万華鏡(カレイドスコープ)   作:山崎五郎

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※今回には原作キャラに対するアンチ・ヘイトに該当するであろう描写が含まれています。
予めご了承下さい。


-4

 

 

 

 先生の助力を得られる事となった百夜堂は、幾分かの明るさを取り戻す。

 しかし、そんな明るさ(もの)を吹き飛ばすかのように。

 爆発による炸裂音が、店外から鳴り響いた。

 

 

「うわっ!?……な、何?」

 

「まさか…魑魅(すだま)一座!?

 ああもう、よりによってこんなタイミングで!雰囲気ぶち壊しじゃないのよ!!」

 

「……社長、人前」

 

「はっ!?

 ……え、えへっ!」

 

 

 もはや苦笑いの一つも出ない。

『河和シズコとは如何なる人物か』などというものは、完全にこの場の人間に周知されてしまったのであった。

 

 

「と、とにかく!!

 このまま連中を暴れさせておくわけには…!」

 

「そうだね。皆、行こう!」

 

「あっ、ちょっと待ってください先生!

 シズコに策あり、です……フフフ」

 

「?」

 

 

   ・   ・   ・   ・   ・   ・    

 

 

 

 

 店外では、天狗やおかめのお面を着けた少女達が暴れ回っていた。

 彼女たちこそ、百鬼夜行を中心とする不良集団『魑魅一座』───その一派閥、路上流である。

 

 

「さあ皆!ご要望通りに荒らして荒らして荒らしまくりな!」

 

 

 

 

「あ、ちょっと待てぇい!!」

 

 

 

「ん!?」

 

 

 振り向く先には、百鬼夜行にその名を轟かせる甘味処(喫茶店)、百夜堂。

 爆風を超える大音声(だいおんじょう)が、その頂部……平たく言えば屋根の上より鳴り響いた。

 

 

『テメェら!この蒼星ニシキの目の前で世間様にご迷惑をかけるたぁ不届き千万!

 その昔“赤染蒼星”と語られたこの拳の餌食にしてやァ!!』

 

 

「「「………」」」」

 

「「「………」」」」

 

 

 ───言葉が出ない。

 今の時代にそんな芝居がかった名乗りをあげるやつがいるかとか、わざわざ屋根の上に登ってやることかとか、後ろでフィーナがアテレコしてるのが丸見えだとか、そもそも当の本人(蒼星ニシキ)が口すらろくに動かしてないから腹話術にもなってないだとか。

 

 とにかくそれは色々ツッコミどころ満載だったのだが、

 それはそれとして何も言えなかった。

 

 

「……シズコ、聞いておくけど。

 “策”っていうのは今のあれだと思っていいのかな」

 

「───ええと。

 一応、魑魅一座の連中は大人しくなりましたし…作戦は成功、じゃダメでしょうか?てへっ☆」

 

「“大人しくなった”の意味が違うでしょ。

 呆れてモノも言えなくなってるだけだよ、アレ」

 

 

 店内はさながら、季節が一つ逆行したかの如く冷え切っていた。

 そんな事をしているうちにも、当然事態は進行していく。

 

 

「……えっと、とりあえず撃ち落とす?アイツ」

 

「いやダメだって!

 荒らすのが目的だけど、建物はなるだけ傷つけるなって指示だっただろ!」

 

「いや、でもさぁ…」

 

「あっ、あの……ちょっと、失礼しますっ!」

 

「「ん?」」

 

 

 

「なんデス? 魑魅一座の様子がおかしいような…?」

 

「………! アイツ…!」

 

 

 

「やっぱり!ニシキ殿じゃないですか!

 そのようなところで何をしているのですかー!?」

 

 

 頭の上で揺れる二つの狐耳、かなりの毛量でありながら、確かに揺れる尾。

 先程であった忍者少女……久田イズナが、魑魅一座の奥から現れた。

 

 

「えっ!?イズナ!!」

 

「あっ!先生も先程ぶりです!

  まさかこんなに早く再会できるとは…!」

 

「ああ、うん、私も会えて嬉しいよ……。

 それで、イズナはなんで魑魅一座(その子たち)と一緒にいるのかな」

 

「? イズナは命令に従っているだけですが…」

 

 

 命令。それは要するに、何者かの指示。

 それを受けたと、確かにイズナは言った。

 

 

「ちょちょちょ!!

 何言ってるのさイズナ殿!?」

 

「え? イズナは先生の質問に答えただけで…」

 

「いやそれは分かるけど!あいつら敵なんだよ敵!

 何敵と親しげに話してるのさ!?」

 

「……………。

 ええっ!?敵!!?

 

 せ、先生が!?ということはニシキ殿も!?」

 

「そりゃそうでしょ!お祭り運営委員会の奴らと一緒に居るんだし敵に決まって………るよね?」

 

「隊長、そこはハッキリしときましょうよ……」

 

 

 

「………えっと。

 先生、どうしたらいいんでしょうか」

 

「ど、どうって言われてもなぁ……とりあえず、イズナから事情を聞いて……ん?」

 

 

 窓の上から下へと向けて(・・・・・・・・・・)横切った影に、先生は意識を移す。

 そのまま窓の外を見れば、屋根から飛び降りたであろう少年……蒼星ニシキの姿があった。

 

 

「ニシキ、いったい何を……」

 

 

 

 

 

「あっ!?

 ニシキ殿!これはいったいどういう…」

 

「その前に、こっちからも聞かせてほしいことがある」

 

 

 少女らは息を呑む。

 その言葉は無粋な割り込むような物言いであったにもかかわらず、文句の一つも出せなくなるような冷たさに満ちていた。

 

 

「久田。お前が俺たちに言った“夢”の話、覚えてるか」

 

「…? はい!もちろんです!

 キヴォトスで一番の忍者になること、ですよね!」

 

「そうだ。で、それについて詳しく聞いておこうと思ってな。

 

 ───まず、お前が理想とする“忍者”ってのはどんなモノだ?」

 

「り、そう……」

 

「少なくとも、俺の知る“忍者”ってものとお前が理想にしてるモノは違うモノだ。

 

 目的のためなら手段を問わず、己の感情や意思を無視し粛々と任務をこなし報酬を受け取る。

 その名前や姿を人に知られるなんて事はあってはならない。自ら『自分は忍者です』と名乗るなんて論外だ」

 

「それ、は……」

 

「……ついでに言わせてもらえば。そんなステレオタイプな“忍者”ってものですら、その役割を別のものに奪われてる始末だ。

 そんな現実の中で、お前がなりたい忍者ってのは何だ?」

 

「………」

 

「ハッキリ言っておくぞ、久田。

 この先、お前が本気で忍者を目指すって言うなら、これ以上の言葉を投げかけられることなんて一回二回じゃ済まない。

 それならいっそ、ここでその夢を───」

 

 

「ニシキ。流石に、それ以上は見過ごせないよ」

 

 

 その一言で、時が静止するような錯覚が周囲を包む。

 上方を見れば、先ほどまで温和な雰囲気を纏っていた先生(大人)が、その目を鋭利にさせ少年を見下ろしていた。

 

 一方で。

 見下された少年は、こちらも鋭利に、されど大人とは違う冷たさに満ちた目を大人へと返していた。

 

 

「………ぅ、う。

 

 て、撤収!!総員撤収!!

 ほら、イズナ殿も逃げるよ!!」

 

「えっ?あ……」

 

 

 その空気に耐えかねたのか、魑魅一座の隊長と思しき少女が号令をかける。イズナもまだ一座の者に腕を引かれ、その場から力なく去っていった。

 

 

 ………結果だけを見れば、紛れもなく勝利。

 一つの弾薬も使うことはなく。

 一人の負傷者も出すことはなく。

 敵を全員退かせてみせたのだから。

 

 

 しかして、勝利に喜ぶはずのその場は。

 誰一人として言葉を出せぬほどの、重々しさに縛られていた。

 

 

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