魔法少女とループ男   作:テムテムLvMAX

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3話 魔法少女の戦いは

「君には『因果』がある」

 

 

 目の前のネコのマスコットが生きているように振る舞い、そう言う。

 私は自分の頭を殴った、痛かった、白昼夢ではないらしい。

 ここが路地裏で良かった、でなければ痛い子に見られていた。

 

 

「無意味な自傷行為だよ」

 

 

 いやに理知的で抑揚のない、端的に容姿に釣り合わない可愛くない話し方をする猫のマスコット。

 

 

「さて、長話をする必要はない、知識を共有しよう、そして暴こう、君の『因果』を君自身が分かるように」

 

 

 そう言って差し出された作られた肉球のある手のひらに、不思議と惹きつけられ……一瞬の目眩に姿勢を崩しかけたが、少し踏ん張れば立ち直れるような軽いもの。

 

 その一瞬は、私を変えた。

 

 私は……魔法少女だ。

 

 

「そっか……そう言う……」

 

 

 自分でも驚くくらい冷静な、落ち着いた声で呟いていた。

 私は魔法少女なのだという自覚が当たり前のようになり、そうなる『因果』が分かり、言い換えるなら『理由』が見えてきた。

 

 幼馴染のギリアム、ギーちゃんを守る、コキュロスから。

 

 その為に出来ることをする。

 

 なら、目の前の存在が与える力に手を伸ばす。

 

 当然の帰結、ギーちゃんは私が守る。全部私が守る。

 

 

「君の精神性はこの力に向いている、そして君はそれを魔法少女という符号を持って自在に使いこなせる」

 

 

 否定するところは無い、私は助けることに躊躇ない、ギリアムが私を頼らなくても、私は助ける。

 

 彼と、私と、その他大勢の為に、私は戦える。

 

 

「我々にも、君にも、そうなる『因果』がある……共に戦って欲しい」

 

 頷く、それで向こうは満足そうにしている。

 

 

「……所で名前は?」

「……ない」

「そ、じゃあシロちゃんね、白いからシロ」

「うむ」

「あと、話し方が可愛くないからもっと愛嬌よく振る舞ってね」

「では、がってんでーい! ……でどうか?」

「謎チョイスだけど及第点、ま、それでいいわ」

「厳しいな……」

 

 原因と結果は結構、だけど私は過程も気にするタイプなのよね、どうせなら可愛くやるわよ。

 

「早速だが、3分後に世界初のコキュロスが現れる、やってくれるかでーい?」

「もちろんよ、私の服がまだ決まってないの、さっさと終わらせてやるわ」

「魔法少女レイミ、がんばるでーい!!」

「……なんか他所から切り取ったようにしゃべるのやめない?」

「………………君がやれと言ったんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 昼と夕が曖昧に混じる時間帯、早いものは帰宅中、遅いものは今から仕事と言ったように商店の並ぶ通りを歩いていたのだろう。

 

 今は、コキュロスが歩いている。

 

 

「逃げろーっ!」

 

 

 誰かが叫ぶと、湖面に石を投げたように波紋の代わりに動揺と恐怖の悲鳴が広がる。

 もうすっかり人がいなくなったカフェから、至近距離で魔法少女になって戦うレイミを眺めていた。

 道幅は広くない、車3台横並びになれば通行止めだ、コキュロスはほぼぴったりその幅に収まっている。

 

 白くて丸い体、適当に描かれた顔と線だけで描いたような適当な手足。

 それだけの存在、それだけなのに人々が逃げ惑うほど、恐ろしい。

 

 表情は変わらない、わずかに手を持ち上げると、軽く振り下ろす。それだけで建物が()()()。えぐり取るでもその周りだけ切り取った訳でもない、触れたものが消える。

 

 消える、消える、消える、最初からなかったように、ゼロになる。

 

 

「原理不明の分解攻撃……ってのが、通説だったな……」

 

 

 カップを回しながら戦いを眺める。

 

 レイミが地面を蹴り十メートルはあろうかというコキュロスの目線よりさらに高く飛び、手に持った杖、ステッキを突きだした。

 

 

「ミラクルビーム!」

 

 

 手に収まっている程度の太さのステッキからわずかに大きくなった光の線が走る、照射しながら縦に動かす、コキュロスを切り、突き抜け、地面を飴細工のように溶かした跡が残る。

 ……その地面はドロドロに融解してマグマのように泡立ち、陽炎が踊るのだ。

 

 

「強……」

 

 

 魔法というにはかなり物理、聞こえてきた気合のある掛け声を信じるならミラクルなビームだ、何処がミラクル? あの熱量なら奇跡に頼らなくてもカッティング出来そうだけど。

 

 しかし、コキュロスは縦に溶断されても無意味とばかりに接合した、断面から無数の線のような手が現れて握りあって引き合った結果だ、気味悪い、クトゥルー的冒涜というべき光景だった。

 

 

「アレ効かないの!?」

「牽制程度でどうにかなる相手じゃないでーい!」

 

 

 必死なのかレイミの声がさっきより大きく響く、話し合う猫のマスコットも釣られて声が大きくなっている。

 

 アレが牽制、牽制かぁ……。

 

 

 実のところ、前の時間軸で魔法少女の戦いの様子は報道されることはなかった、遠景に何かやってるな程度はあったけど。

 あんなミラクル溶断ビームが牽制程度に飛び交う戦地だとは想像もしてなかった。

 

 

「もっと細切れにすれば……」

「1024分割から再生はしないでーい! でも『浄化』するほうが早いでーい!」

 

 

 1024分割はもう液体になってない?

 

 彼女たちの呑気な話し合いは俺まで呑気にしてくれるが、コキュロスは彼女を脅威として見てる、全く感情は読み取れないし感情あるのかさえ判断できない不細工な顔に動きがあった。

 

 目が動く、レイミを捕らえた。

 

 手を振り上げて横薙に、ゴルフクラブを振り抜くように叩く。

 

 レイミは反応出来ずに直撃、衝撃を伴って吹っ飛んで行くが、空中で一回転してふわりとそれほど離れてない場所に着地して、さらに自分を見て首をかしげる。

 

 

「痛くもかゆくもないわね、凄い」

「魔法少女は『因果』の使徒、過程を引き伸ばし結果を先送りしてしてるでーい!」

「それ、後が怖くない?」

原因(コキュロス)を倒せば問題ないでーい!」

「……いいのそれ」

「でい!」

 

 

 ……結構無茶苦茶な設定してんな。

 

 俺が驚く、コキュロスも少したじろいているのか、振り抜いた手を目に持っていき、何度か握り込んではレイミと見比べてる。

 

 レイミが地に足付けてステッキを構える、今からいかにも技を繰り出すぞと意気込んで。

 

 

「シロ、『浄化』ってやつ、やりましょ」

「がってんでーい!」

 

 

 猫のマスコットがステッキに触れると、ステッキは装飾を増して、きらびやかな王笏と言える宝石の散りばめられたファンタジックなデザインになる。

 

 

「やることは簡単でい、因果律をめちゃくちゃにして、自滅させるでい」

「どうやって……というか、どういう原理?」

「コキュロスは結果が先に来て原因が後から来る存在でい、『反因果』なコキュロスをどうにかするには正しく『因果』のルールに従ってもらうでい、そしたら原因が後から来る存在なんて勝手に消えるでい」

「なるほどね」

 

 

 レイミはアレで分かったのか、俺も聞こえる範囲で理解しようとしているけど、どういうことかうまく飲み込めないんだが……。

 

 あ、ステッキが光った。

 

「さぁ! 撃って『浄化』するでい!!」

「……これが魔法少女の本気、ねっ!」

 

 

 確かめるようにステッキを握り直したレイミはその栗色の髪を高まる力の余波でなびかせ、それを大上段へと構える。

 

 杖は光を湛え、世界に正道を示すように神々しくあった。

 

 コキュロスも流石に黙って見ているわけではなく、握り潰そうと腕を伸ばし彼女へ迫るが……触れる前に手が消滅した、あの光に近寄るだけでアウトなんだろう。

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 

 ただまっすぐ振り下ろす、コキュロスは何も残さず、言わず、いた事すら忘れられようなほど静かに、無になった。

 コキュロスが消された後は、何事もなかったように消された建物がそこへ並ぶ、何もかもが元に戻っていた。

 当然コキュロスに消された人間もだ。

 

 こうなることが分かっていたから、至近距離で見ていたんだ、コキュロスは魔法少女に倒されると破壊した何もかもが元に戻る。

 まぁ、終わりの日ではそれが意味をなさないほど数で押されたんだが。

 

 

 

「さっきのアレ、名前付けて良い?」

「でい!」

「ルールオブゴッドよ」

 

 

 意外とセンスがアレなレイミの言葉に吹き出した。

 

 しかし、ルールオブゴッド、そうだろうな、因果の光だ、神の定めたルールに従わせる……これほど的確な名前もないか。

 

 カフェのレジ前にお会計を置いておく、そして元の姿に戻ったレイミをさも偶然見つけたように振る舞いながら合流した。

 

 

「おーい! レイミ! 何かあったのか! 凄い数の人が慌てて逃げたけど!」

「あ〜……化け物がでたのよ、それも凄いの……私も逃げたわ、慌ててね」

 

 

 

 魔法少女とは言わないんだな、なら、しばらくは聞かない。

 こうしてレイミと俺は、普段の調子で帰宅するのだった。

 翌朝、世界中にレイミとコキュロスの戦いが報道された、始まったのだと俺はトーストをかじりつつ思うのだ。

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