日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う   作:宮原ワタル

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19話:魔法オタク、先生とその家族を巻き込む。

 

 休日の校舎は、平日とは別物のように静まり返っている。

 廊下に反響する足音も無く、窓の外から聞こえるのは、風に揺れる木々のざわめきだけだ。

 

 魔学室の中央で、仁志宮先生が私服姿のまま椅子にだらっと座っていた。

 教師らしからぬラフな格好はいつも通りだが、休日の学校という状況も相まって、余計に教師感は薄い。

 

 

「……んで?」

 

 机に肘をつき、開口一番。

 

「休日に魔学室使わせてくれ、まではまだ分かる。部活動するなら俺が監督する必要あるからな。……めんどいけど」

 

 先生は小さく鼻で笑い、視線を教室の隅へ向ける。

 

 

「──ただ、何をどうしたら娘を連れて来て欲しいって発想になるんだよ」

 

 魔学室の端では、先生の奥さんと娘さんが並んで椅子に座っていた。

 娘さんは机の上で折り紙を折りながら、こちらをちらちらと盗み見ている。

 視線が合うとびくっと肩を跳ねさせ、慌てたように紙に集中し始めた。

 

「……非常識なお願いをしてるのは、分かってます」

「その上で連絡してきたんだろ?」

「はい」

 

 即答すると、先生は深く息を吐き、後頭部をがしがしとかいた。

 

「いやまぁ、連絡先を一生徒に渡してる俺も悪いんだけどな」

「それは……」

「別に禁止はされてねぇけど、一応そこら辺は俺の責任だ。それに」

 

 先生は娘さんを一瞥し、再び僕に視線を戻す。

 

「お前がここまでやるってことは、ぜっっっっっったいに何かやらかすだろ。校長先生に俺が怒られる前に、ちゃんと見ときたいんだよ」

 

 呆れたような口調。しかしその目には、確かな期待な色が灯っている。

 

「信用無いですね」

「信用してんだよ。この3年だけでお前どんだけやらかしてると思ってんだ」

「……何も言えねぇ」

「二日間の無断欠席もな」

「…………マジすんません」

 

 しまった。心当たりが多すぎて、反論の言葉が一つも浮かばない。

 思わず先生から目を逸らしてしまった。

 

「それでも、よく来てくれましたよね?僕が言うのもなんですけど……」

「そりゃ来るに決まってんだろ」

 

 先生は当然のように言った。

 

 

「俺が人生で会ってきた中でも、随一の魔法バカで、天才な生徒が、『魔法覚えたいので手伝ってください』なんて送ってきたんだぞ?」

 

 言い方は相変わらずだが、声には隠し切れない楽しげな響きがある。

 

「授業態度とか学校生活についてはめっちゃ口出してるが……お前に魔法を〝教える〟ことは、これまで1回も無かったからな」

 

 少し間を置いて、先生は口角を上げた。

 

「むしろ教えて貰うこともあった。教師として、それは若干不甲斐ないんだよ。……ま、今回はウチのお姫様が乗り気だったのもあるが」

「ありがとう、ございます」

「気にすんな。……ん?」

 

 頭を下げると、先生は手を軽く上げて応じる。

 その直後だった。

 

 

「バカってことば、つかっちゃだめ!」

 

 いつの間にか近くまで来ていた娘さんが、先生を指さしていた。

 

「あぁうん、そうだねアカネちゃん……」

「ごめんなさいは!」

「……はい。ごめんなさい」

「よし!」

「先生……」

 

 珍しく先程まで漂っていた威厳が、音を立てて崩れ落ちた瞬間であった。

 先生の言葉に満足したのか、アカネちゃんはくるりと踵を返して奥さんの元へ戻っていく。

 奥さんがしきりに頭を下げているのを見て、僕も慌ててペコペコと頭を下げた。

 

 先生は一度「んんっ」と咳払いをしてから、改めてこちらを見る。

 

「一応聞いとくが、アカネちゃんが危なくなるような代物じゃないだろうな?」

「もちろんですよ。……代わりにネコマルが犠牲になってくれたので」

「ホントに大丈夫なんだよな!?」

 

 先生は反射的に僕の肩を掴んだ。

 

「怪我はしてないですよ。ちょっと【魔力連結】の練習相手になってもらっただけです」

 

 多少抗議されたものの、何だかんだネコマルは手伝ってくれた。良いヤツだ。

 ちなみに、授業中はずっと件の魔法式を調整していたせいで、いつも以上に佐々山先生からの視線がすごいことになっていたが。

 

「……まぁ、葦谷なら良いか」

「教師が言っちゃダメでしょそれ」

「知るか。今日は休日だ」

 

 ふっと、どちらからともなく口角を上げる。

 その瞬間、教師と生徒という立場の壁は、綺麗に消えていた。

 こと魔法に関する限り、仁志宮先生との間に立場の差も年齢差も存在しない。

 ただ、同じ熱量で魔法を語る、少し年上の悪友がいるだけだ。

 

「……んじゃ、お前が覚えたい魔法を、教えてくれ」

「わかりました」

 

 

 

***

 

 

 

 数時間後、 無事に実験を終えることができた。

 

 深く頭を下げ、先生と奥さん、そしてアカネちゃんにお礼を告げる。

 

「今日はホントに、ありがとうございました」

「おう。俺も良いモノ見せて貰ったわ。思ってたのとは、ちょっと違ったが」

 

 苦笑いを浮かべ、先生は奥さんと目を合わせる。その表情には、呆れよりも満足の色が濃く滲んでいた。

 

「……しっかしまぁ、あんな千年以上も前の民族魔法、よく見つけたな」

「めっちゃ昔の海外の魔学論文にありました。……当分は論文見たくないですね」

 

 いやホントに、見つけるのが1番疲れた。

 睡眠と食事を肩代わりする魔法を使って、丸々1日と8時間。

 その全てを父さんの書斎で引きこもっていたせいで、後から家族全員にめちゃくちゃ怒られた。結局反動で一回ぶっ倒れたし。

 

「おにーちゃん!」

 

 数日前のことを思い出して目を遠くしていたが、元気な声で現実に戻された。

 興奮冷めやらぬ様子で、アカネちゃんは目を輝かせている。

 小さな足音が床を叩き、その勢いのまま僕の前で立ち止まった。

 

「あのねあのね!とっっってもたのしかった!」

「なら良かった。今日はありがとね。アカネちゃん」

「どういたしまして!」

 

 しゃがんで目線を合わせると、自然と笑みが返る。

 最終的に、完璧だと確信できたのは、間違いなく目の前にいる少女のおかげだった。

 

「あのまほー!おーきくなったらひとりでつかえる!?」

「……もちろん。その〝夢〟を忘れずに、お勉強を頑張ったらね」

「がんばる!」

 

 小さな拳をぎゅっと握る姿が、可愛らしく、眩しかった。

 先生がアカネちゃんをそっと持ち上げ、柔らかく目を細める。

 

「……ただ、アレを使いこなすのは、俺でも時間がかかりそうだな。……いや、俺(・)ら(・)だ(・)か(・)ら(・)、時間がかかるのか?」

「そうですね。〝魔法に慣れてる人〟ほど、癖のせいで純粋な状態で魔力を動かせないと思うので……僕もそこの〝イメージ〟を掴むのに苦労しました」

「たった数日で形にさせたお前が言うなよ」

「いやー天才ですいません」

「……別に間違ってないがムカつくなぁおい」

 

 言葉とは裏腹に、楽しそうな表情で僕の頭を手でつかむ。

 

「生意気なヤツめ」

「いててててて」

 

 数秒後には手を離し、アカネちゃんを優しく抱き直して再び口を開く。

 

「……んで、明後日の実技会は、ア(・)レ(・)で行くんだな?」

「はい。ギリギリになって、すいません」

「ホントにな。でもその分、良いの見せれそうじゃねーか」

「あざす!……んじゃ、今日は失礼します」

「おーう。気をつけてなー」

 

 先生と奥さんに一礼したあと、大きく手を振っているアカネちゃんに小さく手を振り返してから、魔学室を後にした。

 

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