ここはゼンゼロ学園。
生徒たちが勝手に校舎を増築し全てを把握しているものはいないといわれるほどのマンモス校。シリオンとよばれるいわゆる獣人達と人間が共存しており、むせかえる程の多様性がこの学園中に広がっていた。
本校舎、部活棟、生徒会校舎、教師棟、体育棟、文化棟、ほかにも様々な校舎が立てられ増設され時に取り壊されている。
ロタリーはいつものように情報室でパソコンをカタカタと触っている。今日の作業は軽度なものなのでソファに座りノートパソコンで行っている。自室の掃除を終えたツィッギーが無言で部屋に入ってきてソファに寝転がりロタリーの膝に頭をのせファッション雑誌を読み始める。
これは甘えたいんだろうな。いつも家事とかやってもらってるからたまには甘やかしてあげようかなと右手でキーボードを弾きながら左手でツィッギーの頭を撫でる。その手は恐ろしい速さでスパンと音を立てて払われる。
んだこいつどういうことやねん。ちょっとイラっとするとツィッギーの手が伸びてきて右手を取られいわゆる恋人つなぎをされる。こいつの情緒どうなっとんねんとも思うがこれを指摘してはこっちの分が悪くなる。長年の経験でそれを体得しているロタリーは打ちにくい左手でカタカタとキーボードを弾く。
「あむあむ」
「いたっ」
時折ツィッギーは頭を乗せている太ももをかじってくる。彼女の犬歯は鋭く痛いので軽く頭をはたく。満足したようにニコニコするツィッギー。いやほんとこいつ何考えてるかわからんわ。
そんな中ノートパソコンのほうに運営AIからメッセージが届く。
「んー、これヘルプメッセか」
「お仕事?」
「共生ホロウステージでなんか小競り合いっぽい。ちょっと行ってみてくるね」
「早めに帰る?」
「どうだろ、多分そんな時間かかんないよ。ケンカの仲裁っぽそう。ちょっとダイブしてくるけどこの前みたいに抱き着かないでね」
「……」
「なんで返事しないんだよ。ダイブ中に身体接触されるとリンク率おかしくなるんだからね」
「いってらっしゃいませマスター」
「この部屋カメラ付いてるからね、調べたらわかるからね。じゃあちょっと行ってくる」
首から下げたアクセサリー型イヤホンを右耳に差す。二回タップすると意識がHollowに飛ばされた。
(*´ω`*)ガブゥ
(´_ゝ`)イテェ
Hollowで意識が目覚める。ダイブするとまず自分の設定した自分のHollow内拠点で目が覚める。そこで装備をしたあと選択したホロウに飛び探索や戦闘、クエストを行うというものになっている。
ホロウ内にはエーテルと呼ばれる特殊物質データがありそれを売買するとギアコインにできる。それをディニーに換金することで報酬とするシステムだ。エーテルは敵がドロップするものや採掘など様々で時折レアエーテルなどが出るので取り合いのトラブルも多い。
ダイブはアバターはなく現実と同じ姿の自分で出現する。ロタリーは少し手を加えているので真っ白なコートに浮遊自律型多機能戦闘用ボンプを8つ連れている。パリィ補正付きの片手剣を装備して座標を打ち込みテレポート。
メッセージのあった場所からしばらく歩いていると男女の怒鳴り声が聞こえてくる。声を頼りに近寄ってみると少人数の集団が大きな結晶を前にして相対していた。
「お前らが何を言おうが何をしようがここは俺たちの島なんだよ。ここにあるもんは俺らのもんに決まってるだろ」
「いつからホロウ内に領土システムが導入されたのかしら? それとも野良犬が電信柱にマーキングするあれのことかしら?」
「俺たちが心優しいから話してやってるんだぞ。PKしてギアコインと装備全部巻き上げてもいいんだぜ」
「そうなったらありがたいわ。先に手を出した方のペナルティも勿論知ってるのよね?」
このゲームには当然プレイヤーキル要素があり相手をキルすると持ち物と所持金を奪うことができるというものがある。が先にプレイヤーにアタックをしキルできずに相手に逃げられた場合は通報システムがあり所持金の半分をロストするというものがある。
PKをするなら覚悟して、というようなシステムだ。
リーダー同士の口喧嘩がかなりヒートアップしていたのでこっそり近寄って身長の高い機械人に声をかける。
「へい、ビリー。どんな感じ?」
「お、社長か。どうここうも無い感じだぜ。この結晶の情報が入ってうちが先に着いたんだが向こうがほんの少し後に来てな。5:5で分けないかって申し出にニコの親分が」
「ブチ切れたってことか。どうせ10:0しか認めないんでしょ」
「うちのニコの親分を舐めちゃだめだぜ社長。このやり取りで遅れた分の賠償もいま請求してるところだ」
「バカすぎるでしょ。自分からもめに行ってるじゃん」
そういってスタイルのいい腰に手をあて明るく笑っているのはビリー・キッド。否認化部活動【邪兎屋】に所属している。何かとノリも話もあうので出かけたりするロタリーにとっての遊び友達だ。体は機械でできており思考も独立思考チップによって行われており自我がある。
家電ではなくいち個人の市民である。まぁこれも多様性ということで。ゼンゼロ学園では三年生だ。
そんな三枚目なビリーが腕を組み見つめているのはピンク髪のボンキュッボンの少女。コロコロと表情を変えながら1ディニーでも多く稼ごうとしているその少女の名はニコ・デマラ。部活動邪兎屋の部長にして敏腕社長。ではなく稼いでは散財し借りては踏み倒しを繰り返す守銭奴というのが正しい評価かもしれない。
かくいうロタリーにも借金をしており頭が下がらない、と思いきやどうせ借りてるんだからもっと貸してくれてもいいでしょと強気に攻めてくるのはさすがの狂人かもしれない。ゼンゼロ学園では二年生。
「ヘルプメッセージきたんだけど、送ったのはビリー?」
「いや違うぜ。こんなの毎度のことだからな。多分アンビーじゃねえか」
「まーだやってるぞ。ん? おーいロタリー社長だぞ」
「社長! すぐいく」
ニコの圧迫交渉を眺めていると遠くから二人の少女が駆け寄ってくる。ロタリーとハイタッチを交わしたのが猫宮又奈。猫のシリオンでゼンゼロ学園一年生だ。邪兎屋には最近入ったばかりだが気性のせいかすっかり馴染んでいる。
それに続いてロタリーの腕に抱きついているのがアンビー。ツィッギーの双子の姉で色々あって邪兎屋にてニコの世話になっている。ゼンゼロ学園は二年生だ。入学と入部の際にロタリーに色々してもらったのをきっかけに慕っているとともにツィッギーとは折り合いが悪い。
「呼んだのはアンビー? 二人は周囲偵察中だったのか」
「周りにはエーテリアスはいないぞ。でもそろそろホロウ周期だからささっと終わらせた方がいいかも」
「ヘルプでも出さないと社長会いに来てくれない」
「いや別に会いに来ればいいじゃん。いつも部室か家にいるよ」
「社長が私に会いに来てくれる、というのが重要」
「まためんどくさいこと言い出した……。たしかにホロウ周期だしニコと話しに行くか」
ホロウ周期。ホロウ内には一定時間ごとワープホールが出たり敵が出現したりステージが崩壊したりとランダムイベントが起こるようになっている。当然プレイヤーからすれば嫌なイベントなので基本的にはそれを避けるのが常となっている。
「ニコ、そろそろホロウ周期だから話まとめて帰るよ」
「あらロタリー、来てたの。アンビーが呼んだのね。聞いてよこいつら私たち邪兎屋の資産を奪おうとしてるわ大罪よ」
「お前ほんと一度ぶち殺したろうか!」
「ほーら殴ったらいいわ? ペナルティも負け犬の遠吠えも全部あんたたちにのものよ。このエーテル結晶と勝者の余韻はもらってくわ」
「見てないけど分け合ったらいいんじゃないの。どっちが先に着いたみたいな話なら6:4とかにすれば?」
「はっ、ありえないわ。むしろこの精神的苦痛による慰謝料も請求ね」
「もうやり口がチンピラとかやくざじゃん。どうでもいいけどそろそろホロウ周期だよ」
ビリー、猫又、アンビーが自然と武器を手にする。相手のホロウレイダーたちは気づいていなかったが経験だけは豊富な邪兎屋の面々はこの殺気を察知していた。気づいていないようなのでニコの首根っこをつかみみんなのほうへと連れていく。
「ちょっと何よ、まだ話終わってないわよ! 私はあの報酬諦めないわよ」
そんなニコの悪態をかき消すように後ろの瓦礫が轟音をあげて吹き飛ばされる。迫りくる瓦礫をアンビーが切り落とし猫又とビリーは回避している。ホロウレイダーのチンピラの人たちは降り注ぐ瓦礫に飲み込まれ強制ログアウトさせられている。
「もうなによ! 何が起きたの!」
「ニコ、敵が来る」
「このエーテル濃度、なんかやばい気がするぜ……撤退か?」
「ビリーに賛成だぞ。おひげがピリピリきてるもん」
三人が戦闘態勢に入り周囲への警戒を強めている中、ニコは状況を察して慌てて結晶へと駆け寄りがりがりと削っている。
「守銭奴はこういう時の判断と行動はんやいなぁ。逃げなくていいのニコ」
「待って! これ持って帰らないと今月やばいの! 時間稼いで」
土煙の中から大きな人型のエーテリアスが現れる。手には斧のように変形した道路標識を持ち周囲に高濃度のエーテルを放ちながらゆっくりと向かってくる。
「あれ……デッドエンドブッチャー?」
「おいおい、デッドエンドホロウのボスエーテリアスだろあれ。なんでこんなとこにリポップなんか」
「これは装備も火力も足らないぞ」
それはイベントやホロウステージごとに用意された特別なボス個体。チームで挑んだりレイドで挑むような難易度のボス。こんななんでもないホロウ内にポップするはずのないそれにロタリーは首をかしげる。運営側としては不具合の予感が頭をよぎる。こちらのミスでプレイヤー、それもリアルでの友人たちに迷惑をかけるのも申し訳ない。ちらりとロタリーが邪兎屋に視線を送ると三人とも目が合った。考えていることは同じらしい。
「オレとアンビーで時間を稼ぐ。ビリーと猫又であのあほを引きずってホロウ脱出して。」
「了解」
「合点!」
「アンビーはここでオレと戦闘。倒す必要ないから……そうだね6分も粘ればいいでしょ。いい?」
「もちろん、社長とだったら倒したっていい」
「いや猫又も言ってたけど火力的にきついよ。DPSチェックもないから回避とパリィメインで」
後ろでギャーギャーと騒ぐニコが二人に連れられて行く。その騒ぎに気づきブッチャーが大きく跳躍。三人を狙うがロタリーの片手剣がそれをパリィで弾く。サポートボンプのうち5番と6番と7番を起動しエーテルによる射撃を浴びせる。大きなダメージではないがブッチャーのヘイトはロタリーに向く。
大ぶりで単調の攻撃を完璧なタイミングでパリィし体制を崩す。そこへアンビーがどんぴしゃのタイミングで迫り雷のエーテルをまとったナタでブッチャーを大きく退かせた。
すぐに起き上がるブッチャーは二人を見据え文字にできない咆哮をあげる。
「基本オレメインのパリィでアンビーは崩しでいい?」
「ん、了解。辛くなったらすぐいって」
「大丈夫大丈夫。パリィなんてリズムゲーみたいなもんだから」
実際デッドエンドブッチャーは基礎攻撃力が高いので完璧なタイミングでのパリィでないと貫通ダメージが乗ってしまう。同じ役割をアンビーがすると貫通ダメージだけで致死ダメージに達してしまうだろう。
そんな踊るようにパリィを決めているロタリーを、戦いながらアンビーは見ていた。
片手剣で軽々パリィをし、左手でコンソールのようなものでカタカタと何かを行っている。複数チームで対応するような相手に片手間で対応している姿をみてほんのり見とれてしまう。
私やツィッギーの特殊な生まれにも何も言わずニコニコと甘やかしてくれて、邪兎屋を紹介してもらい仲間や家族と呼んでもいい相手を作ってくれた。
帰る場所もなく頼る相手もおらずゴミを漁ろうとしていた私たちを路地裏でみつけ近くのハンバーガーショップで食べさせてもらった記憶。腐っていない肉の味に感動しツィッギーと泣きながらたべたあの日。きっとこの人に出会わなければ自分は今どこにいたか。
住むところを手配してくれいつのまにか学園に入学させてくれ人並みの生活ができている。ロタリーにもそしてニコにも恩を返さなくてはならない。
「そろそろ5分」
「ちょうどメッセきた。三人とも脱出できたって。アンビーも離脱していいよ」
「それだと社長が一人になる」
「いいよ、ありがとね。みんなのとこ先いっといで。ニコ怒ってると思うから頼んだよ」
「……了解した。社長も気を付けて」
自分の力不足をはがゆく思いながら駆け出すアンビー。それを見届けてからコンソールを触る。
「ごめんねブッチャー。なんでポップしたんだろ、ランダムAIの気まぐれかな。ほらデッドエンドホロウにおかえり」
ワームホールに飲み込まれ消えていくブッチャー。次の出番をホロウの最奥で待ち続けるだろう。それまでは強敵の格を保ち続けてほしいものだ。
ロタリーも自分用のワームホールを生成し飛び込む。そのままログアウトすると抱き着きながら爆睡しているツィッギーに気づく。
「こいつはほんと人の言うこと聞かんな」
するりと抜け出しタオルケットをかけてから部屋を抜け出す。その足で激怒の際中であろう校庭のはしっこに置かれたプレハブへと向かった。
_(:3 」∠)_ブッチャー!
_(:3 」∠)_バイバーイ
邪兎屋のアジトであるプレハブにつく。遠くからでもわかるくらいのニコの声が聞こえている。
一応のノックをしアンビーの声を聞いてから中へ入る。
「おかえり社長」
「いらっしゃいだぞアンビー」
「よっ、さっきぶりだぜ社長。おかげで離脱できたぜ」
「……」
各々自由に座りながら飲み物を飲んだりお菓子をつまんでいる。アジトとはよく言ったもので実質はたまり場のような場所だ。部長であり親分であるニコはボンプ型ぬいぐるみを抱きしめながらロタリーのことを睨んでいる。
「なんであの人怒ってんの」
「儲けがエーテル水晶換金で20,000ディニーとちょっとだったからな。ダイブ料ととんとんすぎて怒ってるってわけだ」
「あの欠片で20,000か。じゃあ全部回収できてたら額が違ったなぁ。そりゃニコも怒るわけだ」
「社長、怪我はなかった?」
「大丈夫だったよ、あのあと別方向に逃げたから。ありがとねアンビー」
「ん、さすがプロキシ」
プロキシとはHollowの攻略勢や攻略情報をまとめたり研究したりする人たちの総称。一緒にダイブして目的地へ案内してもらったり出口や敵の索敵をしたりとホロウ攻略にはかかせない存在だ。運営側であるロタリーは言い訳に使えるのでこのプロキシを名乗っている。
ビリーから手渡されたコーヒーをもらい一口含みながらニコの隣に座る。睨みながらソファの端に寄り遠ざかるニコ。
「え、なにどうしたの。別に借金の取り立てに来たわけじゃないよ? 怒ってるだろうから様子見に来ただけだよ」
「……」
「なに、なんて?」
「ニコは昨日風呂入ってないから」
「風呂スキップはやめたほうがいいってだから言ったぞ」
「なんでばらすのよアンビー! 仕方ないじゃない昨日はこの情報元確認したりホロウマップ手配したりしてたんだから!」
「ニコの親分……あんまり言いたくねえがシャワーと歯磨きはサボらない方がいいらしいぜ」
「なによみんなして! もういいわあっちいってバカロタリー!」
「もう八つ当たりできるならなんでもいいじゃん。そうかー、じゃあみんなにファミレスでも奢ろうかと思ったけどニコはご機嫌ナナメだから4人でいこっか」
「社長と食事。ぜったいいく」
「ドリンクバーは? ドリンクバーはいい? 前やった利きドリンクまたやりたいぞ」
「あそこの安オイルがたまに飲みたくなるんだよな。車まわすぜ社長」
「さあみんなぼさっとしてないですぐ出るわよ! 財布何て置いていきなさい!」
さっきまでもじもじしていたニコも奢りと聞くやすぐに立ち上がりプレハブを飛び出る。収支はとんとん、だがみんなに稼ぎを渡せなかったことを悔やんでいるニコの気持ちを切り替えるにはこの手が一番いい。遠慮も配慮もない4人に奢るのはファミレスとはいえなかなかの出費になるが、これも友のためユーザーのため。
4人乗りの邪兎屋の車、その名も玉手箱と名付けられたそれに5人を詰め込む。運転席のビリーに助手席のニコ。後部座席で猫又とアンビーに挟まれ、一同はファミレスへと向かうのだった。
\(◎o◎)/イクゼ
(*''ω''*)オゴリヨ
(*´ω`*)ドリンクバー
( ˘•ω•˘ )セメェ
(*^^*)シャチョ