リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜 作:トマトォォォァァォ!!!!!
カチ、カチ、カチ──
静寂と闇に包まれた部屋の中、時計の秒針を刻む耳心地の良い音が断続的に反響する
一定周期の機械音は聞いているだけで眠気を引き出されるような感覚を覚える
「…すぅ…すぅ……」
それに呼応するように、御神アマテの寝息が左隣から僕の鼓膜を揺らす
そよ風が吹き抜けるような可愛らしい寝息だ
「………寝れねぇ」
時刻は午前2時を過ぎた頃だろうか
僕は程よく柔らかいベットに身体を沈み込ませながら一言ボヤく
普段だったら既に夢の中にいる時間帯だ
しかしその意識は覚醒しきっていて、まったく眠りにつく様子は見られない
「眠れる訳ないだろ…………!」
だがそれも仕方のないことだ
今の僕を取り巻く状況は、今までの人生の中でも一位二位を争うほどに鮮烈な物だ
「……すぅ……すぅ……むにゃ……」
首を傾ければ先程と同じように可愛らしく寝息を立てる御神さんが視界に入る
彼女は身体を横向けて丸めるようにして夢見ている
僕が数センチでも体を動かせば触れられてしまう程の近距離でだ
……そう、僕は今一つのベットで御神さんと一緒に寝ている
「……寝れないよ、こんな状況で……」
もう一度言おう、こんな状況で寝れるわけがない
意中の女子と暗い部屋の中、大きめのシングルベットに二人を押し込むようにして寝ているせいか、必然的距離感がに近くなってしまう
そしてそれは、少し前に初恋を経験したばっかの初心な僕には刺激が強すきた
御神さんに聞こえるんじゃないかと思える程に心臓がバクバクと鼓動し、一定間隔で聞こえる寝息が彼女の存在を忘れさせてくれない
どうしてこんな状況になってしまったかの経緯は鮮明に覚えている
故にわざわざ回想するまでもない、でも僕がこの状況から目を逸らしたいからに思い返す
"人影" と何らかの接点がある僕こと月下ヨゾラ
自身の影に入り込まれていたという前例があるため一人にするのは危険だと判断され、今日は御神さんの家に泊まることになったんだ
そこまではまだいい、心臓が破裂しそうなほど緊張したけといい
僕も御神さんと一緒の方が安全だと思うし、僕の心労を除けば異論はない
御神さんには迷惑をかけるけど、今更四の五の言ってられない
…………そう思っていた
御神さんとの共同生活、それには一つ重大な問題があった
───御神さんの距離感が近すぎる
今の寝ている状況もそうだが、彼女はとにかく距離感が近すぎる
夜ご飯を食べる時も隣に座ってくるし、トイレにもついてくるし、風呂に入る時も一緒に入ろうとするで、とにかく距離感がおかしいのだ
………いくら僕が一人になるのが危ないからって、そこまでする必要はあるのか?そう思ったが多分必要はあるのだろう
そして当然というべきか、そんな彼女が僕が一人で寝ることを許すはずがなく、今この状況に繋がるというわけだ
「………まずいよね?……まずいよなぁ……」
御神さんを起こさないように声を小さくして自問自答をする
そう、このままだとまずいのだ、とてつもなくまずいのだ
何がまずいかって、このままだと寝不足になる──!
「明日も学校なのに………寝不足はまずいよなぁ………」
かれこれ数時間は寝れてない
このままだと確実に寝不足になる
人影の件や名付先輩の対処など、明日はやることが多い
できる限り万全の状態でいたい
「………寝るか………」
意を決し、眠るために目を瞑る
意識を水に溶かすようにぼやけさせ、身体をリラックスする
ただ、それだけではこの緊張は解けないので、解く為にとある方法を使う
古くから伝わる、伝統的なあの睡眠術を
(………羊が一匹……羊が二匹……羊が三匹……四匹……五匹……)
羊を数え、意識を散らす
………意外と悪くない
眠りを妨げる緊張は、御神さんが至近距離にいるのを意識してしまうからだ
その意識を羊の方に向ける。そうすれば緊張は無くなる
単純明快だが、こういうのが一番効く
(十三匹……十四匹……十五匹……じゅうろくひき……)
段々と意識が沈んでいくのが分かる
良し、このままなら寝れる
ありがとう羊、サンキュー羊、愛してるよ羊!
心の中で羊に感謝を述べる
世界広しといえど、ここまで羊に感謝した人間もなかなかいないだろう
でもこれでようやく、ようやく眠ることが出来て───
「……すぅ……すぅ……月下…くん……」
そう言うと、彼女は身をよじらせ僕の手に触れてくる
熱さを感じる体温、柔らかくもハリのある手の感触、生命の鼓動を感じさせる呼吸
彼女の構成する全てが、彼女の存在を引き立たせる
(!?!!!?!?!?!)
──瞬間、眠気は吹き飛んだ
唐突な接触により僕の脳はショート寸前だった、というかしてた
こんなことがいきなり起きて声を出さなかった僕を誰か褒めてほしい、そう心の片隅で思う
それと同時に、今日はもう寝ることはできないだろうな、その確信があった
───まあ、なんとかなるか
ほとんど寝不足が確定した夜、のんきにもそう考える
明日はきっと朝からボロボロだけど、困ったことがあったら誰かに頼ろう
御神さんや先輩は頼んだら快く受けてくれるだろうし、僕には頼りになる友達もいる
だからまあ、きっと大丈夫だ、なんとかなる───
──────────
───なんとかならなかった、よ
「あ"〜〜………ねむ」
眠気が押し寄せてくる
見事に寝不足だ、まともに授業の内容が入ってこない
今が国語の時間というのも影響しているだろう
温厚で物腰の柔らかい高橋先生の授業は、分かりやすいが単調になりやすい
教科書の文章を淡々と読み、途中で登場人物の心情を解説する
普段ならノートを取りながら聞いている授業が今は最高の睡眠導入剤だ
(まだ一時間目だってのに、これ大丈夫か?)
時計を見れば今は午前9時を過ぎたばかり、一時間目が終わるまで40分以上残っている
更にこの後も数学、社会、科学、英語など、授業はまだまだ続く
体育がないのがせめてもの救いか、だがそれでも今の状態ではどれもろくにできる気がしない
どうしたものか……
「だ─大丈夫?ヨゾラ君」
そんなことを考えていると、右隣の席から声をかけられる
授業の邪魔にならないようにか、声量を下げ囁くような声だ
声だけなら男か女か分からない中性的で、少しばかり弱々しい印象を受けるだろう
顔を横に向ければ、晴れの日の空に浮かぶ雲のように白く澄んだ髪を、毛量が多いのかサイドテールのようにまとめ、炎を書き写したかのような赤い瞳に心配の色を浮かばせた少年が僕を見ていた
「んあ……?ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
「ホ、ホントにちょっと?ヨゾラ君って昔から控えめに言うことあるからなぁ……」
「大丈夫だよ、テオ。ちょっと死にそうなほど眠いだけで……」
「やっぱり大丈夫じゃないじゃん!?」
甲斐甲斐しく心配してくれるこの人は、僕が小学生の頃からの親友、
一見すると女子に見えなくもないくらいに可愛らしい容姿をしている。以前に彼を女子だと勘違いして男子が現れたほどだ
そして何故か自分に自信がないのか、妙に自己肯定感が低く弱気な雰囲気を漂わせてる
だが小学生からの幼なじみである僕は知っている、彼は本当は困っている人がいればノータイムでかけ寄ってしまう程心優しく、悪いことは誰に言われたってしない、僕にはもったいないくらいのいい友達なのだ!
「はたから見ても体調悪いの丸わかりだよ。授業中だけど、ちょっと寝たほうがいいんじゃないの?」、
「いやぁ~僕も眠すぎるから寝たいんだけどね。今やってる所テストに出るでしょ?せめてノートは取っておきたいなぁって」
今授業でやっている部分はテストの範囲ど真ん中
高橋先生も「ここはテストに出ますよ〜」と言っていたし、ノートは取っておきたい
………まあ、眠すぎてペンすらまともに持つことが難しいのだが………
「だったらボクがヨゾラ君の分のノートも取っておくよ」
「えっいいの?」
「いつもヨゾラ君には助けられているし、そのくらいだったら全然いいよ、そもそも寝たほうがいいって言ったの、ボクだしね」
ノータイムで僕の分までノートを取ってくれるテオ君マジで優しすぎる
こういうとこがあるから僕はテオのことが大好きなんだよなぁ
「………にしても、どうしてそんなに寝不足なの?
昨日も学校休んでたし、何かあったの?」
テオから疑問を投げかけられる
思って当然のことだろう、学校来なかった日の翌日に寝不足の状態来るなんて、明らかに何かがあったように見えるだろう………いやまあ、実際に色々あったんだけど
今だってチラリと視線を後ろに向ければ、後ろから他に人にはバレないように僕を監視している御神さんが見える
授業中でも彼女からの監視からは逃れられないようだ
このように、今の僕を取り巻く状況はかなりおかしなものだ
───でも、それを彼に言うわけにはいかない
理由は簡単、危ないからだ
人影やそれを操っている理外者、それに僕が何か関係があるかもしれないなんていえば、きっと心優しいテオは僕を助けようとするだろう
そうなると、必然的にテオと人影が関わる確率が上がる
もしテオが人影と出会ってしまった時、あの人影がテオのことを襲わない確証なんてものはない
テオは御神さんとは違い本当に心優しい一般人なのだ、あの人影に抵抗できる力なんてない
あのチンピラ共と同じように、人力を越えた力で殴られたり蹴られたり、挙句の果てには殺されてしまうかもしれない
そのことを考えると、身体が芯の底から冷えていくのが分かる
僕の幼なじみで一番の親友、そんな彼が無残にも殺されてしまう?
絶対に、絶対にそんなことはあってはならない!!
そのためには、彼には心苦しいけど嘘をついてでも関わらせてはいけない
「いやぁ、ちょっと風邪引いちゃったみたいで・・・学校いけない程辛くて、一睡もできなかったんだよね」
我ながら厳しい嘘だ
少し考えればバレてしまうだろう
風邪引いたくせにマスクしてないとか、そんな辛い風邪が一日で治るのかとか
寝不足のせいか頭がまわらない、こんなので騙せるわけが──
「─────そう、なんだ、それは大変だったね」
………あれ?騙せた?
嘘をついた僕が言うのもなんだけど、流石に騙され易すぎないがテオ?
ま、まあそれはそれで良し!
「だったらなおさら安静にしてなきゃじゃん、少し寝てていいよ、ノートは取っておくし、授業が終わりそうになったら起こしてあげるから
「マジで?ありがとう」
何から何まで本当にありがたい
正直いって、もう睡魔の限界なんだ
今すぐにでもねたい
「じゃあ、ちょっと……寝るねzzz………」
「寝るの早!?………本当に眠かったんだ」
彼のそんな呟きを聴きながら、僕は意識を深層へと沈めていく
しかし、僕はなんていい友達を持ったんだ
先ほども言ったが、本当に僕なんかにはもったいないくらいのいい人なんだ
誰かの苦しみを自分の苦しみのように感じ、自分の喜びを誰かの喜びのように分け与え、皆んなの笑顔を自分の笑顔と言わんばかりに笑うことが出来る
だからこそ、あの人影を早く何とかしないと
テオが嘘に騙されたおかげで、僕経由で人影とテオが出会う可能性は減った
だが無くなったわけじゃない
あの森の時のように、どこからともなく人影が現れてテオに危害を加える、そんな可能性も0ではないのだ
これは僕だけの問題じゃない、僕の周りの人にも関わることだ
僕だけが苦しむのならそれでもいい、だけど僕の周りの人が被害に遭うのは到底看過できるものではない、僕の親友だったらなおさらだ
御神さんが昨日教えてくれた情報的に、何故か、現状あの人影と関係があるのは僕だけみたいだ
───だったら、やらなくてはならない
他の人に被害が出る前に、僕と御神さんであの人影をなんとかするんだ
大丈夫、きっとなんとかなる
あんなに強い御神さんと一緒なんだ
なんとかなるに決まってる
決意を新たにしながら、僕は意識を深く深く沈めていく
あと数秒もすれば、意識は完全に消えて───
─────────────
「……はい、ここでメロスとセリヌンティウスは互いに拳を打ち付け合いました、これは何故かと言うと──」
高橋先生の解説をノートに書き取る
できる限り分かりやすく、あとからヨゾラ君が読んでも理解してもらえるように
「─…─……─」
ふと、横を見る
「………ん……すぅ……」
横を見れば、ボクの小学生の頃からの親友である月下ヨゾラが静かに寝息を立てている
よぼど眠かったのだろう、ちょっとやそっとじゃ起きないくらいに寝入っている
(授業終わりくらいには起こすって言ったけど、これじゃ簡単に起こせそうにないな)
内心で苦笑しながら、ノートの書き取りを続ける
起こすと約束したのだ。強引にでも起こすしかない
(しかし、ホントなんでこんな寝不足だったんだろう)
書き取りを続けながら、ヨゾラ君の不眠の理由を考える
と言っても、理由はヨゾラ君自身から聞いた
『いやぁ、ちょっと風邪引いちゃったみたいで………学校いけない程辛くて、一睡もできなかったんだよね』
確かにそう言っていた
………ああ、だからこそ分からない
なんで、なんで─…
・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(なんで、ヨゾラ君はあんな嘘をついたんだろう?)
あの言葉は、明らかに嘘だ
風邪を引いているのにマスクもしていないし、風邪を引いているにしては寝不足以外の症状が見当たらないし、そもそも唐突に学校を休んでしまうような風邪が、一日であそこまで回復するとは思えない
(………明らかに、何か大変なことに巻き込まれている)
風邪じゃないなら、何か別の大変なことがあった
そう考えるのが妥当だろう
(……なんで、なんでだよ……ヨゾラ君……)
書き取りを続けながら心の中で親友を呼ぶ
その言葉には、彼の現状に対する困惑
彼の身を案じた心配
そして─…
(─……なんで、ボクを頼ってくれないんだ!!!)
──彼が親友である自分を頼ってくれない悔しさが込められていた
………分かっている
ヨゾラ君はボクを仲間外れなどにしているわけではないのだろう
ボクの見た目通り、ヨゾラ君が何か危険なことに巻き込まれてる場合、ヨゾラ君はボクを巻き込まないようにするだろう
ボクが知っている月下ヨゾラとはそういう人間だ
自分の苦しみを他人には晒さず、他人の喜びを自分のことのように喜べ、自分が笑顔になる時は皆んなが笑顔になった時だと言わんばかりに笑う
………ホント、ボクにはもったいないくらいのいい人なんだ
(………ボクは、キミに何も返せていないのに……)
ヨゾラ君に比べて、ボクは程度の低い人間だ
ボクが弱気な人間なら、ヨゾラ君は強気な人間だろう
ヨゾラ君がすぐに理解できることを、ボクは長時間かけてやっと理解している
ボクがはっきり言えないことを、ヨゾラ君はきっぱりと言える
ボクがイジメを受けたときも、ボクは抵抗もできずされるがままだったのに、それを見たヨゾラ君は血相を変えていじめっ子を追い払った
(また、なの?)
ヨゾラ君が何か危険なことに巻き込まれている時、ボクは何も知らず呑気に日々を過ごす
また、ボクはヨゾラ君が大変な時に何も出来てない
(………どうすればいいんだろう)
そう思いながら、ノートの書き取りを続ける
今のボクに出来ることなど、これしかないのだから
(──強く、なりたいな)
ヨゾラ君が困っていたら、すぐさま駆けつけて助けられる
そんな、漫画のヒーローみたいな力が
(──強く、なりたい)
ヨゾラ君に危害を加える奴を打ち倒せる
そんな、小説の主人公みたいな力が
(──強く、なって)
ヨゾラ君が常に笑顔でいられるような世界を作る
そんな、常識や法則を無視した力が
(──強くなって、キミの親友として相応しい人になりたい)
そんな、誰かの為の力が………ボクは欲しい
「──………─……」
そう願った時、自身の影が揺らいでいたことに光跡 テオは気が付かなかった