焦げた植物の匂いと何かがぶつかり合うような戦闘音。それの方向に向かうと開けた場所に出る。
「ッ酷い匂いと‥この音は?」
『相棒正面だ!』
ネオ達が正面を向くと、1匹の傷ついたストライクがトレーナー2人のガントルとヒヒダルマから攻撃を受けながら背後で怯えて動けない数匹のコフキムシやフラエッテを庇っている。すぐ近くに檻のようなコンテナを積んだ大きなトラックがあり、中から切り裂かれるようにして穴が空いている。それを忌々しげに見ながらもう1人のトレーナーがニャスパーの念力を利用して周囲に逃げたポケモンを乱暴に回収していた。
「…何やってんだお前らッッ!!コマタナ、メタルクロー!カゲボウズ、かげうちッ!!」
同じく激昂したコマタナとカゲボウズの攻撃がガントルとヒヒダルマに不意打ちで当たり、その隙でストライクが後ろのポケモン達を抱えてネオたちの方に必死に走ってきた。数秒遅れてストライクを攻撃していたトレーナー2人がゆっくりこちらを向く。その顔は驚き半分、怒り半分という様で明らかに敵意を放っている
「…おいボウズ、なんで俺のガントルを攻撃した?なあ聞いてんのかテメエ!」
「俺のヒヒダルマもだ…ガキが邪魔してんじゃねえぞ!ようやくそのストライクが弱ってきたところだったのに…」
「黙れ…!森を焼いたのもストライクを攻撃してるのもポケモンをそんな乱暴に扱ってるのも意味わかんねえよ!なんなんだアンタらは!」
ネオは咄嗟に攻撃指示を出しながらも困惑していた。自分の行動にではない、眼の前にいる男達の行動にである。ネオが会ってきた人は近所の子どもや祖父母、そしてプラターヌ博士など年齢も性格も違えど『ポケモンを大事にしている』という1点については皆同じだった。だがこのトレーナー達はどうか、野良バトルとはいえど2人がかりでストライク1匹を、それも後ろでポケモンを庇っている個体を攻撃しもう1人は念力で嫌がるポケモンを無理やり檻に戻している。10歳のネオには触れたことがない悪意であった。
「わかんねえだぁ?見てわかんねえのか…ポケモンを捕まえて売るんだよ!世の中には1人じゃポケモンを捕まえられないようなグズやガキに強いポケモンを持たせたいと言って俺達みたいなハンターに依頼する親だっている!それの何が悪い…ポケモンを捕まえるって部分だけ見りゃそこらのトレーナーとなーんも変わりゃしねえ!」
「そのストライクはな、トレーナーに捨てられたポケモンなんだよ!確かなんだったか…相手を圧倒する力がそいつにはないとか…だから俺達が売り物として再利用してやろうと買ったんだ!トラックに詰め込んだは良かったが森に来た途端一緒に入れた商品のポケモンを逃がすため荷台をぶった切りやがった!おかげで車は傷が出来てせっかく商品もいくつか無くした!…わかったらとっととそこを退いてストライクを殴らせろ。退かないなら焼く。」
「おいお前らガキ相手に何話してんだよ時間もったいねえだろ!?ストライクもそのガキもとっとと焼いてこっちの回収手伝ってくれよ!」
1人の男は嘲るように、もう1人はストライクを蔑みながらも本気で焼こうとしている顔、最後の1人は興味もないかのように話している。全員自分のしていることが当然だと思っている言葉だった。それを最後まで聞いてからネオはゆっくりと後ろを向き、ストライクにオボンのみを差し出す。
「ストライク、俺はネオ。あんな奴らの後で信用出来ないかもしれないけどそれならそれでいい。…今だけでも一緒に戦わせてくれるか?」
ストライクは驚いた顔を一瞬するがすぐに引き締まった顔に戻りオボンのみをかじり体力を回復する。
『信頼させてもらう。少なくともあの場で迷わずにあいつらを攻撃したお前にはそれだけの優しさと強さがあると思ったからな…俺を上手く使ってみせろ。』
「使う?馬鹿言うな一緒に戦うんだよ!」
『…‥悪い、昔の名残だ気にすんな。』
一瞬の会話ではあったが確かな信頼を得たネオの前にストライクが立つ。
「…オボンのみ食いやがった。ガキ!俺等の時間をむだにしやがっt」
「うるせえッ!お前らみたいにポケモンを痛めつけ不幸にさせる奴らは…俺達が倒す!」
ヒヒダルマを持っているトレーナーの顔から笑みが消える。
「…あのガキとストライク、容赦は要らない…潰して森の栄養にしてやる。あのカゲボウズとコマタナは捕まえて売りさばくぞ。」
「コマタナ、あっちはお願いできる?」
『タナ。』
カゲボウズがストライクの横に進み、コマタナは何かを任されて森の方に駆け出していく。そしてネオはまっすぐ不法ハンター達を見据える。
「行くぞカゲボウズ、ストライク、バトルだ!」
「ガキが調子に乗りやがって…行けヒヒダルマ!」
「大人の邪魔したことを後悔させてやる…出てこいガントル!」
(ガントルとヒヒダルマ…あんまり見ないポケモンだし何をして来るのかわからないけどやるしかない!)
ポケモン図鑑を2匹に向ける
<ヒヒダルマ>えんじょうポケモン ほのお
<ガントル>こうせきポケモン いわ
(タイプは見た目通り…不味い、ストライクは虫・飛行‥炎にも岩にも相性が悪すぎる…!)
するとストライクが翼を鈍い銀色に輝かせ攻撃態勢を取る
『ネオ、ヒヒダルマはカゲボウズに任せてもいいか?ガントルの方は俺が倒す。さっきまでは守りに集中して攻撃に転じられなかったが…お前らがいるならやれる』
「その技って‥分かった。ガントルはそっちで頼む。」
「何ごちゃごちゃ話してんだテメエら!ヒヒダルマ、カゲボウズに噛みつくだ!」
「ガントル、前方に向けてストーンエッジ!!」
「カゲボウズかげうちでヒヒダルマの足元を!ストライク、ギリギリまでストーンエッジを引きつけてから左に避けろ!」
先に動いたのはハンター達だった。ヒヒダルマが口を大きく開けてカゲボウズに噛みつこうとし、ガントルはストーンエッジをまっすぐストライクに放つ。カゲボウズは先制のかげうちによりヒヒダルマの足元に攻撃をすることで噛みつくの軌道を反らして直撃を避け、ストライクは冷静に岩の攻撃範囲を見極めて当たる寸前で素早さを活かして左に移動する。
「くっこすい真似を‥ヒヒダルマ!地面に向けてアームハンマーだ!」
「アームハンマーはかくとうタイプだからカゲボウズには無効…違うやばい地面から離れて!」
『うわっ!?』
アームハンマーで地面を砕いたヒヒダルマはそのままの勢いで大量の破片をかちあげることで浮いているカゲボウズに擬似的な”岩落とし”を放つ。通常の技ほどのダメージは出ないが確実に体力を削っていく。
(ヒヒダルマは炎タイプだからやけどで物理攻撃を弱めることも出来ない。なら…)
「カゲボウズ、地面にたたりめ!」
放たれた祟り目が砂埃を巻き起こし即席の煙幕を貼る。そしてその一瞬ヒヒダルマの身体に紫のモヤが掛かるがハンターは煙幕に気を取られ気づかない
「へっこんなもん時間稼ぎにしかなりゃしねえ!アームハンマーでストーンエッジを砕いて煙幕を消し飛ばせ!」
最初に放たれた岩の柱がアームハンマーによって砕かれ煙幕に落ちることで無理やり晴れる。その壊れた部分からストライクたちの戦場が見えていた
「ガントルうちおとせ!」
『遅いんだよ!』
最初の回避からもう1人のハンターはガントルに撃ち落とすを指示しストライクの機動力を落とそうとしていた。しかし先程までの動きとは違いフィールドを縦横無尽に動くストライクを中々捉えきれず苛立ちが見える。
「ちいっ…一致技のうちおとすでも早すぎて当たりきらない。捨てられたポケモンだから弱いと思っていたが回避性能だけは確かなものだな。なら…いわなだれだ!」
左のフィールド全面に岩が降ってくる、いくら素早くても逃げ場を全て潰せば確実に当てることが出来る作戦。1人で戦っていればここで負けていた、だが、今のストライクには信頼できるトレーナーがいる。
・・・・・
「ストライク!つばめがえしの勢いで岩を登って!」
『何‥なるほどその発想は無かった!』
つばめがえしの回転する勢いで落ちてくる岩を足場にガリガリとストライクは登っていく。そしていわなだれの発動時間が終了しストライクは上空からガントルめがけて飛んでくる。
「ロッククライムを落ちてくる岩を足場にだと…!?だが、ガントルうちおとす!空中なら地上のように動けな…」
「ここだ放て!”はがねのつばさ”ァッ!!」
落下の勢いも利用した”はがねのつばさ”での突撃がうちおとすを砕きガントルに突き刺さる。岩に鋼は効果抜群。ガントルはふっ飛ばされてからかろうじて立つがかなりの体力を失ったはずだ。
「はがねのつばさ!自然には覚えない…前のトレーナーが覚えさせていたのか…さっきチビを庇ってたときも使わなかったってことはギリギリまで存在を隠していたな‥!」
ハンターは拳を握り忌々しそうにネオとストライクを睨みつける。
「ガントルもう容赦はいらない。ストーンエッジで叩き潰せ…おい!そっちはまだ終わらないのか!」
「うるせえなこいつちょろちょろと動いて攻撃が当てづらいんだよ!」
ヒヒダルマのトレーナーであるハンターも苛立っている。物理攻撃が多く攻撃動作もアームハンマーや噛みつくなどわかりやすいせいでふよふよと宙を舞う小さなカゲボウズに攻撃を中々当てられずにいた。
「いいぞカゲボウズ。そこで右によけて…驚かす!」
『ばーっ!』
(カゲボウズの火力はそこまで高くない…やけどで祟り目も出来ない以上少しずつ削るしか…)
出の早い驚かすを側面から喰らいびっくりしてトレーナーの方までヒヒダルマが転がる。それを見たハンターは大声で怒る。
「テメエいい加減にしやがれ!チマチマチマチマ避けて攻撃してきやがってうざってえなあ…!」
「これも立派な戦術だろうが!少なくとも力ずくに頼るお前より…」
その瞬間何かがブチッと切れた音がしてハンターの顔が怒りで赤黒く染まる。
「ヒヒダルマァ゙ッ゙!”はらだいこ”!”フレアドライブ”であのガキごと消し炭にしろッ!!」
「な…!」
『うそ、ネオを狙う気だ!?』
ポケモンセンターや公式ジムのバトルコートにはトレーナーを技の余波から守るバリヤーがあるがこんな森の奥には当たり前に無い。そうであってもそもそもトレーナーを狙うのはご法度なのだがすでに法を犯しているハンターにとってそんなことはもはや関係なかった。あるのはただ激しい怒りと憎しみで、それを理解しているのかヒヒダルマも迷いなく腹部を叩く。
(はらだいこがどんな技かよくわからないけどフレアドライブは確か炎タイプの物理最強技…今のカゲボウズじゃ本当に俺ごと消し飛ぶけどその前にカゲボウズが瀕死を超えて死ぬ!)
「カゲボウズ俺の方はいい!なんとか避けて…」
『バカ!ポケモンの技を人間が無事に済むわけ無いじゃん!?ボクが少しでも盾になんないとネオ死んじゃうよ!』
対処を考えているうちにヒヒダルマがクラウチングスタートの態勢に入り全身に炎が灯る。フレアドライブの発動まで後数秒。
「消し飛べガキども!!これが邪魔をした罰だァ゙!!”フレアドライブ”!」
合図とともにヒヒダルマが勢いよく迫ってくる。旅を始めたばかりのネオ達には「まもる」の技もない。マトモに喰らえば体力が消し飛ぶ。
「……ストライクッ!!ストーンエッジをこっちに!」
『は……気休めにしかならないかもしれねえぞ!』
「構わない!カゲボウズ!なるべく上にいってから祟り目をぶつけて!」
「何をしても無駄だ!そのままぶち抜け!」
ここでネオはガントルの撃ち落とすを鋼の翼で軽減しながら殴り合っているストライクに指示を飛ばす。そしてその指示の目的を完璧に理解したストライクは鋼の翼を纏ったままガントルが放った岩の柱を次々と倒す。その瞬間激しい熱量と岩の破片が全方向に舞い散り、ギリギリで木の陰に隠れたネオも苦悶の声を漏らす。
「あ゙っ…づ……!」
再び戦場に目を向けると酷い有様だった。大量のストーンエッジがフレアドライブを纏うヒヒダルマとぶつかり燃える岩の破片がまだあちこちに散らばり周囲の木も所々黒い炭になっていた。
岩の影からハンター2人が煤けた顔で出てくる
「ちっガキは無事か…ちゃんと狙え!」
「黙れッ!!テメーのストーンエッジのせいでフレアドライブの威力が落ち…おい、ストライクは何処いった。」
「…カゲボウズもいねえ。まさか逃げ‥」
「今だ2人とも!」
『だあ〜!』
『掘り起こすならこれで十分だ!』
大量に落ちた岩の陰からカゲボウズとストライクが飛び出す。それぞれ鬼火をガントルに不意打ちで当て、鋼の翼で岩を砕いてストーンエッジに埋もれていたヒヒダルマを掘り起こす。2匹とも体力は虫の息だが岩が壁になってフレアドライブの威力を殺し、そこにたたりめが加わったことで低レベルでもギリ耐えられる威力にしたのだ。
「ガキが小細工使いやがって…ヒヒダルマ!ストライクにかみつけ!」
ヒヒダルマは起き上がって口を大きく開け攻撃を放つ。が、膝から急に力が抜けガクッと崩れ落ちたことで空振る。
「なっ…何が起きた!はらだいこで体力が半分削れててもまだ余裕はあったはず‥」
「はらだいこはそういう技だったのか。納得…おそらくヒヒダルマの体力もこっちと同じぐらい少ない!」
「ガキテメエ何をした…!」
「”のろい”だよ。カゲボウズが使った場合は相手の体力を削る効果になる…それで削れてたからフレアドライブが来たときは本当に焦ったけどな。」
「ガントルに指示をしながら俺も見ていたがどこで…あの煙幕の中か!」
「そう、あの時こっそり誰にも見えないようにヒヒダルマに呪いを掛けておいた。それにフレアドライブの反動も合わさってるからヒヒダルマにはもうまともに動ける体力はない…!ガントルも鋼の翼食らってかなりのダメージ…これで終わりだ違法ハンター共!」
「ヒヒダルマ動け!アームハンマーでストライクを‥」
「ガントルいわなだ…」
「遅いッ!!カゲボウズたたりめ!ストライクつばめがえし!」
『良くもやってくれたね‥!』
『今までの恨み返すぞ!』
互いに虫の息だが攻撃態勢への入りはこちらのほうが早い。状態異常で威力2倍に上がったたたりめとタイプ一致のつばめがえしが刺さり、ガントルとヒヒダルマはぶっ飛ばされて気を失い戦闘不能になった。
「…嘘だ。うそだうそだうそだ!こんなガキに俺のヒヒダルマが負けるわけ…」
「反省会は後だ!とっとと捕まえたやつだけでも持って逃げ…」
ガントルのハンターが放心状態のヒヒダルマのハンターを掴んで逃げようと自分たちのトラックの方を向くと、そこにはトラックの残骸であろう金属板とその横でコマタナに刃を当てられて気絶しているもう1人のトレーナーとニャスパーがいた。
「ガキお前…まさか最初から俺等の退路を断つつもりで…」
「退路を断つ?馬鹿なこと言うな俺がコマタナに頼んだのは”ポケモンたちを逃がせ”ってことだ。トラックをぶっ壊したほうが早そうだったしな。」
見ると捕まっていたポケモンは全員すでに森の奥に逃げてからっぽの荷台だけが残っていた。そして軽やかにコマタナがネオの足元に戻ってくる
『ひとまず全員逃がしてあのトレーナーも気絶させたぞ…本当に危なかったなお前。』
「ああ、でもこれでみんな助かった…」
ガントルのハンターがわなわなと震えている。旅を始めたばかりの10歳の子どもにギリギリでポケモンを倒されただけでなく商品も全て逃されてしまったことが信じられないとばかりに初めて大声を上げ、懐の拳銃を迷いなく発砲する。
「ガキがっ!!地獄に落としてやる!」
「ッ!?」
『させるかっ!ぐっ!』
ふらつくネオの前にコマタナが跳び、銃弾を受け止めて吹っ飛ぶ。
「コマタナ!!」
「邪魔するなカスが!!商品のくせに生意気なんだよお前ら!!」
次の銃弾が放たれようとしたその時だった。
「ライボルト!抑えて!」
突然森から出てきたライボルトが拳銃を弾き、ハンターを抑える。そしてその方向から出てきたのは数名のジュンサーさんだった。
「1人確保!あちらにもいるぞ!」
「君大丈夫?凄い音と炎が街から見えたから来たんだけど‥」
「こいつら指名手配の違法ハンターよ!」
ぶっ飛んだコマタナと瀕死寸前のカゲボウズ、ストライクが寄ってくる。
『無事かネオ!』
『生きててよかったよ〜!』
『…お前たちのお陰で助かった、ありがとう。』
肩で息をしながら答える
「大丈夫、大怪我はない…気にすんな、結局ギリギリの戦いになっちゃって無理もさせちまったし…あうっ」
フレアドライブとストーンエッジの余波を食らったせいで意識が朦朧とし倒れ込む。
「!とりあえずこの子と…手持ちのポケモン達をポケモンセンターに運びましょう!」
『ネオ‥』
『まだ生きてるけど大分ボロボロだよ!助かるのかな!?』
『…一応俺もついていくか…』
激戦を終えたネオはポケモンたちと一緒にハクダンシティのポケモンセンターに運ばれていった。
ダブルバトルはまだ良く書けない…