魔法少女、その単語を初めて知ったのは意外にも父がきっかけでした。
「ましろ、これをごらん」
そう言って手渡されたのは、絵本、厳しい父に似つかわしくない、ラブリーでゆめかわーな、緑色のラメ加工された、本。
そこに描かれていたのはこの時の私よりも年上の女の子が激しく傷付いても立ち向かう姿。
『コールオブジェノサイド//マッドネス』と言うタイトルの……これ多分父の蔵書で、私に渡す方ではないのだけど。
「あ、コジマはまずい……違う、こっちを渡したかったんだ」
今度は普通に私と同い年くらいの女の子が描かれた本を渡してくれた、タイトルは『あるるかんマジック』、5色5人の女の子が楽しそうに笑っている、その上に糸を引く大きな手が無かればもっと可愛かった。
「これはましろも好きなるよ」
「ありがとうおとーさま!」
思えば、父の魔法少女趣味が私に遺伝した瞬間だったのかもしれない。
それから、私は魔法少女にのめり込んだ、父は父、私は私で、ジャンルは違えど同じ趣味を共有できた、だからこそ母が居なくともさみしいことはなく、危険だからと高校生になるまで友達の一人も出来なかったことに不満はない。
私、天当院ましろは、どうやっても天当院
私が天当院高校に入学したのも、そこで部活に入らないのも、全部父の配慮、私に自由にしていいと言いながら、その環境を整えながら、裏ではゆっくりと糸を引いている、親の心配を無碍にはしない、私はできた子、優秀、絶世の美人だから……それ以外のことはしない。
これから私は卒業まで、趣味も話題も共有出来ない人たちの中で愛想笑いしながら「そうね……まぁね……」って言いながら気不味い時間を過ごすんだわとか思いながら。
いっそ、ならいっそ私をもて遊ぶくらいにチャラい人でも現れないかと思って父に共学を提案した、通ったのは1年後だったけど、それでもいい。
そして、現れた、現れたのは栗色の綺麗な女生徒、1年生で、スポーツ万能のイケメン女子が来ているとバスケ部の方々が色めき立っていた、その彼女だ。
「どうも先輩! いきなりなんですけど『魔法少女部』に興味はないですか?」
父の回し者を疑った、でもさすがの父もこんな回りくどい事はしないだろう……恐らく、願望込みで。
けれど同じクラスの私の取り巻きたちが彼女を押しながしてしまい、私は何も言えずに終わってしまう。
「ギーちゃん! いや、ギリアム・リンカレットをよろしくお願いしますぅ〜〜!」
押し流された彼女が最後に残した遺言「死んでねぇわよ!」が私の心を動かした、そういえば一人外国人の方が入学してきたのを覚えていた。
外国人の方が魔法少女部を作るなんて、偏見なのでしょうが、思っても見なかった。
その程度の興味から話を聞こうと思った、何をしても父の庇護下から抜け出せないのならせめてそのなかで自由に振る舞おう、とそう考えていたのだから。
「自販機初めて?」
運命があるのなら、ここに至るために定められていた『因果』があるのなら、私はそれを喜びます。
ギリアムリンカレット、いえ、ギーちゃんこそ、私が望んだ人だった。
◆
「天当院先輩、ちょろすぎない?」
「さぁ? ……さぁ?」
「ほら、本人もわかってなさそうだぞ」
「くっ……」
まさか、こんなことになるなら天当院先輩を誘うんじゃなかった。
今集まってる理由はギーちゃん、私、天当院先輩で残り二人をどうするかという相談のため、もうあと1日しかないけど、どうするの? という話。
……くっつきすぎなのよね、あの二人、ギーちゃんと天当院先輩、くっつきすぎなのよねぇぇぇ〜〜?
先輩だからと私の席を譲った、それはいい自分でやったことだから、でも何この人、「友達だから引っ付きましょう」とか意味のわかんない理由で真隣でイチャイチャプレイしやがってころ……んん、
「おーい、レイミさん? 殺気がすごいんだけど? 美人のウラキ顔見たくねえよ?」
「なにそれ」
「うわぁ急に真顔になるな!」
「うふふ」
何がうふふだ! 何が! うふふだ! そこは私の席なのに! 幼馴染が負けヒロインとか誰が言い出したんだこんちくしょう!
はぁ……なんで私、こんなに心乱てるのかな……いつも一緒に居るだけじゃないの、そうよね、だからかな、いつもの場所取られて落ち着かないだけよね、お気に入りのベンチ取られてギャーギャー言ってるだけよ、猿か私は。
「よし、落ち着こうな、さてと……あと二人どうする?」
「そんなの天当院先輩に掛かれば2人くらい引っ掛けてこれるわよ」
「出来ますけど……多分全校生徒が入部しますよ?」
「却下! 効力が思った以上に強すぎです!」
想定通り人は集められるけど、想定通り過ぎて人が集まり過ぎる……あーあ、ギーちゃんのクソたらしのせいよ、本当に天当院先輩が入部する気になるなんて思ってもなかった、ギーちゃんがどんな手を使ったのか知りたいわね、もうサギーちゃんよサギーちゃん」
「おーい、声出てますよ、声って、誰がサギーちゃんだ、詐欺師になった覚えはねぇ!」
パンパン、2回手をたたく天当院先輩はそれで場の空気を切り替えようとしてくれた、ので、私もギーちゃんもそれに乗っかる、いつまでもフザてると話が進まないものね。
「では、私から提案をします」
「おお、流石先輩」
「お手並み拝見ってやつね」
立ち上がり、威張るように胸を張る、私よりある……いや、私の方がぎり大きいか。
「3人で、申請通します」
「「ん?」」
声が重なった、いや、幼馴染だからじゃなくて重なってしかるべきタイミングが一緒だっただけだ。
3人で申請『通します』? 断言してる辺りなんかこう……まさか?
「えっと、最低5人必要なんだけど?」
ええそうね、ギーちゃんの言う通り。
「通します」
……聞き間違いじゃなかった。
「私は天当院ましろです、ご存知ですよね?」
「そりゃもう」
「みなさんは天当院高校の学生ですよね?」
「まぁね、そりゃそうよ」
「じゃあ、私がルールです」
「え? 生徒会は? 部活申請って生徒会経由じゃ「黙らせます」……うっす」
……天当院グループ、先行き大丈夫なの?
とは言え、これ以上の解決策はないのだから、私もギーちゃんも止めることはなかった。
後日、天当院先輩は満面の笑みで部活申請を通した、と言っていた、権力者、ここに有りってね。