虚栄心と自己顕示欲は巡り巡って自分に返ってきます。
光る朝が、あまりにも眩しいぜ……。いつもとなんら変わらぬありふれた朝のはずなのに、やけに今日は何もかもが輝いて見える。
おはよう鳥さん。いつも楽しい歌声のハーモニーをありがとう。
おはようさざめく木々さん。さりげないけど君たちの香りと、風にそよぐ葉音は俺の心を豊かにしてくれるよ。
それら全てを台無しにしていくトラックの豪快な地鳴りも、今日は赦そう。全てを。
何故なら!! 目の前に見つけたからだ! 愛しい後ろ姿を!
「おっはよう! 後藤さん! 朝の通学路で会うのは初めてだね!」
重そうに背中にギグバックを背負った、いつものピンクジャージの君に声をかける。
「あっ、お、おはよ……き、生月くん……」ふいっ。
……。
あれ!!??
め、目ぇ逸らされたぞ!? え!? なんで!? こないだの看病イベントでまた少し心の距離が縮んだと思ったのに!
……。
さっ。ふいっ。ささっ。ふいっ。しゃっ。ふいっ。
「残像だ」
「!?」ふ、ふいっ。
むむむ。フェイント使ってまで目を合わせにいったのに逸らされてしまう。やるな後藤さんめ意外と運動神経いいのかな。
……やっぱアレかな。緊急事態だったからといって女の子の体に許可なく触ったのはマズかったかな……。
いや。それなら最初の挨拶とか無視されてしまうんじゃ……。
「おはよーっ! ひとりちゃん! 生月くん! 朝に会うのは珍しいわね!」
「お、おはよう喜多ちゃん……」ふいっ。
……。後藤さん喜多さんとも目を合わせようとしないな。いろいろと話しかける喜多さんに対応する後藤さんの視線は、明後日の方向だ。今までも視線が合わないのは何度かあったけど、ここまで合わない日はなかった。ど、どうしたんだろ。
喜多さんはひとしきり後藤さんと話した後、俺の方に少しだけ体を寄せて、シュンとしながら小さく呟くようにこぼす。
「ね、ねえ、生月くん……。ひとりちゃんが目合わせてくれないの……、わ、私何かしちゃったのかな……」
気付いていたのか。いつもとまるでテンションが変わらなかったから、気付いていないか目が合わなくても気にしないのかと思っていた。
「それ俺も。全く目を合わせてくれないんだよ」
「えっ! 生月くんも!? な、なんでかしら……。あ!? あれよこないだひとりちゃんちに抜け駆けしてお見舞いに行った日に何かしたんでしょ!? イヤ! 生月くんのえっち!」
「火力が高過ぎる暴言はNG! 神に誓ってそんなことしてねーよ! ……大体、それが原因なら喜多さんまで目を合わせてもらえないのおかしいじゃん」
「うっ!? そ、それもそうね……」
二人して顎に手を当てて考え込む。それを少し離れた所で見ながら後藤さんは、ちょっと居心地が悪そうにしていた。
「……これは放課後までの宿題ね」
「そうだね。早いとこ解明しないと。一回目を逸らされるたんびに響くんだよね……魂に」
「そこまで!?」
そうだよ。はっきり言って俺からしたら死活問題だ。別なクラスの喜多さんとは一旦別れ、俺と後藤さんは連れ立って教室へと向かう。
「えーっと……か、風邪治った?」
「あ、うん……お、おかげさまで……」
そう答えると後藤さんは元々下の方だった視線を更に落とす。……なんか。落ち込んでいる……? あ、そうか! 病欠で致し方なしとはいえバイトに穴開けたのを悔やんでるのかな? 後藤さん真面目だから。
「だ、大丈夫だよ後藤さん! 皆全然怒ってないって! バイトに一日穴開けたくらい笑って許してくれるよ! なんなら俺も同罪だし、一緒に謝るからさ! な!」
肩に手を置いて出来うる限りの爽やかスマイルを浮かべてサムズアップをしてみるが、後藤さんの視線は明後日のまま。肩に置いた俺の手に、後藤さんは手を重ねて。
「お、お願い生月くん……! それはやめて後生だからぁ……!」
下を向いて顔を赤くし、フルフルと首を振る後藤さん。ヤバい。今日は後藤さんの情緒が分からない。ホント、どうしたんだろ。
(はうう……こんな優しい人たちに私はなんてことを……! 罪悪感がヤバすぎて顔見れないよう……! で、でも駄目だ。こんな事してたら喜多ちゃんや生月くんを不安にさせてしまう。……働きと、バンドの活躍で取り返すんだ。ひとまずは、今日の初バイト! 頑張るぞっ!)
眉間にシワを寄せて目を堅く瞑り、何やら考え事でもしていそうな風情の男と、何かを決意したようないつもよりかは視線に力がある少女。
雰囲気が対照的な二人を見たクラスメートである武田は、苦笑いをしながらこう呟いた。
「前途多難だな、ありゃあ」
「おっはよーう!! 皆! 昨日はぼっちちゃんは災難だったね! 気を取り直して、初バイト頑張ろう〜!」
眉間に皺を寄せて考え込む男。同じく、な赤髪の美少女。居心地悪そうな桃髪の美少女。
場面は変わり、ここはもはやお馴染みにもなりつつあるライブハウス、STARRY。桃髪の少女は初バイトを病欠していたのもあって、虹夏は元気付けのつもりでいつもより明るく挨拶していた。しかし、帰ってきた反応はあまりにも塩漬け。
「えっ? ちょちょちょ! どうしたのさ、元気なくない?」
金色のサイドテールをぴょこぴょこ揺らしながら問いかける虹夏だが、考え込んでいる二人からは返答なし。
「わ、私は元気です虹夏ちゃん! 頂いたお休みで、熱もすっかり下がりました……!」
顔の前に拳を握って息を吐く。反応があったのはひとりだけだ。
「……他二人はどうしたのさ。なんか様子変じゃない……?」
「あ、あう……。もしかしたらそれ、私のせいかも……」
「はて?」
首を傾げてはてなマークを浮かべる虹夏に、またもひとりは目を背ける。
(ううう……。言えない。自業自得の風邪で病欠しちゃった罪悪感で二人の顔見れないからだって……え、ええい!!)
「き、生月くん! 喜多ちゃん! み、皆! 聞いて!」
「ほよ? どったのぼっちちゃん。元気だね!」
珍しいひとりの大きな声。虹夏やリョウはもとより、考え込んでいた喜多や生月も顔を上げる。
「あ、あの……! 昨日は迷惑掛けちゃってごめんなさい……! 昨日を埋め合わすぐらい、今日は私、頑張ります! ご、ご指導ご鞭撻! よろしくお願いします!」
目に炎を携えての決意表明。先程までとは違い、しっかりと上がっている視線に、生月と喜多は人知れず安堵する。
(よ、よかった嫌われてるわけじゃねえのかな。やっぱ昨日の病欠を気に病んでただけか)
(は〜っ! びっくりしたわなんかやっちゃったかって思った! 私さっつーとかにもよく言われるけど無意識に距離近いことあるみたいなのよね!)
「何だぼっち元気じゃん。灯の様子がおかしいからてっきりホントにぼっちをかじっちゃったのかと」
今まで事態を静観していた青髪の麗人はいきなり爆弾を落とす。槍玉に挙げられた生月が抗議の声を上げるより早く、虹夏は猫目になった顔を生月に向けた。
「き〜つ〜き〜く〜ん!? まさかホントに弱ってるぼっちちゃんにかこつけて色々やったわけじゃあるまいな!? 返答次第じゃリョウのギグバックの型に嵌めるからね!」
「ちょちょちょ待ってくれ誤解だ誤解! そんな事してねえよ! なあ後藤さん!」
ひとりに助けを求める灯。それに対してひとりは、何故か顔をぼっと、赤く染め上げていた。
「え……!? ぼ、ぼっちちゃん何その反応……! 生月くん〜!?」
「ヤバっ。思わぬ面白展開」
「あ、あう……! 違うんです虹夏ちゃん! ちょっとお姫様抱っこされただけで! 何もされてないですはい!」
「後藤さぁん!? 出す情報が違うでしょお粥作ったとか薬飲ましたとかさぁ!? 拡大しちゃうよ誤解が!」
「なんですってお姫様抱っこ!? きゃっー!! 何も誤解じゃないわーっ!! 女子の憧れよーっ!」
「こら!? そんな展開があったなんて聞いてないよ! 二人とも説明しなさい! キリキリしなさい!」
「うるっせーぞおめーらごらぁ!! 時給削んぞ真面目に働けやぁ!」
店の長たる星歌の怒号で平定されるまで、結束バンド、プラスアルファのどたばたすったもんだは続いた。
「……。おほんっ。まあ、疑惑は後で清算するとして。やるよぼっちちゃん! 喜多ちゃん!」
「はいっ! 虹夏先輩! ひとりちゃん! 私は一日先輩だから、何でも聞いてね!」
「は、はいっ! よ、よろしくお願いしますお二人ともっ!」
さ、さっきは思わずフリーズしちゃったけど、こんなみそっかすを抱き上げた所で生月くんが何か意識するわけもないし。そんなことは今どうでもいい。目の前の仕事に、全力を尽くすのみ! 私は今日は初日ということで、虹夏ちゃんと喜多ちゃんに助けてもらいながら、仕事を教えてもらうことになった。
「す、凄い気合。これは期待できそうだねっ!」
かくして、私後藤ひとりの怒涛のバイト1日目は幕を上げた。
「ぼ、ぼっちちゃん顔怖い! 笑顔! 笑顔!」
「えっ!? あっはい!」
「ひ、ひとりちゃんそれアルコールよ!? ソフトドリンクはこっち!」
「あ、ああっ!?」
「あっ!? ぼっちちゃん危ない! それ熱湯!」
「えっ!? あっつぅ!!」
「ひとりちゃん!!」
ドッタンバッタン。
嵐のようなピークタイムは過ぎ去り、今は今日出演のバンドさんたちのライブ中。華やかな光と熱で盛り上がるメインフロアとは対象的に、私はドリンクカウンターの下で体育座りで項垂れていた。
「あ、あはは〜、ぼっちちゃん。まだまだと言ったところかな〜?」
「う、うう……。わ、私。何にもできない。ごめんなさい虹夏ちゃん喜多ちゃん、足引っ張ってばっかりで……」
「そ、そんなにナーバスにならなくても……だ、大丈夫ようひとりちゃん! まだ初日なわけだし!」
励ましの声を掛けてくれる虹夏ちゃんと喜多ちゃん。でも何故か胸に染み入ってはこない。
喜多ちゃん。ホントに今日が二日目なの? ってくらいに何もかも完璧だ。ドリンクの位置覚えてるしお客さんへの言葉遣いも丁寧で自然。何より笑顔がとっても眩しい。
き、生月くんもPAさんや、店長について色々教えてもらっていて、もう馴染んでるように見える。
私だけが、どこにもいけていない。
肺に溜まった息を細く長く吐き出して、私は視線を自分の膝へと埋める。
「だ、だいじょぶ? ぼっちちゃん」
「……。虹夏ちゃん。私ね、少しは前に進めたと思ってた。でもね、全然だ。肝心なとこで逃げるし、誰の役にも立てない。私は昔のままだ……」
言葉に出すと、心もそれに引っ張られる。誰かが言ってたけど、どうやらそれはホントらしい。少しずつ私の心の暗い方へ、誘われるのが分かった。顎を膝に乗せて、何を見るわけでもなく、目の前のドリンクの在庫を目にうつした。
「……あたしはぼっちちゃんが昔のままだとは思わないよ?」
「へっ?」
思いもしない言葉に視線を上げると、虹夏ちゃんは私の隣に腰を下ろして、目線を合わせてから言葉を続ける。
「だってさ。あの時ぼっちちゃんは自分で言ったじゃん。多分代わりに言ってくれようとした喜多ちゃんを止めてまでさ」
「そうだったわね。私、凄いって思ったわよ! ひとりちゃん!」
何のことだろう……。あっ。そうか、バンドやりたいって言ったときの。
「ぼっちちゃんが自分の意思で私たちとバンドやりたいって言ってくれたこと、凄く嬉しかった。……それに、それだけじゃない」
「ぼっちちゃんは昔一人も友達出来なかったって言ってたよね。でも今は喜多ちゃんに、生月くん。私たちだっているし。やりたいことをどんどん実現して、先に進んでいるんだよ。昔と同じなんかじゃない」
「……」
不思議だ。生月くん。喜多ちゃん。虹夏ちゃんに、リョウ先輩。
皆みんな、性格も背格好も、何もかも違うのに、同じ匂いがする。
温かで柔らかい、ひだまりの匂い。
「あたしも、バンドやりたかった。でもメンバーいなくて困っていたら、喜多ちゃんと、ぼっちちゃんが来てくれて」
「きっと、初めから全部出来る人なんかいないんじゃないかな。失敗してすっ転んでも、諦めないで立ち上がって。そしたらきっといつか、ぼっちちゃんもなりたい自分になれるから!」
そう言葉を結んでくしくしと頭を撫でてくれる。……あ、柔らかで良い匂い、癖になりそう……。
ぱちんと。両の頬を挟み込むように手で弾いて立ち上がる。
「な、何を少し失敗したくらいでいじいじと……! に、虹夏ちゃんの言う通りです……! 今日の私は、皆を助けるって決めたんだ……!」
「おっ!? いいじゃんいいじゃんぼっちちゃん! 頑張ってこう! バイトもそうだけど、ギターとかも諦めず頑張ってれば、上手くなれるからさ!」
「ギターヒーローさんみたいにさ!」
……………………。
ん!? わ、私? な、なんでそこで私の名前が……。
「虹夏先輩。ギターヒーローってなんですか?」
き、喜多ちゃん。私のネットのアカウント名だよ。何故このタイミングなのかは分からないけど。
「お!? 喜多ちゃん興味ある感じ〜? 私が今推してるオーチューブのギタリストさん! 私たちと同い年ぐらいだと思うけど、メッチャクチャ上手いんだよ! こんな上手い人と一緒にバンドできたらなって! まあ一つの夢だよね!」
…………。めちゃくちゃ好いてくれているぅ……! す、すみません隣にいます! めっちゃ一緒にバンドしてますぅ……!
「へー! 凄いです高校生の凄腕ギタリストですか……! きっと私生活とかもカッコいいんでしょうね!」
「凄いみたいだよ〜! 概要欄にはロイン友達1000人に、バスケ部エースの彼氏持ちって書いてあるし!」
がふっ! お、大嘘です申し訳ございません!? 虚栄心と見栄だけで書いたアホ自画像がこんな所で返ってくるとは……!
「? ぼっちちゃんどしたの?」
「い、いえ……、か、カッコいいですねその人……。わ、私も会ってみたいな〜。なんて……」
「ねーっ! よければ二人とも今度動画見てみてよ!」
すみません編集作業でいっつも見ております。
ていうかこんな体たらくで虹夏ちゃんに、私がギターヒーローです。なんて言えないよぉ!? どおしよお〜!?
因果応報。悪いことも良いことも、巡り巡って必ず自分に返ってくる。最近この意味を痛感している後藤ひとり。
頑張れ後藤ひとり。こうなったら、腹を括って虹夏が想像しているギターヒーロー以上の実力を身につけるしか、ないのではないか?
「あっ! そういえばぼっちちゃん! 結局昨日の生月くんとのあれこれはなんだったのさ! 忘れてないからね!」
「あ、あう……! い、いや、私が思っていた以上に弱っていたので生月くんが気を回してくれたと言いますか……!」
「だからってお姫様抱っこはないよねぇ! あのスケベ侍! バイト終わったらお仕置きしとくよ!」
「ま、待って虹夏ちゃん! 生月くんは悪くないんです! 私がバランス崩したからと言いますか! だから結果的には抱かれるカタチになったわけで……!」
「新たな情報!? おのれ純情エッチングめ! どこまで風邪で弱ってる女の子の純潔を弄べば……!」
「……。多分誤解なんでしょーね……。生月くん……。同情するわ……」
記念すべき生月灯と後藤ひとりの初バイト。この後あらぬ誤解から伊地知虹夏に生月灯は激詰めされる羽目になるのだが、それはまた別のお話。
高評価、感想、ここすきなどといつもありがとうございます。余すところなく拝見しております。
なんかUA伸びとるな思ったら一瞬ランキングに引っかかってたみたいです。ひとえに見てくださっている皆様のおかげです。これからも頑張ります、よろしくお願いします。