日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う   作:宮原ワタル

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本業関連と帰省で更新が滞っておりました(汗
本日より再開です!


18話:魔法オタク、己の役割を自覚する。

 

 主人公に、なれる力。

 

 ──『私、夢を諦めたくないの』

 先輩の声が、脳裏に走る。

 

 たしかに、あの時そう言った先輩は、まさしく勇者みたいだった。

 

 自分の〝夢〟を誰に否定されても、それでも諦めたくないと口にした。

 怖くないわけじゃない。苦しくないわけでもない。

 それでも、自分の望む未来へ手を伸ばし続けていた。

 

 兄貴の言葉を借りるなら──あの姿こそが、〝主人公〟なのだろう。

 

 

「つーか、何で急に俺の〝夢〟について聞いてきたんだよ」

 

 兄貴の声に、ハッと今の状況を思い出す。

 そういえば、まだ兄貴と話している途中だった。

 

「……別に?一級属性魔法士の参考書を借りてきたのが、気になっただけ」

「ほーん」

 

 流石に先輩のことを言う勇気は無かったため、それっぽい理由で回答を誤魔化す。

 

 兄貴は納得する言葉を発しはしたが、どこか腑に落ちない顔をして再び椅子に腰を降ろした。

 参考書を膝の上に置き、数ページほどパラパラとめくりながら、肘掛けに肘をつき、手の甲に頬を預ける。

 

 

「……んじゃ逆に聞くが、お前は〝夢〟、無いのか?」

「え?」

 

 不意打ち気味に聞かれた質問に、一瞬答えに窮するも、以前先生から似たようなことを聞かれたことを思い出す。

 

「……今は魔法極めたい、としか……」

「相変わらず魔法バカだなおめーは」

 

 呆れたように言いながらも、兄貴はそれ以上笑わなかった。

 

「今の時代、やりたいことが無いのは別に珍しい話じゃねーが……」

 

 兄貴は参考書を閉じる。

 そして、僕の目をまっすぐ見た。

 

 

「お前は、人生の主(・)人(・)公(・)じゃなくていいんだな?」

「…………」

 

 

 〝主人公〟。

 さっきまで兄貴が熱弁していた話が、頭の中でぐるぐると回る。

 

 僕に、〝夢〟はない。

 魔法を知りたい、もっと魔法を極めたいとは思っても、それを〝夢〟と呼んでいいのかは、分からなかった。

 

 

 

「いつか、俺は〝世界一の獣医〟になる」

 

 兄貴が、唐突に宣言した。

 

 ──世界一の、獣医。

 壮大な未来予想図に、少しだけ目を見開く。

 兄貴は手元の参考書を軽く持ち上げながら、言葉を続ける。

 

「それを叶えるためには、めちゃくちゃ危険な魔獣を診察することだって、あるかもしれない」

「だから、対抗手段としての一級属性魔法……」

「そゆこと」

 

 指を鳴らし、人差し指を僕に向ける兄貴。

 

「ま、こ(・)れ(・)は父さんの受け売りだけどな」

「父さんの?」

「獣医学部に進みたいって父さんに相談したとき、言われたんだけど」

 

 兄貴は指先で参考書の端をなぞりながら、少しだけ考えるように間を置いた。

 それから、どこか面白がるように口の端を上げる。

 

 

「『その〝夢〟を見続けろ。そうしなければ自分の人生の主人公にはなれない』、だってさ」

 

 

 不覚にも、割とカッコイイと思ってしまった。

 

「……父さん、カッコつけすぎじゃない?」

「俺もそう思う」

 

 くつくつと笑いながら、兄貴は肩を揺らす。

 そして、笑みを残したまま僕を見る。

 

「でも、好きだろ?こういう考え方」

「……まぁ」

 

 素直に認めるのは、なんとなく癪だったが……たしかに、悪くない。

 それに──。

 

「うん。そうだ」

 

 僕はゆっくりと立ち上がった。

 

「僕は主人公じゃなくていいよ」

「…………」

 

 兄貴が黙る。

 その視線を受けながら、僕は自分の中にある熱を確かめるように、言葉を続けた。

 

「僕には、叶えたい〝夢〟なんてない」

 

 魔法を知りたい、魔法を極めたい。

 この思いは、広義的に見れば〝夢〟かもしれない。

 でも、この程度の〝夢〟が、先輩や兄貴のそれと同じものだとは、どうしても思えなかった。

 

 先輩には、叶えたい未来がある。

 兄貴にも、目指す未来がある。

 それに比べて、僕はただ魔法を知りたいだけだ。主人公なんかじゃ、ない。

 

 

 

 でも、誰かの〝夢〟を叶えるために力を使うことくらいなら、できるんじゃないか。

 

 僕に夢は、無いけれど。主人公には、なれないけれど。

 先輩の人生の脇(・)役(・)には、なれる。

 

「脇役も、物語には必要でしょ?」

「…………ま、たしかにな?」

 

 口にした途端、ゾワゾワとした感覚が身体を支配し、口角が大きく吊り上がる。

 今すぐ、胸中に湧いた熱を形にしたくて仕方がなかった。

 

 

 

 ……とは言え。その前に。

 

「てかさっきからバカバカ言いすぎなんだよお前さぁ!」

 

 少し言い返すぐらいはしておかないと、気が済まなかった。

 

「なーにがお前だ!お兄様と呼べ!」

「呼ぶか!」

 

 お互いに蹴り合おうとした瞬間。

 

「あんたたちうっさい!」

 

 廊下から母さんの声が飛んできた。

 扉が開き、冷たい視線が二人に突き刺さる。

 

「「う~い……」」

 

 一瞬で沈静化する僕たち兄弟。

 そのままジッ……とした目で僕たちを見て、母さんは兄貴を手招きする。

 

「レン、晩御飯作るの手伝いなさい。今日の肉、魔獣のだから、炎の魔法使って頂戴」

「え~、魔法ならハルでいーじゃん」

「この子に任せたら無駄に凝った魔法使って焦がすからダメ」

「ひどい偏見だ」

「実績よ」

 

 即答だった。

 我が家における、絶対的権力者の一言に、兄貴は渋々立ち上がる。

 

「……はいはい」

 

 文句を垂れながらも、兄貴は部屋を出ていった。

 再び静かになった部屋で、僕は大きく息を吐く。少しムカつくも、さっきの兄貴の言葉が、頭の中で反芻される。──やっぱり結構ムカつくな?

 いや待て待て、そんなこと考えてる暇なんてない。

 

「バカはバカでも、僕は魔法バカだ」

 

 今まで、どれだけコレを言われてきたか。

 でも、僕はこれまでこの評価を疎んだことはない。むしろその逆。

 

 再度床で仰向けになり、目を閉じる。

 思い出すのは、あの時一瞬だけ先輩の背中に見えた、一筋の魔力。

 目を開けて携帯の電源を入れ、そのままメッセージアプリを開く。送信する相手はもちろん、姫道ヒマリと表示されたアカウント。

 文字入力欄に、ゆっくりと指を落とす。

 

 

──『今週土曜の夜、空いてますか?』

 

 

 一瞬だけ、指が止まる。

 それでも、恐れを振り払うように、そのまま送信した。

 

 画面が切り替わった瞬間、大きく深呼吸をする。

 しかし数秒後。すぐに画面に表示された〝既読〟の文字を見て、結局心臓が跳ねる。

 ほとんど間を置かず、返信が続いた。

 

 

──『空いてるよ』

 

 

「っ!……ふぅ……」

 

 自分で思っていた以上に、緊張していたらしい。ゆっくりと詰まっていた空気を肺から吐き出す。

 後戻りは、もうできない。

 それでも、迷わない。先輩には、全力でこの魔法バカを踏み台にして貰うことに決めた。

 

 伝えたいことは、既に決まっている。あとは、それをどうやって伝えるか、その方法だけだ。

 身体を起こして父さんの書斎に向かい、片っ端から分厚い本を開いていく。

 

「絶対に、見つけてやる……!」

 

 次の日とそのまた次の日、僕は学校を休んだ。

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