リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜 作:トマトォォォァァォ!!!!!
───目を、覚ます
「…う、ん?」
まず目に入ってくるのは知らない天井だ
一度だって見たことのない天井、少なくとも自分の部屋などではないことが分かる
少し肌寒いのも印象的だろう
「…ここ、どこだ?」
目が覚めきっていないからか、思ったことがそのまま口に出てしまう
寝起きのぼーっとした状態のまま周りを見渡す
──そこは部屋だった
ドアがあり、机と椅子があり、棚があり、クローゼットがあり、時計かあり、窓もあり、僕が寝ていたであろうベットある…そんな普通の部屋だ
強いて言うなら、少し無機質すぎることだろうか
机の上にはこれと言った物も置いてないし、棚には本や書類などがしまわれている
だが、本と言っても小説や漫画などの娯楽書籍は無く、『英和辞典』『格闘術大全』『人の感情とは何か』『理と人の繋がり』など、よく分からない本ばかりが揃っている
「僕、なんでこんな所にいるんだっけ?」
そう思い、僕は自分の記憶をさかのぼる
ここに来るまでの直前の記憶──
確か、チンピラに絡まれていて、それを謎の黒い影に助けられて、その人影がチンピラを殺そうとしていたから止めようとして、そこに御神さんが来て、なんとかなったけど僕は疲れ果てて意識をなくして─
「…よくよく考えると、意味不明すぎるな、昨日のこと」
そぅだ、びっくりするくらい濃密で、泣きたくなるくらい危険な一日だった
僕は普通の高校生のはずだ、こんな目に合ういわれは無い
「…結局、ここは何処なんだ?どうして僕はここに──」
「あっ、目が覚めたんだ」
分からずじまいの疑問を考えていると、声が聞こえた
何度か聞いた風鈴のような声
声のする方へ振り返ると、御神さんがドアを開けて部屋に入ってきていた
「…御神さん?なんでここに?」
「なんでって…ここがわたしの家だからだよ」
「えっ、そうなの?」
驚きの新事実だ……いや、そうでもないかもしれない
よくよく考えれば御神さんの家だと分かるはずだ、やはりまだ頭が回りきっていないな、…いや、ちょっと待てよ?
ここは御神さんの家だ…じゃあここは何の部屋だ?
リビング?いや違うだろう。居間?この内装でそれはないだろう。様々な観点から考えるにここは──自室だ
御神さんが普段から使っているであろう自室だ
そう思うと、途端に緊張してしまう
だって好きな人の部屋なんだ、緊張ぐらいする
「…ここって、御神さんの家なんだ」
「うん。昨日月下くんが倒れてからここに連れてきたんだ、月下くんと話したいこともあったし、月下くんも私に聞きたいことがあると思うから」
聞きたいこと…そりゃあたくさんあるけども
御神さんは何者なのか、あの人影は何だったのか、僕を怪しんでいたというのはどういうことなのか
疑問はとどまることを知らない
───知りたい
人影を初めて見た時と同じようなことが好奇心が心を染める
さっきまで心情の大部分を占めていた緊張が消え去っていくのを感じながら、僕は疑問を投げかける
「──御神さん、君は一体な──」
「待って」
「え?」
湧き出てきた疑問を片っ端から聞こうと思ったら待ったをかけてきた
一体どうしたというのだろうか
彼女の目的、人影の正体、その他多くの謎に勝るほどの何かがあるというのか?
「月下くんがわたしに疑問を持つのはおかしなことではないし、その疑問には答えようと思ってるけど、まずその前に」
「その前に?」
「───お風呂に入ってきたほうがいいと思うよ」
「お風呂???」
急に何を言っているんだこの人は???
一応僕は真剣に向き合おうとしていたのに、彼女のその一言で全部吹き飛んでしまった
まあ確かに、ずっと意識を失っていたんだから風呂に入ってはいないけども
「えっと、なんで風呂に?」
「だって月下くん、昨日森で転んだり、たくさん走ってたから、汗や土で身体が汚れてるでしょ?」
「あー…確かにそうだね?」
「そんな状態で質疑応答しても、あまり頭に入ってこないと思うんだ。だから一回お風呂に入ってさっぱりしてきた方がいいと思うよ」
意外としっかりした答えだ、…いや本当にそうか?
言いたいことは分かるのだが、今そんなこと気にしている場合か?
「一応、濡れたタオルで身体を拭いたりはしたけど、それだけじゃ完全に汚れは落ちないでしょ?」
「あっ、そうなの?そんなことさせてごめんね……うん?」
「別にいいよそのくらい……ああそうだ、制服とかも汚れとかはできる限り落としといたよ」
「えっ、服??いやまあありがとう…ん?ってことは今…」
先程、御神さんは僕の身体を拭いたりしていたと言った
普通、人の身体を濡れタオルなどで拭く際、下着一枚くらいまで服を脱がして服のが一般的だろう
そして、彼女はこうも言った「制服とかも汚れとかはできる限り落としといたよ」と
それはつまり、服を僕から脱がし、服の汚れを洗ったということだろう
(いや、じゃあつまり僕は今……)
背中に冷や汗が流れるのが分かった
最悪の想像をしてしまった。絶対にあり得てはいけない未来がすぐそこに迫ってきてる気がする
恐る恐る、僕は今の自分の服装を確認する
───下着一枚だ
上はシャツ、下はパンツ
たったそれだけが僕の今の装備だ
たったそれだけの装備で僕は今、好きな人の目の前に立っているのだ
「ァ、ぁぁぁああ……」
「とりあえず、お風呂入って来たら?なんだか寒そうだし」
寒そう、それもそうだろう
今はまだ5月、夏になるにはまだ少し早すぎるくらいの時期
下着だけじゃまだ肌寒いと感じることもあるだろう
というかさっきから妙に寒いなと思ってたけど、絶対下着だけなのが原因だろ!
「そう、だね。少し肌寒いし、身体も汚れているから風呂入ってこようかなぁーー」
「うん。それがいいと思う、お風呂はそこの角を曲がった先に───」
「うん分かったありがとう入ってくるねそれじゃ!!!」
廊下に飛び出し爆速で風呂場に向かう
多分、人生で一番早く走れたと思う
いや今はそんなことどうでもいい、直ぐに彼女の視界から消え失せなければならない
そうしないと僕が恥ずかしさで死ぬ
─ ────────
「ああぁぁぁ…最悪だ……」
風呂場に着き、服を脱ぐ
服を脱いでいる間も僕は気恥ずかしさで死にそうだった
なんで僕はもっと早くに気づかなかったんだ
早く気づいていれば毛布などで隠したりできたはずなのに
というか御神さんも御神さんだ
下着姿の異性が目の前にいるんだ、少しは動揺とかしてくれよ
いやそもそも下着だけの状態で寝かせないでくれ
「はぁ…まあもう過ぎたことだ、忘れよう」
そう想いながら浴室へと足を運ぶ
こんな記憶はさっさと忘れてしまおう。覚えていても僕の人生に何の得もない
シャワーで身体の汚れと一緒に、綺麗さっぱり洗い流してしまおう
そんなことを考えながらシャワーで身体を洗おうとして──
「──いや待てよ?この浴室って、御神さんが普段から使っているよな?」
ここは御神さんの家なんだ、そんなは当たり前だ
……えっ、じゃあ僕は今から御神さんが普段から身体を洗っている場所で身体も洗うのか?
「…マジでぇ……」
いや、御神さんが使っていいと言っているのだから遠慮なく使っていい筈なんだ、……はずなんだけど、どうしても罪悪感というか後ろめたさが、僕の心を縛り付ける
「でも、ここまできて洗わないのもなぁ」
きっと御神さんも部屋で待っているだろうし、さっさと洗って出たほうがいいよな…
「…洗うか」
意を決し、シャワーを出す
温かい水が身体に当たり、僕を伝って床に染み渡るように広がって行く
そうして、僕という人体をいたるところから心身を温め、溶かしていくような感覚に包まれ──
「──冷たっ!」
冷たかった…
そうだった、シャワーって出した直後は冷たいんだった
そんなことも分からなくなるほどに僕は動揺していたのか
「忘れろ忘れろ、冷静になってすぐに終わらせよう」
そう言いながら、ボディソープで身体を洗う
そうだ、落ち着くんだ月下ヨゾラ
この程度のことで動揺していてどうするんだよ
この後も、御神さんによる質疑応答が残っている
この程度で冷静さを欠いてちゃ駄目だ
心を強く持て、どんなことでも揺らがないような人間であれ、たとえ彼女が何をしてこようとも──
「着替えはここに置いておくね」
「ひゃいぅ!?!」
突如としてドアを開け、できた間から御神さんが語りかけてくる
びっくりした。本当にびっくりした。びっくりしすぎて女の子みたいな声がでた
着替えを用意してくれたのはありがたいけど、それはそれとして急に出てくるのは心臓に悪すぎる
なんせ今は裸なのだ。大事なところが見えていなかった先程とは違い、コレは危ない、マジで危ない
「着替えありがとう御神さん!でもちょっと!ドアを閉めてくれるとうれしいかな!」
ヤケクソ混じりで叫ぶ
できる限り手で隠したり、背中を向いたりしてはいるけどあまり効果はないだろう
彼女が見ようと思えば簡単に見えてしまうだろう
「分かった」
ふぅ、なんとか危機は去った
ただ体を洗うだけのはずなのに凄い疲れた
というか、御神さんももう少し危機感を持ったほうがいい
異性なんだ、襲われるかもしれないという可能性を考慮したほうがいい、いやもちろん僕はそんな事はしないけども
たとえ襲ったとしても彼女には指一本も触れられずボコボコにされるだろうけど
ともかく、これで安心して体を洗える………
「それじゃ、背中洗うね」
「うん…うん??」
後ろから声がした
風鈴のような透き通る声、さっきも聞いた御神さんの声だ
──え?なんで?
「…………御神さん、なんでいるの……?」
「身体洗うを手伝うために」
「頼んでないよ?????」
もう一週回って冷静になってきた
この人はなんだ?なんで頼んでもないことを進んでやろうとしているんだ?
「月下くん。なんだか疲れてそうだったから、手伝ったほうがいいかなって」
「疲れてる……まあ疲れてるよ、いろんなことがあったからね、というか現在進行系で起きてるし。」
「そうなの?だったらわたしに任せて、あなたを助けてみせるから」
わあすごい、なんて頼もしい言葉なんだ。彼女が原因だということを除けば今の会話はとても心温まるものだったろう
「いやホント…!大丈夫だから!一人でできるから!」
「本当に?あの時ケガもしていた筈、一人で出来るの?」
「もしかして僕子供だと思われてる?一人で出来るよそりゃあ?というか一人の方がやりやすいよ?」
「むう…本当に?」
なんでこの子こんなに執拗に助けを与えようとしてくるの?
これもう優しさとかではないよ、別の何かだよ
たとえ優しさだとしても過剰な優しさは苦しさになるよ
「じゃあ先端だけ、先端だけでいいから手伝わせて」
「なに先端て!?どこの先端だよ!?いいよやらなくて!一人で出来る!というか一人でさせてくださいお願いしまぁす!!」
この後も手伝う・手伝わなくてもいいの激戦は20分くらい続いた
もう恥ずかしさとかどっか行った
…これも彼女なりの優しさなんだろうか?
優しさというのはかなり押し付けが過ぎると思うが
──────────
「───それじゃ、何か質問はある?」
机を挟み、向かい合って椅子に座っている御神さんが聞いてくる
チラリと周りを見渡せば、コンロやシンク、冷蔵庫などの一通りのものが揃っているキッチン、廊下に出るドア、座り心地の良さそうなソファと、それに向き合うように置かれているテレビ
内装的にここはリビングなのだろう
「………。」
僕は今、浴室での激戦を制して身体を清潔にし、彼女が着替えとして用意してくれたジャージを着て、御神さんと向かい合っている
今は彼女との質疑応答の時間だ
「…質問、か」
聞きたいことなんて沢山ある
現状、僕が彼女ついて知っていることなんて少ししか無い
優しいこと、顔が綺麗なこと、すごく強いこと
…まあ、優しさに関しては強引なところもあるけど
ともかく、そんなことしか知らない僕が彼女に聞くことは一つしかない
「──御神さん、君は一体何者なの?」
─正体だ
彼女の度が過ぎるほどの優しさや、 美麗とも言える顔の良さはまだ理解できる。そんな人も世の中には居るだろうし
でも、あの戦闘能力は異常だ
普通の人間は殴りで地面を抉り壊すことなんて出来ないし、空中を何度も蹴るように移動も出来ない
世界の物理法則に逆らいまくっている
御神アマテは、普通の人間ではない
「何者か…ちょっと説明が難しいな」
「出来ない?」
「いや、出来ないわけじゃない……ちょっと分かりづらいと思うけど、いい?」
「うん、大丈夫だよ」
分かりづらい、か
やっぱり彼女はただの人間ではないらしい
説明するのが難しいような正体をしているってことなのだから
「──わたしはね、」
少し言い淀んでから、口を開く
「──理外者、その処刑人なんだ」
………リガイシャ
昨日も何度か聞いた言葉だ
だが、処刑人とはどういう事だ?
「えっと、何言ってるか分からないよね。…何から説明しようか」
「じゃあ、リガイシャってやつから説明してくれない?」
「うん。分かった」
昨日も聞いたリガイシャという言葉
処刑人という言葉には、まだ聞き覚えがある
罪を犯した者に対して刑を執行する人の事だ
だが、リガイシャ?については本当に聞き覚えがない
「まず、この世界には
「理…?確か、物事の筋道や道理、法則とかを意味する言葉だよね」
「うん。基本的にはそうだね、リンゴが木から落ちるように、走ったら疲れるように、春の後には夏が来るように、死んでしまったら生き彼らないように、絶対不変の当たり前のこと、それが理だよ」
彼女は身振り手振りで表現しながら説明する
理、それがよほど大事なことなのだろうか
「人も、犬も、猫も、虫も、植物も、あらゆる生命体、あらゆる物質が付き従わなければいけない法則、理。
・・・・・・・・・・・・・・・
──でもね、たまにこの理から外れちゃう人がいるんだよ」
「──理から、外れる?」
世界の絶対的真理、決して変わるのことのない常識
理とは、聞いた限りではこのような印象を受けるものだ
…だが、その理から外れる?
生きていふ限り絶対に離れることのできない道筋から外れてしまった人
それはつまり───
「──常識や物理法則が通用しない存在になるってこと?
そして、その人たちのことを理から外れた者、つまり
「──驚いた、これだけの情報でそこまで理解しちゃうなんて」
驚いたと言うにはまったく表情筋が変化せず、無表情のままの御神さんを横目に、僕は言葉を続ける
「そして御神さんはその理外者の処刑人で……えっ、つまりそれって」
恐ろしい結論にたどり着いてしまった
罪を犯した人に刑を執行する人、それが処刑人
そして御神アマテは理外者の処刑人、そう彼女自身が言った
それらの情報が導き出す答えは───
「…み、御神さんは理外者を見つけ次第、処刑という名目で殺しまくってる…ってこと!?」
思わず声が震えてしまった、しかし、それも仕方のないことだ
だって、僕の目の前にいる人は、僕の初恋の人は、殺人者かもしれないのだから
なんて恐ろしい事実なんだろうか
あまりの恐ろしさに、泣き崩れてしまいそうになる
「いや全然そんな事はないよ」
「あっないの?良かった〜」
全然そんな事は無かった
それはひとまず良かったけど、それじゃあ処刑人とはどういう意味なんだろう?
僕がそう考え込んでいると、御神さんが口を開く
「…処刑人ってのは少し語弊があったかな。物々しい名前だけど、やってる事は治安維持に近いよ」
「治安維持?」
「うん。そもそも、月下くんは理外者ってどんな風に生活してると思う?」
どんな風に生活しているか?
普通、人というのは生きていくためには食事を摂ったりしなければいけない、そんなは当たり前のことだ、だけど……
理外者というのは常識や当たり前が通用しない存在
そんな人達に、食事や睡眠といった生物的欲求は存在するのか?
──いや、というか
「理外者って、どういう奴なんだ?」
僕はそもそも理外者と出会ったことがないはずだ
物理法則が通用しない存在なんて、まともな造形をしていないは
ずた
理外者がどんな姿形をして、どんな風に生きているかなんて、僕は知らな───
「───ぁ」
いや、知っている
僕は一人だけ、普段の行動が分かる理外者を知っている
というか、今この場にいる
顔を上げ、その人物に目を向ける
──目が、合う
御神さんの雪景色のように綺麗な目が、僕を見ていた
相変わらずの無表情だ、実はロボットなんじゃないかと勘違いしてしまうくらいに、その表情は変わらない
──常識や、物理法則が通用しない存在
それは、目の前のこの人も同じはずだ
パンチで地面を抉ったり、空中で何度も蹴り飛んだり、当たり前なはずの常識が、彼女にはまるで適用していない
──間違いない、御神アマテは理外者だ
そんな彼女は、普段どう過ごしている?
普段、と言っても彼女と関わる機会なんて学校くらいでしかないのだが、それは置いておこう
学校では、彼女は普通に過ごしている
普通に投稿してきて、普通に授業を受けて、普通に休み時間を過ごし、普通に昼食を食べ、普通に放課後まで過ごし、普通に下校する
なんてことのない、ただの女子高校生だ
今この瞬間もそうだ
僕の目に映る彼女は、何らほかの人と変わらない姿形をしている
少なくとも、一目見て人間だと分かる見た目だ
「……もしかして、意外と普通に生活してる?」
「うん。基本的にはね、理外者だってお腹は空くし、夜遅くまで起きてたら眠くなるし、体調管理をちゃんとしなければ風邪だって引くよ」
なるほど、僕は少し思い違いをしていた
理から外れたからと言って、何でもありの化け物や、思ったこと全て叶えることが出来る、神様みたいな存在にはならないのか
「中にはそういう力を持った人もいるけど、大体の理外者は普通の人とあまり変わらない生活をしているよ」
「なるほど〜…ん?」
僕はそこでとあることに思い当たる
「ねえ御神さん、理外者は基本的に普通の人あまり変わらない生活してるっていうなら、あの人影は何だったの?」
昨日、森であった人影
あの人影は明らかに人間の動きをしていなかった
物理法則が通用しないとか、そういうレベルではなかったように見えた
全身真っ黒で、身体をめちゃくちゃに変形させ、地面が抉れるほどの攻撃を受けても、堪えた様子はなかった
「あの人影も理外者だよね?御神さんと違って、あまりにも人間味がなかったけど」
「あの影?ううん。あれ自体は理外者じゃないよ」
「え?」
驚きの新事実だ
あんなにも常識から外れた存在である人影が、まさかの理外者ではなかった
「正確にいうと、あの影は理外者が操っているものなんだ」
「生まれた?」
「うん。理外者というのは多種多様で、わたしみたいに身体能力を上げたり、常識を無視したあり得ない動きをできるようにする者もいれば、ああいう影を操ったり、炎や水を無から出して操ったりした人もいたよ」
「ええ〜……」
もはやフィクションの領域た
あの人影みたいな化け物を操り、炎や水操る魔法使いみたいな人がいるなんて、いつからこの世界はファンタジー溢れる異世界みたいになってしまったんだ
というか、そんな人達が私利私欲の為に力を使ったらヤバい事になるんじゃ……
「あっ、そういうことか!そのための処刑人!」
弾けるような声を上げながら、僕は納得する
そういった力を持った理外者が暴れたら、甚大な被害が出る前に警察のように取り締まる
それが彼女の言う処刑人としての仕事だろう。まさしく治安維持だ
…いや、それにしたって名称が物騒すぎるだろ
「うん。どうやら分かったみたいだね。処刑人とは何かが」
「悪意を持った理外者が、その力で好き勝手やろうとしたら止めに入る、こんな感じ?」
「うん。大体そんな感じ」
良かった、どうやら合ってたみたいだ
「…でもさ、それでも処刑人って名前は物騒すぎない?やっていること大体警察じゃん。もっと正義感溢れる名前にしたら?」
「ううん。そうでもないと思うよ。この仕事は月下くんが思っているより、かなり酷いものなんだよ」
「マジで?」
興味深い物言いだ
表裏一体、どんなことにも綺麗な部分と汚い部分あるとは言うが、これもそうなのか
「そうだね…月下くんって、理外者がその力で悪いことをしたら、罪に問えると思う?」
「無理じゃない?」
「早いね…もう少し悩むと思った」
まったく表情筋を動かさずに驚愕している御神さん
この人さっきからマジで表情変えないな…
そんな事を考えながら僕は自分の意見を伝える
「たとえば、さっきの話で出てきた炎を無から出して操る理外者が火事を起こしたって言っても、着火をするための道具や燃料がないんだから、証拠不十分ってことになるのかなって」
「うん。その通りだよ。理外者の力はとても不思議な物だからね。常識や法に当てはめて捕まえるのは難しいんだ」
大方予想通りの答えで、それでいて予想以上にひどい現実だ
極端なことを言えば、理外者の力で人を殺しても罪にしにくいってことじゃないか
「だからわたしたち、処刑人がそういう人に刑罰を無理矢理与えるの、場合のよっては、死刑にすることもあるかもしれないよ」
「えっ?やっぱり、御神さん人を殺したことがあって……」
「ううん。そんな経験は一回だってないよ」
良かった、御神さんがそういったことをしてなくて本当に良かった
あの人影もそうだけど、僕は僕のことを助けてくれたりする優しい人が罪を背負うするのがとても嫌なんだ
「理から外れた者を取り締まり、一線を越えた人にはそれ相応の刑罰を与える者…それが処刑人」
だから昨日も殺人をしようとした人影に対処しようとあの森に来ていたのが
「…さて、これでわたしのことは大体わかってくれたかな」
「まあ、うん。まだまだ聞きたいことはあるけど、御神さんが何者なのかってのは分かったと思う」
正直、御神さんがなんで処刑人になったのかとか、理外者ってのはどうやって生まれるのかとか、あの人影は何だったのか、質問したいことはまだまだ沢山あるのだか…
「だったら、きりも良いし──そろそろお昼ご飯にしない?」
そう言われ時計を見る
時間を確認すれば、もう12時を過ぎている
そう分かると急に空腹感が身を包む
「…そういえば、起きてから何も食べてなかった」
「お腹空いてるでしょ、今からデリバリーするから待ってて」
「あっデリバリーなんだ」
「うん。わたし料理出来ないし」
そうなんだ
勝手な偏見だけど、御神さんはどんなこともスラスラっとできるイメージがあったので、ちょっと意外だった
「ピザにしようと思ってるけど、大丈夫?」
「えっうん、大丈夫だよ…ピザ?」
「おいしいよね。ピザ」
ピザ?いやまあ、デリバリーでピザは定番だし、美味しいだろうから良いんだけど…
なんというか、御神さんって意外と俗っぽいんだな
「月下くん、ピザなににする?」
「うん?いやまあ何でもいいな…御神さんのオススメにしてくれない?」
「分かった。…じゃあわたしと同じ、Wチーズ☆デラックス☆ビックバン☆ピッツァ(Lサイズ)にしよっと」
「えっ何、なんて言ったの今?」
思っていたよりもかなり俗っぽいぞこの人
なんだよWチーズ☆デラックス☆ビックバン☆ピッツァって
小学生が考えたような馬鹿みたいな名前だ
「楽しみだね、Wチーズ☆デラックス☆ビックバン☆ピッツァ(Lサイズ)」
そう言いながら、体をルンルンと揺らしながら、しかしまったくの無表情でピザの到着を待っている
──こうして見ると、僕は御神アマテのことを何も知らないのだと痛感させられる
初恋の人なのに、彼女の好きなものも、趣味も、苦手なこともわかっていないのだ
──知りたい
彼女がどうして理外者になったのか
あの人影は一体誰が作り出したものなのか
彼女自身のことも、彼女を取り巻く全てを、僕は知りたい
───だが、今はそういう状況ではない、今一番大事なのは別にある
「…ピザ、食いきれるかなぁ」
もともとそこまで食べれるほうではないし、寝起きから何も食べていないカラカラのお腹に入れるには、あのWチーズ☆デラックス☆ピッツァはかなり重すぎる気がするのだ
「大丈夫だよ、月下くん」
「え?」
不安がっている僕を見かねて御神さんが話しかけてくる
元気づけようとしてるのかな?
「月下くんが残しても、全部わたしが食べ尽くすから」
全然違った
もうますます分かんないよこの人
そんな食いしん坊だったけ?彼女?
…結局、ピザは半分も食べ切れずに、残してしまった
そして全部御神さんが食べた、すごいなぁ御神さんは