日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う   作:宮原ワタル

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26話:魔法オタクとギャル、動く。

 

『(緊張、してますか)』

『(そりゃね~。昨日まで魔法式の理解に時間取られちゃったから……結局、ほぼほぼぶっつけ本番だよ?)』

 

 右手を開いたり閉じたりしながら、先輩は苦笑する。

 その指先は、わずかに震えていた。

 

『(でも、まずはありがと)』

『(……電話の件、ですか?)』

『(うん。キラちゃんが、本当に私のことを思ってくれてるのは、分かった)』

 

 さっきの赤枝先輩との会話。

 あれは、携帯越しに姫道先輩にも聞いてもらっていた。

 

 脇役の自分に何ができるのか。主人公が輝くために、何を取り除くべきか。

 そう考えて選んだ手段。正しかったかどうかは、分からない。

 それでも、先輩はここに立っている。

 

『(色々と、考えることは……増えちゃったけど、ね)』

『(……何かあっても、絶対に僕たちでフォローします。思いっきりやっちゃって下さい)』

『(……うん、わかった)』

 

 ほんの一瞬返答に間があったが、それを払拭するように、目に力が宿る。

 そして、レクリエーション開始の合図が響いた。

 

 

『それでは──レクリエーション、スタートですにゃ』

 

 ネコマルの声に応じて、仁志宮先生が魔道具を取り出し、魔力を流し込む。

 すると、半透明の結界に、満天の星空が映し出される。会場全体が、夜へと塗り替えられていった。

 

 その光景に感嘆の声がいくつも上がるも、その星空を見上げる観客の視線は、しかし一様ではない。会場の空気は現状、はっきりと2つに割れていた。

 

「アイツらが呼んだ人だし、どうせ何かすごい魔法使うんだろーなー」

「間違いない。てか、魔学変態代表の真戸を差し置いてメイン張ってんの、普通にえぐい」

 

 涼葉の観客席からは、期待に満ちた言葉が。

 疑う者などいない。

 魔学部員の代わりを務めているのであれば、成功するのが当然だと、誰もが思っている。

 

「なんで、ヒマリちゃん出てきたんだろ……」

「ね。あ、魔力供給のお手伝いとかかな?」

「あーたしかに。あの子、体内魔力量は結構多いんだっけ?」

 

 月葉の観客席からは、疑念と戸惑いの言葉が。

 〝姫道ヒマリは魔法が使えない〟という共通認識が、場の空気を縛っている。

 教師ですら何人かは、眉間に皺を寄せていた。

 

 相反する2つの空気を抱えたまま、星空に覆われた結界の中心で、先輩は微動だにせず静かに両手を胸の前で重ねる。

 

 

『(始めます)』

『(…………!)』

 

 先輩が首を小さく縦に振ったのを確認して、僕も眼鏡を外した。

 視界が鮮明になり、会場に充満した魔力の流れが輪郭を持って浮かび上がる。

 

 軽く握った左手を天に指し、人差し指の先から黄色の魔法陣を展開。そこから放たれた光が、星空へと撃ち上がって、ぶつかり、弾けた。

 分裂した光は、いくつもの流線となって空を走り、螺旋を描く。

 

「おお……なんか、すげえ」

「……綺麗」

 

 観客が上を向いて感嘆の声を上げるなか、先輩は足元に桃色の魔法陣を形成する。そのまま、右手の掌を上空へと向けた。

 

『(先輩、行きますよ……せー、のっ!)』

『(…………ここっ)』

 

 螺旋を描く光の一部を、正確に切り取る。軌道を捻じ曲げ、先輩の掌へと導いた。

 光が肌に触れた瞬間、先輩はそれを掴むように強く手を握る。

 そして、魔力を流し込んでいく。光の流線が、脈打った。

 

『(良い感じです!そのまま、光に沿って魔力を動かしてください!)』

『(……っうん!)』

 

 返答は震えて返ってくる。

 先輩の魔力は、上へ上へと、星空に伝っていく。

 すると、光の軌道上に、次々と魔法陣が展開され始めた。

 数十メートル置きに浮かび上がる、桃色の魔法陣。

 それは、先輩が足元に展開しているモノと、寸分違わぬ構造をしていた。

 

「おいおいおいおい何個出すつもりなんだよあの人!?」

「もう15個ぐらいはあるぞ!」

「あんな量、制御しきれるわけなくない?」

「姫道、さん……」

 

 会場には動揺が広がっている。一方で、僕は内心ほくそ笑んでいた。

 

 

『(落ち着いてくださいね!先輩が意識するのは、出した魔法陣に魔力を通すイメージを持ち続けること、それだけです!)』

『(……わかっ、て、る!)』

 

 

 現代の魔法において、魔法陣の役割は多岐にわたる。だが本質は、魔力を魔法へ変換する〝装置〟であること。

 

 科学分野で例えるなら、手回し発電機。数が増えれば増えるほど、回すための手が減っていく。

 同じように、魔法陣は沢山出せば出すほど、リソースは削られていく。

 

 それを、同じ魔法とは言え、先輩は何十個も同時に出しているのだ。普通なら破綻する。

 でも、問題無い。今星空に浮かんでいる魔法陣は、魔力変換のための魔法陣ではないのだ。

 

 

「いけ、る……?」

 

 力強い先輩の声が、耳に届く。

 

「……いける」

 自分の口からも、確信が零れた。高揚感が込み上げてくる。

 

 

 

 ──しかし。

 

「…………ぁ」

 

 魔力の供給が途切れた光があった。魔法陣が、その色を失っていく。

 そのことに気づいた途端、身体からサッと熱が奪われる感覚に陥った。

 バッと反射的に視線を叩き落とし、先輩へ向ける。

 

『(先輩!)』

「………っ」

 

 【念話】で呼びかけるも、返事はない。

 代わりに視えたのは、先輩の魔力が、大きく揺らいでいる光景だった。

 

 身体から地面へと溢れ出している魔力が、力なく落ちる。──これは、マズい。

 

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