誰かあの気の毒な令嬢を助けてやれる者はいないのか? 作:西風 そら
「そ、そなたたち、そういう・・いや、
わ、わたしはそちら方面の理解は、ある、つもり、だっ・・邪魔をして、済まなかったっっ!」
「お待ち下さい、殿下、誤解です、殿下あぁ――っっ!!」
***
南ヲ国、建国記念パーティー会場、外庭、噴水前。
海の向こうの王国より来賓として招かれているローザリンド王太子が、白い大理石の淵に手を掛けて息を弾ませている。
慌てた感じで駆け寄る、同行の新米外交役人ロッチ。
「殿下、急に駆け出さないで下さいよ。外交役人とはいえ護衛も兼ねているんだから、目視から切れられるとビビるんです」
「済まなかった、ロッチ……」
「どうかされたんですか、お顔の色が真っ青ですよ?」
「い、今しがた、あちらのバルコニーの柱の陰で……」
「ああ、行き掛けて戻られましたね。誰かいたんですか?」
「いや…… す、少し驚いて……」
「ああ、はい」
ここ南ヲ国は、開けっ広げな情熱の国。
きっとこの国の男女の大胆なシーンでも目撃してしまわれたのだろうと、察してロッチは唇を
「ロ、ロッチも、あちらへは、行かぬ方が良い……」
耳を染め動揺される殿下は、一点の曇りもない清廉であらせられる。気まぐれな水の精霊ウンディーネも虜になったか、 噴水のきらめきが白絹の
南ヲ国王室主催の宴の出し物は、わが国では考えられぬような大胆な衣装と振り付けで、殿下は、王族スマイルを保つのがやっとなご様子で、恥ずかし気に目を逸らされていた。
まったく、バラエティに富んだ催しでもてなしてくれようという意気込みは有難いのだが、文化の違いもちょっとは気にして欲しいと思う。
なんて思考を巡らせている
「時にロッチ、これは私の友人に相談された話なのだが……」
「はい」
ロッチはにこやかに聞く体制に入った。
「その友人は責任ある役職に付いていて……至らぬ未熟者ながらも、日々の仕事を滞る事なくこなせるのは、周囲に恵まれているお陰だと思っている。身を粉にして仕えてくれる部下たちに、常に感謝の気持ちを持っている……とも、言っていた」
「はい」
「ロ、ロッチの知らない人物だぞ、南ヲ国の外遊中に、最近出来た友人で……」
「はい了解です、お優しい方ですね、そのご友人」
ロッチは変わらずニコニコと目を細める。
殿下は髪と同じプラチナブロンドの睫毛を伏せられ、一度 言い淀んだあと、思い定めたように顔を上げて切り出された。
「ぶ、部下の二人が……同性の、部下二人が、プライベートな空間で…… その、一般人の道徳的に許容されがたい密接な行為を取っていて……
それでその、現場に鉢合わせて目が合ってしまった場合、何と言ってやればよいのか?
……そんな相談をされたのだ。
日頃感謝しているだけに、偏見を排し受け入れてあげたいのだが、向こうはうしろめたくもあるだろうし、今まで通り接して貰えなくなるのも寂しい……と、
その友人は、とても悩んでいるのだ」
「あ――――」
ロッチはソバカスの上の大きな瞳をクリクリと動かした。
「『道徳的に許容されがたい』って、盗みとかの犯罪じゃなく、他人に迷惑を掛けない系の奴ですか?」
「そうだ。……そうなのだが……」
「じゃあ簡単です。一切触れないで今まで通りに接してあげればいいだけですよ」
「それでいいのか?」
「大局からしたら、どうって事ないんです、そんな事」
「……そうなのか」
「こちらからは話題にしないのが一番です。放っておいてもどうせ向こうから言い訳して来ますよ。『逆まつ毛を直してやろうとしていた』とか」
「…………」
「そしたら、『そうか』と、ホッとした顔をして、素直に信じた振りをすればいいんです。向こうもホッとしますよ」
「なるほど、そうしてみる。ロッチは物知りで頼りになる」
「なんのなんの、です」
『友人に教えてあげて来る』と、殿下がわざとらしく会場内の南ヲ国の若者たちの所へ行ったあと、壁際で警護しているロッチの所へ、焦った感じの男性二人が駆け寄って来た。
「殿下は?」
息を弾ませた、護衛騎士ジーク。
「あそこで、南ヲ国の有力者の子息たちと歓談中です」
二人の出で立ちに眉をひそめながらも、ロッチはシレっと答える。
「何か言っておられたか?」
こちらも珍しく焦った感じの、外交団責任者アーサー。
「はい、随分と傷付いた感じで悩んでおられました」
「はあ~~」
二人の長身の男性は、額に手を当てて首を横に振った。
「アーサーの首筋についた汚れを拭ってやっていたんだ」
「まぁそんな所だろうなとは思いましたが…… ご自身の専属近衛とお目付け役筆頭が、『一般人の道徳的に許容されがたい密接な行為をしていた』と、本気で苦悩されておられましたよ」
「あれしきの事で誤解してしまわれるとは、純粋が過ぎるのも困り物である」
「だってそもそもアーサー様、何でそんなしどけないシャツ姿なんですか。上衣は何処へやりました?」
「南ヲ国の半裸に近い女性が近付いて来たので、上衣を脱いで掛けてあげたのだ。紳士として当たり前だろう?」
自国の当たり前をこの国のコンパニオン相手に押し通していたら、上衣が何枚あっても足りませんよ。
「その際、タイを引っ張り取られ、汚れを付けられてしまった」
と、紅を拭き取ったばかりの首筋をさらす。
動じない人だな。
「それは災難でしたね。で、ジーク先輩は何で上半身裸なんです?」
「曲技団の連中と意気投合して、リンボーダンスの手解きを受けていたんだ」
「平役人に護衛押し付けて何やってんですか」
「うるさいな、あいつら剣舞もするから、内輪に入り込んでしっかり調査しておかにゃならんだろうが」
「その挙げ句 物凄い絵面になって、殿下の誤解に拍車を掛けていたら世話ないじゃないですか」
「むぅ……」
「とりま、殿下からは話題を振らないよう進言しておきましたので、早い目に誤解を解いて差し上げて下さい」
離れた所の、若者たちの中の殿下を見ると、こちらの二人の姿を見て、情けない顔をされている。
本当に後ろめたかったらこんな姿で追い掛けては来ないだろうと、解して下さればよいのだが。
~おしまいっ~