「あそこを抜ければ大通りに出られる。もう少しだ」
「はぁ……はぁ……」
荒れ果てた廃墟の隙間を縫うように二人の人物が走っている。額から流れ頬を伝う汗を拭う暇もなく室外機を飛び越えゴミ箱を倒しよろめきながらも進んでいる。
二人を焦らせる元凶ともいえる異形のモノが背後に迫っていた。コンクリートを砕き室外機を蹴り飛ばしゴミ箱を物ともせず走り迫る異形のモノは二人にたどり着こうとしていた。
「抜けた!出口が見えた」
「これで、助かる」
煙のようなモヤ。それに飛び込めばこの世界から脱出することができる。出口まであと10m、ふっと小さく息をついたと同時に少女は視界の端に捉えてしまう。それはボンプ、と飛ばれる兎のようなまんまるとした自律型サポートロボットだった。
故障しぐったりと壁にもたれかかりうつろな瞳をこちらに向けている。
「リン、ダメだ!」
少女は足を止めてしまう。時間があればハッキングをし修理箇所を洗い出し救出することもできただろう。リンと呼ばれた少女にはそのスキルがあった。助けたい、でも今はその時ではない。その一瞬の迷いが彼女の足を止めた。止めてしまった。
「おにいちゃ」
お兄ちゃん、と呼ばれた青年が手を伸ばす。それよりも早く兄を呼ぶよりも早く、異形のモノの鋭い爪が少女の体を貫いた。明らかな致命傷。死を感じる間もなく少女の体は下と上に切り離された。
「リ……ン……」
少女だったものの中身を全身に浴びながら青年は絶望する。背後数歩のところには出口があったのに。あと少しで元の世界に戻ることができたのに。もう取り戻せない、妹も、損失も。
リンの体がチリとなって消えていく。
(*‘ω‘ *)オニイチャーン
(; ・`д・´)リーン
「もう、なんであそこで見つかるの! スキャナーに映らないエーテリアスなんてチートだよねお兄ちゃん!」
「そもそも粗悪品のスキャナーを使っていたのが間違いだったかもしれない。5,000ディニーの赤字だよリン」
「脱出できてたら20,000の黒字だったよ! もう一回潜ろお兄ちゃん」
「このスキャナーでもう一度潜るのは悪いけど勧められないな。明日闇市で安そうなものを見て回ろう」
「むぅ、じゃあおとなり行ってくる」
「いってらっしゃいリン。ロタリーによろしくいっておいてね」
先ほど無残に惨殺された少女、リンはヘッドセットを外しながらもちもちのほっぺを膨らませて兄をじっと睨んでいる。その兄、アキラは肩でため息をつきながらリンに苦笑する。
二人が行っていたのはフルダイブ異空間探索ゲーム
もっとも特徴的なのが物資や敵の情報などが実際のお金、ディニーに換金されるという制度があることだ。同時にホロウで遊ぶためにまぁまぁのお金もかかるのでそれを取り戻すために、一攫千金のためにたくさんのユーザーが鎬を削っている。
少女の名前はリン。青みがかった短めの髪に髪留めを留めているゼンゼロ学園二年生だ。青年の名前はアキラ、ホストかな?と思える甘いマスクと笑顔が似合うゼンゼロ学園三年生だ。
両親を早くに無くした二人にとってこのHollowは生活費に直結する大問題。出どころの怪しい情報と型落ちのホロウ内の敵配置を調べるスキャナーによって大きな損失を出してしまった。
今週のおやつやおかずが一品減ってしまう危機感にぷりぷりと怒った様子のリンは部屋をでる。特別情報準備室と呼ばれる二人の拠点扱いされている部屋をでて隣の教室にIDカードを当てて入る。
そこは特別情報管理室。大きなサーバーがいくつも設置されており莫大な情報を処理している。
そんなサーバールームの端っこ。五つのモニターが並列で処理をしている机の前で、ゲーミングチェアを倒し犬のアイマスクをしてボンプ型ぬいぐるみを抱えて眠る一人の青年がいた。
「まーた寝てる。起きろー! ロタリー!」
「でゃう!? なに、地震?!」
リンの大声でチェアから飛び起き辺りをキョロキョロと見まわす青年。真っ白な髪に寝癖を立てて犬と書かれた白いだぼだぼのパーカーを着ているこの青年こそロタリー・マスターマィンド。何を隠そうこの物語の主人公だ。
犬のアイマスクを外し垂れていたよだれを恥ずかしそうに拭きながら目をしぱしぱさせている。
「ロタリー! なにあのエーテリアス! ステルススキルあるのに都市部うろついてるなんて卑怯じゃん! 修正して」
「なにどうしたのリン……あー、昨日言ってた結晶回収のクエストかぁ。いやあれ危ないから辞めといたほうがいいよって言ったでしょ」
「そういう言い方ロタリーがする時って儲かるときなんだもん。レベル2のスキャナーで反応しないなんていつ実装したの」
「いや前からいたって。変なルート取りすると索敵に引っかかるようにしてあるんだよ。索敵範囲自体は狭いんだよ? 移動速度とHPは極振りだけど」
「あんなの所見殺しじゃん! 修正して」
「しないよ! 毎回言うけどバグと絶対攻略できないとき以外は修正しないって」
このロタリー。むにむにと苦笑しながらリンとの会話を楽しんでいるゼンゼロ学園二年生の生徒。その正体はこの大人気ゲームHollowを開発し運営している青年だった。
これは学園でも一部の人にしか知られていない機密だったが、色々あってリンとアキラにバレ、可愛く脅されて隣の特別情報準備室を占拠されパソコンやモニターやHolowに必要な機器を提供させられている。
リンはゲームにうまくいかないとロタリーのところへ行きダル絡みするのが日課となっていた。
「いくらミスったの」
「……5,000ディニー」
「Hollowダイブ料まるまるじゃん。アキラのことだからスキャナー買い替えるだろうからさらに赤字じゃん。生活費大丈夫?」
「……ギリギリ」
「なにその目。いや無理だよ。今月ニコにいくら貸してると思ってるの。オレだって開発費にほとんど回してるからお金ないんだからね」
「養って! 養ってくれなきゃ全部ばらすもん!」
もちもちほっぺを膨らませて上目遣いで睨むリン。到底お金を無心する側の態度ではないがその愛嬌から様にもなっているしなにより可愛らしい。これをすればロタリーは自分に甘やかしてくれるという打算こみこみであるから質も悪いが、それでも家族のような付き合いのあるリンにそれをされてしまっては、断るすべがなかった。
「今週はうちでご飯食べてきなよ」
「やったー! お兄ちゃんにも行ってくるねロタリー大好き!」
リンの社交辞令ハグを受け胸元におでこを擦り付けてくる頭をぽんぽんとなでる。嬉しそうに手を振りながら帰っていくリンに手を振り返しながらため息をこぼす。
この学園の情報棟屋上にある勝手に建設したロタリーの自宅。そこでいま夕食の準備をしている同居人兼世話人に今からこのことを告げるのを思うと、気が重いロタリーだった。
( ˘•ω•˘ )ハァ
( ゚Д゚)マスター?
屋上への怪談を上る。気持ちはまるで処刑台に上るような思いだった。IDカードで扉をあけ屋上へ出る。2階建ての大きなプレハブが建設されており窓からこぼれる明かりが彼女がいることを表していた。
赤点のテストを抱えて自宅に帰る小学生のような気持ちで扉を開ける。すぐに見えるリビングには包丁を握りしめたミニスカメイド服の少女が立っていた。
「ただいま、ツイッギー」
「おかえりなさいませ、マスター」
少女の名前はツイッギー。水色のショートの髪に黒の眼帯が目立つ、怪しげな雰囲気が魅力的な少女だ。色々あってロタリーに身柄を保護されてからは彼専用メイドとして甲斐甲斐しく奉仕するふりをして彼によりつく悪い虫たちを追い払うのを生業にしている。
「先ほどくそ雌犬のリンさんから今日そっちでご飯たべいくねーとの連絡があったわ。どういうこと?」
「ぐぬぬ……先に連絡がいってたかしまったな……。リンとアキラがHollowでミスって赤字だから食費がやばいらしい。だから今週うちでどうかなって」
「マスターへの愛情込めたビーフシチューは二人分しかないわ。あのくそ雌犬とアキラさんの分は足りないわよ」
「そこを何とか……」
「百歩譲ってお世話になってるアキラさんはいいわ。でもあの発情メスブタくそ女に敷居を跨がせるのは許せんなないわ」
「さっきまで犬だったのにブタになってる。そんなにリンが嫌いかね」
「嫌いではないわ。マスターを狙うメスを許さないだけよ」
「あれはLOVEじゃなくてLIKEだって。家族愛みたいなもんだよ。足りない材料オレが買ってくるからさ、頼むよ」
「材料は……あるわ。マスターに免じて4人分作るわ。仕方ないわね」
「いつもありがとねツィッギー、愛してるよ」
そういって笑顔を向けるロタリーにわき腹に思い切りキックを決めるツイッギー。いいところに入り悶絶するロタリー。およそ照れ隠しとは思えない威力に片膝をつく。
「くそぅ、乙女心は難しいぜ」
「次また適当こいたら包丁でいくわよ」
「はい、すみませんでした。部屋でパソコンかたかたしてるからできたら呼んでね。二人が来たら部屋通しちゃっていいよ」
しばらくしてリンとキラがやってくる。リンとツイッギーがどこに座るかで揉めアキラがなだめそれをみてロタリーが笑う。
名づけるほどでもない他愛ない日常。振り返った時にそれを幸せと呼ぶのだろうが、4人はそれに気づくことはきっとまだないだろう。
( ゚Д゚)メスイヌー
( ゚Д゚)ドロボウネコー
( ˘•ω•˘ )フタリトモヤメナサイ