少しだけ主人公の過去が出てきますが、この展開をあまり引っ張ることはないです。お笑いラブコメディ中心でいきたいので!
もう一人オリキャラで、主人公の妹ちゃんが出ます。利発な子です。
「んふっ、んふふふふ……」
ここは下北沢の安アパート。実家だ。俺は今、クラスの美少女、後藤ひとりさんと交換したロインのトーク画面を眺めて一人悦に浸っていた。
「へへへ……流石後藤さん。ロインでも控えめというか、静かだよな。実際会うとなかなかエキセントリックなんだけど……そういうのもあのクラスでは俺しか知らないんだよな〜」
「きもい。おにいきもい」
「とおわっ!?」
女子高生にあるまじきスタンプなども何もなしの簡素な文面に、らしいな〜等と考えていると背後から投げかけられる氷のナイフのような言葉。思わず体を翻して回避動作を取ってしまう。まあ耳にしっかり届いているので意味ないが。
「な、なんだ潤(うるか)か。帰っていたのか」
「うんさっき。……緩んだ顔しちゃって。なんか嬉しいことでもあった? おにい」
後ろに立っていたのは、生月潤(きつきうるか)。黒髪を肩まで伸ばした、性格を表すように白のセーラー服を校則通りにピチリと着こなす、一つ下のよく出来た妹だ。
「ゆ、緩んでた? ま、まああったかな。嬉しいこと……。へへへ……」
そんなにも分かりやすかったかな? 家とはいえもう少し気を引き締めないとな。緩んだ口元を真一文字に締めていると、潤はテーブルを挟んで俺の対面の椅子に腰を下ろし、フッと微笑む。
「珍しいこともあったものね。中学時代じゃ考えられない顔してたもの」
「わ、悪い。だらしなかったか?」
「ん〜ん。良いと思う」
意外なことを言われたため目を丸くして仰ぎ見ると、微笑みを携えたまま妹は続ける。
「おにいはさ。もう十分頑張ってくれたと思うよ? 私のため。家のため。お婆ちゃんの遺産もあるしさ。……もう少し、自分のやりたいことを追いかけてもいいと思う。あたしも来年になったら働けるし!」
「……」
俺の家庭は少し前、両親が揃って蒸発した。なんか不倫だとか駆け落ちだとか親戚連中がいろいろ言ってたが、まあどうでもいい。要は、自分のことしか考えらんねえ子供オトナのせいで、俺と妹は世間に二人ぼっちで放り出されたのだ。
ほんとに中学時代は大変だった。弾きすぎて切れちまったギターの弦を張り直すのにも、めくれ上がっちまった靴底をどうにかするのにも。何するのだって、それこそ学校通うのだって金がいる。まるで助けてくれないくそったれ親戚連中の中でも、唯一凄く優しく接してくれたお婆ちゃんの助けもあり、俺は婆ちゃんの身内の人たちの仕事を手伝うなどして、なんとか妹と二人、息をつないできた。
ついこないだ、そんな俺たちを可愛がってくれた優しい婆ちゃんも老衰で安らかに逝った。俺たちのことを思って自身の遺産を諸々整理して、遺して。
……婆ちゃん。金なんかいらねえから、もう少しだけ生きててほしかったよ。もう少しだけ、俺の当てのない話を、いつもの笑顔で聞いて欲しかった……。
「な〜んかまた、詮無いこと考えてんでしょ? おにいの悪い癖。お婆ちゃんにも言われたじゃん! 昔より今。今より明日なんだよ? 過ぎたこと考えるよりさ、私、久し振りにおにいのギター、聴きたいな?」
「お、俺のギター?」
「うん! あたし、結構おにいのギター好きなんだよ? 暫くお金の心配もいらないんだし、好きにやりなよ。やりたくても諦めてたこと。あるでしょ?」
……。それでも。俺は。婆ちゃんが守ってきてくれたこの家を。こんな不甲斐ない兄を信じて付いてきてくれた、何より大切な家族である妹を。放り出して好きなことをする気には……。
「こら。おにい私のこと疑ってんでしょ?」
「い、いやそんな事は!」
時々この妹は心を読めるのかと疑うときがある。今も考えていたことをほぼ的確に掬い上げられ目を見張る。
「私が一人でなんにも出来ないと思ってんの? アイツラがいなくなった三年前ならいざ知らず、今はおにいよりも家事炊事洗濯! 出来るんだからね!」
「私の心配なら無用! おにいはこれからギターでもなんでも! 自分がやりたくても諦めてたことやりなさい! はいこれは命令!」
……。そっか。俺が諦めてた、できなかったことか。
「今日は記念日! おにいが中学時代できてなかった、デレデレダラシない顔した記念日として! 私が夕飯作ってしんぜよう!」
これも、天命なのかな。後藤さんという、天使が遣わした。
「……。ありがとう、我が妹よ。アレだ。お兄ちゃんお前のハンバーグ食べたいな」
「任せろおにい!」
人生とは思わぬ時に、思わぬ方向に転がり出す。そして、それが悪い方向ばかりではないということ。ぐるんと腕を回しながらキッチンへと向かう、妹の背中を見送っていると、忘れかけた、本当は忘れたくなかった熱。お婆ちゃんに敢行した唯一の我儘によって買ってもらった相棒と、目が合った。気がした。
俺は席を立ち、ワインレッドのカラーが特徴的なスタンドに立て掛けられた我が相棒、レスポールに歩み寄る。
「……。ずいぶん待たせちまったな。相棒」
誰に聞かれるともなく、俺は一人そう呟いた。
後藤さんと出会って、数日たった。クラスの皆に、後藤さんもギター出来るんだよ! って紹介したら、後藤さんもかなりチヤホヤされていた。
「で、でへへへへへ……、そ、そんな、未来のグラマー賞確定だなんてぇ……、い、言い過ぎですよぅ……!」
ああ見えて大分調子に乗る子みたいだ。可愛い。でも、褒められるたんびに物理的に蕩けてる気がするんだ。あれどうやってんだろ。
俺はといえばこの数日で、取り敢えず直近の方針を決めていた。
ヘタレでメンタル雑魚な俺は、後藤さんに自分から告るのは無理だ。でも可愛くて綺麗な後藤さんと、いずれは恋仲にはなりたい。ならば、どうするか!
勉強でも、スポーツでも! 果てはギターに至るまで! ありとあらゆるシーンで後藤さんにカッコいい所を見せまくって、向こうから告白させてしまえばいい!
「あ、あのね、あ、灯くん。わ、私と、つ、付き合ってくれないかな……」イマジナリー後藤さん
ふおおおおおおおおルタナティブロック!
恥ずかしそうに言うのがいいよね。上がるわ〜。ドパっとドーパミン出るわ〜。今の想像だけで一日頑張れるわ〜。
当然カッコつけてるだけでは駄目だ。男たるもの中身も伴わなければな。男を磨き自分を磨き、いつか言わせてみせましょう……。
「灯くん……好き……♡♡」イマジナリー後藤さん
まあそれはそうとしてだ。最近俺と後藤さんは屋上でよく話をする。後藤さんはいまだに人見知りが抜けないため人目をはばかる。屋上にはほとんど人が来ないから秘密の会合場所にピッタリだ。ここまではいい。
なんでかこないだから! あんなに似合っていて春の妖精さんなのかな? って思ってたぐらいの制服を! 後藤さん着てなくて! かわりになんかピンクのジャージになっちゃってんの!? 下は制服のスカートのままだから綺麗なお御足は見れるからいいんだけどさあ!?
「ご、後藤さん? なんでジャージなんか着てんの? せ、制服は……?」
「あ、あんなキラキラした可愛いの……、私に似合わないから……、な、なんか私如きが皆さんと一緒、みたいな感じでは、恥ずかしいし……」
いやクラスで一番似合ってたよ! 滅茶苦茶可愛かったのになんで!? と口に出せない俺を笑うがいいさ。まあ後藤さん。素材が良いから何でも似合うんだけどね。それでもさすがに少し芋くなってしまった感は否めない。
ライバル減るからいいけど!
「そ、それに、こ、こっちのほうがた、只者じゃない感出てませんか? ば、バンド女子! み、みたいな……へへ……」
「あ〜なるほどぉ」
腕を広げて控えめにプルプルと振る後藤さん。可愛い。た、確かに言われてみれば、鞄にも腕にもギグバッグにも。ありとあらゆるバンドグッズ。後藤さんバンド女子に見られたいのか。
「あ、き、生月くんはそういうのしないんだね……」
「そうだね〜。俺は別にバンドしたいわけじゃなかったからさ」
答えながら背中に下げているギグバッグを一瞥する。
「中学の初めぐらいの時、聞いてたラジオから流れてたバンドの曲がもうホントにカッコよくてさ。歌詞覚えてオーチューブ探し回ってやっと見つけて。絶対に弾いて歌えるようになってやるって。それがギター始めたきっかけ」
「そ、そうなんだ」
「後藤さんは? 何でギター始めたの?」
「うっ!? え、えとその……せ、世界平和を伝えたくて……」
「意識高いね!?」
初めからそれとは。掻き鳴らしていくうちにテロとか戦争とか、音楽の前じゃただのゴミじゃん。みたいに思うことはあるかもだけどさ。流石だな後藤さん。
「あうう……、う、嘘ですごめんなさい……」
「サラッと嘘をつくね!?」
「ご、ごめんなさい……生月くんの理由がカッコよくて、わ、私の理由が俗っぽすぎたので……」
「気にしないでいいのに。ホントはなんでなの?」
「……。わ、私。中学時代も今と一緒で。一人も友達出来なくて。楽しそうに遊ぶ皆が羨ましかった」
「で、でも、仲間に入れてもらおうと思うたんびに、私なんかが入ったらつまらなくなっちゃうかな、なんて思って……踏ん切りつかなくて……」
「そ、そしたら、話しかけてもらえば、仲間に入れてもらえるかなって。ギ、ギター、す、凄く難しかったけど、で、出来るようになったら、誰かに話しかけてもらえるかな。……と、友達、出来るかなって。あ、あとチヤホヤしてもらえるかなとか……すいません俗っぽくて……」
「……ふふ」
やっぱりだ。この子は、発想が俺とよく似ている。
「ああ!? や、やっぱり笑われた! すみません承認欲求の塊で〜!」
「いや? 世界平和なんかよりよっぽど素敵な理由だろ。良いじゃんか俗っぽくて。ギター始める男子の八割はモテたいから始めるんだぜ?」
「うう……、そ、そうなんですか……?」
「絶対そうだよ。それに、後藤さんが必死で磨いてきたそのギターの腕は、これからきっと君に多くの人を惹きつける」
「……へ?」
「これはね、予言。よく当たる、俺の予言さ。現に、俺という友達が出来ただろ? あと、クラスの人たちもさ」
「……そ、そうだね。そうだよね。へ、へへへ……! き、生月くんと友達……!」
後藤さんはそうして笑う。珍しく影のささないいい笑顔だ。毎回こんなふうに笑えばいいのにな。いや駄目だ! ライバル爆増する!
友達が欲しくて。孤独は嫌で。ただひたすらに磨き続けた、祈りにも似た願い。それが後藤さんのギター。
きっとそんなの、魅力的に決まっているじゃん。
きっと君のもとには、寂しかった中学時代が思い出せなくなるくらい、沢山の、君のギターに引き寄せられた人たちが集まってくるだろう。俺も、その一人。……そして。
「ご歓談中お邪魔するわ! 生月灯くんと、後藤ひとりさん! ここにいるって聞いたけど!」
屋上の扉が勢いよく開け放たれる。何事かと思い視線を向けると、走ってきたのであろう。少し息を乱した、赤い髪の紛うことなき美少女が立っていた。背中に白いギグバックを携えて。
何やらトラブルの香りがするその少女を一瞥した後、目を白黒させている後藤さんへと視線を戻す。ほらね後藤さん。きっとこれから、君は忙しくなるぞ?
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