し訳ありません。大学生の先輩方は、今はもう春休みの時期かと存じます。もし、こちらに帰省しておられましたら、数日以内に、私とお会いいただけませんか。場所は、秀知院の生徒会室とさせてください。鍵は、私が確保しておきますので】
差出人は、伊井野ミコ。
「…………ついにかあ」