日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う   作:宮原ワタル

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完全に投稿したものだと思ってたらミスって遅くなりましたすいません……。


24話:ギャルの親友、一周まわって呆れる。

 

「…………なん、で……わたし……しゃべ、って……」

 

 彼が手をはらった瞬間、地面にも壁にも、私たちを取り囲む空間全体に、淡い光の魔法陣が浮かび上がった。

 そして同時に、私の胸中には大きな波が広がっていく感覚が巡る。

 

 ──なぜ、コ(・)レ(・)を、自分から敵に差し出した?

 

 言葉が上手く繋がらない。さっきまでの感情の奔流とは違う、冷たい違和感が喉に絡みつく。

 心臓が変な打ち方をして、呼吸が浅くなる。

 

「わたしに……なに、したの……!?」

 

 途切れながらも、声を絞り出す。

 

「多分、普通に聞くだけだと、教えてくれないと思ったので……。【心剥ギ(こころはぎ)】っていう三級精神魔法を、使わせてもらいました」

「せい、しん……まほう?」

 

 最初、その言葉の意味を理解できなかった。

 精神魔法──それは、あまりに私たちの日常からは遠い存在。

 本来は不可侵の領域であり、個々人の財産である〝心〟に、直接触れる魔法。

 

「精神魔法って、……そんな、勝手に……!?は、犯罪じゃん!」

 

 戦争が教科書の存在になった現代。

 数百年もの間平和な時代を維持しているこの国では、精神への干渉は最も厳しく管理されている。

 特に、三級以上の精神魔法を、資格もなく他人に行使することは、他のどんな魔法を無断使用よりも、重く罰せられるはず。

 それを、目の前の後輩は──。

 

「持ってますよ」

「…………は?」

「持ってます。【精神魔法士】の資格。……と言ってももちろん、三級だけですけど」

 

 そう言いながら彼がポケットから取り出したのは、1枚の資格証だった。

 衝撃が抜けきらないまま、それをひったくるように奪い取る。

 

 視界が揺れる。

 そこには確かに、【第三級精神魔法士】の文字と、彼の顔写真。

 偽造には見えない。間違いなく、本物だった。

 

「なんで、どうして……どうやって!?」

「……三級なら、ですが。推薦を受ければ、未成年でも講義や試験を受けられるんです」

 

 受けられるって言ったって。私たちは学生で。限度があるだろう。

 それに、犯罪性が無いだけで、使われた側の気持ちは、わからないのか。やっぱり君は〝化け物〟じゃないか。

 そう、叫びたかった。

 

「……ふざけ、ないでよ」

 

 ──しかし、実際に声に出たのは、弱弱しく、低い声。

 認めたくないのに、ハッキリと証明されてしまった。

 どれだけ仲の良い親友でも、他人に抱えてはいけない、自己中心的な愛執。

 見ないふりをしてきた暗い感情が、水面に引きずり出された。

 

「私の気持ち、勝手に引きずり出して……それで『ありがとうございました』って……」

 

 それ以上、言葉は続かない。

 怒っているのか、後悔しているのか。それとも、ただ恥ずかしいだけなのか。もしくは、もっと別の何かなのか。

 自分でも、分からなかった。

 

「本当に、すいません」

 

 それでも、目の前の後輩は。

 言い訳もせず、反論もせず。目を伏せたまま、ゆっくりと頭を下げ続けている。

 再度開きかけた口が止まった。言葉が喉を震わせる前に行き場を失ってしまう。

 まるでこちらの断罪をすべて受け入れるかのような、そんな雰囲気。

 

 

───こんなの、ズルいじゃん。

 

 

 怒鳴りつけても、あの日みたいに言葉責めをしても、この子はもう揺れないのだろう。

 そんな予感が、熱を少しずつ押し流し、彼方に飛んで行く感覚がした。

 

「……代わりに、質問されたことには、何でも喋ります」

 

 この子を〝化け物〟と呼んで良いのか、もう、分からない。

 ただ少なくとも、ヒマちゃんを傷つけようとしている人間には見えなかった。

 

「……それが、お詫びだって?」

「…………」

 

 肩をすくめ、首を縦に振る。

 表情はほとんど動いていないのに、その動きにすらどこか真摯さが滲んでいた。

 でも、別に聞きたいことなんて──いや、一個あるか。

 

「じゃあ、一つ、聞かせてよ」

「はい」

 

 視線が絡み合う。

 変わらず表情を動かさないまま、彼は静かにこちらを見返してくる。

 

「なんで、君はここまでするの?」

「………………」

「……まだ、ヒマちゃんと出会ってから一ヶ月もないじゃん。やっぱり、ヒマちゃんが魔法を使えない理由を、解明したいから?」

 

 それは、先週聞いたものと、ほとんど同じ質問。

 あのとき、質問の仕方が悪くて、期待していた答えは聞けなかった。けど、今なら。

 

「そう、ですね……」

 

 彼は言葉を一度区切り、喉を鳴らしてから、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

 

「僕は、脇役ですから」

「……………………脇役?」

「はい。脇役は、先輩を……主人公を助ける舞台装置でしょう?」

 

 何を言っているのか、抽象的すぎてまったく意味が分からない。

 でも、その言葉は、不思議と嘘には聞こえなかった。

 

「それに」

「…………」

「嬉しいんですよ。脇役なりに、僕の魔法が、主人公の〝夢〟を叶える手助けになるの」

 

 

───……重くない?

 

 

 いや私が言えた台詞じゃないかもしれないが、重い。どう考えても出会って1ヶ月の異性に向ける重さじゃないでしょ。

 

 声にならない呻きを上げながら目を細め、思わず天井を見上げる。

 

「……なんか、頭痛くなってきた……男の子って、皆こんな感じなの?」

「そりゃ男の行動理由なんて、単純なもんじゃないですか?」

「いや知らない……女子高だからいまいち男の子のこと知らないし」

 

 いつの間にか、日常会話みたいな雰囲気になってしまった。

 先程彼方に飛んで行った感情は、呆れという一本の線に収束してゆっくり戻ってくる。

 

 

──『それではただ今より15分の休憩を挟み、その後、涼葉学院魔学部によるレクリエーションを執り行います』

 

 

 そして思考に余裕が生まれた瞬間、まるでテレビの音量を上げたみたいに、少しずつアナウンスの音が耳に入ってきた。

 背後から流れてくる声に、現実を思い出す。

 今まで全然、人の声聞こえてこなかったが、これも、この子の仕業なのだろうか。

 もう何度目か分からないが、再び息を大きく吐く。

 

「あ、そうだ」

「……今度はなに」

「赤枝先輩、今から僕たちのレクリエーションがあるので、見てくださいね」

「……いやさっき聞こえたけど……普通、こんな状況で誘う?」

「大事なこと、な、ので……」

 

 言葉の勢いがみるみると弱まっていく。

 彼の顔が急激に真っ赤に染まっていた。

 

 2、3歩、後ずさって、距離を測りかねているみたいに、足の置き場まで迷っている。

 

「……ちょ、急になに、どしたの」

 

 さっきまで平然としていた彼の顔が、まるで別人みたいに固まっていた。

 視線は泳ぎ、私の顔に向いたかと思えば、すぐ床へ逃げる。

 どう見ても、先ほどまでの自信ある姿とは、まったく違う。

 ──でも、その様子には、少し見覚えがあった。それは、以前公園で話した時の。明らかに私にビビっていた、あの感じ。

 

「あぁ、あ、あの……ま、魔法の効果時間が……切れて……」

「…………魔法?」

 

 さっきまで真っ直ぐに私を貫いていた視線は、今はコンマ1秒も合わない。

 

「そ、その……あ、赤枝先輩に、使った精神魔法の他に……自分にも、強めの精神魔法使ってて、【均ス心(ひとすこころ)】って言って……簡単に言えば、感情が揺れを一時的に消す魔法が、あって……」

 

 言葉は途切れ途切れ。

 説明している間も、彼の呼吸は浅く、指先が落ち着かなく動く。

 

 落としどころを探すように、袖をぎゅっと握った。

 

 

「……つまり、ホントはめっちゃ緊張してた……?」

「そ、そういう、こと、ですねはい……」

 

 即答だった。

 ──この子、もしかしなくても。魔法の実力以外のところは結構、抜けてる子なんじゃない?

 

「はぁ~~~~~~……」

「すっすすすみませんっ!」

 

 これまでで一番大きなため息を吐くと、彼の肩が跳ねた。

 

「もういーや……んで、レクリエーション?見とくから、さっさと行きなー」

「はい!それでは」

 

 ぺこりと頭を下げ、彼は逃げるように奥へ──

 

「あっ」

 

 ──行かなかった。つんのめるようにして、急停止する。

 

「……まだ何かあるの?」

「ちゃ、ちゃんと、見てくださいね」

「だから見るってば」

「いえ、僕たちじゃなくて……主人公を、です」

「………………は?」

「あ、赤枝先輩は!パ、パートナーだと思うので!……し、失礼しまぁす!」

 

 今度こそ、完全に姿が見えなくなった。──最後にまた転びかけていたのは、見なかったことにしておく。

 

「………………はぁ」

 

 ここ数年で1番の大声を出して、人生で1番ため息を吐いた時間だった気がする。

 いつの間にか飛んできていた2匹の妖精がじゃれついている姿を横目に、先ほどまでの魔法を思い出していく。

 一体、あの子はいくつ魔法を、どんな魔法使ってたんだろうか。

 そもそも、あんなにいっぱい同時に魔法を使える人なんて、ウチの学校の先生でもいないのに。

 

「あっ」

 

 もしかして、あの時の魔法も?

 頭の中で、先週の運動場での光景が浮かび上がった。

 

「うわぁ……あの子が止めてくれたのか……」

 

 確証はまったく無いけど。でも、どうせそ(・)う(・)だ。

 思わず両手で顔を隠し、上を見上げてしまった。

 そして、同時に思う。

 なんと言うか、あの子に似合う評価は〝化け物〟というより──。

 

 後ろで束ねていた髪を解くと、ほどけた髪がさらりと肩に落ちた。

 指先で絡まりを一つひとつほどき、整ったところで、もう一度静かにまとめ直す。

 

「……パートナー、ね」

 

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