リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜 作:トマトォォォァァォ!!!!!
「──わたしが、あなたを助けるから」
御神アマテが断言する
青みがかった銀髪を靡かせ、雪景色のような透き通る瞳を僕に向けながら、自身の決意を言葉にする
月明かりも届かない暗闇の中でありながら、その姿はまるで夜空に流れる流星のように輝いて見えた─
「…え?いや…え?」
人影が御神アマテの方を見る
それと同時に人影の体のいたるところから生えている触手が彼女に向けられる
本数はざっと見積もって20本程度
先端は鋭く鋭利で、かするだけでも皮膚は裂かれ、深く刺されば骨も容易に断つことが出来ることは想像に易くない
「ちょっ、ちょっと待っ──」
だというのに、彼女は歩みを止めない
彼女はその触手の危険性が分からないほどの阿呆なのだろうか?
いや違う。彼女の表情には確かに警戒の色が見えており、歩き方もただ歩いているのではなく、いつでもその場から離れることができるような短い間隔の歩みだ
「なんでここに御神さんが?ちょっ、ねぇ話を聞い──」
対する人影も警戒を一切緩めてないだろう
触手を向けてはいるが、その触手を乱雑に繰り出そうとはしていない
理由は明白、御神アマテが何者なのか分からないからだ
自分が肉体を理想通りに変形させることができるように、彼女も同じように何か特殊な力を持っているのでないかと警戒しているのだ
故に、容易に手は出さない
まず最初は牽制だ、間合いに入ったら一本の触手で攻撃を行う
きっとそう考えているだろう
かくして、両者の距離縮まっていく
御神アマテがあと数メートル近づけば触手の間合いに入る
そうなれば闘いは始まる
果たして、勝つのはどちらか?
いったい、勝負の行方はどうな──
「──ちょっと待てぇぇぇ!!!」
─月下ヨゾラの声が静寂の闇を切り裂く
彼は今なお、複数の触手に体を縛られ動けないでいる
だが、その顔には恐怖の色は無く、あるのは困惑と衝撃の色だけだった
「…大丈夫だよ月下くん。あなたはわたしが助けるか─」
「いやそれ以前の問題だよ!?なんで御神さんがここにいるの!?あと助けるって何?助けれんの?僕を?この状況から?」
彼の中には困惑の渦が巻いている
そりゃそうだろう、初恋の人が救世主のように現れ自分のことを助けようとしているのだから
だが、御神アマテにはあの人影に立ち向かえるような力は無いはずだ
だって彼女は度が過ぎるほどに優しいだけの人なはずだ
あの触手で攻撃されれば、すぐに命散らすようなか弱い存在のはずだ
「─ああそっか、月下くんはわたしのことよく知らないもんね。安心して、こう見えてわたし結構強いんだから」
信じられないことを言っている、と彼は思ったであろう
強い…強い?一体何が?
力が強い、頭が強い、心が強い
強さにもいろいろな強さがある。たどしたら彼女は一体何が強いのだろうか
少なくとも、月下ヨゾラはこれまでの学校生活で彼女の特異な強さが発揮される場面を一度だって目撃したことはない筈だ
もしくはあの人影のように、体の形を変えたりできる力があるのだろうか
─それこそ信じられないことだ。御神アマテとはまともに関わったのは数回だけだが、それだけでも彼女が普通に生き、普通に暮らし、さもそれが普通かのように人を助ける。御神アマテはそんな心優しいだけのただの女の子だと彼は考えて──
「いや流石に何かあるんだろうなとは理解してるよ。でなきゃこんなところのこんな状況に立ち会っているわけがない」
──どうやら彼は、目の前のことを呆然と見ているだけの人ではなかったらしい
彼女の行動や言動の節々からある程度のことは推測しているらしい
…まあだからといって、納得も信頼もできてないだろうが
「─そう、だったら良いんだ。安心して見てて」
「安心できないし何が良いのか分かんないけど???──って、ねぇ!」
彼が疑問を言い切る前に、アマテは人影との距離を走って縮める
だが、その速度は尋常ではない
走り出したかと思った瞬間にはすでに人影の懐に潜り込んでいて、身を屈め、そして──
「──えいっ」
──思いっ切り、ボディーブローをブチかます!
大地を踏みしめ、抉りこむかのように拳を突き出す
常人なら骨が何本か折れるような拳を受け、人影は後方に殴り飛ばされる
およそ「えいっ」なんて言う可愛らしい一言から繰り出してはいい一撃ではない
彼女の言う通り、確かに「強い」らしい
「───……」
だがその一撃を受けても人影は何事もなかったかのように立っている
防御もままならず、もろにあの攻撃を受けてなお蜃気楼のように体を揺らめかせている
「やっぱりためかー…ん?」
予想通りではあったのか、彼女は怪訝な感じをさせながらそう呟く、それと同時に彼女は何かに気づき警戒態勢を取る
彼女の目線を辿り人影に目を向ければ、人影が妙な構えをしている
身を少し屈め、右足を前へ差し出し右手も前に構える
これを見て想起するのはまフェンシングの構えだろう、何かを突き刺すための構え
それに連動するように先端が鋭く尖った複数の触手が先を御神アマテに向ける
それと同時に、ヨゾラを縛っていた触手が解ける
恐らく彼の捕縛に意識を向けていると勝てないと踏んだのだろう
そして、彼を縛っていた分触手も含め、24本の触手が彼女に向けられる
「─────!」
仕返しと言わんばかりに触手による攻撃が始まる
十本はあるであろう触手が彼女を突き刺さんと付き狙う
目でギリギリ捉えることができるくらいの速度で彼女に四方八方から迫りくる
「遅い」
──だが、その程度では御神アマテにとってなんの苦にもならないようだ
ブレイクダンスでもするが如く華麗な身のこなしで触手を躱し、その勢いのまま再び人影の懐へ──
「──まずい」
そう呟くのと同時に彼女は大地を蹴り飛び、空中へ身を飛び出す
その数コンマ後に先程まで彼女がいた場所から破裂するように土を突き破りながら触手が飛び出す
もしあのまま突き進んでいれば見るも無残な突き刺し死体になっていたことだろう
「─────……!!」
しかし、それは明確な隙であった
空中という身動きが取りづらい状況にいる彼女をこの人影は見逃しはしないだろう
「──御神さん!!」
ヨゾラは思わず声をあげる
彼の目が十数本の触手が踵を返し、御神アマテに向かっていってるのを捉えたからだ
「───ぁ」
だけど、意味は無かった
彼女の身体に触手が突き刺さる
足に、腹に、腕に、首に、頭に、心臓に
数秒後には触手が身体を突き破り、辺りを鮮血が染めあげるのがありありと想像できる
もはや死は免れないだろう
あんな目に遭って、生きている人間など存在するはずが───
「─それは、残像だよ」
───いた
空中で触手に突き刺され、見るも無残な死体になっていた筈の御神アマテが、人影の背後に立っていた
──残像?確かに彼女は残像と言った
残像とは確か、光の刺激が消えた後も目や脳にその映像が残り続け見える現象のことだ
例としては、カメラのフラッシュが撮ったその後もしばらく残り続けるように
「……残像って、生身の人間が起こせていいものだっけ?というか、どうやって空中からあそこに?」
至極真っ当な疑問を彼は口にする
先程のボディーブローといい残像といい、強いと言うよりはなんか方向性が違う気がする
「────!!」
そんなこと知ったことではないというように、人影が背後に立っているアマテに向けて、踵を返し身体を回転させながら腕を振るおうとする
鍛え抜かれたプロレスラーのような剛腕が、空気を裂きながら彼女に迫る
「─やわい」
常人なら防御必至のそれを、彼女は指一本で制する
まさしく凪だ。どのような攻撃もまるで意味をなしてない
「それじゃ、少し本気で行くから──死なないでね」
そう言うと彼女は人影を蹴り上げる
部位でいうなら脇腹のあたりに、彼女の平均より細めな、されど命の息吹を感じさせるハリのある健脚がめり込む
大砲から射出されたのかと見間違うほどに勢いよく蹴り飛ばされる
「よい、しょっ」
直後、彼女もまた空中へ跳ぶ
蹴り飛ばされた人影を追従するかのように翔び、数秒後には人影に並ぶ
「そうっ、れっ」
その勢いのまま身体を捻り、人影の顔面にオーバーヘッドシュートの如く、またもや蹴りを叩き込む
彼女の雪のように白く、一種の美麗さを感じさせる美脚が人影の頭に打ち込まれ、地面に叩き落とされる
「─まだだ、よっ」
そう言うと彼女は身体を回転させ、体勢を整える
まるで空を床にし、大地を見上げしゃがみ込むような姿勢
そうした後に、彼女は足に力を込める
踏ん張るための地面などないはずの空中で、ぐぐぐっと足に意識を集中させている
「──ていっ」
・・・・・・
その可愛らしい一声とともに、御神アマテは空中を蹴った
ドンッ、と銃声のような音を立てながら何度も空中を蹴り加速していく
まるで流星のように加速したアマテは、大地に向かって拳を突き出す
その先には地面に叩きつけられた人影、そこに銀色の流星が振り落ちる
───その瞬間、世界が揺れる
彼女が落ちた衝撃で大地にヒビ割れ、めくられていく
地面は隕石が落ちたかのように抉れ、その際に生じた風圧で木々の葉は吹き飛ばされる
天災でも起きたのかと錯覚してしまうほどの一撃を、御神アマテはその身一つでやってのけたのだ
「──なんだ、これ?」
月下ヨゾラはそれを見て、ただ呆然としていた
無理もないだろう。つい昨日まで超常とは無縁の暮らしをしてきた彼にとって、目の前で起きていることに一切の理解も及ばないはずだ──
「…ああそうか、さっきのやつも触手が刺さる前に残像が残る速度で空中を蹴って移動したのか。もうなんかおかしな事だけど、割り切るしかないな、コレは」
──どうやら、彼は思っていたよりも聡明な人らしい
理解できないことはそういうことだと割り切る。この年齢でこの選択ができる高校生はなかなかいないだろう
「だけど、ここまでやったらあの人影でも流石に…──え?」
殴り蹴られ、最後には人間ミサイルと言っても過言ではない一撃を受けたのだ。普通に考えればやられていると考える当たり前だ
しかし、実際は違う
地面に倒れ伏しているがその人影は未だに生きており、今まさに立ち上がろうとしている
「──やっぱり、この程度じゃやられないか。゛理外者゛は」
その結果に何一つ動揺していないアマテが、意味深に何かを呟く
「…リガイ、シャ?」
当然、ヨゾラもその言葉を聞き逃さなかった
リガイシャ、─理外者、今までの人生で一度たりとも聞いたことのない言葉を聞き、彼の表情は困惑に染まる
「ねえ、御神さん。リガイシャって何──っあ!」
その困惑を解消しようと彼女に質問を迫ろうとするヨゾラ
しかし、その質問は別のことによってかき消される
─人影が立ち上がった
あれだけの猛撃を受けたのにも関わらず、何もなかったかのようにその場に立っている
「さて、次はどうしよ?関節技でもキメようかな…──うん?」
彼女が次の攻め方を考えていると、人影は触手をしまい、背後に顔を向け闇に溶けいるように走り去っていく
「逃げ、た?」
「みたいだね」
このままでは埒が開かないと判断したのか、アマテから逃げ出した人影
そんな人影を、月下ヨゾラは何もできず見ていた
呼び止めもせず、まるでコーヒーの中に墨汁を垂らすかの如く闇夜に溶けていく人影を、彼は呆然と見つめていた
そんなヨゾラを横見に、御神アマテはすっかり存在感をなくしていたチンピラ二人を、どこから取り出したのか丈夫そうなロープで縛っていた
「…どうするの?その2人」
「警察に届けるよ。この人たちもあなたに悪いことをしていたからね」
先程まで激闘を繰り広げていたと思えないほどに落ち着いた様子で言う
あれほどの超人じみた動きをしておいて息一つ切れておらず、それでいて冷静だ
人影が逃げたと分かると否や、すぐさま別のことに切り替える
その様子は人というよりは、目的を効率よく行う機械のようだ
「…─悪いことをしていたから、か」
そんな彼女を見て、ヨゾラは何か考え込むかのような雰囲気を漂わせる
一体どうしたのだろか?彼からしてみれば、自分を恐喝し切りつけようとしていた奴らが無事に牢屋に入れられるのだ。喜ぶことはあってもそんなふうに深刻な顔をする必要は無いはずだ
一体何を考えて──?
「……御神さんって、口ぶり的に僕がそいつらに何をされていたかを知っているんだね」
「うん」
「いや、知っていると言うより見ていた、の方が正しいかな?」
「そうだね」
「…いつから?一体何時から僕を見ていて──」
「最初から」
「…………最初からってのは?」
「あなたが学校から出て来てからだよ」
「───!」
それを聞いて、ヨゾラは一瞬驚いた様な顔をする、が、すぐに訝しむような表情に戻る
「─どうして?」
「一番あなたが怪しかったからかな」
「─え?怪しい?」
先程とは違い、死角からぶん殴られたかのように驚く
理解力が妙にある彼でも流石に、意中の人に怪しまれていたという事実はすぐには理解できなかったようだ
「え…えーと、怪しいって、何が???」
「あなたが理外者……さっきの影を操っているじゃないかと思ったの、まあ違ったけど」
「リガイシャ?さっきもそれ聞いたけどリガイシャって何……っていうかあの人影って操れるの!?」
急にいろいろな情報が流れ込んできてパニックになっているのか、少し声を荒らげながら彼は疑問を投げつける
「うん。あれは誰かに遠隔操作されているんだよ、わたしはその黒幕をなんとかしに来たの」
「な、なるほど…?つまり御神さんはその黒幕が僕だと思ったわけだ」
「うん。でも、何日もかけて特定したかと思ったら、全然違ったよ。かなりショックだね」
まったくショックを受けてるとは思えない無機質な無表情をしながら彼女はそう言った
というか、ショックを受けているのはヨゾラのほうだろう
あの人影は遠隔操作されていて、自分がその黒幕の疑いをかけられていたのだがら
「そう、なんだ。それは残念だったね??……ちょっと待って?何日もかけて?」
「うん。何日もあなたを尾行し続けて、不良に絡まれて『ついにしっぽを出すか』と思ったのに」
「何日も尾行????──あの、それって具体的にいつから?」
「1週間前くらいからかな」
そう言われた瞬間、彼の中で何かが繋がった
今までしていた間違いを取り除き、新たに判明した事実をジグゾーパズルのように繋げ、一つの答えを導き出した!
「1週間前…!?尾行?つまりストーカー、あの人影は犯人じゃなかった?えっじゃあつまり」
息が乱れ、目をグルグルと渦巻かせながら彼は言葉を続ける
「───君がストーカーの犯人ってことかよぉぉぉぉぉ………!!!」
絞り出すような声を上げながら地面に手をつき項垂れる
もう彼は限界なのだろう。ちょっと寝かせた方がいい
「じゃああの人影なんなんだよっ!!?なんで僕アイツに既視感覚えてんだ??!」
そして、すぐさま立ち上がる
彼の情緒はもうめちゃくちゃだ、誰か彼を助けてやってくれ
「もう何が何だか分かんないよ……あれ?」
途端に、彼がへにゃりと座り込み、そのまま倒れ伏す
「何だ?身体にうまく、力が入らな、い」
彼が腕に力を込めようとする
だが、彼の身体は動こうとしない
そして、なぜか瞼が重く感じる
「な、に。なんだか、ねむた、い……なにかが、おきて…?」
何が、頭でも打ったのだろうか?
尋常ではない睡魔に襲われながら、彼はそう考えて───
「ううん、違うよ。それはただの疲労困憊」
そんな彼を御神アマテが優しく抱きとめる
「今日だけでいろんなことがあったからね。身体が疲れちゃたんだよ」
優しく、子供をあやす母親のようにヨゾラを抱きしめながら彼女は語る
─確かに、色々なことがあった
頭がおかしいチンピラに絡まれ、存在がおかしい人影に助けられ、思想がおかしい人影を止めようとして、なんだかおかしい人…御神アマテに助けられて
なんだかおかしなことに巻き込まれ続けたのだ。体力を使い切っても仕方がない
「大丈夫、あなたの家族にはわたしから連絡しておくから。だから安心して寝てていいよ」
それを聞き、彼は目を細めていく
意識が、微睡みへと落ちていく
結局、御神アマテが何者なのかは分からなかった
物理法則を無視した動きをし、あの人影について何か知ってそうな雰囲気を感じさせ、月下ヨゾラを怪しんでいた
…並べると、なかなかに意味不明だ、何一つ彼女の正体に近づけれるものはない
──それでも、月下ヨゾラは彼女を理解不能だと拒絶することはないだろう
彼女がどんな正体をしていたとしても、ヨゾラは知っている
──彼女の、異常なほどの優しさを
だからまあ、彼女は悪いことをしないだろ。と楽観的なことを考えながら、彼は意識を深い闇へと落としていく
やがて、意識は完全に落ちて────
「──あなたは、何者?」
月下ヨゾラが意識を手放したのを確認した後、御神アマテは一人つぶやく
「…なんであなたを、あの影はを助けたの?」
その疑念は、夜闇に溶けていく
「…なんであなたは、人影を止めようしたの?」
その問いは、静寂の森に染み込んでいく
「…もしも、この世界の平和を、
その声を、自分自身に刻み込むように言う
「───わたしは、あなたを殺さなくちゃならない」
その言葉には、殺意によく似た決意をが込められていた
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