リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜 作:トマトォォォァァォ!!!!!
キーンコーン、カーンコーン───
6時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く
その瞬間から教室の中は喧騒で溢れる
友人と談笑を楽しむ人、それぞれの部活動に向かっていく人、放課後の学校に用がないのか帰宅の準備を進める人
「疲れたあぁぁ〜……」
「お疲れ様だよ、ヨゾラ君」
ここにも二人、友との会話に花咲かせる者がいた
片方はくたびれた身体を休め、もう片方はその彼を労う
よくあるような青春の1ページだ
「やっぱ寝不足のまま授業受けんの辛すぎるわ、まともに内容が入ってこない」
「ボクも見てて大変そうだなぁって感じたよ、ペン持つ手が震えてたもん」
「マージで今回テオがいてくれて助かったぁ、本当マジで救世主だわ」
「大袈裟すぎだよ、ボクにできる事なんてこれくらいしかないからさ」
相変わらず自己肯定感の低いことを言う
1時間目の国語の後も何度も助けてくれたのに、それが程度の低いことのように振る舞われると逆に怒りが湧いてくる
もう少し自分に自身を持ってほしいものだ、テオはその自信に見合う人間なのだから
「それよりこの後どうするの?前々から遊ぶ予定あった日だけど、ヨゾラ君体調悪いしやめておく?」
「あー……そうしてくれると助かるかな。いやさ、体調悪いのもあるんだけど、今から名付先輩のとこ行かなきゃだからさ……」
「あっ、スゥー……それは……大変だね……」
昨日の電話を聞けば分かるが、名付先輩は後輩想いだ……度が過ぎるほどに
後輩が悩んでいれば強引にでも寄り添い、後輩が困っていればあらゆる手段を用いて解決しようとする
長所は後輩想いな所、短所は後輩想いすぎる所
いい人なのかヤバい人なのか、もしくはヤバいい人なのか
後輩想いという暴力を振りかざす優しさの化け物、それが僕たちの知っている名付サダメという人間だ
そして僕は現在、そんな先輩にめちゃくちゃ心配されている
重大な悩みがあると相談して、その翌日に学校を休んだ
後輩想いすぎる先輩にとっては気が気でないことだったろう
「身構えて行くんだよヨゾラ君、心配のされすぎて死なないようにね……!」
「ああ、分かっている………いや、心配のされすぎて死ぬってなんだ??」
意味不明な日本語だ、心配と死という言葉は一緒に存在してはいけないんだよ
「ま、まあ流石に大丈夫だろ!流石の先輩でも心配のしすぎで殺すなんてことはないだろ!」
「えーー……たってあの名付先輩だよ?嫌な予感しかしないよ」
そこは同意してくれよテオぉ……
いや、大丈夫、大丈夫だよ
心配のされすぎて死ぬなんてこと、普通に考えてありえるはずがない!!
「よし、そろそろ行ってくるかな。名付先輩のとこへ」
「逝ってらっしゃい。ヨゾラ君」
「字がちげぇよな?死なないから、絶対死なないから」
まったく、テオも悪い人だ
先輩の過剰な想いで殺されるなんて有り得ナイナイ
────────────
「……がっ…!…ぎぃぃ…!」
───あり得たわ
放課後の図書室、まだ太陽が燦然と輝いていて昼時のように明るく照らされている
そんな光景の図書室のやや隅の席で、僕は今絞め殺されかけている
「月下後輩ぃ〜〜〜!心配したんだぞこのこの〜〜〜〜〜!!」
先輩が抱きしめてくる
僕の身体に腕を回し、足を絡め、豊満な身体を押し付け、頬ずりしながら抱き枕のように抱きしめてくる
はたから見れば羨ましいと思われてしまう状況だろう
──言っておくが、断じてそんなことはない
「……あ"の"、ぐる"じい"でず、ぜん"ばい"」
「もう〜〜!!恥ずかしがるなよぉ月下後輩ぃ〜〜〜〜〜うりうり〜〜〜!」
余談だが、先輩は力が強い
りんごを思いっ切り握ればメキメキと音を立てながら潰せるし、50メートル走や持久走いつも1位を取れるくらいに脚力も強い
以前、二の腕を触らせてもらったことがあったが、見た目からは想像できないくらいのガッシリとした筋肉があった
そこらの運動部の生徒よりあるであろう筋肉量、そのことから人間の中でも上位に君臨できるほどにパワーがあることは想像に安くない
そして僕は今そんな先輩に思いっ切り抱きしめられている
全身の骨はメキメキと音を立てており、筋肉は潰れ千切れるような感覚で、肺は外側からの圧力によって空気を押し出され、呼吸が苦しくなる
すごいな、人って完全なる善意の抱擁で死ねるんだ
そんなことを思いながら僕の意識は遠のいていき……、
「名付サダメ先輩、そこまでにしといた方がいいですよ。そろそろ月下くんが死んでしまいます」
「んあ?死ぬ?何言っているのアマテちゃん、わたしはただ抱きしめているだけだよぉ?」
「……かはっ……かひゅ………」
「……いえ、もういいです。無理矢理にでも引き剥がします。歯を食いしばってください」
「わわわ!分かったよぉ!離すからぁ!離すからぁ!!」
渋々ながらも名付先輩が僕を離す
離された瞬間、肺に空気が入り込もうと反射的に大きく息を吸う
勢いよく息を吸おうとして、気管が変なふうに刺激され思わず咳き込む
「──ゲホッ!ゲホッゴホッ……はぁ、はぁ……先輩、ふざけんなよマジで」
「ご、ごめんねぇ、まさか抱きしめただけで死にかけるとは……」
「悪気がないのはわかりますけど、それはそれです。反省してくだい
……それと、御神さんもありがとう、止めようとしてくれて」
「ううん。感謝されるほどのものでもないよ」
御神さんが無表情で言う
目の前で人が絞め殺されかけているという珍事件があったというのに、その顔は鉄仮面の如く表情を変えない
感情があるのかどうかを思わず疑ってしまう
………さて、そろそろ何故御神さんがいるのか知りたくなってきた人もいることだろう
何故ナチュラルに御神アマテが会話に混ざっているその理由を!
といっても理由は簡単だ
僕を監視下に置くためだ
人影と何らかの接点がある僕こと月下ヨゾラ
そんな僕がいつ人影と再度接触してもいいように、四六時中僕を粥視しているのだ
具体的に言えば僕の半径50メートル内に常に御神さんいる状態だ
御神さん曰く、「この状態なら、どんな体制からでも月下くんを助けられる」らしい、よく分からんがそうなのらしい
「さて、月下後輩ニウムは摂取完了!」
「なんですかその意味不明なニウムは、新種の病原体ですか」
「病原体て、一応君の名前が使われているだよ?もっとポジティブな物質にしなよ……って、そんなことは良くて!!」
バッサリと話を切り上げる先輩
普段とは違い、その表情は真剣そのものだ
「───一昨日、なんで学校を休んだのさ。何も言わずに急に休むだなんて、君らしくもない
風邪を引いたとか、そういうことでもないんだろ」
……やっぱりそうくるよなぁ……
予想通り、僕のことに言及をしてきた
当然のことだが、本当のことは話せない
理由はテオの時と同じだ
人影と色々あったなんていえば後輩想いの名付先輩は絶対に助けようとする
……あまりにも危険だ。さて、どう誤魔化すか──
「ああ、実はかくかくしかじか、ってことがあったんです」
「なにィ!?月下後輩が最近噂になっている『全身真っ黒の幽霊』通称人影と関わり、更に以前から接点があるかもしれない重要参考人だってぇーーー!!!???」
「ちょっ!?なんで全部言った御神さぁん!!!!」
そんなこと考えてたら御神さんが全部言いやがった
いやマジで何を考えているんだ御神さん!?
こんなこと言ってもまだ危険なだけじゃ……?
「大丈夫だよ月下くん、これにはちゃんと意味がある」
「えっ本当??」
「うん。今わたし達には情報が足りない。森での一件の後、わたし達はあの人影がどこに行ったか分からない。かといって情報を集めるには二人じゃ少なすぎる」
「だから先輩に協力してもらおうと?理屈は分かるけど流石に危険すぎるんじゃ……?」
確かに、今の僕達はあまりにも情報がない
あの人影がどこへ消えたのか、誰が操っているのか、なぜあそこに居たのか、御神さんが分からないなら僕も分かるはずがない
だから後輩想いの名付先輩にも手伝ってもらう、か
それ自体はいい判断かもしれない
先輩は普段は馬鹿らしい人間だけど、馬鹿ばかりやっている人ではない
何かをやると決めた時の行動力は凄いし、目がいいのか人の些細な変化にも気付く、それでいて身体能力も高い
頭以外は超優等生、それが僕の知っている名付サダメという人だ
「ねぇ月下後輩?今結構失礼なこと考えてないかい?」
ほら、このように妙に鋭いとこもある
先輩ならこの人影騒動にも力になってくれるだろう
でも………なぁ……
「月下くんが心配しているのは、名付サダメ先輩の身の安全でしょ?」
「…うん、あの人影に襲われたら、いくら名付先輩でも危な──」
「えーーー!!月下後輩私のこと心配してくれてるの!♪!♪まったくぅ、いつもは私に対してはツンツンしてるくせにぃ♪♪そんなふうに私の身を案じてくれてるなんて!♪コレが噂のツンデレってやつか〜〜〜♪このこの〜〜♪」
「ちょっと黙ってろください先輩、今ここでジャーマンスープレックスを決めてもいいんですよ?」
「できるの、月下くん?ジャーマンスープレックスを?」
話の腰がバキバキに粉砕骨折した気がする
この人はいるとマジで話が進まない
「…話を戻すよ。名付サダメ先輩の身の安全についてはいい方法があるんだ」
「いい方法?」
「うん。月下くんと名付サダメ先輩、どっちも守るいい方法が」
「さっきから気になってたけどアマテちゃんいちいち名付サダメ先輩ッて言うの面倒くさくない?気軽にサダメちゃん先輩とかでも良いよ♪」
もう黙っててくんないかな先輩
「……今あの人影に対抗できるのは私ぐらいしかいない。でも、月下くんとサダメちゃん先輩両方を守るには一人だと心もとない、だったら──
──わたしが増えればいい」
「……はい?」
いきなり何言ってんだこの子は
増える?御神さんが?どうやって?
「ちょいちょいアマテちゃん、増えるって何さ?影分身の術でも使うのかい?そうでもなきゃ人は増えれないよ」
悔しいが先輩と同意見だ
普通に考えて人間が増えるなどあり得な──
───普通に考えて?
「それができるんです、サダメちゃん先輩。
──あまり、驚かないでくださいね」
そう言った直後、御神さんの姿が"歪む"
いや、表現としては正しくないかもしれない。モザイクがかかったような、溶けているような、言葉にしづらい状態だ
少なくとも、今の状態がただ事ではないのは伝わって欲しい
その状態から数秒後、バッ、とテレビのチャンネルを切り替えるように御神さんが元の状態に戻る
髪型も服装も、特徴的な雪景色の瞳もさっきまでの御神さんと同じだ
……ただ一つを除いて
「……ふう。うまく出来たかな、わたし」
「うん。うまくいってると思うよ、わたし」
───御神さんの隣に、同じく御神さんがいることを除けて
髪型も服装も、特徴的な雪景色の瞳も、すべてが御神さんと同じだ、コレは紛れもなく分身と言えるだろう
もはやどっちが本物か分からない、もしくはどちらも本物なのだろうか
……理外者。理から外れた者
御神さんが常識や法則が通用しない存在だとは理解していたつもりだけど、ここまで何でもありだとは思っていなかった
こんなの、もうなんでもありじゃないか
「……あ、え?何?なんでアマテちゃんが二人に…?」
流石の先輩も困惑一色の様子だ
それはそうだろう、僕は御神さんが理外者という前提があったからある程度受け入れているけども、先輩は違う。先輩は御神さんをただの可愛い後輩としか思っていないはずだ
そんな後輩がいきなりマジモンの分身をして見せたのだ。口を開け呆然とするしかないだろう──
「アマテちゃんって、双子だったのか…!?」
どうしてそうなった??
……いやまあ、理外者がどうのこうのって説明するのも面倒くさし、先輩が納得しているならそれでいいや
「……まあいいか、どう月下くん、わたしが二人いれば月下くんとサダメちゃん先輩もどっちも守れるよ」
御神さんもそう判断したのか、それ以上の言及を避けるように僕に問いかけてくる
「……まあ、それなら大丈夫そう、かな。御神さんならあの人影が襲ってきても大丈夫だろうし」
「良かった、それならサダメちゃん先輩にも協力してもらうってことで」
「ねぇねぇねぇ?二人はどっちがお姉ちゃんなの?もう一人の子はなんてよべばいい?」
さっきから変な勘違いをしている先輩がうるさい
……うんまあ、御神さんが二人に分身したのだから、うるさくなってしまうのも仕方がないのかもしれないが
……実際、もう一人の御神さんはなんて呼べばいいのだろうか?どっちが元の御神さんだったかはもう分からないが、それでも区別はできるようにしておきたい
「そうですね…じゃあ、わたしのことは"御神 ヨミ"、そう呼んでください。見た目も少し変えときますね」
そう言うと御神さん……ヨミさんはヘアゴムでロングヘアーの銀髪を一纏めにする
髪型とはすごいもので、髪をまとめるだけで普段の御神さんとは違う、軽やかで元気そうなイメージが見られる
こうして見ると、先輩の言う通り双子の姉妹にしか見えない
元が同一人物だとはとても思えない
「わーー!!可愛いーー!!♪♪♪ヨミちゃんも、私のことはサダメちゃん先輩って呼んでねぇーー!!♪♪たくさん頼っていたからねっ♪!♪!」
狂喜乱舞ではしゃいでいる先輩。可愛らしいのは僕もそう思うが、少しはさすがにしてほしい
ここ図書室だぞ
「……でもさあ、先輩を協力してもらうって言っても、何をすればあの人影を捕まえれるのさ」
「そうだね、まずは情報を集めなきゃかな。いろんな人に聞き込みをして、昨日今日で人影を見たことはあるか、とかね」
「思ってたより古典的は方法だな……」
そんな先輩を横目に僕たちは作戦会議をしていた
御神さんから出された方法は昔ながらの方法、地道な聞き込みによる標的の追跡
異常的な理外者とは思えないほど常識的な手段だ
「だって昔から使われている方法だよ?これが一番いいに決まっている。シンプルイズベスト、だよ」
昨日から思っていたけど、もしかして御神さんってかなりの天然か?
でもその考え方は少し危ないかもしれないよ?昔ながらが全部正しいわけじゃないからね。温故知新していこう御神さん
「でもまあ、今はそれが一番かな」
「でしょ?だったら、今すぐにでも行動しよう。時は金なり、だよ」
御神さんにそう言われ時計を確認する。時刻は午後3時45分
完全下校時刻にはまだまだ時間がある
ただでさえ情報が少ないのだ、ギリギリまで情報をかき集めるべきだろう
「それなら二手に分かれよう、僕と御神さん、御神さんと……ヨミさんと先輩でいいかな?」
「うん。そっちの方が効率的だね、異論はないよ」
「先輩もそれでいいですか?……先輩?」
返事がない?一体何があったのか、そう思いながら先輩の方を見れば───
「うーん……ツインテールも似合うなぁこの子は、素材がいいと何でも似合うな……次は手間がかかるけど三つ編みとかしてもいい?」
「いいですよ」
──ヨミさんの髪の毛で遊んでいた
ツインテールやサイドテール、三つ編みやらお団子やら…
ヨミさんの多い毛量を使って様々な髪型を試していた
……いや人の話聞かずに何やってんだこの人
僕たちが作戦会議している間すっとこれしてたの?自由奔放すぎるだろ……
ていうかヨミさんも言われるがままでいいの?少しは抵抗してもいいんだよ?僕も手伝うからさ
「ね、ねぇ御神さん、好き放題やられているけど、あれいいの?」
「うん。サダメちゃん先輩が楽しそうだし、別にいいかなって」
「………そっかー」
されるがままの御神さん。過剰なほどに善意を押し付けてくる名付先輩
もしかしてこの二人だけだと先輩を止めることができないのでは?
そして僕たちは二手に分かれる手はずだ、……それはつまり
「先輩が制御できない………!?」
猛烈に嫌な予感を感じる、だけど他にいい方法も思い付かない
「……もう、なんとかなれ……」、
これ以上考えるのも面倒だ。勝手になんとかなるのを祈りながら、僕たちは情報収集に向かっていった