日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う 作:宮原ワタル
「にしみーん!こっちの配置はこんな感じで良いですかにゃー!?」
「いいぞー!結界魔道具持ってくからちょっと待っとけー!」
「了解ですにゃー!」
大声でやり取りしながら、元気よく会場設営を進めるネコマルと仁志宮先生。その声に釣られるように、周囲の先生たちも体を動かしており、運動場は朝から賑やかだった。
本日は、合同魔法実技会の当日。僕が通う涼葉学院高等部と、先輩が通う月葉学院高等部。毎年この時期に行われる、両校合同の恒例行事だ。
いつもは両校の境界を示している結界はすでに解除され、運動場は普段の倍以上の広さになって視界いっぱいに広がっている。
「真戸くん。ここはもう大丈夫そうなので、あちらのエリアのサポートをお願いして良いですか?」
「了解でーす」
なお、両校の生徒の中で設営に駆り出されているのは、僕たち魔学部の二人だけだ。
責任者である仁志宮先生が見知った僕たちを選んで働かせているのかと思っていたが、聞くところによると伝統?らしい。
佐々山先生に指示された区画へ向かうと、若い女性の先生が立っていた。涼葉では見たことないから、月葉の先生だろう。
「お、お待たせしました」
「涼葉の子だよね?ありがとー」
先輩で多少は慣れたつもりだったし、先生だから大丈夫だと思っていたが……まだ女の人と話すのはちょっと緊張して、自然と口が震える。
「こ、ここは何が残ってます?」
「あー……」
先生は手元のメモと地面を交互に見て、しばらく唸ったあと──。
「……終わってるのは、椅子の搬入と……」
「……あの盛り上げた土の固定以外、全部……ですかね?」
「うぅ……」
図星だったらしい。
「ご、ごめんね!私、魔法格闘の試合で使う魔法とかは得意なんだけど……こういう細かい整備用の魔法は、どうにも苦手で……」
──そういえば、先輩が雑談の中で言っていた。
月葉学院は女子高で、身を守る目的から攻撃系の魔法を学ぶ授業が多い。そのうえ、魔法格闘部の強豪校である影響も相まって、教師陣が得意とする魔法も、自然とその方向に寄っているらしい。
「い、いえ……。そのために、僕たちも手伝いに来てるので……」
そう言って、魔力を展開する。
三級土属性魔法【
作業は5分もかからなかった。
「はえー……さっすが、涼葉の魔学部さんだね」
「きょ、恐縮です」
「こりゃー最優秀生徒は君が取っちゃうんじゃない?」
「あー……出れたら、そうなってたと思いますけど……」
「え?……あー、魔学部の君たちは出れないんだっけ?」
「そうなんです」
この実技会、参加は希望制だが、優れた実技や理論を披露できれば、成績に加点される。そのため、多くの生徒が気合を入れて臨むイベントだ。
そんな中、元々レクリエーション担当の僕たち魔学部は、参加が認められていない。だからもちろん、加算点もない。
「私、今年新卒で月葉に入ったから知らないんだけどさ、何で出ちゃだめなんだろーね」
「……まぁ、色々と理由はあるっぽいです」
「ふーん……あ!次はあっちお願いしていい?」
「は、はい」
めっちゃ喋ってくるタイプの先生だな……なんて思いながら、さながら陸上競技場のような様相に様変わりしていく運動場を走り回っていく。
連続で魔法を使い続けているせいか、若干疲れが溜まり始めていたが、人手の問題から止まる暇なんてなかった。
その後、会場設営が完了したのは、開始予定時刻の三十分前。
準備に費やしたのは、約2時間。運動場には整然とした区画と観覧席が並び、数多の視線を受け止める舞台が出来上がっていた。
「俺が見てきた中だと今年が最速だ。二人とも、マジ助かった」
「うす」
「ミーたちにかかれば当たり前ですにゃ~」
仁志宮先生から労いの言葉を貰い、僕たちは審査員の先生側の観覧席に移動した。
やがて、観覧者も続々と集まり始める。生徒だけでなく、教師、関係者、保護者と、視線の数が増えていく。
もし今眼鏡を外せば、空気中に漂う参加者たちの魔力には、緊張の動きを帯びているのが視えるだろう。それぐらい、参加者たちの表情は固く、落ち着きが無くなっているようだった。
その緊張感を保ったまま、実技会は滞りなく進んでいく。
学年順に数人ずつ参加者が前に出て、それぞれの魔法を披露していく。拍手が起こり、感嘆の声が混じり、ときには小さなどよめきが走る。
そんな空気のなか、僕とネコマルは雑談をしたり、同級生に野次を飛ばしたりと、比較的気楽に過ごしていた。
『魔法実技部門。次の参加者は……月葉学院2年3組、赤枝キララ』
──しかし、次の名前が告げられた瞬間、その気楽さを引っ込める。
会場には、今までで一際大きい女の子たちの歓声が響いている。
出てきたのは、焦げ茶色の髪を後ろで1つに纏めた月葉生。
「ハルキ~、この人だにゃ?」
「……うん」
赤枝キララ先輩。魔法格闘部のエース候補として、月葉だけじゃなく、実は涼葉でも結構有名な人らしい。
姫道先輩の親友であり──また現在、盛大に喧嘩中の人。
歓声の余韻が残る中、赤枝先輩は1人、静かに立ち位置へ向かう。次第に会場のざわめきが引いていき、視線は一点に集まっていく。
「一人で出てきた、ってことは……結構デカい魔法でも使うんかにゃー?」
「もしくは、近くに誰かがいたら危険な魔法、とかかな」
眼鏡を上にズラす。すると、彼女が放出している緑色の魔力が、周囲に漂っている魔力に浸透しているのが視えた。
少し不安定ではあるものの、崩れてはいない。そのまま、魔力はいくつかの塊となって、彼女を包むように巡っていく。
───完璧ではないけど……うん、あれは。
「……【
「はにゃ~……簡単な部類にゃけど、中々にチャレンジャーだにゃ。今日出た人の中だと、初めてかにゃ?」
「だね。一応、あの月葉の魔法格闘部でエース候補らしいし、魔法はかなり得意な方なんだと思うよ」
「マジかにゃ?……どうりで拘束の魔法が手馴れてたわけにゃ」
「あの時拘束までされたの?」
「……その話は聞かないでくれにゃ……」
「本当に何があったんだよ」
僕たちが言葉を交わしている、そのわずかな間に──赤枝先輩は、既に魔法式を組み上げていた。彼女の足元に、緑色に輝く巨大な魔法陣が展開される。
魔法の初期段階である風が魔法陣から僅かに吹き出し、巻き上げられた砂が魔法陣の縁をなぞるように舞い上がる。
一目で分かる規模に、静まり始めていた会場は再び喧騒を取り戻す。期待や興味が入り混じった視線が、一斉に赤枝先輩へと集中していた。
「お、しかも結構魔力込めてる。アレ、もしかしたら的壊れんじゃない?」
「ハッ、まさかにゃ。ミーは本気で【物体強化】かけたにゃ?ヒビ一つすら入らないに決まってるにゃ~」
ネコマルは鼻で笑い、腕を組んで胸を張る。
やがて、赤枝先輩は深く息を吸い込み、視線の先にある直径十メートルほどの的に向かって、両腕を突き出す。
瞬間、魔法陣の上に四つの白い竜巻が立ち上がった。
独立していた風の塊は、引き寄せられるように回転を重ね、そのまま1本の軸へと収束していく。
軸の先端は歪ながらも、花弁の形を成していた。完成系とは言えないまでも、その魔法は間違いなく……
圧縮された風の奔流が、花を咲かせるように解き放たれる。そのまま、的へと猛然と突き進み、そして的に直撃する。
鈍い衝撃音が、遅れて何度も響いた。白い風が収まり、視界が晴れていく。
的を見ると──ハッキリと、大きなヒビが入っていた。