「えっと、教室では人目があるので、歩きながらで良いですか? 自販機へジュース買いに行くんですけど」
「かまいません」
そうして了承を得てから俺と天当院さんは自販機へ向かいながら歩く。
ポッケに入れたジュース代、レイミの分も買おうと思って2人分はあったな、よし、なら天当院さんの分もなんか買おう、俺の分はいいや。
後ろを見る、教室から廊下へ身を乗り出して覗く奴らの多いこと、レイミもその中に混じっていたので親指立てて答えておいた、ものっすごい困惑と一緒に同じポーズが返ってくる。
隣を歩く天当院さんのオーラで廊下を歩く生徒たちが割れていく、自然と、それが当たり前であるように道を譲ってくれる。
「えっと、天当院様? でいいんですか?」
「お好きなように」
「2年生……ですよね? じゃあ天当院先輩でも?」
「先輩……ええ、良いですね」
天当院先輩はしっかりと俺を見た上で微笑みをくれる、俺を通り越してその向こうにいる僅かな男子高生は全員ノックアウトして女子たちから白い目で見られて……いない、それが当然とむしろうなずきをもって受け止められていた。
正直俺もびっくりするほど美人で驚いた、人の顔に作られたようなって評価は正しくないんだろうけど、昔両親に連れられて行った美術館で見たような陶器の透き通る白さ、人の手で極限まで凝って作られた精巧な人形のような目鼻立ち、いわゆる人の顔に求める理想形。
神様がいたらこんな美人なんだろうな、と俺は思う。
同時に、レイミってかなり美形だったんだなと思う、見慣れちゃってたと言うのもあるが、天当院先輩に俺がもにょる事なく話せてるのは間違いなくレイミのお陰だ、ありがとう、レイミ。
いつまでも笑顔に見惚れていわけにもいかないので、本題をきり出す。
「天当院先輩は、どういう要件で俺のところへ?」
「ええと、そうですね、端的に言うと貴方の部活へ入りたいな、と」
「自分で言うのもあれですけど、大丈夫ですか? こんな部活で」
今までどんな部活にも参加してなさそうなのに今更魔法少女部っていう奇っ怪な部活に参加していいの? と言う俺の気持ちは伝わったようで。
「大丈夫です、実は私、魔法少女なので」
「え"っ"」
耳を疑いすぎて思わず小指を両耳に突っ込んでかき出した、何も出てこなかった、俺の耳は正常だ。
じゃあ、じゃあ、天当院先輩って魔法少女……? 本当に? で、でもいまだにレイミ以外の魔法少女を見たことがないんだけど? ニュースもレイミ以外の活躍を報道しないし。
まさか、実はレイミより先に魔法少女になっててずっと存在を隠してきたとか? それで俺がレイミに近いから近づいてきた……とかそう言う推理が成り立つな。
「貴方はどんな衣装を好まれますか?」
「……へ? 衣装……?」
「はい、私は特に白が好きなので白いフリルをあしらった白いドレスがお気に入りです」
………………これって。
オーイェーマジかよ俺の早とちり?
「天当院先輩、魔法少女って……趣味?」
「うん? ……そうですよ? まさか私が本物の魔法少女だと思ったんですか? ギーちゃんさんはお茶目さんですね」
「あは、あははは……申し訳ないです……」
「成れたらいいですけどね」
いや、まぁ、居るよね、『魔法少女趣味』って人の一人や二人……
焦ったぁぁぁぁぁぁぁぁ……。
ま、まぁ、本物じゃないならそれでもいい、これで部員一人ゲットだ!
2年の先輩だから、部長を譲るか……? いやいや俺が立てる部なんだし部長は俺だよな。
なんとかかんとか悩んでたら目的地にである自販機の前に到着、ラインナップに珍しいものは…………おでん缶? おでんかぁ…………無視。
天当院先輩は物珍しそうに自販機を見ているので、まさかと思い聞きたくなった。
「自販機、初めてですか?」
「い、いえ……使えますよ? もちろん、ええ」
ちょっとしたイタズラ心が芽生えてきたので、お金を渡してお好きなものを買ってくださいと、言ってみた。
「頂くわけには」
「いえいえ、これは入部への感謝ですので、どーぞ、お気になさらず!」
「それは断れない理由ですね……っ」
「どうぞ」
天当院先輩は自販機の前で硬貨を握り「あそこでしょうか」「ここでしょうか……?」と悩み悩み、少し時間をかけて投入口に気がつき、笑顔が咲いた。
それから欲しいもののボタンを押すがお金が足りないことにしばらく気が付かず連打していたが、直ぐに値札に気が付き追加投入。
ガタン!
大きな音に少し怯みながら商品が落ちた場所を探り、無事に購入完了である。
『今日のおでん缶』を俺に見せるように両手で持ち、人に向ける笑顔というより満足から来る自然な笑いがこぼれる。
「買えましたよ、えぇ、もちろん買えましたとも!」
ふんす、なんて聞こえてきそうな、いや聞こえてくる。
超可愛い、超弄りがいがある、打てば響くとはこの事か! めっちゃ可愛い先輩だな…………あ? 視線!?
振り返るとレイミがいた、それも後ろには鬼の形相の女生徒たちが控えていた、全員、2年生……レイミの背後から10歩も下がるが、見て分かるくらい怒気がドッキドキ。
「あ、レイミ、さん? ……お前もジュース欲しい?」
「そうね……私も、奢ってもらえる? いつものね」
レイミの表情はいつもと変わらないが僅かながら歪んでいる、チラリチラリと天当院先輩を見ているような目の動きもしていた、怖いので指摘しない。
レイミがそういうので俺が買おうとすると天当院先輩の手が俺を制止する、その手を上に向けお金を渡すように言われた。
「私がやりましょう、任せください」
「いやいや俺がやり──」
「私と貴方の仲ではないですか!」
それどんな仲なの?
「ふ〜ん」
重、なんだ……この、レイミの圧はっ……!
「ギーちゃんさん? さ! 渡してください、バッチリ買えますとも!」
「あ、はい……お願いします、コーラで」
「はい!」
ゴウ! ……幻覚だ、幻聴だ、2年生の先輩方が怒るだけで暴風なんて起きっこない、起きるわけがない!
一瞬、一秒が何時間にも引き伸ばされたように長く感じ、自販機の操作する音が嫌に耳に残るほど静寂だった。
「どうぞ」
「どうもありがとうございます、天当院先輩」
購入したコーラは天当院先輩からレイミに手渡され、互いに笑顔だったが、なにか硬い壁のようなものが間に挟まっている錯覚もあった。
いつの間にか女生徒の一人が天当院先輩の側に居て、耳打ちとはいかないが近い距離でやり取りをしている、その動きは執事のようだ。
「天当院様、そろそろ午後の授業が始まります、教室にお戻りを」
「あら、そうですか……少し待ってください」
天当院先輩が俺へと向き直る、俺も何事かと少し緊張気味に相対する。
「えっと……私らしからぬお願いですが……ギーちゃんと、呼ばせてもらっていいですか?」
「え?」
「その……あと、友達、とかそんな関係になれたら……ダメですか? もちろんレイミさんとも」
「え?」
2回目のえ? はレイミからだった。
俺たち二人ともこのお嬢様に面食らわされた。
合図もなしに同時に顔を見合わせ、考えが同じだろうということで俺が代表して答えを出す。
「もちろん!」
「ありがとうございます、この天当院ましろは皆様のお友達です! では!」
ましろ……?
ましろ……??
ましろ…………???
ましろ!? 天当院、ましろ!? ……待て、じゃあ待て、待て待て待て……本物じゃん、嘘じゃん、趣味嘘じゃん、モノホン魔法使いじゃん! 夢? これ夢!
「レイミ、俺を蹴ってくれ」
「丁度、蹴りたかった所よ、このクソたらしがっ!」
激痛し。