急に尻尾と狐耳が生えてきたが意外と世間は優しかった 作:ゴン…ぽまえだったのか…
友人と京都旅行に行った次の日曜の朝、尻の痒みと顔中を覆っている不快感で俺は寝坊するという意志を曲げてベットから体を起こした。
手の甲で目を擦ると毛のようなものが目に入り込み小さく呻き声を出してしまう。今度は指で毛のようなものを取ろうと画策するがどうやら手にもびっしりと毛がついているらしくもう一度呻き声を出して終わった。
いまだに前が満足に見えない状況にため息をつきながら洗面所へと向かう。顔を洗えばこの不快感を洗い流せるだろうと思って。
毛と涙でぼやける視線と歩き慣れた廊下の記憶を元に簡単に洗面所へと辿り着いた俺は、蛇口を捻って慣れない冷たい水を顔に何度か押し当て不快感を押し流した。
冷たい爽快感を感じながら視線を鏡の自分に向けると、
「………何これ」
一度も染めた事がない黒髪が外国人のような金髪になっていた。そしてそんな金髪よりも注意が向いたのが、
「耳………?」
動物の耳が頭に生えていた。それも金髪と一体化するように。
濡れた手や顔を拭くのも忘れて金髪となった髪と頭にそびえ生えた動物の耳を恐る恐る触ると、不思議なことに触っている感覚が指と未知の場所から伝わってくる。
揉むように触れば揉むような感覚、頭皮に押し込むように触れば押し込まれるような感覚、少し強く摘めば摘まれている感覚が伝わる。
………あまり現状を理解できていないが、どうやらこの耳は俺の耳らしい。
「母さん、これについてどう思う?」
「今から説教ね、正座」
「なんで??」
ソファーに座ってテレビを見ていた母さんに頭に生えている耳について聞くとなぜか正座をさせられた。なぜ正座をさせられたか理解できないが母さんの御言葉をしかと聞き入れる。
「なんで髪染めたの?」
「いや、染めようと思って染めたわけじゃないんだけど」
「はぁ?何?あんたいじめられてんの?それともノリ?」
「なんか起きたら金髪になってた」
「もっとマシな嘘つきなさいよ」
嘘じゃないもん。起きたら金髪になってたもん。ていうか耳について全然触れてくれないんだけど。これ見えてる?
「いや、ガチで金髪になってて」
「いやもクソもないわ。一番腹立つのが笑いを誘ってうやむやにするために狐耳と尻尾つけてるのがまじで腹立つ」
「え???」
尻尾??耳じゃなくて?
すぐに背後に視線を向けると頭に生えた耳と同じ色をした尻尾が稲穂のようにゆらゆらと揺れていた。は??
「………何これ」
「とぼけんな」
とぼけるも何も今教えられるまで尻尾の存在に気づいてなかったんですが。
パジャマのズボンとパンツから盛り出ている尻尾の存在に俺はズボンを脱いで尻尾がどうやって生えてるか確かめようとした。
「うわ、なんでズボン脱いだの?」
「いや、ちょっと、まぁ、とりあえず尻見て」
「そこまで行くともはや哀れよ、哀れ」
んなもん哀れでもいいから見てくれ。
「………どう?」
「ん〜おできとかは全然できてないよ。綺麗な桃尻だね」
「俺の尻はいいから尻尾の付け根見て」
尻を見た感想が綺麗な桃尻ってなんなんだよ。まず最初は尻尾に目がいくだろ。
「あんたこれどうやって尻尾つけてんの?プラグ?」
「綺麗な桃尻にプラグが刺さってるように見える?」
「いや、尾骶骨あたりから生えてる」
いや、ガチで尻尾が生えてんのかい。若干、プラグが刺さってることに期待してしまった自分が怖い。
母さんは尾骶骨と尻尾の付け根をさわさわと触る。なんかゾワゾワする………
「おりゃ」
「ダァァッ!?」
ゾワゾワから一変して強い痛みに思わず大声で叫んでしまう。何してんの???
「おぉ、すご」
「………」
痛みで叫んだ息子を無視して感嘆するように呟く母さんを見て思わずひっ叩きたい想いにかられるが我慢する。これ以上、状況をカオスにしては収集が追いつかない。
「え?ガチで生えてるのこれ。と言うことは耳も?」
「なんか起きたら生えてた」
「ちょっと触らせて」
手をワキワキさせる母さんの前に恐る恐る頭を差し出して耳を触らせる。
「おぉ、すごい本物みたい」
尻尾を握った時とは打って変わって優しく撫でるように触る母さんの手に思わず目を細めてしまう。なんだか眠たくなってきた瞬間、
「おりゃ」
「べぎゃあ!??」
耳の中に指を突っ込む母さん。また叫び声をあげて母さんの手から逃れるように距離を置く。耳が傷付いたらどうするつもりなんだこの親は。
「ガチで生えてるのね、それ」
「………」
指を突っ込んだことに何も言及せず普通に話し始める母さんに戦慄しながらも改めてこの耳と尻尾について話し合う…
「なんで耳と尻尾生えてんの?京都で変なもんでも食べた?拾い食い?」
「母さんは俺のことをなんだと思ってんの?」
「バカ息子」
キレそう。
「まぁ、生えた理由考えてもわかんないだろうし病院に連絡するか」
「早瀬さんとこ?」
「近場はそこしかないじゃん」
最初から大きい病院に行かないのかと思うが大丈夫だろうか。
「母さん早瀬さんとこに予約の電話するから出かける準備しておいで」
「へい」
母さんはそういうとスマホを片手にリビングから出ていった。
「………ガチで生えてるな」
尻から生える尻尾を両手で掴み存在を確かめれば、しっかりと両手と尻尾に感覚が残る。本当に俺の尻から生えている尻尾を見て俺は少し不安になった。
「………」
「いつまで萎えてんの?もうすぐで着くからシャキッとしなよ」
俺は深い絶望に覆われている。シャキッとなんてできるわけがない。
俺は無意識に穴を開けたお気に入りのズボンをさすった。
このズボンは俺がこの服を履くために尻尾の通り道を開けたお気に入りのズボンなのだ。尻尾が生えたせいでお気に入りのズボンに穴が空いたショックは言葉では言い表せない。
私服は今着ているものと昨日の旅行に着ていった服だけだ。それ以外は高校の体操服と制服だけ。
学校の服に無断で穴を開けるのはまずいと判断した母さんが無情にも穴を開けたのだ。
早速でた尻尾の害に思わず腕の中に抱えていた尻尾を強く握り睨んでしまう。が、推定自分の体を睨んでも虚しくなるだけなのでため息を一つ吐いて窓に映る自分の耳を見る。
人間の耳と違って今の感情に従うよにペタリと伏せる耳を見るとこの耳も本物でそれが俺に生えている事実にまたため息が漏れてしまう。
そしてふとバックミラーに目を逸らせば母さんと視線がかち合い、すぐに目を逸らしてしまった。
車内は走行音以外聞こえず、ただ気まずい空気が広がるだけだった。
「なんでウチに来たんですか?」
「早瀬さん???」
診察早々、診断を諦めたこの病院の院長こと早瀬さんに思わず非難の視線を向けてしまう。いや、まあ、こんな症状みてくれるだけマシなんだが。
「こんな小さい病院で詳しい検査なんてできるわけないじゃないですか」
「なんかメスとかで切り取れないの?サクッと」
「母さん???」
「まだ、医師免許を失いたくないんで無理です」
医師免許を失う覚悟があったらやってたこと??
「とりあえず、紹介状書きますんで今すぐ……は、無理そうだから明日の朝一にでも行ってください」
「分かりました」
「病名は仮ですが『狐憑き』と書いときますね」
なんかそれ昔の狂人の名称じゃない?なんか嫌なんだけど…
「んじゃあこれを渡してください。お大事に〜」
「有難うございました」
「ありがとうございました」
些か投げやりな態度に感謝すべきか?と悩んでしまったが診察して紹介状を書いてくれたのは本当に感謝すべきことなので心から感謝して診察部屋を出る。
「明日、学校あるけどどうする?」
「え?行けって言ってる?」
「行きたかったら行っていいよ」
「流石に休むわ」
自分たち以外に誰もいない待合室で俺と母さんはこれからのことを話し合った。