餅くらい出てくれよな壊れちゃうよ
「ロタリー君、進捗報告をしてもらう。今日の12時に校長室へ」
起きてすぐ携帯に残る留守電を聞くとそう一言ですぐに切れている。ロタリーの後ろ盾でありスポンサーであるメイフラワー校長だ。Hollowのサーバーの維持代などもいくらかは出してもらっているためこういった呼び出しには応じざるを得ない。
「ツィッギー、ちょっと今日校長のとこ行ってくる」
「お帰りは?」
「分かんないけどそんな遅くはならないと思う。夕飯はオムライスがいいな」
「いってらっしゃい」
ツィッギーに渡されたおにぎりを食べつつ部屋を出る。出てすぐに廊下に佇む少女の姿に気づく。
「やっほー、ろっくん。照ちゃんが迎えに来てあげたよー」
「ざおちゃん! なにこの呼び出しTOPSも絡んでるの?」
少女の名前は
そんなTOPSも出資しているHollowの開発者であるロタリーとも関わりがあり、こうして愛称で呼び合う程度には仲が良い。
「ホロウシステムで管理してる社外秘データについてお話があるからねー」
「またあの暗い部屋連れてかれてカタカタさせられるの。いい加減ヒューマンエラーの尻ぬぐいさせるのやめさせてよ」
「仕事はできる人のところに集まるってことだね」
フワフワもちもちの照と一緒に歩きながら学園の教員棟へ向かう。そこの廊下の端、地下にある校長室へと向かう。無駄に設置されたセキュリティーパネルにIDカードをスキャンし奥へと進んでいく。
「毎回思うけどこの悪の組織みたいなの何とかならないの」
「さぁー校長の趣味なんじゃない? 照ちゃんも無駄な出費だなって思うけど、権力ある人にはこういうのも大切なのかもね」
「確かにオレも社長室とか作るなら魔王が座る椅子とかマフィアのボスみたいな部屋にしたいかも」
「ろっくん時々バカみたいなこというよね」
「えへへ……そんなぁ、えへえへ」
「褒めてないよ」
重厚な扉をノックしてからロタリーを先にしては入る。高級そうな絨毯に長い机。よくわからない肖像画や絵画が壁を飾りその薄暗い校長室の奥に男が手を組み座っている。
「主役は遅れて颯爽登場、豪華絢爛ロタリーです」
「なにそれ?」
「いや豪華な雰囲気に負けないように頭良さそうなこと言っておこうと思って」
「すんごいバカっぽいからやめてね」
「そんなところも
「そんなことないよ全然そんなことないよ」
「そこまで否定されるとむしろ火が付いちゃうね」
「相変わらずよく喋る。まずは座ってくれたまえ」
そう促しロタリーを座らせるグレーの髪の初老の男性、メイフラワー校長だ。滅多に人前に出ずその資金力と影響力でこの学園を運営している。
長机の体格に座るロタリーはそれが当たり前というように照を抱きかかえ膝に乗せる。
「え、なにかなこれ」
「絶対これ面白くないかめんどくさい話だもん。精神安定剤がないと緊張とストレスと鼓膜なくなっちゃうもん」
「せめて照ちゃんにいいか聞いてからにしてくれないかな」
「ざおちゃん、オレは毎朝君のおでんが飲みたいな」
「そこは味噌汁でしょ。照ちゃん毎朝早起きして大根かつらむきするのやだなぁ」
「振られてしまった。この傷心の心はざおちゃんの柔肌をだr」
いつも通りに軽口を叩いているとロタリーの目の前に輪っか状の刃物が突き刺さる。
「そろそろ静かにしろ、時間の無駄だ」
「どもどもー」
音もなく二人の人物が現れる。漆黒のマントのような外套を身にまといロタリーを睨みつけているのはプロメイア。クランプスの執行官だ。
その隣でニコニコと人当たりのよい笑顔を浮かべているのはダイアリン。同じくクランプスの執行官。
プロメイアは自分が投げた暗器を回収しながらロタリーの隣に座る。ダイアリンもそそくさとロタリーの隣に座った。
「二人とも来てたんだ。もしかしてこれかなりでかい案件?」
「そうだ。時間の浪費はお互いのためにならない。特にお前のおしゃべりを待っていては時間がいくらあっても足りないからな」
「まぁそれと引き換えに照ちゃん先輩の機嫌はにっこにこになりますけどねー」
「ダイアリンちゃんうるさい。それに君別に今回呼ばれてないでしょ」
「なにオペレーター番号2493、カスタマーセンターのダイアリンオレに会うために来てくれたの。仕方ない照ちゃんが乗ってないこっちの左の膝に乗せる権利は与えよう」
「いらないでーす一旦お口チャックですよー?」
「いい加減黙れ」
「いやこうやって話の腰折ってたらまた仕事の無茶ぶりされないかなって駄目か。まぁ三人が来てくれてたんだから話くらいは聞くか」
ロタリーは居住まいを正すと照ちゃんも満足したのか膝から降り自分の椅子に座った。
「察しの通り仕事の依頼だ。Hllow内でのイベント開催をお願いしたい。企画はイベント参加者によるタワー防衛のタワーディフェンスだ」
「まためんどくさそうなものを。エーテリアスだってゲームみたいに自由に配置できるわけじゃないんだけど」
「場所はこちらで用意しよう。タワー配置、エーテリアスの配置、湧き方や難易度設定など任せたい」
「それはほぼすべてでは?」
「金だけ出して口ださない。パトロンの基本だと思っているのだが」
「イベントやれって口出されてるんだけど」
「んーろっくん、補足するとね。今回のイベントではホロウのエーテル浸食の浅い場所でやることで一般参加者を多く募るのが目的なんだ」
「それで報酬もたくさん用意してホロウプレイヤーを増やししいてはTOPSの利益になるってことね」
「それに一般参加者とエーテリアスの戦闘があれば貴重なデータも取れちゃうってことですね」
「それはこっちにもメリットあるかも……。それ以外のこっちへの報酬は?」
「そうだね、このぐらいを予定しているよ」
校長が電卓を弾きロタリーに見せる。いくつもの0が並ぶ数字にロタリーは考えるように顎を撫でる。
「さすが出すときは出すなぁ。うーむ、期間は?」
「3週間後でどうかな」
「打倒すぎる。くそうここまで外堀ほぼ埋まってるな。いいよやります」
「細かな詳細はメールで伝えよう。これにて解散だ」
「お仕事了解です」
「あ、ろっくんこのあとちょっと用事あるから。ダイアリンちゃんちょーっと来てもらえるかな」
「私はこれで失礼するよ」
「私もやることがある」
照ちゃんに手招きされたダイアリンが二人が廊下に出てこそこそ話を始めると校長とプロメイアは部屋を後にした。ロタリーも校長室を出ると二人は離れたところで話している。なにやら盛り上がっているらしい。話はまとまったようでニヤニヤした照ちゃんと小首をかしげているダイアリンがロタリーの前に立つ。
「どうしたの?」
「いやーろっくんお願いがあるんだけど」
「いいよ。照ちゃんの頼みなら」
「聞く前から了承しちゃうなんて騙されちゃうし良くないよ?」
「大丈夫、照ちゃんのことは信頼してるし信用してるから」
「えへへ、お願いってのはね。例のやつをダイアリンちゃんにもしてあげて欲しいの」
「例のって……マジ? 嫌がるでしょ」
「多分だけどそうでもないよ。それにプロメイアちゃんにもしてるでしょ」
「な、なぜそれを」
「お休み明けになるとすんごくご機嫌になるから。わかるよ女の勘だもん」
「すごいな女の勘。謎の説得力」
「ってことでお願いね」
「任されました。ダイアリン、この後半日、オレとデートしよ」
「でで、デートですか?! いや別にいいですけど、私は高いですよー」
「もちろん。世界に一つしかない宝石を買おうってんだから、そりゃ値もはるよ」
「む、なかなかやりますね」
「とりあえずお茶でも飲みにいこっか」
そういってロタリーはダイアリンに手を差し出す。若干の気まずさはありながらも手をつなぐと嬉しそうにロタリーは歩き出した。面白そうなもの見れそうだと照ちゃんはそれについていく。
ロタリーは街の外れにある古びた喫茶店へと入る。そこは個室もあり渋いマスターがいつもコップを拭いているいかにもなお店だ。
「こんな渋い見た目の店でカフェラテが甘くて美味しいんだ。それでいい?」
「それでいいです」
「じゃあカフェラテとカプチーノひとつ」
「で、なんでデートなんですか?」
「ダイアリン疲れてそうに見えたから。仕事は大変だけど慣れて順調。嫌なこともあるけど乗り切れる。でも小さなストレスが蓄積して知らないうちに疲れてるって顔してるから」
「具体的ですねー、まあ当たらずも遠からずってとこでしょうか」
「照ちゃんは仕事できるしプロメイアはあんまり喋らなさそうだから吐き出すとこも無さそうだもんね。あれよあれ、どしたん話聞こかってやつ」
「自分がそのセリフ聞く日が来るとは思わなかったです」
ロタリーに促されるままポツポツと仕事の話をする。文句ばかりのクレーマー。責任を取らない責任者。会う大人は嘘ばかりつき時に自分の体を値踏みするように見つめる。仕事を無くし不幸になっていく人々の怨念の声を聞く日々。それにも慣れていき他人へ一線を引くようになった自分。
ロタリーは何をいうでもなくうんうんとその話を聞いていた。
「髪」
「へ? なんですか?」
「髪、下ろしてみてよ」
ダイアリンは白と黒の色の髪を頭の上の位置で結っている。そのおしゃれなツインテールは彼女のチャームポイントといっていい。
「結構時間かけてセットしてるんですけど」
「そうだね、ごめんね。ちょうど櫛持ってるから梳いてあげる。気持ちいよ人にしてもらうの」
「なんで櫛持ってるんですか……。人前で髪ほどくの抵抗ありますねぇ」
「大丈夫。誰も見てないから」
「そうかもですけど」
渋々髪をほどくダイアリン。ロタリーの隣に座らされ櫛が髪を撫でる。頭皮をマッサージされるように繰り返されるそれにダイアリンは思考力を奪われ顔が惚ける。無意識に人前では気を引き締めていたことにダイアリンは気づいた。出先にいながらまるで家のソファで過ごしているかのような安心感が体を包む。知らず内にダイアリンの右手は何かを求めるようにさまよいロタリーの袖をつまむ。ロタリーはその手をつなぎ、恋人のように指を絡める。
「腰痛いでしょ。抱き着いてきていいよ」
「……はい」
ロタリーに言われるがまま体を預け腰に手を回す。彼の胸に顔を当て男性の香りを嗅ぎながら櫛の感触の頬を染める。
「いい子だねダイアリン。いつも頑張ってて偉いよ。こうやって頼りにしてくれると嬉しいな」
ロタリーの言葉が心の奥底に染み込む。自分という全てを肯定される心地よさに目を閉じる。空にいながら湖に浮かぶような、お風呂に浸かりながら布団に潜り込むような、自分が溶けて液体になって他者と混ざっていく感覚。押し固めて作った自己が移ろいゆくのが不思議と嫌ではなかった。
気づくとソファに座るロタリーに背中から抱かれていた。後ろから回された彼の腕をまるで赤ん坊の時のお気に入りのタオルのように握りしめている。
「元気になった?」
そう話しかけるロタリーの顔は校長室でふざけていた彼の顔だった。
ダイアリンは自分の顔が爆発したように熱く、そして恐らく真っ赤になったことに気が付く。
「し、失礼します!」
慌てて照のところへと向かったダイアリンはその思いをぶつけた。
「なんなんですかあの人はなんなんですか?! これ本当に合法ですか?!」
「うんうん、わかるよ。すごいよねあれ。もうなんかもう依存性とかありそう」
「あんなんダメですよ人をダメにするやつです条例で禁止した方がいいです」
「まぁうちで囲い込んで独占したいところなんだけどね。籠に入れられるのろっくん嫌がりそうなんだよねぇ」
「野に放しちゃだめですよ。いつか刺されますよあの人」
「ろっくん喜んで刺されそうなんだよなぁ」
「刺してきた相手の頭とか撫でそうですよねバカなんですかあの人」
「多分超バカだよ……すっきりした?」
「自分でおもったより疲れてたかもですね」
「ダイアリンちゃんは頑張り屋さんだからね」
「二人とも話は終わった?」
「んー終わったよー」
「今日はその……ありがとうございました」
「いいよいいよ、オレも可愛い子と仲良くなれて嬉しいしね。またいつでもおいで、これ連絡先ね」
「なんか手馴れてる感じむかつきますね」
「あざす」
「こういうの他の女の子たちにもしてるんですか? 良くないですよ」
「みんなにはしてないよ。かわいい子と好きな子だけだよ」
「そのセリフもむかつきますね」
「また遊ぼうね。今度うちおいでよ、はちみつレモンを自分で漬けてみたんだけどこれがお茶にすると美味しくてさ。今度飲みおいで。リラックスできるよ」
「そういう手口なんですねーまあ気が向いたら」
ロタリーと別れ帰路に就くダイアリンと照ちゃん。
「照ちゃん先輩がハマるの分かった気がします」
「ろっくんね、前仕事一緒だった時にね。照ちゃんは世界にひとつしか咲いてない花だから、お金に換えられないくらい価値があるよって言ってくれてね。どこかの漫画のセリフな何でもないセリフかもだけど、目を見ていってくるから沁みたんだ」
「話すときすごく目を見てきますもんねあの人」
「それから人と会っても区分の仕方でその人の価値なんて変わるんだなって」
「好きなんですかー? あの人のこと」
「なーいしょ」
夕日を背にして歩く二人の頬が赤く染まる。ダイアリンは風になびく前髪を手で払った。たまには髪型を変えても気分転換もいいかなと思う程度には、今日という日に満足していた。
(; ・`д・´)ナンナンダアノヒトハ
(´っ・ω・)っナイショー