………思い出すのは、あの日のこと。
強い雨だった。
肌を打ちつける雨は、元はさらさらと流れる水と同じとは思えないほどに痛かった。
雨は傘の上で跳ねる雫になって、ボタボタと激しく鳴り響き、地面に落ちて小さな流れになって靴に染み込んでいく。
うるさい音と気持ちの悪い感覚を出来るだけ早く振り払いたくて、慌てて家に向かって駆けていた。
───その時、ふと。
見てはいけないものが、見えてしまった。
整えられたコンクリートの道の上で、不自然に自己主張をする段ボール箱。よせばいいのに、その中をのぞき込んだ。
「─────■、■」
子犬だった。
それも、ひとつふたつではない。
六、七の小さな、されど確かにそこにある命が、必死に身を寄せ合っていた。
その小さな灯は、激しい雨で今にも消えかかっていた。
気づけば、傘を投げ出していた。
気づけば、箱を抱き抱えていた。
気づけば、家に向け走っていた。
家に帰り、慌てて箱の中身を父と母に見せた。
二人は優しかった。出来るだけ柔らかいタオルケットを数枚取り出して、何の躊躇いもなく子犬達を包んであげた。
人肌のお湯と栄養になりそうなものをかき集めて、必死に助けようとしてくれた。
結果なんて、目に見えていた。
なんの免疫も持たない、守られて当然の幼い命が、こんな日に生きていられるわけもない。
「─── 、お前のせいじゃない。これは…仕方がなかったんだ」
そう、父は僕を慰めてくれた。
けれど。
そんな言葉を呑み込むことは、出来なかった。
仕方ないなんて、認められなかった。
「……… ? 待ちなさい、 ───!」
ただ一つ。幼い彼が知っていた、ただ一つの可能性。
腕に抱えた、命だったものにもう一つ、ソレを抱いて彼は駆け出した。
自分の家から少し離れたところにいる、祖父のもと。
彼の
『その子犬たちを救いたい、か』
幼い彼は頷いた。
ソレがどんな意味かも理解せず、理解しようとせず、理解できるはずもなく。
ただ心のままに、彼は頷いた。
『分かった。ならば───』
祖父の言葉に従った。
力を目覚めさせるための、スイッチの入れ方。
力を扱うための、動かし方。
力をどういう理由で使うのか、その示し方。
力を使うことが何をもたらすのか、その望み方。
「───え?」
ああ、だけど。
いや、やはり。
『───駄目か。分かりきっていたことではあるが』
祖父の言葉は、耳に入らない。いや、違う。届いてはいる。
ただ、そんなものを気にかけている余裕が、彼には/僕にはないと言うだけで。
「誰? ……誰か、いるの?」
ぐらり
と、世界が揺れる。
違う、揺れていたのは僕だ。
理由は、何だったか。
力を使った反動か。
それとも、
いずれにせよ。
その日僕が/彼が知ったのは、『死んだものは生き返ることはない』という、ごく当然の事実。
祖父に言わせてみれば、『確定した死に可能性などない』ということ。
一度終わりを迎えてしまえば、それっきり。
どんな法外な力を持とうと、その
叶わないことを望んではならない。
不可能を覆してはならない。
出来もしないことを、出来ると驕ってはならない。
そんな単純明快、分かりきったこと、
出来ぬと言うのならお生憎様ご愁傷さま。
その理を犯す者はいずれ、
理そのものに殺されるでしょう───。