リガイデイズ!〜初恋の人がなんだかおかしな人だった〜 作:トマトォォォァァォ!!!!!
……状況を整理しよう
今僕たちがる場所は一階の東の男子トイレ
その奥で吹き飛ばされた人影が形を成そうと膨張と収縮を繰り返している
もう既にある程度は形になっていて、どんな物を殴り壊すことができそうな程に肥大化した腕、その腕が六本も生えている
誰がどう見ても化け物だ
対して御神さんは出口の扉を背に、左手で僕を抱き抱えながらの臨戦態勢を取っている
大幅なハンデと言えるだろう。あんな殺意が形を得たような化け物相手に片手が使えないのはかなりの枷だ
しかも御神さんの性格的に僕を一人で逃げるようにはしないと思う
いくら御神さんが強いと言っても、こんな不利な状況は不味いはずだ
「さて、どうしようかな……」
その疑問に連鎖するかのように御神さんが呟く
その顔はいつも通りの無表情で、全く焦っているようには感じられない。が、その声色は冷ややかでいつもの余裕はそこには無かった
どうやら御神さんも同じ事を考えているらしく、どう状況を好転させるかを思案している様子だ
「とりあえず、狭いしここから離れよっか……えいっ」
その言葉を発すると同時に、彼女は背にしていた扉を蹴り飛ばした
メキメキ、バキバキと金属の破壊音を立てながら扉は廊下へと吹き飛ぶ
そして扉を蹴り壊した勢いのまま御神さんが僕を抱えながら廊下に飛び出し、そのまま走り去る
「ちょっ、えぇ!?と、扉が!トイレのドアがプッ壊れて……!?」
「大丈夫、既に人払いは済ませてあるし、壊れたドアも後で直す。今はあの人影をどうにかするのが大事だよ」
「いやそうかもしれないけど…!」
理解はできていても納得はしづらいのだ、ドアが蹴り壊されるなんて普通ありえないのだから
しかし、人払いとは一体何をしたのだろうか?まあ今気にすることではないか
「それに、ああでもしないと呑まれていたよ」
「呑まれ…?…ん?、うわっ」
"呑まれる"なんて意味のわからない事を言われたかと思ったら後ろから轟音が響く
それに反応して後ろを振り向けば、あの人影が肥大化と膨張を重ねたのか、巨大な怪物となって壁や床を破壊しながら迫ってきているのが見えた
人間の何倍の大きさになり、胴体から生えた六本の腕を蜘蛛のように器用に扱いながら、這い回るように迫ってくる人影
いや、もう人影とは言えない、すでにあの影は人の形を捨てており、名実ともに化け物だと言える
御神さんの言う通り、あそこでドアを蹴り壊してでも迅速に脱出していなければ、凄い勢いで膨張していた人影に呑み込まれるように潰されていただろう
「モンスターパニック映画じゃないんだぞ……!?」
「わたしもこんなの初めてだよ。月下くん、あなたはどうしてこんなのに狙われているの?」
「こっちが知りたいよそんなの………本当に……」
まるで何も分からないかのように振る舞う
実際、なんでこの影に狙われているのかなんて分からない、目的が、意味が、理由が、何もかもが分からない
僕とあの影には何の繋がりもないはずだ……
『大丈夫だよ────ヨゾラ君』
──だったら、あの時聞こえた、影から発せられたあの聞き覚えのある声は………
「…………それはそうと!この後どうするんだ!?このまま逃げてでも埒が明かないんじゃ…!」
只今は闇雲に影から逃げている状況にしか見えない
突き当りに当たったら曲がり、階段があったら登り、別の階段があったら降りる
人払いをしたとは言っていたが、ここまでで人と会っていないのは奇跡に近い
いずれ誰かに見つかるだろうし、逃げているだけではあの影はどうにもできない
「うん。だからグラウンドにおびき寄せる」
「グラウンド!?」
確かに、グラウンドなら今走っている廊下とかより広く、空中を蹴れる御神さんにとっては室内より動きやすい場所だろう
だけど懸念点がある
「でも、グラウンドってことは外から見えるってことでしょ!?大丈夫この影って見られても!?」
「大丈夫。見た人全員の記憶を片っ端理から消すから」
「力技ぁ!!」
めちゃくちゃ力技だった
どうやって記憶を消すのかは分からないけど、それって頻繁にやってはいけないものだろ多分
そんな事を考えていれば前方にグラウンドへと繋がる勝手口が見える
ドアは閉まっているが、御神さんなら先程の扉のように蹴り壊せるだろう
「出るよ。しっかり捕まっててね」
「……っ!」
そう聞こえた一秒後、体に衝撃が走る
本来人力で壊せるはずのないドアを蹴り壊しているのだ、双方にかかる衝撃は少しでは済まない
人域を越えた御神さんはともかく、一般人である僕は例え直接蹴ってなくとも、御神さんを通じた衝撃だけで身体がバラバラになりそうになる
「さて、影は……あれ?」
僕を抱えながらドアをぶち抜きグラウンドに飛び出した御神さんは、後ろを向いた瞬間に困惑の声をあげる
僕もそれに続き後ろを見れば………
・・・・・・・・・・
……影がいなくなっていた
「なっ……!?」
「……何処に消えたかな…」
今まで通ってきた経路を見れば、遠くからでも分かる程の破壊痕が見える
間違いなくさっきまで居たはずなのに、さっきまでのは夢や幻覚だったのか疑ってしまう程に影も形もない
一体どうなっている?
「ワープや瞬間移動でも使ったのかな……いや、そんなのあったらさっきの追いかけっこで使う筈だし……」
御神さんも同じように困惑している
僕よりもこういう状況に対して慣れがあるであろう御神さんですら分かりきっていない
彼女からしても不可解な出来事らしい
「まさか逃げた…?あんな巨体でわたしに気づかれずに…?そんなことできるの?それに逃げる意味なんて……」
御神さんは考えている、だが考えはまとまらない様子だ
その顔色は焦りと困惑に染まっていき、理解がしきれていないと感じれる
(───なんで!?なんで消えた?!)
かくいう僕も困惑でパニック気味でいる
だって何も分からないんだ、そりゃ慌てる
あの影の行動理念が、あの巨体か急に消えた理屈が、なんで急に消えたかの理由が、奴の行動で一貫した道理が、何も解らない
何がしたいのか分からないのに手がかりすらまともに見つけられず、出てきたと思ったらすぐに消える
僕らをおちょくってるのかと思いたくなってしまう
……そう考えると沸々と怒りが湧いてくる
(ああもう!何だ何だ何が起きている!?何が何だか分からない!ああクソ!何なんだよもう!!)
ついに頭が完全にパニックに落ちる
自分でも知らない内にストレスが溜まっていたのだろうか、困惑や焦りといった負の感情が全てストレスに変わる
まあ、数日の内に殺されかけたり非日常に巻き込まれたり化け物に追われたりすればストレスも溜まるだろう
(どいつもこいつも僕を変な事に巻き込みやがって!僕はどこにだっているただの高校生だぞ!?こんな目に遭ってもどうしようもないんだよ!!)
自分でもこんなに腹立たしくなれるのかと感心しながらも怒りを続ける
時間にすれば数秒程度の激怒、その数秒で血管がはち切れそうになるくらいに怒りを重ね、拳を握りしめる力は食い込むほどに強くなる
はらわたが煮えくりかえる程の激情が身体中を駆け巡り、より鮮明に研ぎ澄まされていく
怒りは殺意に変わり、意識はそれに比例するかの如く凶悪な思いへと象っていく
最低限周りに見せないように内心だけで済ましているのは最後に残った良心と言えるだろう
(ふざけんなよ本当に……!出てきたと思ったらすぐに消えて…!お前は僕をどうしたいんだよ影ぇ!!ああクソ、クソ、クソがぁ!!あああぁぁぁぁ!!!──────
………ふう、これで切り替えれたかな)
すっと、息を吹くように吐き出す
息に怒りを乗せるように吐き出し、頭から熱が逃げていくような錯覚を得る
殺意にまで変化していた想いは消え、その身体に残ったのは研ぎ澄まされた感覚だけだ
言い忘れていたが、これは僕が冷静になる時にする一種の精神統一ようなものだ
一度感情を爆発させ出し切ることにより、とてもリラックスした状態で目の前のことにより集中出来るようになるのだ
これをするとしないとでは効率が二、三割増ぐらい変わる
結構便利だからやってみたいと思った人は僕の真似をして練習してみてほしい、コツとか自分でもよくわかってないから何も助言出来ないけどね
(さて、考えるか)
冷静になった頭で周りの状況を整理する
時刻は午後6時を過ぎたぐらい、日は沈もうと地平に消えようとしている直前であり、日に照らされた校舎の影が僕たちを覆っている
今僕たちが居るのは勝手口から出て数十メートルのグラウンド
左右に目を向ければサッカーゴールや野球のベースなど部活動の痕跡が見て取れる
もう下校時間を過ぎているためか、周りに人の姿は見えない
次に僕たち自身の状況だ
僕は御神さんに助けられてからずっと抱き抱えられており、グラウンドに立っている今も彼女の傍らに添えられている
当の御神さんは影の唐突な消失により思考を乱されており、何をすればいいか判断しかねている様子だ
最後に影について
いつの間にか僕の影に入り込んでおり、男子トイレで影から這い出て僕を包み込もうとしていた
その後も尋常ならざる様子で僕たちを追いかけてきて、グラウンドにおびき出したと思ったら消えていた……
「───ああ、
「え?」
冷静になって考えれば簡単なことだった
あの影は瞬間移動などで消えたのではない、もっと単純な方法で姿を隠してただけだ
・・・・・・・・・・
「──御神さん!影だ!建物の影に潜っている!!」
「っ!そっか!」
御神さんも理解したのか、地面が砕けるほどに強く蹴り身体を空中へと飛ばす
その動きを見て僕が想起するのは猫だ。たった一度の蹴りで自身の身長の何倍もの高さを、一瞬にして跳んでみせた
何度見ても驚きを隠せない身体能力だ
「─────!!」
御神さんが蹴り飛んだ直後、先程まで僕たちが立っていた場所に複数本の'影'の触手が伸びてくる
それの出所は周りの地面から、正確に言えば地面に映し出された建物の影からだ
影の触手は出てきた瞬間に直前まで僕たちがいた場所を突き刺している
突き刺された地面は深く裂け、砕けた破片が中に浮かぶ。跳ぶのが少しでも遅れていたら僕たちも同じ有様になっていただろう
気づけて良かった
「……よく、分かったね。わたしは気づかなかったよ」
御神さんが僕に称賛の言葉を贈る
と言っても、そんな褒められるようなことではない
まず、西日によって照らされた校舎の影はグラウンド全体を覆っており、地面全体を薄暗く染め上げている
ここで僕は考えた
・・・・・・・・・・・・・・
人の影に入れるなら、建物の影にだって入り込めれるのでは、と
予想は的中して、建物の影に潜った"影'が触手を飛び出し攻撃をしてきた
よく見れば地面の中に蠢く黒い何か……"影"が居るのが分かる
その姿はまるで海を駆けるサメのようだ
周りの状況、"影"の特徴
冷静に整理すれば簡単に分かることだ、そこまで凄いことじゃない
今の状況に比べればどうでもいいことだ
「それは良いとして、これからどうするのさ!?下、ヤバい事になってるよ!?」
下を見れば、地面のいたるところから"影'が蠢き迫って来ている
影の中で膨張し巨大な渦のようになった"影"は、針のように鋭く鋭利な影の刃を地面から僕たちに向かって何千本も放ってくる
あの刃がかすりでもしたら僕の皮膚はそこから綺麗に裂かれ、おびただしい量の出血が起こるのは想像に易くない
「針千本」という言葉はこのために生まれてきたのではないかと錯覚してしまう程にこの場面に似合っている
こんな地獄絵図に比べたら僕の活躍なんて些細なものだ
そんなものより今の対策を考えなくては
「そうだね………月下くん、舌、噛まないようにしてね」
「へっ?……って、うわぁッ!!?」
発言の意味を理解せずにいると、急に身体に強烈な負担がかかる
身体中が透明な壁て押しつぶされるような感覚、それと同時に身体を台風の中何もせず突っ立っているような強風が僕を包む
訳も分からずに目を開ければ、景色が絶え間なくと変化し続けている
例えるなら、ジェットコースターに目を開けながら乗っているようなものだろうか
「んグッ…!?ウッ…グぅッ……!!?」
「ごめんね。苦しいだろうけど我慢してほしい、アレから逃げるにはこうするしかなかったの」
……段々と状況が整理できてきた
・・・・・・・
御神さんは今、空を飛んでいる
より正確に言えば蹴り飛んでいるだろうか、空中を何度も蹴り続け加速し、閃光のような速度で空を切る
先ほども地上から十数メートルを跳んでみせたジャンプというにはあまりにも超人的なそれを、御神さんは空中で何度もおこなっているのだ
空中を蹴れる御神さんだからこその逃走手段、彼女はこれにより空中飛行を可能としているのだ
その速度は圧倒的で迫り来る影を近づけさせず、回り込んできた影も間を縫うようにして避けきっている
「でも……これじゃ……!何の意味も……!」
こうして逃げ続けているだけでは意味はないだろう
御神さんにも体力の限界はあるだろうし、チラリと見えたが影の刃の数もさっきより増えて僕たちに迫って来ている
このままではジリ貧になってしまう
「大丈夫だよ、そろそろ来るはずだから」
「来……る………?」
あいも変わらず何を狙っているのか分からない
ここから現状を一変する何かが来るらしい、本当にそんなことがあるのだろうか
正直言ってあの"影"をどうにかする方法が何も思いつかない
御神さんが殴って蹴っても特に堪えた様子のなかった"影"相手に御神さんはどう対応するのか
「……ん?」
そんなことを考えていたら不意に視界に何かが映る
一瞬だったが視界の端に銀色の閃光のような物が見えたのだ
今なお空中飛行で視界がグルグルと切り替わっていく中でも、その銀色の光は僕の注目を集めるには十分な程に異質だった
それは太陽が沈み込もうと動き、辺りに暗闇が広がる夕暮れの中では一際異彩を放っているように見えて──
「──来た」
僕がその閃光を捉えたと同時に御神さんも呟く
そう呟くと閃光がそれに応えるように揺れ動き、幾何学的な軌道を描きながら高速で校舎側から空を飛んでくる
その閃光は数秒もせずに僕たちの居るグラウンドへと迫り、そして───
「──せいっ」
──"影"が潜んでいる地面を打ち砕きながら着地する
耳を裂くような轟音を出しながら地面に落ちる銀色の閃光
それが着地したグラウンドの大地は爆弾でも落ちたのかと勘違いをしてしまうほどに深く広く抉れており、地面から出てきた影もその衝撃のせいか半数が消し飛んでいる
「あれって……」
その閃光の正体は一目見れば分かることだろう
銀色の長髪を揺らし、僕たちと同じ制服を身に着け、小柄な身体からはその体躯見合わない威圧感を放ち、魅入ってしまう程綺麗な雪景色ような瞳をした少女
───御神アマテが、そこに立っていた
いや、正しく認識するならその分身体の御神ヨミだろうか
僕を抱えている御神さんとあそこに立っている御神さん、その二人を説明するにはそれしか可能性がない
「……あれ?名付先輩は?」
まず気になったのはそれだ
確かもう一人の御神さんは名付先輩を護衛しながら情報を集めていた筈……
「それなら大丈夫だよ、そもそもサダメちゃん先輩を守ってたのは"影"が何処にいるか分からなかったから、今は目の前にいるからね、戦力を分散する必要はないよ」
なるほど、それもそうか
「それならいいけど……でも、ここからどうするの?」
もう一人の御神さんが来たからと言って状況が劇的に変わった訳では無い
下を向けば地上で"影"と格闘しているもう一人の御神さん……ヨミさんが見える
確かに先程の一撃は強烈だったが、"影"を滅するには至っていない
消し飛んた分もすぐに回復してヨミさんの四方八方から攻撃を仕掛けている、なんとか退けているようだがあのままだと押し切られてしまいそうだ
これじゃ全滅までの時間が少し延びただけで──
「いや、これでいいんだよ───これで終わらせるから」
「……え?」
「あの分身には時間稼ぎをお願いしたんだ、……コレは、集中しないと危ないから」
意味深なことを言い放った御神さん
一体何をするつもりだ………?
「──月下くん、動かないでね。巻き込んでしまうかもしれないから」
そう言うと御神さんは自身の制服の胸ポケットに手を入れる
そして何かを掴み、引き抜くかのように取り出す
「──何、それ」
取り出したのは───刀だ
全長60cmほどだろうか。ブルーダイヤモンドを思わせるような青白い刀身に、沈みゆく太陽のオレンジ色の光が反射し、見ているだけで思わず惚れ惚れしてしまうような美しさをしている
刀に詳しくない僕でも業物だと理解できる、それほどまでの存在感をその刀は放っている
絶対に制服の胸ポケットに入るはずのない仰々しい刀を片手で持ち、いつの間にか飛ぶてはなく空中で佇んでいる御神さん
その姿は人間らしくなく、何か別の上位存在……まるで神だと勘違いをしてしまいそうになる
「──断ち切れ、『瞬ノ刹那』」
そう言い、彼女は刀を振りかざす
届くはずが無い、今御神さんがいる場所は地上から何十メートルも離れた空中だ
物理的に考えて、斬撃が届くはずが無いのだ
「──嘘、だろ?」
・・・
だが、届いた
グラウンドの端から端に一直線に深く切り込みが入り、地上で渦巻いている"影"が真っ二つに分かれる
今の今までどんな攻撃も意味のなかった"影"も、グラウンドと共にいとも簡単に裂かれる
まさしく神の御業だ。モーセは海を二つに割ったように、御神さんは大地を切り裂いたのだ
おびただしい数の影の刃はそれに連鎖するように消えていき、"影"が収縮していく
後に残ったのは身体が半分に千切れかかり、明らかに弱っている"影"だけだ
「──この刀の名前は『
刀を再度胸ポケットに仕舞いながら御神さんは言葉を続ける
「切りたいと思ったものはなんだって切れる───理から外れた物だよ」
理から外れた、といった
それつまり、御神さんや"影"と同じく常識や当たり前が通用しない刀なのだろう
だが、それにしたってあまりにも斬撃の規模が大きすぎる
グラウンド全体に広がっていた影の渦をたったの一太刀で切り伏せたのだ、一体どんな風に振ったらこうなるのか──
「わたしはただ振っただけだよ」
「え?」
心でも読んだのか、僕の内心の疑問に答えるように答え合わせをされる
「切りたいと思ったものはなんでも切れるって言ったでしょ
例えそれが山でも海でもこの刀はなんでも切れる、際限なくね」
「いや、それでもこれは……」
「『でも』とか『なんで』とかは関係ないんだよ、月下くん」
「関係無い…?」
ふと、目が合う
いつも通りの雪景色ような瞳が、僕を見透かしているようで……
「──理から外れた存在が起こす事象に、理由や理屈、原理なんてものは存在しないんだよ」
───ああ、そうか、ようやく理解出来た
僕は今まで理外を常識の範囲内で収めようとしてた、限界を考えていた
違う、違う違う違う違う────違う!!
理外者には理なんてものは無い、理由や理屈も、原理も、道理も、論理、理論、真理、管理、合理、条理───
───理外には、理は通用しない
そんなは分かってたはずなのに、
認識を改めろ、常識を当てはめるな、当たり前を疑え
理を外れるとはそういうことだ
「……それは良いとして、今は影についてだよ」
「あっ、そうだね。早く何とかしないと……って、あっ!」
理外に向けていた意識を"影"に戻せば、身体を不気味にくねらせながら手足を使い、赤ん坊のはいはいのように逃げ出している
はいはいと表しはしたが、その速度は赤ん坊のそれとは違い、自転車をフルパワーで漕いでいるかのような速さをしている
「ちょっ、逃げているよ!?早く捕まえなきゃ!?」
「いや、これでいいんだよ。このまま泳がせる」
「えっ!?………あっそっかぁ!今すぐ倒すんじゃなくて、"影"を逃がしてそれを追って何処から"影"が来ているのかを調べようとしてるってこと!?」
「本当に理解が早いね月下くん……!?」
どうやら間違ってないようだ
確か御神さんはあの"影"自体は理外者ではなく、理外者が操っている、もしくは理外者から生まれた存在の可能性が高いと言っていた
もしそうなら"影"の逃げ先にその理外者がいるかもしれないと踏んだのだろう
「……今度は逃さない。絶対にその正体を突き止めてみせる」
そう言いながら御神さんは僕を抱えたまま空中から"影"を追う
地上を見れば分身体であるヨミさんも"影"を追っているのが見えた
「……それにしても、あんな斬撃を受けていてよくあれほど軽快に動けるな……」
思わず言葉が溢れる
グラウンドごと切ったというのに、それでもあの"影"は異質な動きで異常な速度を出している
グラウンドを切り裂いた一撃でさえ"影"には致命傷にはならないのか
「そりゃ手加減したからね、出所を調べなきゃいけないから殺し切るわけにはいかなかった。まあいわゆる峰打ちってやつだよ」
「できんの峰打ち?あの規模で???」
衝撃の真実た
グラウンドごとぶった切る一撃でも手加減の範疇らしい
これで加減をしたのなら本気ではいったいどうなるのか、地球が真っ二つにでもなってしまうのだろうか
そんなことを考えながらも僕たちは"影"を追う
"影"は学校を抜け出し、路地裏や建物の隙間を某蜘蛛男のように自身の身体糸のように伸ばし素早く駆け回る
御神さんとその分身もそれに振り切られないように速度を上げ追従する
当然、そんな風に動いていれば通行人に見られるだろう
道行く人々からは「なんか黒いのが居る?」「なんだあの子たち…?」「映画の撮影とか?」と喧騒が大きくなる
中にはスマホなどで撮影をしている人もいる、高速で動く"影"とそれを追う銀髪の美少女だ、SNSなどに上げればバズリ間違いなしだろう
「ねえこれ大丈夫なの!?めちゃくちゃ見られてるけど!?スマホも向けられているけど?!」
「大丈夫。このくらいなら国家の力でもみ消せる。今までもこういうことは何度もあった」
「この世界こっっっっわ」
知ってはいけないようなことを知ってしまった気がする
多分だけど僕もこれまでの人生で何度か記憶を消されてると思う。こんな物騒な世界だし
そんな事もありながらも"影"はまだ止まらない
既に太陽は沈みきっており、辺りは暗闇に包まれている
そんな中でも"影"は一心不乱に駆けるのをやめない
いったい何処へと向かっているのか……?
「……ん?あれ、ここって……」
「どうしたの?」
「いや、ここ見覚えが……ってあれ!?"影"何処行った!?」
少し目を外したらと思ったら"影"を見失ってしまったようだ
視界をどんなに動かしたとしても"影"を見つけることができない
空中から地上全体を見渡しているはずなのに一切見えない
こんな時になんてミスをしているんだ僕は!
まずいまずいまずい──
「大丈夫、わたしが何処にいるか分かっている。それにどれだけ探しても無駄だと思うよ。」
「へ?なんで?」
「"影"が影に入り込んだんだ、しかも人の影に」
それは見つからなくても仕方がない
以前僕の影の中に入り込まれた時も特に違和感は無かったし、見た目で違いは無かったはずだ
だが、人の影の中にか
僕以外にも入り込むんだな、危ないし早く離れさせてあげないと
「誰に入り込んだの?早く助けあげないと」
「そうだね。早くしないと………ほら、あの人、あの公園のブランコに座っている人」
「どれどれ………────は?」
───既視感があった
ブランコに座って、俯きながら何か思いを馳せているであろう少年に対して、僕は強烈なまでの既視感があった
ずっと前から、一緒に歩んできたパートナーのような安心感や信頼が混じった感情、それを少年を一目見たときから感じている
…─………間違い無い。あれば、あいつは──
──────────
「よっ、と」
空中から僕を抱えたまま御神さんが落ちてきて、何事もなかったかのように着地する
地上から数百メートル離れた空中から落ちてきたせいか、着地の際に強い風圧を発生させる
その風圧で二つあるブランコの内、少年が座っていない方のブランコがキィキィと軋む音を立てながら揺れる
「えっ誰!?何?なんで空から……!?」
流石に気がついたのか、少年が顔を上げて困惑の声を漏らす
当たり前だろう、空から人を抱えた女の子が飛んできて、しかも同じ姿形をした分身もいるのだ。驚かない方がおかしい
「御神さん、降ろしてくれない?」
「うん。分かった」
そう言い御神さんが僕を解放する
久しぶりの地面の感触で思わずバランスを崩してしまいそうになるが、すぐに慣れる
「………」
──状況を整理する
今僕がいる場所は学校からかなり離れた公園
今少年が座っているブランコや、所々に長い年月を感じさせる錆があるシーソー、子供達の手垢や靴の裏の汚れなどで汚れているジャングルジム、昼間に子供達が遊んだ痕跡が残っている砂場など公園らしいものが一通り揃った普通の公園
今は6時をとっくに過ぎている、こんな時間まで公園で遊んでいる子供はいないだろうし、不良でもない限りこんな時間に公園に来る高校生などもあまり想像できない
普通だったら、今ここに人なんて居ないはずだ、だが……
「───あれ、ヨゾラ君だ。なんでこんな所に?」
目の前にいる少年、─────光跡テオがその考えを吹き飛ばした