日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う 作:宮原ワタル
「にゃーーー!?ミーの強化魔法が負けたにゃあああああ!?」
「マジか!ネコマルの【物体強化】に勝ったの、板見が初めて一級魔法成功したとき以来じゃね!?」
「フシャー!」
「威嚇すんなて」
ネコマルは頭を乱暴に搔き、本気で悔しそうにしている。
そのままの勢いで赤枝先輩に突撃しそうな勢いだったため、首根っこを掴んで抑えておく。
しかし……本当に驚いた。雰囲気が軽いヤツだしお調子者ではあるが、ネコマルも涼葉学院魔学部の一員だ。
ふざけて見えても、魔法に関してはそんじょそこらの人よりも遥かに上を行く、たしかな実力者なのだ。
そのネコマルが本気で強化魔法をかけた的に、真正面からヒビを入れる出力の魔法を出せる女子高生?……え、こわ。
「エース候補じゃなくて、エースの間違いなんじゃないの?」
「フシャッ……マジでそれにゃあ……」
魔力の動きから見ても、精神的にいつも通りとは言えないはず。それでも、あの精度と規模を成立させた。
必要なのは、〝理論〟と〝感覚〟それぞれの高い基礎力と、魔法が身体に染みつくほどの反復練習。
姫道先輩が話していた赤枝先輩の実力的に、この魔法を使えるようになったのは──長くても多分、ここ1週間。
尋常じゃない。というか、正気じゃないレベルの努力量だ。
……その努力の引き金になったのはやっぱり、姫道先輩との喧嘩なんだろうか。
視線を的から戻すと、赤枝先輩はかなりの魔力を使った名残からか、まだ膝をついて動いていなかった。
───動くなら今、か。
あらかじめ立てておいた
横にいたネコマルは
「んにゃー?作戦開始にゃ?」
「うん、僕らの出番ももうすぐだし……行ってくる」
「いってらにゃ~」
拳をコツンと合わせ、足早にその場を離れる。
3分ほど歩くと、参加者側の観覧席へ続く通路に出る。
人影はなく、僕の足音だけが響いていた。
外から聞こえていた歓声は、少しずつくぐもった地鳴りのような響きに変わっていく。
「よし」
足を止め、いくつかの魔法陣を空間に、そして己の身体に展開する。
同時に、ゆっくりと深呼吸をした。吐いた息は、思ったよりも長く続いた。
魔法が発動しきった瞬間、身体の内と外に整然とした静寂が広がっていく。
「……やっぱ
散らばっていた感情が無理やり整列させられ、一律に並んでいく。
表情筋がほとんど動かなくなったのを確認してから、眼鏡を外す。
そしてポケットから携帯を出し、通話ボタンを押してから胸ポケットに携帯へしまった。
「音、聞こえますか?」
僕の言葉に対し、返事の代わりにブーという通知音が返ってくるのを確認し、再度軽く息を吸う。
そのまま、曲がり角の先へ視線を向けた。
──ほどなくして、壁の向こうから、赤枝先輩が姿を見せる。
「ぁ……」
彼女の息は、まだ整っていない。壁にもたれかかりながら歩いており、その足取りも重そうであった。
やはり先ほどの【風ノ華】で、想像以上に魔力を消耗したのだろう。
僕を認識した瞬間、赤枝先輩の目がわずかに見開かれる。
だが、それも一瞬だった。
すぐに視線を伏せると、そのまま何も言わず、僕の横を通り過ぎようとする。
「あの」
「……なに?」
身体の向きは変えないまま、赤枝先輩は立ち止まった。
「…………」
「……なにも、ないなら。私、席に戻りたいんだけど?」
淡々と、ハッキリとした拒絶。
女の人と話すのは、まだどうにも苦手だ。ましてや、怒っている女の人と口論した記憶なんて、母さん以外では一度もない。
それでも、ここまで来て引き返すわけにはいかなかった。
波紋一つ立たない心の中で、そう独りごちる。
逃げ道は、自分で塞ぐ。そのために、言葉を選ばず、踏み込んだ。
「なんで、姫道先輩が〝魔法を使えない〟って、思いたがってるんですか?」
「…………は?」
赤枝先輩の身体から、魔力が噴き出す。
視界に映っているだけのはずなのに、そこに込められた強い感情は、肌を刺すような圧となって伝わってくる。
そんな動きをする魔力は、間違いなく。あの時、窓越しの運動場で見えたそれの片割れと同じだった。
ゆっくりと、赤枝先輩はこちらを向く。
「喧嘩、売ってる?」
その瞳には、先ほどまでの疲労など微塵も残っていなかった。