「────あの。
二人とも、大丈夫?」
彼と彼女の意識が、先生の言葉に引き戻される。
「あ、その───すまん、ボーッとしてた。
ほら、立てるか」
「…あ! ありがとうございます!」
何はともあれ、ニシキは少女の手を引き立ち上がらせる。
少女もまた立ち上がり、服の裾を軽くはたいた。
「───で、念の為聞いておくが。
お前、なんであんな慌ててたんだ?」
「え?」
「え、じゃないだろう。
あそこまでの速度で駆けてくるなんて、余程の事情でもないと説明がつかない。何か理由があるんじゃないのか」
「……………」
少女は、思わず感心してしまった。
結果的にとはいえ自身に危害を加えた相手の事情を、少年は
ちなみに、当の
「───おい、ちゃんと聞こえてるか?」
「え。あ! も、申し訳ないです!
ええと、イズナは…」
「待てー!逃さないんだから!」
「はっ!も、もうこんな所にまで!?」
「───ニシキ、ちょっといい?
あ、君はこっち!」
「へ?」
「ん?」
「あれー…見失っちゃった」
「ううん、カエデちゃんも速いですけど……あの子はそれ以上ですね……」
「うーん…もっと向こうに逃げたのかな?
とりあえず行ってみよう!」
「───よし、こんなもんかな。
ありがとうねニシキ、協力してくれて」
「……
「あはは…まあ、その時は何とかするよ。
君、大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございます!」
先生とニシキの背後から、狐耳の少女がひょっこりと顔を出した。
「にしても、『話し合ってる観光客とガイドのフリして隠そう』って……よくバレなかったな」
「まあ、結果オーライってことで」
「えっと……そういえばあなた達は?
片方は大人の方ですし、ヘイローが…?」
「───先生はともかく、俺のことも知らないのか?
一応コレでも陰陽部なんだが」
「まあまあ……私はシャーレで先生をしているものです。
こっちの子は陰陽部のニシキ、よろしくね」
「陰陽部……なんと!
それにシャーレの先生…まさかご本人に会えるとは!」
ニシキの眉が、不機嫌を示す角度に傾く。
同学園の生徒である彼女が仮にも生徒会である自分のことは知らず、つい先日キヴォトスに来たばかりの先生のことは知っているのだから無理もない。
「───先生のことは随分良く知ってるんだな」
「はい!
シャーレには、キヴォトスの色々な事件をズバッと解決してくれるすごい大人の人がいると、前々から聞いていて…!
どこにでも現れて即座に解決……まるで忍者みたいだと思い、ぜひお会いしてみたかったのです!」
「……ああ、そう」
ニシキの嫌味を込めたひと言は、少女の純真な憧れの前に呆気なく押し流された。
そしてニシキは悟った。
眼前の少女はおそらく、いやほぼ確実に自分が苦手とするタイプの人間だと。
「えっと……そういえば、君は? まだ名前を聞けてなかったよね」
「はっ、そういえばそうですね!
ええと…イズナは、
よろしくお願いします、先生、ニシキ殿!」
「……………いや、殿って」
時代劇じゃないんだから、という言葉を口から出そうになるのを
そもそも自分の住まいだって
「それで、先生とニシキ殿はどうして
「ん…実は私がこの『桜花祭』に見に来たんだ。
それで、ニシキに道案内を頼んでたところなんだ」
「……まあ、案内って言っても大したもんじゃないけどな。
ちょっと目的地に案内すればそれでおしまいだよ」
「ふむふむ…では折角ですから、イズナにこのお祭りの案内を手伝わせていただけないでしょうか?
ご迷惑をかけたお詫び、と言ってはなんですが…」
「いや、先生は用事が──」
「うん、せっかくだしお願いしようかな」
「は?」
「本当ですか!?」
「おい、先生…」
「ごめんね、このお祭りをちゃんと見ておきたくて……それに、私が相談されたのがこの桜花祭に関することなら、尚の事この目で見ておいたほうが良いでしょ?」
「───はぁ、まあいいか。
俺も何も“大至急連れてこい”と言われた覚えはないわけだし」
こうして、三人は街を進む。
そして最後に三人がたどり着いたのは、百鬼夜行の名物である御神木……そして、百鬼夜行の景色。それらを一望できる展望台だった。
「わあ…あんなに大きな桜の木が」
「まあ、そう思うよな……ついでに言うと、樹齢は少なく見積もっても千年は回ってるらしい」
「えへへ…ちょうどこの時期に一番きれいに咲く、百鬼夜行の名物であり自慢なんです!
イズナは、御神木と百鬼夜行の街並みが同時に見渡せるこの場所が大好きなんです!
ここでこうしていると、イズナも夢の為にまだまだ頑張らなきゃって気持ちになるんです…!」
「「夢?」」
「はい!
キヴォトスで一番の忍者になる───それがイズナの夢なんです!」
「「…………」」
驚きで、あるいは困惑で
忍者、というのはあの忍者のことであっているだろうか。
「はっ!? す、すみません!
その、こんな夢を持っている人なんて今どきいないことは知っているのですが…!」
「………」
色々と言いたくなった言葉を、少年は呑み込んだ。
まず少女の外見からして“お前のような忍者がいるか”と言ってやりたくはなったが、自分の連想する
「まあ、別にいいんじゃないのか。夢見ることは自由だし」
「だね。私も良いと思うよ、カッコいいし!応援するよ!」
「……!」
少女が目を見開く。
少年の目から見ても、今の一連の出来事は彼女にとって新鮮なものであることが伺い知れた。
「応援……そ、その。
それが忍者になるという──あまり他の子が口にしないような夢であっても、ですか?」
「どんな夢でも、生徒の夢は応援してあげたいからね!」
───少年は、押し黙ったまま、少女を見据えている。
「……あっ、雇い主殿の依頼を終えていないのを思い出しました!
すいません、イズナはお先に失礼します!では先生、ニシキ殿、また!」
依頼が終わったらまた桜花祭を周ろう、と告げて少女は駆けていった。
「───さ、先生。
こっちも本来の目的に戻るとしましょうか」
「………ん?本来の?」
「……………」
こいつマジか、と零れそうになった言葉をどうにか抑え込んだ。
顔には思い切り出ていたようで、大人は苦笑いを浮かべていた。
高評価、感想お待ちしています。