※若干の原作改変を含みます。ご了承を。
「……………」
「……………」
喫茶店、百夜堂───。
その喫茶店は現在。
窓際席で向かい合うように腰掛けた、二人の男が放つ威圧感によって閑古鳥が鳴き喚いていた……。
「………どーすんの、アレ」
「ど、どうするって言われても……さすがにあそこに入っていくのは私でも無理!」
「ワタシ、映画でこういうシーン見たことありマス……」
「社長何とかしてよ。ホラ、迷惑客追っ払う時みたいにさ」
「無理だっつってんでしょうが!!
というかか弱い女の子に先陣を切らせようとするんじゃないわよ!」
「………」
「ニシキ。
───さっきはどうして、イズナにあんなことを言ったのかな」
「どうもこうも、アイツにも言った通りだ。
この先あいつが忍者になるっていう夢に向かっていくほど、アイツに心ない言葉が向けられるだろう。それこそ俺の言葉なんて生温いと思えるような悪意も込めたものが、な。
それなら、今のうちに諦めたほうがアイツのためってもんだろ」
「ソレはニシキが決めることじゃない。
どんなに厳しいからって、夢を諦めろなんて言うべきじゃないよ」
「この先傷つくことが間違いないと分かりきっててもか?
それとも、そんな茨の道に生徒を進んで送り出すのが先生か?」
「例え傷ついたとしたって、それは経験になって成長につながるかもしれない。
傷つくからって何もさせないなんて、それこそ先生失格だよ」
「そんなものは理想論だ。
過去は取り消せないし、戻ってやり直すこともできない。
その“経験”とやらは取り返しようのない“後悔”になるかもしれないぞ? それもあんたに言わせりゃ成長の糧か?」
「間違いやミスがあるから、次に間違えない様にするにはどうすれば良いかが分かる様になる。初めから何も間違えない人なんていないよ。子供が“経験”を重ねていけるように、その責任を取れるように大人がいるんだ。
……だから、ニシキにもああいうことをしてほしくない。
この先傷つくなら、自分が傷つく側に、憎まれ役になるなんて…そんなのは、悲しいよ」
「………話すだけ無駄だな」
少年は立ち上がる。
冷たい目と言葉のまま席を立ち、店の外まで歩いていく。
「おい、蒼星…!」
「木須井。俺の依頼は元々『先生を百夜堂に連れてくること』だけだったはずだよな?
その頼みはもう済んでる。
友人の呼びかけにも、少年は足を止めない。
目を向けることも振り返ることもなく、淡々と出口へと歩く。
「先生。……生意気な口を聞いたことは、謝ります。
この先会うことがあったなら………いや、やっぱり何でもない。
失礼しました」
少年は去った。
されど重苦しい沈黙は、その場に残ったまま。
それを破れるものは、今この場には───
「………おいおい、どういう状況だこれは」
この場にはなかったが、来訪者はいた。
それなりに歳を重ねているであろう猫の獣人の男性で、これまた相応の値段であろう着物を身に纏っていた。
「あ、会長!ええと、ちょっと色々あったと言いますか…」
「…貴方は?」
「おいおい、そんなに睨むなよ…。
怪しいもんじゃない。百鬼夜行の商店街の会長で、ニャン天丸という者だ。お兄さんは?」
「………すみません。シャーレで先生をやっているものです」
「……今の顔も、“色々あった”に関係あるのかい?」
「はい、実は………」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「……………ハァ」
商店街から少し離れた商店街の一角。
蒼星ニシキは電柱に背を預け、たそがれていた。
別にカッコつけたいとかそういうのではない。
ただ、なんというか
……特に理由はなく、『ただそうしたいからしているだけ』とも言えるが。
「あっれー?蒼星じゃん!
こんなとこで何たそがれてんのー?」
「……うげ」
「ちょっとー!? なんなのそのリアクション!」
面倒な奴に見つかった、という気持ちが声になって漏れた。
花の女子高生一年とは思えぬ小柄な背丈に、
花の女子高生一年とは思えぬ豊満な双丘をお持ちな蒼星ニシキの同級生でクラスメイト。
入学当時、百鬼夜行の一年生の間でもいろんな意味で話題になった少女である。
「いや、面倒な奴に見つかったなーって」
「正直っ!そーゆうのってさあ、もっとつつみ隠すもんじゃないの、えっと…オブラートに!」
「お前にはそういう遠慮をしなくていいって事だよ」
「………えっと、貶されてるってことで合ってる?」
「お前がそう思うならそうなんじゃねーの。
俺は褒め言葉のつもりで言ったけどな」
「うわ、余計に信用ならなくなった」
「ああ?」
いつの間にか、そうやってくだらない雑談が続く。
本来話題も性格も合わないはずの女子とここまで会話が成り立つのだから、クラスメイトとは不思議なものだ……などと、ニシキは思ったりした。
「なーんだ、しょぼくれてるかと思ったけど元気そーじゃん。
あ、もしかして私のおかげ?」
「言ってろ。それで、お前は一人で何やってんだよ」
「へ?一人じゃなくてミモリ先輩とツバキ先輩も……あれ」
「……ああ、納得」
二人の先輩の名前にはニシキも心当たりがある。
カエデが所属する修行部の先輩…
この場合問題になるのはツバキの方だろう。
『究極の安眠』を求める彼女は、一度眠ってしまえば起こすことや動かすこともそう簡単ではない。……理由については言いたくない、男として。
そして眼前の
きっとミモリ先輩は快眠中のツバキの面倒を見ているに違いない………というのが、ニシキの推理である。
「…なーんか失礼なこと考えてない?」
「さあ、何のことだか」
いずれにせよ、ニシキには関係のないことである。
目的は済んだのだ、さっさと帰ってしまおう……そう思い立ち上がる。
「あれ、帰るの? 遊んでかないの?」
「そういう気分じゃない。一応言っておくけど、もう先輩達を置き去りにしたりするなよ────」
しかし、そんな少年の気持ちは。
遠くから聞こえてきた、炸裂音に阻まれることとなる。
「「………」」
「爆発かな」
「爆発だな」
「最近噂のかな」
「そうじゃない可能性もあるぞ」
「まあ、どっちにしても
そう言うや否や、カエデはニシキの制服の袖を掴み引く。
「オイ待て、俺は関係ないっ───」
「カエデちゃん!やっと追いつきました…!」
「あっミモリ先輩!ツバキ先輩!
ちょっと手伝ってー!」
「オイ待て、三対一は卑怯だろ……!」
抵抗虚しく。
再び騒ぎの現場へと、蒼星ニシキは追いやられることとなった。
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