頭痛がする、ズキズキと痛む、原因がわからない。
早く夢から覚めないと学校に遅れてしまう、それだけは確かだった。
「うっ……うっ〜ん……ったく、最悪な目覚めだ」
◆ ループ1、開始 ◆
「何だったんだ……今朝は……?」
俺はギリアム、ピカピカの
それと俺は転生者だ、まぁ何か凄いことが出来れば良かったが前世も今世も普通の普通、飛び級するよりダラダラしてたほうが余っ程いい、そんな感じで自堕落な俺である。
「なんか違和感あるな……」
デジャヴっていうやつが今日は酷い、いつもの道がやたら長ったらしく感じるし、足取りも重い、卒業間近なのに行きたくないのか俺は。
きっと体と頭がまだ起きてないんだろう、そう思うことにして、俺なりに最善と思って選んだ高校の前へと立った。
「私立天当院高校……元女子校……気後れするなぁ」
実家が太すぎる奴が通ういわばバリバリのお嬢様学校だったらしいが、今年から学力水準を下げ男子も入れる共学になった。
理由は経営陣がどうたら、社会奉仕がうんたら、とニュースで見たような気がしたが俺のスッカスカの頭にさえ留まらなかった、取り敢えず崇高な話だった気がする。
あえてここを選んだ理由はレイミが俺をここへ来るように説得したからだった、俺もどこでも良かったし知り合いがいるほうが安心なので、選んだ。
あれ? なんで自分で感心してるんだ? 気持ちわりぃ、夜更かししてないんだけどな、今日くらいは思考停止気味でもなんとかなるだろ。
ま、お嬢様たちが通ってた豪勢な学校を楽しもう、転生者だが異世界感ゼロなこの世界では、ここが異世界のように思える。
「待って、止まって」
校門から入ろうとして、校門前で立っていたスーツ姿の女性に呼び止められた。
先生、にしてはいささかスーツの胸元を空けすぎな気もする、元女学校ならこんなものだろうか?
ポニーテールで、メガネをしている、スーツの女性、要素だけ見れば真面目そうな、悪く言えば融通利かなそうな女性は俺をつま先から頭まで眺め、「うん」と頷いて手で校舎の方角を示した。
「よし、ちゃんとここの入学生ですね、あっちが受付、まっすぐいけば案内担当の教員がいますので、案内を受けてください」
「ありがとうございます」
手を振ってそこで別れた、寄り添うタイプの良い人だと思うね。
慣れない場所での誘導を担当している人だったか……あとでお近づきに……いや、レイミがうるさそうだ。
邪な気持ちを心の引き出しの一番奥に押し込めて、足取り軽く荘厳と感じさせる校舎へ向かう、金の掛け所が貴族っぽいのは経営母体にして世界的大企業である天当院グループが旧華族とか関係ありそうだが、答えはここで貰えそうにない。
玄関直ぐに机が並べられ名簿がいくつか並ぶ、机を挟んで女性教員が一人、ここが受付か。
「わあ、外国人の方ですか! ……あ、えっと、お名前を」
「あ、ギリアム・リンカレットです」
「日本語ペラペラですね! ……あ、すいません」
「いつも言われます、お気になさらず」
いつもの。
俺の自認が日本人だけにこのギャップが面白い、俺の両親は共にアメリカ人、アメリカ的美形に育った自負はあるけど、星条旗より日の丸のほうが落ち着く。
この母譲りのブロンドヘア、父譲りの少し浅黒い肌、青い目、いずれも日本離れしているが、だからとなにかスカウトされたりはしない、あくまで一般的な範囲で少し美形なんだろう。
「はい、ギリアムさんの確認出来ました、では入学式会場になっている体育館へ向かってください、案内板がありますのでそれをたどってくださいね」
「ありがとうございます、では」
受付から既に始まってる案内板の矢印ラリーに挑むぜ、まっすぐ、右、左、右、まっすぐ、左、左、左…………左?
「おい誰だいたずらしたやつ」
絶対誰か矢印を反対に向けやがった、無限迷宮になってるぞ、循環参照だぞ、直せよ。
しかし困ったな……ぐるぐる回りすぎて位置感覚を失った、脳内マッピングはゴミ箱行き、矢印にいたずらしたやつは余程の美少女か関わりたくないクズの二択じゃなくきゃ呪う。
チッチッチ、チッチッチ、腹立ちまくりで舌打ちを連打しながら、耳を澄ませてみる、聞こうとしているのは体育館会場で駄弁ってるような奴の声、何でもいい、そういう声が聞こえたらそっち向かった。
「正解どこ?」
これさ、何かの試験じゃないよな? いたずらだよな? 俺だけが迷ってたの? 何処にいけばいい、何処にヒントがある、何かないか……探せ……探すん「あら?」……さっきの先生だ。
「ギリアムさん? どうしました?」
「すいません、道に迷ってしまいまして」
「あらあら、案内板は見てなか…………あれ? イタズラされてますね、これは向きが反対です」
……やったやつ呪いてぇ〜〜。
「あ、時間が迫ってますね、急いでいきましょう!」
「はい! あ、廊下を走ったら……」
「黙ってりゃバレませんよ、ちょっとくらいね」
……常習犯だな。
走ると言っても小走りにいつもより歩幅が大きくなっただけで、男子高生が廊下で繰り広げる曲がり角のデッドヒートまでは行かない、こんだけ広いと走るのも疲れるし。
このあと、つつがなく入学式が終わり、必要なことを終わらせ、書類やらなんやらはまぁ保護者同伴で。
なんだかんだやってたら昼過ぎ、さっさと家に帰るが吉、明日はレクリエーション、その次は授業となる。
天当院高校は小高い丘の上にある、屋上からは街が一望できる、特に夜景がいいんだとか、そもそも屋上って鍵掛かってるから入れないとか言われた、じゃあ紹介しないでよ先生、その後別の先生に怒られてたね先生。
丘の上の学校から降りるには坂を下るわけだ、自転車あれば楽だな、行きが辛いが。
坂道から見える街並みも負けず劣らずといった感じ、ガードレールにもたれて眼下に広がる灰色の平野を見てみる。
「この仕草、主人公っぽいな……ふっ」
もはや景色は見てなかった。
だから、誰かに近寄られても周りを見てないんで反応できなかった。
「ギーちゃん?!」
振り返るとレイミが居た、なんとなく無視して景色に目を戻す。
レイミは幼馴染、お互い気心知れた仲だと思ってる、向こうがどう思ってるか知らないが、まぁよく俺は怒られてる。
「無視っ?! このっ……!」
──ベチィッ!
ケツが割れた!??!!
「いたぁぁぁぁぁっ!?」
痛い! 何!? 痛い! ケツが……割れッ! ケツ割れッ! えっ!? ケツケツケツケツ……! いだぁぁぁぁい!
「何?!」
「無視すんなっ!」
痛みへの反射で目に涙が集まる、一度袖で涙を拭い改めて見直すと。
レイミが居た、怒り心頭、俺の目を覗き込んでいるのは何故無視したのかと伝えていると捉えた、なんで無視したんだろうと他人事のように考えるが、答えを得ようとして考え込んだのがマズかった。
もう一発、今度は軽く、額を指で押し込まれる、体が反って尻がガードレールに当たった。
「無視すんなって言ったのよ?」
「ご、ごめんなさい」
「よろしい」
母親の次に勝てないのは、多分レイミ。
レイミとの付き合いは幼馴染って表現から分かるように長い、家が隣ってのもある、レイミの親が日本語教師だったのもあるか、俺の両親の出会いはレイミの親がアメリカで開いた日本語教室、その縁で俺とレイミが出会ってる訳だ。
思い返した序に懐かしい思い出が蘇ってくる。
レイミが魔法少女のごっこ遊びをして、俺が隣でマスコット役、レイミのお父さんが敵役だったなぁ、なんて。
からかってやろうとそれを口に出す。
「そういえば今も魔法少女? 昔やってたなぁ〜?」
「……はぁ? ケツに脳が詰まってた?
「…………なら今より2倍賢くないと釣り合い取れないけど」
会心の一撃だと思った単語があっさりきり落とされた、何たこの違和感、魔法少女じゃないのか。
魔法少女じゃなくてなんで俺は落胆してんだ、そもそもなんで…………あれ? じゃあこの記憶はなんだ? 夢で見たのか? だとしてもこんな鮮明で正しい記憶だと思ってたのは何だ?
「にゃ〜」
足元にネコがすり寄ってきた、虎柄の若いネコだ、可愛いネコだ……ネコ……虎柄……何か忘れるてる気がする。
「うん?」
「あっ、アンタに付いてきたのね」
「ついてきた?」
「家の前に捨てられての見えてなかったの? 私が保護したのよ」
「あー、見てない」
「お願いします〜! 助けてください〜って訴えてたから、両親もいいって言うからペットにしたの」
ガン! と頭を殴られたような衝撃が走る、実際に殴られてないけどそれだけの衝撃が幻痛として現れた。
フラッシュバックするのはあの日の……俺の死に際に起こった悲劇。
「ギーちゃん?」
いやいや、こんな事俺は知らない……! 俺は……! 俺は何だ……?!
「『もう、シャキッとしてよね!』」
……ハマった、整合性が取れたとも言っていい、俺は俺であることを思い出した、確かにこれは辛いな。
今朝から続いた違和感と記憶の混濁……そして支離滅裂な思考は……ループ前の記憶を引き継いだ影響だ、今、やっと記憶の整理がついた。
これが巻き戻り、もしくは、やり直しか、これが……いい気分じゃないな、他者の人格と重なって混ざるような、今やっと馴染んできた。
状況は把握した、あとはやるだけだ、まずやることは……。
「レイミ、帰ろうぜ」
「……まぁ、そうね」