日常回。書いていて凄い癒される。
す、のレパートリーを増やそう。
酢だこ。酢昆布。スパシーバ。すずらん通りに、鈴虫。
まだ人もまばらな授業が始まる前の秀華高校の教室。朝日に照らされた机に頬杖を付き、窓の外を気怠げに眺めるそこだけ切り取ればえらく絵になる男が、頭の中にその光景とは対照的な思考を展開していた。
「お、おはよ……、き、生月くん……!」
「んふうっ」
ぐるっ。ごきん。(陰キャ桃髪に、珍しい影ささぬ微笑みでいきなり覗き込まれたため、体勢を無理矢理変えることで何とか昇天をこらえる生月氏の図)
「うええっ!? な、あ、え、だ、大丈夫!? 生月くん!」
「だ、大丈夫だよ、後藤さん……」
クソっ。いきなり現れて、その可愛い顔で俺を見つめるな! まろび出ちゃうだろうがっ!
口から、好きが!
す、までは最早いつも出かかっているのだ(その場合は不必要に息をなが〜く吸い込んで誤魔化している)油断すると、き、まで出て、流れるように告白しちまう。
だから誤魔化すのだ。す、まで出たら、酢だことか酢の物だとか違うこと言って!
しっかりしろよ生月灯。なんだこないだ出てたライブで推しが少し輝いて見えたくらいで!
お前は告らせたいんだろ!? 目の前で汗をピョピョピョと飛ばしながら小首を傾げてるこの可愛い生ものを! 告りたいわけじゃねえだろうが!
……侮るなよ後藤ひとり。自分で言うのもなんだが、俺は稀代の強情っぱりだ!
ギターの腕を磨き、人間性を磨き、ありとあらゆる男としての価値を磨き上げ、いつの日かキサマを落としてみせる! 楽しみに待っているがいい……!
「生月のあだ名って何がいいと思う?」
「イケメン百面相」
「ははっ。言い得て妙」
様々な表情をパラパラ漫画のように連続で切り替えながら、小首を傾げるひとりの前で身悶える生月。
一部始終を冷めた目で眺めていたクラスメートの会話を、勿論ひとりも生月も知る由は、ない。
「でも、いつまでも生月くんの相棒を借りとくわけにもいかないわよね〜。は〜! 私も後藤さんみたいな、マイニューギア欲しいわ〜!」
あっという間に時間は消え去り、気付けば放課後だ。おかしいな? 何か二限目辺りで後藤さんが担任に指名されておずおず立ち上がったのを見た後ぐらいから、記憶が薄いんだよな……。
最近は下駄箱前で待ち合わせて、この三人で帰るのが定番になっていた。通学路、いつも話題を振ってくれる喜多さんが、後藤さんに何かを話しかけている。
……最初はね、クラスの皆も俺に優しかったんだよ。ただね、真相はどうあれ、美少女を二人侍らせて帰ってるようにも見えるから、最近誤解されている気がする。主に男子に。挨拶しても、中指と舌打ちが返ってくることもある。その後、じょ〜だんだよ〜! とか肩を叩いて言ってくれるわけだが、目が全然笑ってない。
実に良くない。後藤さんと仲良くやるのももちろんだが、クラスメートの皆とも俺は上手くやりたいのだ。せっかくクラスメートになれたんだ。袖触れ合うも他生の縁なんて言うじゃない。
まあ、どちらか選べ。なんて言われたら間違いなく後藤さんを選ぶが。
「……生月くん。考え事かしら?」
「あ、はい……。たまになるんです。ああなると中々反応してくれなくて……」
「似た者同士ねっ!」
「だ、誰とですか……?」
「じ、自覚ないのね……。後藤さんのギターは、機種なんていうの?」
「あ、れ、レスポールっていうみたいです……。お父さんが使っていたのを借りていて……」
「カッコいいわよね〜! 後藤さんはギター構えた姿がサマになってるから凄いわ〜! 私なんか、どっちが本体? みたいになっちゃう!」
「わ、分かります……! 私も、始めたての頃、ギターすっごく重くて……。ぶ、物理的に振り回されてました……!」
キャイキャイとした女子トークに意識を引き戻される。しまったアホみたいな考え事してたから話が追えてねえ。後藤さんが何に振り回されているんだ?
「ねっ生月くん! 確か生月くんのも後藤さんのとおんなじレスポールよね!? 偶然よね〜!」
「あ、ああ。確かに。何? ギターの話してたの?」
「もー。やっぱり聞いてないじゃない。いつまでも生月くんのギター借りるわけにもいかないから、私も新しいの欲しいわ〜! って話よっ!」
成る程な、確かに。でも、喜多さんは間違ってベース買っちまったから今すかんぴんのはずだ。
俺もいつまでも貸してあげられるわけじゃないし、何とかしないとな。先輩たちに相談してみるか……。
「あ、あの、喜多さん。そのベース。まだ買ったばかりなんですよね……?」
「え? ええ! 練習して少し触ったりはしてるけど、まだ新品同様の筈よ!」
「そ、そしたら、楽器屋さんのどこか引き取ってくれるところを探して、売ってみるってのはどうですか……? そのお金を元手に、新しいギター買ってみるとか……」
「そ、そんな錬金術が!? い、いいわねそれ後藤さん!」
「へ、へへへ……」
喜多さんのまっさらに近いギグバッグを見上げながらそう提案する後藤さん。成る程な、アリかも。
「まあ、それらも含めて先輩たちにも相談してみようぜ? なんかいい案出してくれるかも」
「そうね! どうせこれから行くしね! よーし、それなら! 先を急ぎましょう!」
「あ、はい……」
右手を突き上げSTARRYへの道のりを先行する喜多さんに、俺たちは追走する。やれやれ、喜多さんはすっかり俺たちのモチベーターだな。
「さて皆! 今日は、いっぱい喋ろう!」
もう初めてこのSTARRYに来てから二週間弱。最早勝手知ったる。な感じになりかけていた我々だが、今日は初めてのことを虹夏先輩が言い出した。いつものテーブルに腰を下ろす我々四人を見下ろしながら、虹夏先輩はホワイトボードをバシバシ叩く。
「あ、あの〜。バンドの練習、とかじゃないんすか?」
いっぱい喋る。改めて、言うことだろうか? 別にこれまで全く喋らなかったわけじゃなし。いや、控えめに見たら、我々は結構仲睦まじく色々と喋っていたではないか。
「それは今まで散々やったじゃん! 確かに私たちバンドだけどさ。それだけじゃ駄目だと思うんだよね〜!」
んん……成る程?
「だからさ! 今日は特に後輩三人! 君たちの人となりを教えてよ! 学校ではどんな人で、どんな音楽が好きとかさ! 思い思いに!」
「成る程。今日はそんな会ですか」
「そう! そんな会にしようと思って! そしたら、言い出しっぺの法則! 生月くん! 君の好きな音楽と! ガッコではどんなか! 教えてくれるかな!?」
「いい◯もー!」
俺を指差しそう楽しげに宣言する虹夏先輩に、リョウ先輩が右手を突き上げ合いの手を入れる。いや一昔前の昼番組!
「わ、分かりました。え〜と。じゃあ改めて。俺の名前は、生月灯。血液型はO、好きな食べ物はもやし炒め、好きな音楽は、オルタナティブロック(特に九十年代)です……。よ、よろしく」
おお〜、と、歓声が上がった後の拍手。て、照れるな。なんか。
「いいねいいね! 音楽は、やっぱアジカンとか?」
「あ、はい。よく、聴きますね……。特に昔のやつが好きです」
「なるほどなるほど〜! よし次! ひとりちゃん!」
「は、はひゃい!」
……次は後藤さんか。一言一句聞き逃せない。労力なく手に入れられる、彼女の情報!
普段の雑談では中々上がってこない(後藤の可愛さにやられて中々聞けてないだけ)真新しい情報カモン!
ジッ……✕4。
「は、はわわわわわわ……」ぷしゅるるるるる……。
「ああ……」
「後藤さん!? や、やっぱりこうなっちゃうのね……」
虹夏先輩が何とも言えない表情で。喜多さんはある種予想通り。な、表情で真っ赤になってぐるぐる目で腰が砕ける後藤さんに肩を貸す。しまった! 見過ぎたか……。
「も〜う。ひとりちゃん。その上がり症は直さないとだねえ」
「生月くん。後藤さんは普段大丈夫なの?」
「あ〜。ギターが出来るってクラスの皆に言ってからは男女問わず話しかけられてるのをたまに見ますねえ」
「ふふ。結果は?」
口元だけを隠して、リョウ先輩が聞いてくる。少し目尻が下がっているように見えるのは、多分気のせいではない。
「まあ、こんな感じですね」
「ああ〜」一同、納得。
しばしの間。
「改めて、ひとりちゃん! お願いします!」
「あ、は、はい! し、秀華高校一年生! ご、後藤ひとりと申します! す、好きな食べ物は、ハンバーグや、か、唐揚げ! 好きな音楽は……!」
……が、頑張れ! 後藤さん!
「え、えっと……! 青春コンプレックスを刺激しないものなら何でも……」
……うん? また何か言い出したぞこの子。何だ? 青春コンプレックスって。
「後藤さん。青春コンプレックスって? 私の知らないロックの用語?」
喜多さんはホントに先陣切るのに向いてるよな。
「あ、えと……」
頬に人差し指をつけ、首を傾げながら聞く喜多さんを、一瞥した後後藤さんは考え込む。少しずつ目の周りに闇を溜め込みながら。
「青春コンプレックス……。夏の海。男女一組の恋のアバンチュール……夏祭り……サンダル履きの足指……花火……からのとろぴかるらぶ……、わ、私では手の届かないものたち……」
血でも吐きそうな顔でつらつらと並べていく後藤さん。もういい。もう、いいんだ……!
「わ、私はないけど、中学生、高校生になったら、そのぐらい普通じゃあ……?」
「がっはああああっ!?!?」
喜多さんからのその言葉に、血を吐いて頭からテーブルに沈む後藤さん。
「わ、私はないわよ! 私はないからね! 後藤さん!」
少し頬を赤らめながら弁明する喜多さんに、た、爛れた関係……。と、後藤さんは呟き、勝手に爛れさせないで! と怒られていた。一部始終を、顔を逸らして口に手を当て、肩を揺らしながら聞いてるリョウ先輩。全く、皆個性的である。
「ろ、路線が切り替わったのか? ってくらいに話がズレてくなあ……! ほ、ほら、ひとりちゃん! もう少し聞きたいよ! 何処から来ているの? 地元この辺?」
「あ、はい……、えと、か、神奈川の方から、で、電車で……」
来たね。俺が気になってた情報。
何故地元である神奈川の高校を選ばなかったのか。
俺の勘では、ここに彼女の秘めたるパーソナリティが……!
「なんて駅?」
「え、えと……、金沢八景……」
「とおっ!?」
リョウ先輩からの質問の答えに、虹夏先輩が驚く。金沢八景……? 聞いたことない名前だな。どこらへんなんだろう。
「えっ!? 後藤さん! 片道でも二時間くらいかかる場所よね!? なんで下北沢まで通ってるの!?」
こっそりナビ◯イムで調べようとしたら、喜多さんが先に答えを教えてくれた。
「あっその……。こ、高校では、誰も私を知らない場所へ行きたくて……」
「……こ、この話はやめようっ!」
悲しい風を感じ取った虹夏先輩がタオルを投げ込む。おお、後藤さん。親近感湧く理由だなあ。俺も、似たような感じだ。
「クックックッ……。前から思ってたけどさ、ひとりって結構変なとこでアグレッシブだよね……、そんなに面白いのに、今まで友達いなかったの、意外」
「あっ、中学時代は誰にも名前覚えてもらえなくて……そこのお前! とか、おい! とか呼ばれていました……ど、どうも、おいちゃんです……な、な〜んて……」
聞いた瞬間リョウ先輩が顔を逸らして吹き出す。なんだかんだリョウ先輩後藤さんのこと気に入ってるよな。
「も、もういい……! もういいんだひとりちゃん……! み、皆! ひとりちゃんにあだ名付けたげよう! 愛情たっぷりのやつ! 年頃の女の子のあだ名がおいちゃんだなんて酷すぎるよ!」
「待って虹夏今やめて……あっはははは……!!」
思わぬ場所からの追撃に、ついにリョウ先輩は声を上げて笑い出す。こんのヒトデナシがあ。
しかし。後藤さんにあだ名かぁ。
「あ、あだ名……! み、皆さんが考えてくれるんですか……!?」
本人ウッキウキだぁ。目がシイタケみたいな模様になって光り輝いている。
こんなキュートなお嬢様に見合うあだ名を、俺が考えられるだろうか。……う〜ん。
「虹夏先輩はあだ名なんて呼ばれてました?」
「うえっ!? あたしぃ? あたしは〜……。ジカちゃんとか、にじにじとか……」
「きゃーっ! 可愛いです! 私もそう呼んじゃおうかなっ!」
むう。確かに、虹夏先輩らしい愛らしいあだ名だ。その方向性でいいのか。
「あ、あたしのはいいでしょ〜! そ、そういう喜多ちゃんはどうなのさ〜! あだ名!」
虹夏先輩が赤面しながらも喜多さんに切り返す。すると喜多さんは先程からのテンションが嘘であったかのように、スンッと表情を失った。
「はえ!? き、喜多ちゃん!?」
「わ、私のあだ名はキタキタです……」
「いやそんなわけないじゃん!? 喜多、郁代ちゃんなんだから、郁ちゃんとか、可愛いのあるでしょ!?」
「あぐう……! せ、先輩……! 郁代って呼ばないでぇ……! あまり好きではないんですぅ……!」
「郁代」
「はうっ……!」
「郁代〜♪」
「あう……! な、なんかリョウ先輩なら許せるわ!」
あまり好きではないと言ってる名前を一度目は無表情で。二度目はビブラート付きで呼ぶヒトデナシ先輩。最終的にはお許しを頂くから凄いよなぁ。
「き、喜多さん……! い、郁代ちゃんって言うんですね……! か、可愛い名前ですね! 」
「へっ!?」
「き、喜多さんはキラキラした明るさの中にも、す、凄く、所作とか、た、佇まいとかがキレイで……、そ、そんな喜多さんに、そのお名前、ぴ、ぴったりだと思いますっ」
珍しく前に出て後藤さんがそう主張する。因みに俺も同意見だ。喜多さん。流行りもの好きの単なるミーハーかと思えば、食事の時の箸使いだとか言葉遣いとか、洗練されてて綺麗なんだよな。ただの陽キャじゃない、育ちの良さみたいなものを感じる。
「き、きれっ!?あ、ありがと……。ひ、ひとりちゃん……ひ、ひとりちゃんって名前も、可愛いわよ……? わ、私これからそう呼んでいい?」
「あ、は、はい! こ、光栄です、喜多ちゃん!」
そう言うとニッコリと笑い合う二人。この二人は最近二段飛ばしぐらいの勢いで仲良くなっていく。もともとの波長が合うのかなぁ?
「うーん……。後藤、ひとりちゃん……。ごとりちゃん……」
「ぷふっ。変だよ虹夏」
「むう。生月くんは? なんかある?」
「うーん。ひーちゃんとか、どうですか?」
「それ生月くんひとりちゃんに言えるの?」
「無理ですね。恥ずかしくて卒倒します」
「でしょ〜? 実用的なの頼むよ〜」
むう。確かに今はまだ無理だ。だが、もし後藤さんのハートを射止めたその時は、呼んでやるぜ。そして、俺の事は、あかりん♡なーんつってドゥフフフフ!
「うーん。ひとり……ぼっち……。ぼっちちゃんは?」
今まで静かだったリョウ先輩が呟くようにそう言うと、虹夏先輩は勢い良く首を翻す。
「繊細そうなとこ突っ走っていくなや〜! ひとりちゃんが気にしてたらど〜すんだよ〜!」
「えっ!? 駄目? 可愛くない?」
「いや可愛くないとかそんな問題じゃあ……。ま、まあ、確かになんか不思議な可愛さはあるけど……ぼっちちゃん……。ま、まあ、先方のご機嫌をお伺いしますか……。どう? ひとりちゃん?」
ひとりぼっちだったから、ぼっちちゃんか……。
「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼっちですぅ!」
「ノリノリだあ!」
アリだな。可愛い。お前何でもいいんじゃんだって? シャラップ。
「は、初めて誰かにつけてもらったあだ名ですぅ……だ、大事にします……!」
「こんなんでありがたがらないでぇ!」
申し訳なさそうに虹夏先輩がワタワタしているが、結局、あだ名にしても何にしても、受け取る側の問題なのだ。見ろ後藤さんのあの顔を。皆で頭を捻った甲斐があるというものだ。リョウ先輩グッジョブ。
でも、俺は後藤さんのままでいいや。俺の中で後藤さんは、後藤さんだから。
どんな人でどんな人生を歩んできたかなんて関係ないくらい、あの日の教室での君の目に、俺の心は持ち去られている。いずれ、気の利いたセリフと共に返してもらいに行くから、待っていなさい……。
「よかったねぇ、後藤さん。素敵なあだ名つけてもらって」
「あ、うん……!」
パアッと、影がささないいい笑顔。でも途中から笑みを引っ込めて、俺を見つめる後藤さん。
「き、生月くんは、よ、呼んでくれないんだね……あ、あだ名……」
「ん? あぁ……。俺の中で後藤さんは、後藤さんだからね」
説明不足にも程があるかもしれないが、こう言うしかない。
「……おんなじ」
「うん?」
「き、生月くんがもし誰かにあだ名つけられても、わ、私も呼ばないと思うから……、き、生月くんは生月くん……だよねっ」
人の笑顔には、華が咲くのだ。だって俺見たもん。
超弩級の隕石をぶち込まれたせいで俺の心は恐慌状態だよ。
ちょっと待って後藤さん!? 君は今、何を言った!?
特別!? 特別ってことですか!? 今の言葉は俺が君にとって特別ってこと!?
結婚だ。
もうそれしかねぇ。
子供は野球チーム作れるぐらい欲しいな。名前どうしよう。九人分となると大変だ。あああああドーパミンで脳内が埋め尽くされていくー!
困惑しながら小首を傾げる桃髪美少女の前で、頭を抱えて背中を反らし天へと伸び上がる少年。
これは、全女子に知っておいてもらいたいのだが。ある恋愛漫画家が残した名言だ。
恋をする者にとって、その対象とは、神にも等しいのである。
その子の言葉一つで心の中に隕石が落ち、氷河期が訪れれば、その子の微笑み一つで、雲一つない青空が展開したりもするのだ。
「いや収拾つかない!」
「もういんじゃない? 虹夏、終わりで」
「ダメだよ〜! お姉ちゃんに言われたじゃん!」
「あ、そっか。忘れてた」
「は〜い! 皆注目〜」
再びホワイトボードを手でバンバン叩きながら、虹夏は場の収拾を図る。
「……なんかぶっちゃけ話は出尽くしたかなって思うんだけど〜、ここで私たちから提案! 皆! お金欲しくないですか〜!」
虹夏のこの言葉に真っ先に反応したのは意外にも、生月だった。
「は、はい! 欲しいっす虹夏先輩!」
「おお!? 復活早いね当分戻ってこないかと」
「お、俺んち引くほど貧乏で! こないだまとまった金は入ったんすけど、学費とか食費とかギターの維持費とかまだまだ金は必要で! お金、めっちゃ欲しいっす!」
「な、なんか大変なんだね生月くん……そんな君に朗報だよ。ここSTARRY。万年スタッフ不足です。皆! うちでバイトしない?」
一瞬の間。後に、少年と赤髪の少女は歓声を上げる。
「や、やった! 労せずして働き場所ゲットだぜ! しかもライブハウスのバイト!? 普通に憧れだわ!」
「きゃーっ! このメンバーでバイトなんて絶対に楽しいわー!」
しかし、急速に動き過ぎた事態を飲み込めず、フリーズしていた陰キャ桃髪が、ここで再起動。
「きぃやああああああ!? バイト!? 社会!? いやっ!? し、社会! バイト怖い!」
まるで電子音のような咆哮を上げながら恐れおののく。それを虹夏はため息とともに見つめる。
「いやまあ、こうなるだろうなとは思ってたよ。しょうがない、ラストミッションだ、皆、(ぼっちちゃん)を説得しよ〜う!」
「! ……おけ、虹夏。(ぼっち)。観念せい」
「ほ〜ら、(ひとりちゃん)、きっと皆でやったら楽しいわよ〜! 絶対そうよ〜!」
「(後藤さん)是非もない、説得させてもらうぜぇ……!」
「あ、あ、あぁぁ…………!」
哀れな桃髪の断末魔がSTARRYメインホールに響き渡る。かくして、秀華高一年トリオの就職先は決まったのだった。めでたしめでたし。
あ、ヤベ。喜多さんのベースの話し忘れた。
皆さんのおかげでUA1000突破しました。ホントにありがとうございます。高評価を寄せていただいている方。感想を書いてくれる方。ありがとうございます。何よりの宝です。これからも気軽にお寄せください。
特に感想が、とってもとっても嬉しいです。