リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜   作:トマトォォォァァォ!!!!!

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初投稿です。粗が目立ちますがご容赦ください


初恋の人が救世主みたいな人だった

───恋をする

 

それは悪いことではなく、むしろ良いことだと僕は思う

人の長所や美点を見つけ、そこを愛すことができるのだから

 

…ただ、一つ欠点を挙げるとするのなら…

 

気恥さや照れくささから、その人とまともに顔を合わすことすら難しくなることだろうか

 

「はぁ…」

 

空が夕日によってオレンジ色に染め上げられ始めた午後4時頃。

図書室で恋愛漫画を読んでいた僕こと月下(つきした)ヨゾラは、気怠げにため息を吐いていた

 

「どうしたん、月下後輩。普段から傲慢不遜な君がため息だなんて珍しいねぇ」

 

「待ってください名付(なづけ)先輩、僕って普段からそんなイメージ持たれてるんですか?僕はどこにだっているただの高校生ですよ?」

 

「にゃははは。ごめんごめん」とまったく謝罪の念がこもってない返事をしながら一つ上の先輩 名付 サダメは僕に心配と好奇心の混ざった目を向ける

 

「でも実際どうしたのさ、少なくとも今の君は恋愛漫画を読んでるとは思えないほど鬱屈とした表情だよ?何か悩みがあるなら私に言ってみな、先輩なんだ、悩みくらい聞いてあげるよ」

 

悩み…まあ確かに、僕は今を生きる青春真っ只中の高校生だ

一人じゃ抱え切れない悩みが一つや二つ、三つはある

あれこれ一人で悩むよりも、誰かに相談したほうがいいのかもしれない

でも、先輩に…?

 

「しかも最近は物騒なんだよ?ニュースをみてみなよ、鋭利な刃物で人を斬りつけてくる通り魔とか、全身真っ黒な不審者が出没してるとか、そんな世の中なのにさらにそんな風に悩んでいる月下後輩が心配で心配で仕方がないんだよぉ~」

 

一見すると、後輩の悩みに一緒になって考えてくれる実に頼れる先輩のようだが…いや実際そうなのだか

 

「だからね。悩みがあるならこの私に相談してほしいんだ!」

 

「え?先輩に?嫌ですよ。周りに言いふらしたりしそうじゃないですか。先輩って」

 

「ひっどいなぁ!君こそ先輩に対してどんなイメージを持っているんだよう!言いふらしたりなんかしないよぉ!!」

 

まるで子どものように声を荒げ腕を振り、先輩は僕に悩みを打ち明けるように訴える

このように、先輩は少々、いやかなり強引でガサツな所があるので、相談相手としてはかなりの不安があるのだ

ただまあ、こうなってしまった先輩を止める術をを僕は知らないので、もはやどうしようもないのだが

…観念したように僕は口を開く

 

「…わかりました。でも、本当に言いふらさないでくださいね?」

 

「うん!!」

 

ホントに大丈夫か?と思いながらも僕は言葉を紡ぐ

 

「──実は、僕、好きな人ができたんです」

 

 

 

 

 

「マ!?みんなに知らせないと!?!?」

 

「おい嘘だろあまりにも前言撤回が早すぎるだろ先輩待てゴラ」

 

     ─────────

 

 

─席を立ち上がり、廊下に駆け出しそうになった先輩を必死で止め、なんとか元の状態に戻す

 

「いやぁーごめんごめん、あんまりにもびっくりしちゃてさぁ」

 

文字に起こすことがとても難しいほどの大乱闘があったはずなのにまったく息を切らしてない先輩を横目に、僕はボヤく

 

「はぁ…はぁ…本当ふざけないでくださいよ先輩…こっちは結構真面目に悩んでるのに…」

 

秒で期待と信頼を裏切った先輩に軽蔑の目を向けながら、僕は席に戻り恋愛漫画を読み返す

 

「…あぁ、なぁるほどねぇ、好きな人ができたのはいいけどその人とどう関わればいいかわかんないから、とりあえず漫画で恋愛のアレコレを学ぼうとしているのかなぁ。でも全然分かんなくて困っちゃた(泣)って感じ?」

 

「なんでこの人こういう事に関しては鋭いんだよ…」

 

気持ちの悪いほどに鋭く、そして大正解の考察をしながら先輩は「にゃははは」と笑い、僕と向かい合える席に座る

 

そして机に肘をつき、当然の疑問を口にする

 

「…そもそもさぁ、月下後輩は誰のことを好きになったのさ?」

 

─息を、飲む。

遠慮のない人だとは知っていたが、ここまで真っ直ぐに聞き出そうとするものか?

顔を上げれば、夕暮れのように明るい赤髪を体ごと揺らしながら、まだかなまだかなと、遠足前日の子どものように僕が答えるのを楽しみに待っている

 

先ぽどと同じように、こうなっしてまった先輩を諦めさせるのはほぼ不可能だ。

…実際、自分一人ではどうにもならないとは思っていた。

だったら、一人で抱え込まず思い切って相談してみよう。

…この先輩に頼るのはとても不安で、癪だけど

 

「…御神(みかみ)アマテ。僕と同じクラスの子で、銀髪の」

 

「アマテェ゙?…あぁ、あの小柄な?」

 

「そうですね」

 

「あの髪が長めでおとなしそうな」

 

「そうです。そうです」

 

「おっぱいが控えめな」

 

「そうで…いやちょ…先輩あんたねぇ…!?」

 

恥ずかしげもなく胸の大小について言及する先輩

もはやこの図太さは見習うべき美点なのかもしれない

 

「なぁるほど…月下後輩はあの子が好きなのかぁ…

──じゃあ、あの子のどんなところが好きになったのさ」

 

「どんなところ、ですか」

 

「うん。これでも私は君の事を結構評価してるんだよ?

月下後輩が見た目や雰囲気だけで人を好きになるやつだとは思っていないんだ」

 

先輩と目が合う

彼女の精神をそのまま映したかのような明るい赤髪とは真反対の、透き通った青い目には確かに、月下 ヨゾラに対する信頼が現れていた

 

「──君が誰かを好きになったってことは、その誰かには君が惚れ込むほどの美点があったはずだ」

 

「…過大評価すぎますって」

 

「まあいいじゃん。だったら教えてよ、どうして月下後輩はその子のことを好きになったのかさ」

 

「…わかりました、ここまで来たらもう全部話しますよ」

 

      ──────────

 

──あれは確か、2週間前のことだった

 

あの日は朝から雨が降っていて、下校時も勢いを減らさずザーザーと振り続けていた

 

「…あれ?傘がない…」

 

傘立てに置いといたはずの傘がなくなっていた

あの傘には間違って持っていかれないように、自分の名前を書いてはずなのだが…

 

「どうするかな…」

 

家からは徒歩20分、普段なら何の苦にもならない距離だが、今は違う

雨は今も勢いを増していき、すぐには止まないだろう

かといって、走って帰ろうにも雨が強すぎる。

どうしょうかど悩んでいたら─

 

「──どうしたの」

 

─きれいな声がした

風鈴のような透き通る声に呼ばれ、後ろを振り返る

そこには、小柄だか確かに存在感のある女子が立っていた

 

「えっと、君は確か…」

 

「御神 アマテ。…あなた、玄関前でうんうんと悩んでいるけど、何かあったの?」

 

「ああいや、僕の傘を誰かが間違って持ってちゃったみたいでさ、どうやって帰ろうかなって」

 

「そうなんだ…じゃあはい、これ」

 

そう言って、彼女は持っていた傘を押し付けるように差し出す

水玉が入った、可愛らしい傘だ

 

「使って」

 

「え…いや、ありがたいけど無上さんはどうやって帰─」

 

「じゃあね」

 

思って当然の疑問を言い切る前に、御神さんは雨天の下に身を乗り出し、そのまま走り去っていく

他の人よりもやや細めな印象を受ける足からは想像もできない速度で、僕の横を通り抜ける

 

「え?!ちょっと、待って!」

 

静止を呼びかけた頃にはもう姿は見えず、僕はただ─

 

「…足、はっや」

 

 

 

 

─呆然と立ち尽くすことしかできなかった

 

 

 

 

       ───────

次の日、昨日とは打って変わって雲一つも無いような晴れた日

 

「御神さん、これ」

 

僕は玄関前で昨日貸してもらった…というか、押し付け渡された傘を御神さんに返していた

 

「あっ、うん」

 

そう言って、御神さんは受け取った傘を傘立てに傘をしまう

…このまま会話を切り上げれば、これ以降御神さんと関わることはほぼないだろう

僕は元から誰彼構わず話しかけるタイプではないし、御神さんもそういうタイプではないだろうから

 

──でも、気になってしまった

 

「…ねぇ、御神さん」

 

「なに?」

 

「なんで昨日、傘を貸してくれたの?」

 

僕と御神さんには何か特別な繋がりがあるわけでもない

そもそも話したのだって昨日が初めてだし、席が近いとかそういうのもでもない

だというのに、御神さんはあまりにも気軽に傘を貸し与えてくれたのだ

見返りを求めず、無償の善意を困っている人に与える

そんな漫画のヒーローみたいな人間がこの世に存在するとは、僕は思えながった

 

「あれだけ雨が降っていたのに、なんで僕に傘を貸してくれたのかなって、もしかして、もう一本持ってたりした?」

 

「ううん。傘はあの一つだけだよ」

 

「えっ、じゃあなんで…」

 

「?そんなにおかしいことかな」

 

くるりと、体の向きを変え御神さんが僕と目を合わせる

その瞳は、雪景色のように白く、見るもの全てを見透かすような瞳だった

その瞳のまま、何でもないように彼女は言った

 

 

 

「──困っている人がいたら助ける。そこに理由なんて要らないと思うんだ」

 

彼女は、何でもないようにそう言った

というか、彼女にとっては何でもないようなことなのだろう

困っている人がいるなら自分の被害を顧みず、誰かのために行動できる

 

─「それ」ができる人がどれだけいるだろうか

少なくとも、僕には無理だ、と思う

僕が彼女の事を好きになった理由を考えるなら、その優しさだろう

それほどまでに、僕には彼女の想いが美しく見えたのだ

 

 

       ─────────

 

「おー…終わり?」

 

「はい、終わりですけど…これが僕が彼女の事を好きになった理由です」

 

「ふーん、なぁるほどねぇ。つまり君はアマテちゃんの異常なほどの優しさに惚れたと」モグモグ

 

いつの間に持ってきたのか、パッケージに「スウィートキャラメル味」と書かれたポップコーンを食べながら僕の恋情話をまとめている

…いや食うなよ。ここ図書室だぞ…

 

「さてと、月下後輩がアマテちゃんのことがどうして好きなのはわかった。次はアマテちゃんとどうなりたいかだ」

 

ポップコーンを食べ終わり、一段落ついた先輩がそのまま質問を投げかける

 

「どうなりたいか、ですか…そりゃまあ、恋人の関係になりたいですよ。好きなんですから」

 

「おー!よく言ったねぇその言葉!もうそこまで言うなら、あなたのことが好きです、だなんて告白してみたりしたら!?」

 

「出来るわけないでしょ!?するとしても、もっと段階とかあるでしょ!」

 

そんなことできるわけがない

ただでさえ、彼女を顔を合わせることすらままならない状態なのだ

まともに話ができるかどうか怪しい

そんな状態で告白なんてできるわけが──

 

  ・・ ・・・・・・・・

「─へぇ、わかってんじゃん」

 

「…へ?」

 

急に、先輩の雰囲気が変わる

声は一段ほど音程が下がり、目つきも普段の無邪気な子供を思わせるような目ではなく、鋭く、見るもの全て射殺すような目つき

 

いつもの脊髄反射だけで行動しているような阿呆の権化のと言っていい先輩とは違い、理知的で何事にも動じることのない強者の風格を──

 

「…ねぇ、今凄い失礼なことを考えてないかい、月下後輩?」

 

やべっ、バレてる

 

「…まあいい、話を戻そう。今君が言った通り、物事には段階というものがあるんだよ」

 

「段階…」

 

「ああ。例えば…季節とかもそうだ、春から夏になることはあっても、夏から冬にパッと切り替わることはない。必ず間に少なからず秋という切り替わるための季節が存在する」

 

分かりやすいような、分かりにくいような、妙な理論だ

 

「まさしく階段さ、頑張って二段三段飛ばしはできても一気に全段飛ばすことはできないんだよ」

 

「…あー、つまり恋愛でも同じってことですか?いきなり恋人になることは不可能で、まずは友達から、みたいな」

 

「ザッツライト!やっぱり君は理解が早いね!」

 

なるほど、まずは友達から。考えてみればその通りだ

これが初めての恋だったからいろいろ考え込んでしまったが、結局のところ少しずつ仲良くなっていくしかないのだ

 

…しかし、本当にどうしたんだろう先輩

普段の幼稚園児並の好奇心を高校2年生のフィジカルで振り回してるまさしく見た目は大人、頭脳は子供な先輩ではないみたいだ

 

「ねぇやっぱ凄い失礼なこと考えてるよねぇ月下後輩?」

 

ハハッ、ナンノコトカナー

 

「そんなことより名付先輩」

 

「そんなこと…?」

 

「実はまだ相談したいことがあって…」

 

「おや?それは恋愛とはまた別のことかい?」

 

「…はい」

 

…そうだ、初恋のことも僕にとっては重要なことだけど、他にも悩んでることはあるんだ

 

「ふふっ、いいだろう。私は君の頼りになる先輩だ。悩みがあるならどんどん私に相談して──」

 

先輩がそういい切ろうとした瞬間、キーンコーンカーンコーンと完全下校時間のチャイムが鳴る

時計を見れば、いつの間にか5時半を過ぎている

 

「…あらら、もう帰る時間だぁ」

 

気が付くと、先ほどの風格は消え、普段のバカでアホでマヌケな僕がよく知っている先輩に戻っていた

 

「あれっなんだろう、急にすっごい殺意が湧いてきた気が…」

 

「気の所為じゃないすかね」

 

「そっかー」

 

ああやっぱりバカだ

 

「ああそうだ月下後輩、悩みの続きは明日聞くよ」

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

「ふふん、いいってことさぁ」

 

やっぱこの先輩優しい人ではあるんだよなぁ…

 

      ──────────

 

「さてと、帰るか」

 

時刻はもう午後6時。薄明るい夜空が妙に美しい

借りていた恋愛漫画を返していたら結構遅くなってしまった

 

今は家までの帰り道を歩いている途中だ

夜でも明るいコンビニ前を通って、交差点で信号が赤から青に変わるのを待つ、少し歩けば人気の少ない、いつもの帰り道

徒歩で大体20分、自転車を使えばものの数分で着くであろう距離

そんな道を歩きながら、明日のことについて考える

明日は体育があるな、明日こそ御神さんとちゃんと話せるといいな、明日どの悩みから先輩に話そうかななど

 

…しかし本当にどうしようかな

先輩は明日この悩みを聞いてくると約束してくれたけども、いざ相談すると思うと気が重くなるな…

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「誰かにストーカーされているような気がする、だなんてなぁ」

 

きっかけは、1週間前のことだ

と言っても、内容としてはありきたりな物だ

後ろから視線を感じる。足音が聞こえる。振り向いた時、人影のようなものが見えた気がする。など

同じようなことがここ1週間続いているのだ

 

「でもなー確証がないんだよなぁ」

 

そう、あくまで「気がする」だけなのだ

確かな証拠はないし、全部気の所為だったという可能性も全然ある

 

「どうすっかなぁ〜……いてっ」

 

そんなことをぼーっと考えながら歩いてたせいか、他の通行人と肩がぶつかる

 

「あっ、すいません」

 

しまった、考え事をしながら歩いたせいだ

今は帰ることに集中しよう。そして家に帰ってから明日のことを考えよう

そんなことを思いながら、歩を進めようとして──

 

「…おい、待てよテメェ」

 

「…え?」

 

ガシッと、肩を摑まれる

よく見るとそいつは髪を金髪に染め、ピアスをし、ジャラジャラとチャーンネックレスを揺らしている、今どきめずらしいと思えるほどのコテコテのチンピラだった

いや、人を見た目で判断するのは良くない

もしかしたらこの見た目で聖人君子もびっくりないい人なのかもしれな──

 

「おいコラクソガキ。謝っただけ済むと思ってんじゃねぇぞクソガキ。慰謝料払えやクソガキ。聞いてんのかクソガキ」

 

あー駄目だこれ。完全にチンピラだこれ

と言うかクソガキクソガキうるさいなこの人…もっと他に語彙ないのか?

 

「黙ってねぇでなんか言えよクソガキ!」

 

あまりのチンピラっぷりに呆然としていると、それにキレたのかクソガキチンピラさんが、僕の襟ぐり掴んでくる

どうするかな…どうにかして隙を作って逃げれないかな

そんなふうなことを考えていると…

 

「おーどうしたんすか達さん。そんなクソガキクソガキ連呼して」

 

「んお?おお竹鶏か。」

 

なんか増えた…

声のする方に目を向ければ、一見物腰柔らかそうな青髪の青年が立っていた

恐らく、口ぶり的にチンピラ同士の仲間なのだろう

…厄介なことになってきたなぁこれ

 

「聞いてくれよ竹鶏、このクソガキがぶつかってきやがったんだよこのクソガキが。んでクソガキがろくに謝りもせずにどっか行こうとしたんだよクソガキが。こっちはぶつかられて痛えのによクソガキがよ」

 

本当にクソガキしか語彙がないのか?5秒に一回はクソガキって言ってるぞ

 

「うーんと?クソガキ?クソガキがぶつかって?えーと?」

 

ほらもうお仲間さんもよくわかってないじゃんか

 

「ま、まあとりあえずここだと目立つから別のところで話しませんか?達さん」

 

「おあー…そうだな、そうすっか。おい付いてこいクソガキ」

 

ぐいっと、腕を引っ張られる

まずい、このままだとどっかに連れ込まれる

周りを見渡しても人はいない…だったら…

すぅと、息を吸う

周りに人がいないと言っても、大声で「助けて!」と叫べば誰かしら反応するだろう。そして警察でも呼んでもらえば何とかなるはずだ

そう想い、助けてと叫ぼうとした瞬間─

 

「おっと、危ない」

 

「んグッ!?」

 

…口を、塞がれた!?

竹鶏と呼ばれた青年が僕に叫ばせまいと、口をでで塞いでいる

 

「達さーん、コイツ今助け呼ぼうとしてましたよ〜」

 

「んだぁ!?ふざけんなよクソガキィ!」

 

まずい、まずいまずいまずいまずいまずい──!

コイツ、口ではヘラヘラと笑ってるけど目が全然笑ってない!

どうすればいい!?どうすれば逃げれる!?今これ思ったよりヤバい状況だ!

 

「…困るなぁホント。ただ俺たちは話し合いで解決しようとしているのに、しょうがない、これ使うか」

 

そう言って竹鶏はポケットから何かを取り出し、僕の首元に当てる

─ナイフだ。しかも、普通のものとは違う、いわゆるサバイバルナイフと呼ばれるものだろう

何でそんなもん持ってんだよ!

 

「俺さぁ、こういうので人の肌切ったりすんの好きなんだよ。君が変に抵抗したら首スパッ、ってやっちゃうかも知んないから、気をつけてね?」

 

口は笑ってるのに目が全然笑ってない

一見温和そうに見えたけどコイツのほうがヤバい奴だ

コイツに比べたら、クソガキチンピラさんの方が何倍もマシだ

 

─鋭利な刃物で人を斬りつけてくる通り魔とか

 

不意に、先輩が言っていたことを思い出す

まさか、コイツが?

 

「…うん!落ち着いたみたいだね。それじゃ行こっか」

 

もはやどうすることもできない、このまま彼らの言うことに従うしかない

…どうしてこうなったんだっけ、僕はただ、考え事をしながら帰ってた、ただそれだけのはずだ

だというのに、ものの数分で命の危機に晒されている、今日は厄日とかそういうレベルじゃない

 

 

 

…そんなことを考えてたからだろうか。僕は気づけなかった

 

後方から約100メートル、僕たちを見ている、人影

チンピラに連れてかれる僕を見て、警察等にも通報せずにただ見ているだけの人影に、僕は気づけなかった

 

 

      ───────────

 

「さ、着いたよ。ここが目的地」

 

あそこから数十分、着いたのは人気のない森の奥

道の舗装もされておらず、月明かりも生い茂る木々の葉によって地面に届かずにいる

 

「いや〜ここ暗いよねえここ。俺目悪いからさ、懐中電灯とかが無いと目の前もよく見えないよ」

 

どこから取り出したのか、懐中電灯を振りながら竹鶏が笑いかける

 

「そんな事はいいんだよ。それよりさっさと落とし前をつけろよクソガキ!」

 

そんな竹鶏の言葉を遮るように、クソガキチンピラさんが喚く

無駄にデカい声が、不気味なほど静かな森に響き渡る

…と言うか、落とし前?

 

「何ぼさっとしてんだよ、金だよ金!慰謝料払えつってんだよクソガキ!100万円だクソガキ!」

 

迫真の、冗談など一切混じってない顔で、声高らかにクソガキチンピラさんが叫ぶ

もう何がなにやら分からない…

肩がぶつかっただけで慰謝料100万円になるわけないし、これを恐らく本気で言っているのもおかしい

どういう脳の構造しているんだ

 

「払えるわけないだろそんなことで!?そもそもそんな大金持ってるわけないだろ!」

 

「あぁ…!?」

 

思わず口に出してしまった

いやだって、あまりにも幼稚な考えすぎる

口を出したくなるよ、こんなバカなこと言われたら

 

「んだとぉクソガキ!、」

 

「うぐぅ!」

 

当然というべきか、キレたクソガキチンピラさんに腹目掛けて蹴られる

肺から空気が押し出される

胃酸が逆流し、口からこぼれ落ちる

 

「うげっ、ごぼっ、ごほっ…」

 

「はぁ…はぁ…ふざけやがってクソガキがぁ…もういい…もういいや。竹鶏、コイツヤッていいぞ」

 

クソガキチンピラが僕を指さす

それを見た竹鶏は一瞬ポカンとした表情をして、そしてすぐにその表情を歪ませ笑う

 

「えっ、もういいんすか…ははっ、やったぁ…だったら早速やっちゃいますね」

 

そう言い、竹鶏は懐中電灯を左手に持ち替え、ポケットから先ほども見せたサバイバルナイフを取り出す

あれで一体何を…

 

 

 

─俺さぁ、こういうので人の肌切ったりすんの好きなんだよ

 

「…っ!ヤバい!」

 

「お?何されんのかわかった?」

 

ゲロ吐いてる場合じゃない!

アイツ、アレで僕のこと切るつもりだ!

立て、立て月下ヨゾラ!そして走れ!

 

「逃げんの早いなぁ君。でもさ、そんなに急いだら危ないぜ?」

 

「はっ…はっ…!クソっ…!」

 

走る、走る、走る、走る、走る、走る──

一瞬、後ろを振り返れば、懐中電灯の光が遠くに見えた

よし!このまま来た道を戻ればアイツらから逃げ切れ───

 

「…がっ!?…うぐぅ」

 

何だ?何かに躓いた?一体何に…

…いや、これはただの木の根っこだ

この森は月明かりが届かないせいで異様に暗い、だからこう言ったなんてことのない木の根でさえ、障害物になる

ただ、それが分かれは大丈夫だ。気をつけて走ればなんの問題は…

 

「…痛っ!」

 

最悪だ。足を軽く捻った!

程度的に数時間もすれば元通りになるだろうが、今は一分一秒が生死に関わる。何とかしなければ…

 

「あれっ?お~い、どうしたんだい?足でも捻った?」

 

声につられて後ろを振り返れば、アイツがかなりそこまで来ている

ナイフを右手で弄びながら、何事もないょうな表情で迫ってきている

 

「さっきも言ったろ?ここ暗いんだから、急いで走ったら危ないって」

 

ゆっくりと、しかし着実に一歩一歩迫ってきている

逃げなければいけない、だけど足に力を入れると捻ったところにズキンと痛みが走る

これでは走って逃げるには少し厳しい

 

「ははっ、もう少しで追いついちまうぞ〜いいのかなあ〜?」

 

…やるしかない、こういうのは苦手だけど…やらなければやられるのだ。やってやる

足元から手ごろな石を拾う

狙う場所は分かる。アイツはこれ見よがしに懐中電灯を光らせている。そのあたりを狙って投げれば一個ぐらいは当たるはずだ

 

「もう追いついちゃうよ?逃げなくていいのかい?個人的にはもっと遊んでから切りたいんだよな──」

 

「オラっ!」

 

竹鶏に向けて思いっきり石を投げる

あまりにも原始的な抵抗だ。無様だと言われても否定はできない

それでも、今はできることをやるしかないのだ

 

「ちょっ、痛い!やめっ…」

 

手元に石がなくなったも、ここは森だ。すぐに足元から拾える

拾って、投げて、拾って、投げて…

頭に当てて走れない状態になってもいいし、懐中電灯に当たって壊せでもしたらかなり逃げやすくなる

とにかく、こんなところで理由のわからない奴に殺されてやるつもりはない

最近高校生になったばかりだし、告白だってまだしてない

絶対に、生きて───

 

 

「──ぃいったいんだよ!」

 

奴が、何かを投げてきた…懐中電灯だ

思わず目がくらみ、一瞬の隙ができる

 

─そして、その隙は僕の、月下ヨゾラの命運を決めるには十分過ぎた

 

「──つかまえた」

 

その一瞬の隙の間に、僕は押し倒される

抵抗する暇もなく、首元にナイフを突きつけられる

 

「やっとお楽しみの時間だぁ…どっから切りつけよっかな〜?」

 

まずい、殺される

何か、打開できるものはないのか?

こんな奴のせいで死ぬだなんて、死んでも死にきれない!

 

「ぃよし決めた。まずは腕からにしよう。手首に刺して、そこからガーッッと切り裂こう」

 

そういいながら、ナイフを振り上げる

振り落とされれば、僕の手首手首に深々と刺さることは想像に容易くない

刺されるまでもはや数秒だ

ここからどうにかなるなんて無理な話だろう

 

 

…それでも、嫌だ

最後まで探し求めろ。理想を手放すな。みっともなくとも抗え

 

「…何だ、あれ?」

 

目線の先は、先ほど投げられて地面に転がっている懐中電灯

─その光の先

懐中電灯で照らされた木に、木陰が出来る

 

その影から、人影のようなものが出てきている

 

─そう、人影だ。正確に言えば人の形をした、影のように黒い何か

いや、人の形かどうかも怪しい。それは常に揺らいでる

まるでろうそくの火のように揺らめき続けている

それには口も、鼻も、目も、何も無かった

                            

そんな、少なくとも人間とは断言できないような存在を見て

 

  ・・・・・・・・・・・・・

──僕は妙な既視感を感じていた

 

そう、既視感、僕はあの人影を知っている…一体いつから?

刺される寸前だというのに思考は明瞭で、いとも簡単に答えを出すことができた

 

─1週間前だ。より正確ないえば1週間から僕は見続けている

1週間前と言えば、僕がストーカー被害に遭っているじゃないかと思い始めた時期と被る

じゃああの人影が、僕のストーカーの正体だというのか

 

…だが、それはもはやどうでもいいことだ。今一番重要なことは

     ・・・・・・・・・・・

その人影が近づいてきていることだ

 

一歩一歩地面を踏みしめながらゆっくりと、不明瞭に揺らめきながら近づいてくる

 

「それじゃ、いっきまーす!」

 

ナイフが振り上げられる

それでも、僕は人影から目を離すことができない

命の危機だというのに、僕は自分のことよりもあの人影の方が気になっている

そのことに気がついて、思わず笑みが溢れる

さっきまであんなに生きたがってたのに、未来を切望していたのに、今はそんな事はもう頭にない

 

──知りたい

 

あの人影が何なのか、知りたい

どういった経緯で生まれたのか、究明したい

君がどういう存在なのか、理解したい

 

「──ぁ」

 

手を、伸ばす

はたから見れば、命の危機にある哀れな少年がわらにもすがる思いでその人影に助けを求めているように見えるだろう

だが今、月下ヨゾラにその様な生への渇望は一切なく、あるのは単なる好奇心

実際に触れてみたい。硬いのか柔らかいのか、冷たいのか温かいのか、生きているのか生きていないのか

 

─これでは、先輩のことを笑えないな、と僕は思った

僕は先輩のことを幼稚園児並の好奇心を持っていると評したが、今の僕はどうだろうか?

ただの好奇心だけで赤ん坊のように手を伸ばし、自分の命を顧みていない

まったく愚かだと、僕は自分を嘲笑し、それでも尚手を伸ばす

 

…ふと、気になったことがある

あの人影は今の僕をどう捉えているのだろう?

今の僕ははたから見れば無様にも助けを求めているように見えている、ということは自分でも自覚している

人影からすれば、自分に助けを求めているように見えるのだろうか?

…いや、そもそも目がなさそうなので見えているかどうかも怪しいのだが

 

「────………」

 

人影が一瞬、立ち止まって見えた

そしてすぐにまた歩みを再開する

…しかし、それは歩くと言うには少しばかり速度が速いような

 

「───………!」

 

いや違う、あれは走っているんだ!

腕を振り、一歩一歩地面を蹴り上げながら、凄まじい速度で接近してきている!

そして、そのまま──!

 

「おごぉ!?」

 

…竹鶏を、思いっきり蹴飛ばした!?

その不明瞭で影のように黒いビジュアルから想像もできないようなフィジカルで、成人男性を十数メートル蹴り飛ばしたのだ

 

「おごっ…!ゲホッゲホッ…!」

 

十数メートル先では蹴られた衝撃と痛みで顔を苦悶で歪ませ、声にならない声で竹鶏が悶絶している

 

「んだぁ?どうした竹鶏、何があっ…へ?」

 

騒ぎを聞きつけたのか、クソガキチンピラが様子を見に来る

そして唖然としている

当たり前だろう、自分の仲間がお楽しみ中だとも思ったら、よく分からない化け物が立っているんだから

 

「な、なんだテメェクソガキ!?」

 

お前これにもクソガキ呼びするのかよ

骨の髄までクソガキが浸透しているチンピラに、人影が体を相変わらず揺らめかれながら近づいて行く

 

「な、んだテメェ!?やんのか!やんのかクソガキ!近づくんじゃねぇよクソガ─きぐぅ!?」

 

…今度は、ぶん殴った?!

きれいな右ストレートだ。地面を踏みしめ、腰を入れ、腕だけでなく体全体を振るうような見事な右ストレートだ

右ストレートの教科書があるなら開始一ページ目に載せられるようなお手本のような右ストレート

それをクソガキチンピラの顔面ド真ん中に叩きつける

 

「うぉぉ…!」

 

体を半回転させながら勢いよく地面に倒れ伏すチンピラ

…すごい、ものの数分でチンピラ二人を地に沈めた

そう思いながら、僕はゆっくりと立ち上がる

捻ったところはまだ痛みがあるが、少なくとも立って歩くことができるくらいには回復していた

…いろいろ聞きたいことはある

なんで助けてくれたのかとか、君は一体何なのかとか、どうして僕をストーカーしていたのかなど

─でも、そんなことよりも言わなければならないことがある

 

「──ありがとう。助けてくれて、ありがとう」

 

まずは、感謝だ

人影の目的も理念も何も分からないが、僕のことを助けてくれたことだけは紛れもない事実なのだから

そうして感謝を述べると人影は首の向きを変え、顔をこちらに向け僕を見る

…目も口も鼻もないから顔かどうか分からないが、体の向き的に多分僕を見ている

 

「──…………。」

 

 

──人影が、笑ったように見えた

 

さっきも言ったが人影には口も鼻も目も無い、だから表情なんて分からない

だけど、笑ったように見えたのだ。僕に感謝を言われ照れくさそうに

 

…結局、この人影は何なんだろう?

僕を助けてくれたので、悪い存在ではないと思うのだが…

僕を助ける方法も、殴る蹴るというあまりにもフィジカル頼りで、なんだかおかしな生物という印象だ

人影というのも、僕がそう見えたからそう呼んでいるだけでもしかしたら名前があるのかもしれない

 

「…あっ!ヤバッ!」

 

思い出したかのように、スマホを取り出す

画面を見れば現在時刻は午後8時をとっくに過ぎている

門限は大幅オーバー、両親はからはメールや着信が山のように来ている

恐る恐るメールを開く

 

『あんたいまどこにいるの?』

『もうとっくに門限すぎてる』

『おねがいだから返事をして』

 

同じようなことが書かれているメールが何十件も届いている

どれも僕を心配しているメールだ

 

「…ははっ、母さんったら心配性だな」

 

ちょっと門限を過ぎたからって、こんなに心配してくれるだなんて

いわゆる親バカだと、僕は笑って──

 

「…ありがとう。母さん…!」

 

─笑って、泣いていた

それは命の危機を脱した安堵からくるものか、殺されかけていた恐怖からくるものか、こんな自分を大切に思ってくれている母親へのものか、もはやどれが分からなかった

 

急いで電話をかければ、2コールもしない内に母親が応答する

 

『…ヨゾラ!?ヨゾラよね!』

「あー、うん」

『あんたこんな時間まで何してたの!?もう8時よ!?』

「…えーっと、ちょっといろいろあって…」

『いろいろぉ!?いろいろって何よちゃんと説明しなさい!!』

 

当然の反応だ。心配してた息子が椋量を得ないことを言っているのだ、僕も同じ立場なら同じ反応をすると思う

…しかしどう話せばいいのだろうか

チンピラに絡まれて、そのチンピラが思ってたよりもヤバイやつで、それよりもヤバそうな人影(?)に助けられて…

…頭がおかしくなったと思われるなコレ

 

「まあ、ひとまずは無事だよ、うん」

『無事?無事ってどういうこと!?なんか危険な目にあったの!?』

「あーいや、それは」

 

…正直、これ以上母さんに心配事を増やしたくないのだが

でも、危険な目に遭ったのは事実だしなぁ

 

『そもそもあんた今どこにいるの!?』

「どこって、それは…あれ?そういやここどこだ?」

『はぁ!?』

 

そういえばここにはチンピラに無理やり連れてこられたのだった

そう想い、グー〇ルマップで現在地を確認する

…森の奥だからか、電波が悪く中々読み込まれない

読み込まれるまで、少しでも情報を集めようと周りを見渡す

 

…と言っても何か目新しいものは見つからない

足元は暗くて見えない。上は木々の葉が邪魔して月すら見えない、周りには殴り蹴られて意識を失っているチンピラと何かを持っている人影しか──

 

…何かを、持っている?

 

僕の命の恩人とも言える人影が、何かを持っている

よく目を凝らせばその正体は容易に結論づいた

 

─ナイフだ

 

竹鶏が蹴られた時に落としたのだろうか、鋭利なサバイバルナイフを人影は確かにその手に持っている

ただ持っているだけならいいだろう。間違って踏んだりしたら危険だし、持っている方が安全だ

だけど…僕は嫌な予感しかしなかった

 

─近づいているのだ。チンピラ二人に、ナイフを持ったまま

 

「…ごめん母さん、あとで掛けなおす」

『は?ちょっと待ちなさ─』

 

プチリッ、と電話を切る

…母さんにはあとで死ぬほど謝ろう

 

「…人影、さん。何を、しようとしてるんですか?」

 

一応、問いかけてみる

呼び方が合っているのか、言葉は通じるのか、そもそも聞こえているのか、まるっきり分からない

…でも、一つだけわかることがあった

 

「…それで、そのナイフで、ソイツらを…殺そうと、しているんです、か?」

 

声が震える

杞憂ならそれでいい

僕が勝手に勘違いをして、勝手に不安がっているだけだからだ

 

「──………」

 

人影は何も言わない。だけど、立ち止まった

 

「───……」

 

首の向きを変え、顔をこちらに向ける

相変わらず、口も鼻も目も無い…ただ黒いだけの人型

 

「───、……、」

 

…何かが、変わっている?

先ほどと変わらずただ揺らめいているだけの黒い人型

──だけど何か、何かが決定的に変わった

 

「────────…………

 

 

 

だ、…め?……─…」

 

 

 

─…言葉を、発した

相変わらず口は無い、たけど今確かに言葉を発したのだ

普通の人間と変わらず、何気なく聞くように喋った

 

─いや違う!今需要なのはそれじゃない!

今この人影は、僕に疑問を問いかけてきたのだ

だ、め?…駄目?「駄目」なのか聞いていている?

…なにに?何について駄目なのかを聞いて…

 

…いや、僕は問いかけた。殺意の有無を

それに対して「駄目?」を返された、それはつまり

 

──この人達を殺しては、駄目?

 

そう、聞いてきたのだ

 

「…っ!」

 

この人影は、殺すつもりだ

 

「駄目だ、そんなこと!」

 

だったら、止めなくちゃいけない

正直に言えば、チンピラ共が死のうがどうしようが僕的にはどうでもいい

コイツらだって僕のことを殺そうとしてきたんだ、僕がコイツらを守る義理なんてものは無い

…でも

 

「コイツらを殺してしまえば、君は人殺しになっちゃんだよ!」

 

この人影が人殺しという罪を背負う。それが嫌なんだ

なんで人影がチンピラ共を殺そうとしているのかなんてのは分からない

もしかしたら、人影にも何か目的があるのかもしれない

それでも、僕は言う

 

「そんな奴らのせいで、君が人殺しになる必要はないだろう!?そんなことをするより、警察に通報して捕まえてもらえばいい!

 

自分でもなかなかヤバいことを発言している自覚はある。だけどコレが僕の確かな本音だ

僕を助けてくれたヒーローに、人殺しなんていう罪深いことをして欲しくない

なんてわがままで自分勝手な願いなんだろう

 

「────………」

 

人影は動かない

話は通じている筈だ

動かないってことは、殺す気をなくしたってことなのか?

 

「────……、──…。…だ。め…だ。」

 

「え?」

 

何かを呟いている

ボソボソと同じことを何回も何回も呟いている

 

「……だ。…め、…─だ。─め─。だ、めだ…。だめ…だ。だめだ、だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ」

 

少しずつ声が大きくなっていく

明瞭になった声からは明確な意思を感じる

…「駄目だ」

それは殺しを躊躇している意思表示か、それとも─…

 

「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ───

 

 

 

 

 

───コイツラは、生きては、駄目だ」

 

 

 

…やっぱり、そっちなのか

この人影は止まらない

なぜこんなにも殺意を抱いているのかは分からないが、ただ一つだけ分かるとしたら…僕じゃ止められないということだけだ

 

「──!─!──。─!─!!」

 

人影の体が不定形に蠢く

腕であろう部分は膨張し、体のいたるところから触手のようなものが生えてきている

無駄に膨張した部分は縮小し、触手は先端が鋭く鋭利なものへと変貌していく

どんどんと、人殺しに適した形になっていくのが見て取れた

 

「…どうすれば、いいんだ」

 

僕はその変形を、ただ見ていることしかできなかった

僕が何かしたところであの人影を止めることは出来ない、でも、だからといって何もしないわけにはいかない

 

…今、僕にできることはなんだ?

一番に思いついたのは…連絡だ

僕はすぐさまスマホでとある番号を入力する

入力と言ってもたったの三文字だが

 

『110』

 

そう、警察だ

何か危険な事件にあったら警察に連絡する

小学生でも習うことだ

 

…ただ、意味があるかは分からない

警察に通報したとしても、来るのに数分は掛かるだろうし、その間にチンピラ共は殺されてしまうだろう

それに、仮に間に合ったとしても拳銃であの人影をなんとかできる気がしない

それでも、何もしないよりはマシだろう

そう思い、110を入力し。通報を──

 

「駄目だ」

 

目の前に、鋭く鋭利な触手が突き出される

手足を複数の触手に絡め取られ、動けなくなる

…甘く見ていた

あの人影は僕に決して手を出さないと勘違いをしていた

 

もう変形は済んだようだ

アスリートのように引き締まった肉体。そんな体とはまったく似つかわしくない触手が、体のいたるところから生えている

もはや一種の美しさを感じてしまうような、人殺しに特化した異形

 

そうして、人影は歩んでいく

ゆっくりと一歩一歩地面を踏みしめながら、されど着実に

…今から僕がどんなに言葉を重ねても、あの人影は聞く耳を持たないだろう

 

「──どうすれば良かったかな」

 

あの人影が、人殺しをする

僕を助けてくれた人影が

 

─思えば、おかしな話だ

こんな生物かどうかすら怪しい存在に対して、僕は親しみを感じている

化け物と言っても過言ではない、いやむしろその通りだと言わざるおえない、そんな存在に対してだ

僕はこの様ななんだかおかしな奴を好きになるような変人ではないはずなのに

…好きになる

 

「…御神さんだったら、どうしたのかな」

 

おかしなことを口にする

「好き」から連想して、初恋の人を引き合いに出す

例え御神さんが僕と同じ状況にあったとしても、できることなんて何も無いはずだ

だってあの人は、とても優しいだけの女の子なんだから

 

「…僕は、どうすれば良かったんだろうね。御神さん」

 

きっと御神さんなら、僕がこうして悩んでいたら一緒になって考えてくれるだろう

そんなありえるはずがない空想をしながら、人影がチンピラ共に迫るの見届けて──

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、あなたは最善を尽くしたと思うよ」

 

──聞こえるはずのない声が、森に響く

 

「あんな状況じゃ、普通の人はどうしようもない」

 

──風鈴のような透き通る声だ

 

「それに、あなたは自分に酷い事をしてきた人を、それでも殺させないようにしていた。…それはとても凄いことだと思うよ」

 

──青みがかった銀髪を靡かせながら、歩んでいる

 

「…それに、あなたはあの怪物さえも人殺しにならないように頑張っていた」

 

──雪景色のようなその瞳は、全てを見透かすようで

 

「やっぱり、あなたは凄い人だよ。月下ヨゾラ」

 

──その体は小柄で、でも目を離せないような存在感があった

 

「だから、もう休んでもいいんだよ。ここからは──」

 

──そこには、確かな優しさを感じさせる少女がいた

 

「──わたしが、あなたを助けるから」

 

──僕の初恋の人、御神アマテはそう言った

 




前書きにも書きましたが初投稿です
これからもっと精進していきたいので、意見やアドバイスがございましたらどんどんくださいm(_ _)m
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