ロキシーのために石をためるか1凸しちゃうか悩みどろこさん。
特に会話するでもなくロタリーとエレンは調理室へと向かっている。エレンはこの時間と距離感を心地よく思っていたが、ロタリーはこれなんか喋った方がいいんか、なんか怒ってんかエレン、と普段を抱きながらおし黙っていた。
「もうみんな来てるかも」
「大丈夫主役は遅れて登場!」
エレンに続き調理室へ入るや否やロタリーは一瞬意識を失い膝をつく。
な、なんだ?! 攻撃された? 視界が揺らぐ、意識を保てない。自分が立っているか座っているかもわからない。いったい何が起きたんだ。
エレンに抱き起される感触で意識を取り戻す。
調理室を見渡すと教室の端でポツンと椅子に座る少女に気づいた。
少女はハンカチを手に当てながら号泣ともいえる量の涙を流している。
「だ、大丈夫か! カリン!」
薄緑の髪を二つに結い、制服をカスタムしメイド服のような形にしているどこかちょっとはかなげな少女、カリン・ウィクスだ。学年は一年生。
エレンとロタリーに気づいたカリンは泣きながら二人に駆け寄りエレンに抱き着く。
「どうしたのカリン」
「なんでか涙が止まらないんです。あと定期的に意識が途切れます」
「いや絶対おかしいだろなんで止めないんですかライカン先生」
ロタリーが視線を向けた先にはハンカチを手に当て凛々しく立つもどこか顔色の悪いライカン。ばつが悪そうに一度視線を向けると恭しく頭を下げる。
「大変申し訳ありません。ああなったリナを止める術がなく」
そういってライカンが手を向けた先には笑顔で中華鍋を振る女子生徒の姿が。
生徒の名はアレクサンドリナ・セバスチャン。制服を着る気がなくオリジナルのロングスカートのメイド服に身を包み怪しげなボンプ二人を従えるどこか癒し系のお姉さん。学年は三年生。
普段は冷静かつ思慮深く低学年からの憧れを一身に集めるリナ唯一の欠点と言えるのが料理だった。それにもう一つ足すとしたら大の料理好きということだろうか。
「今日は何作ってんすか」
「お好み焼きだそうです」
「お好み焼きで中華鍋ふるわけあるかぁ! なんで手物にいちごジャム置いてんだあいつ!」
「酸味と甘み、だそうです」
「お好み焼きって別に好きなもんなんでもいれていいって免罪符じゃないからね。この部活は突っ込みがいなさすぎだって。今にカリンちゃん死ぬよ」
「私が悪いんです。作っていただいたものを美味しく食べられない私が……」
「エレン、とりあえず窓全部開けろ。ライカン先生はあのアホ止めてください」
「生徒の……自主性を尊重するのが、教育ですので」
「じゃあリナが作ったの全部食べてくださいよ」
「……お力になれず申し訳ありません」
ライカンにも当然思うところはあるが、それでも止めるに止められない理由がある。教師として生徒がやりたいことを伸ばすことも当然そうであるが、それだけではない理由があった。
自分がやるしかない。そう心に決める。酸味と苦みと甘みと孕んだ意味不明の悪臭がかすかに和らいだが、それでも臭いは臭い。それを今から口に入れようというのだ。まだ、カレールーを入れてしまえばすべて帳消しにだってできる。
とリナの元へ近づくロタリー。異様な香りが強まり三半規管を狂わせる。耐えながらリナの元までたどり着くと、ロタリーもその理由を知った。
「あら、ロタリー様、少々お待ちください! もうすぐ、出来上がりますから!」
そうロタリーは見てしまった。そこには食べてもらう人の笑顔を思い描き、相手に幸せになってほしいと願いながら鍋を振る料理人の姿を。額に汗をかきながら一生懸命に鍋を振るリナの姿を。
決して! 決して力強いとは言えないその腕に! 力を愛情を込めながら鍋を振る姿! 額に光る汗! 食いしばった唇! 彼女は分かっているのだ! 料理は愛情だと!!!
しかし!!!! 圧倒的に!!!!!! センスが足りない!!!!!
つかんだイチゴジャム、キャベツの代わりに切り刻まれて入れられたブロッコリー、おそらく鰹節の代わりだろうと思われる煮干し、強力粉と卵となぜか牛乳が入りそれらが混ざり合う。ケチャップとオレガノとパセリが刻まれることなく放り込まれぐちゃぐちゃの中に飲み込まれ時折顔を見せる。。
これを……焼くというのか……中華鍋で。
ならばいったいさっきまで何を炒めていたのだ、と鍋を除くと大量の塩が踊っている。シーズニングだ、どこで見たんだ。調理工程の一つじゃないだろそれ。
ぐちゃぐちゃが中華鍋に落とされ異臭を放ちながら踊り始める。
「ふっ、とうっ」
「うぷっ」
一番近くでそれを浴びてしまったロタリーは昼のそれが逆流してこようとしたのをとっさに飲み込む。こんな綺麗な笑顔で他人のために料理をする人のまでそんな失礼なことができるだろうか、いやできない。ましては君の料理マジでまずそうでやばいから辞めた方がいいよ、なんて言えるはずがない。
敗北、圧倒的敗北。再戦の余地もなく勝機も隙も無い。あるのはただ善意という完璧で唯一最強の矛。料理が大好きというとの一念があらゆる反論や正論に勝ったのだ。
完膚なきまでの敗北に膝から崩れるロタリー。薄れゆく意識をつなぎ止めたのは肩に置かれた同志のぬくもりだった。添えられた手を見るとそこにはカリンとライカンの姿が。
そうだ、オレには仲間がいるんだ。たとえ一人では困難な壁でも三人なら乗り越えることができる。差し伸べられた手を取り立ち上がろうとするも、その手に握られているのがきれいなシルクのハンカチであると気づく。
全てをロタリーが悟ったことを二人も悟る。受け取ったハンカチを口に当てすごすごと調理室の端へと避難する三人。
シルクの口当たりの優しさだけが、この教室で彼を癒してくれるただ一つのものだった。
(; ・`д・´)ナンデエレンハブジナノ
(・ω・)オイシソウジャン
処刑台に座らされた三人と一人は運ばれてくる料理を眺めることしかできなかった。目の前に置かれたそれは当然お好み焼きと呼べるような見た目ではなく緑色と焦げた黒色と生焼けな生地。
煮干しが〇してくれ……とこちらを見ている。すぐそっちに行くよ。
「大変お待たせしてしまいましたわ。それではみなさんどうぞお食べください。感想などあればうれしいですわ」
カリンが泣きそうな目でロタリーを見ている。ライカンとも目が合った。なるほど、一口名誉はどうやらロタリーに譲ってくれるようだ。
見たことも信じたこともない神様に心の中で十字をきる。覚悟を決め一口分をスプーンですくい口に入れる。
「おっ、見た目と香りは確かにちょっと悪いけど、ザクザクとした食感と香ばしさが意外とうまいわけないだろうがあああああああ!! なんだこれマジでなんなんだよ! なんで料理下手な奴はレシピ通りやらないんだよ、アレンジとかいらないんだよまず基本から身につけろよ!!!」
「ガーン!」
「口でガーンって言うのやめろ! なんでブロッコリー入れた? シーズニングは料理寸前に行う工程か? しょっぱすぎてオレがナメクジなら死んでるぞ」
「ブロッコリーは栄養が豊富ですし彩もキレイかと……中華鍋は今日おろしたてでしたので……」
「煮干しで出汁とって生地に混ぜるならまだしも直接入れるな! せめてワタと頭は取ってくれよ火も強いから焦げでダブルで苦いわ」
「煮干しも栄養満点ですし、おこげの香ばしさプラスですわ」
「おこげじゃねえんだわ焦げてんだ。ザクザク食感はキャベツで出せばいいんだよ。変にオレガノとかパセリでこじゃれたことするのが逆に腹立つわ」
「イタリアンな要素も足そうかと」
「足すな足すな、素人の料理は引き算からでいいんだよ。それでここまでやってソースとマヨネーズは無しなんだよこれなんて食べ物か見た目でわからんわ。」
「……」
「……」
「……」
「え? マジかよ」
「ロタリー様、言い過ぎかもです」
「ロタリー、リナも日々頑張っているのです」
「最低」
「しくしく」
「マジかよマジかこっからの逆転ある? 甘やかしすぎだろじゃあそれ食えよたまには厳しい言葉をかけるのも仲間じゃないの」
「リナさんお買い物も楽しそうでした」
「この積極性は称賛されるべきかと」
「いや普通に食べられるし。ロタリーうるさすぎリナ可哀そう」
「嘘だろ……こっから負けるのかオレ。……いやだめだ泣かない、泣いたら負けだオレがんばれ」
他者への敬意と尊重を重んじるヴィクトリア家政部ではこういった場面がよくある。ようはみんな優しすぎるのだ。カリンもライカンも水を片手にリナのお好み焼きを食べている。エレンはなんでもいける口なのでバクバクと勢いよくほおばっていた。
ロタリーはよくこの場に連れてこられては突っ込み役兼嫌われ役を買ってでている。
「今度本気でいっしょに料理練習しようよリナ」
「……」
「睨むな。なんだその態度腹立つ。一度本気で叱られた方がいいよ」
「ふん」
「マジで腹立ってきた。一度オレの飯食えよ! 絶対オレの方が料理うまいから!」
「なにそれ興味ある、ねカリンちゃん」
「はいロタリー様の料理気になります」
「ちょっと話ぶれるから入ってこないで。ライカン先生がやらないならオレがやる。今度ほんとに練習するからねリナ」
「分かりましたわ、お手並み拝見ですわ」
「なんで対等のつもりなんだよ。じゃあ今度ね」
「料理に関してはリナは私の言うことに聞く耳を持ってくれないので……大変助かります」
教室をあとにして、あらかじめ用意していた胃薬を飲みながら廊下を歩く。久々の学校をなんだかんだで楽しんだロタリーだった。
(´Д`)マジィヨ
(´;ω;`)マズクナイデス