日々、才女なギャルと魔法オタクは教え合う 作:宮原ワタル
『(緊張、してますか)』
『(そりゃね~。昨日まで魔法式の理解に時間取られちゃったから……結局、ほぼほぼぶっつけ本番だよ?)』
右手を開いたり閉じたりしながら、先輩は苦笑する。
その指先は、わずかに震えていた。
『(でも、まずはありがと)』
『(……電話の件、ですか?)』
『(うん。キラちゃんが、本当に私のことを思ってくれてるのは、分かった)』
さっきの赤枝先輩との会話。
あれは、携帯越しに姫道先輩にも聞いてもらっていた。
脇役の自分に何ができるのか。主人公が輝くために、何を取り除くべきか。
そう考えて選んだ手段。正しかったかどうかは、分からない。
それでも、先輩はここに立っている。
『(色々と、考えることは……増えちゃったけど、ね)』
『(……何かあっても、絶対に僕たちでフォローします。思いっきりやっちゃって下さい)』
『(……うん、わかった)』
ほんの一瞬返答に間があったが、それを払拭するように、目に力が宿る。
そして、レクリエーション開始の合図が響いた。
『それでは──レクリエーション、スタートですにゃ』
ネコマルの声に応じて、仁志宮先生が魔道具を取り出し、魔力を流し込む。
すると、半透明の結界に、満天の星空が映し出される。会場全体が、夜へと塗り替えられていった。
その光景に感嘆の声がいくつも上がるも、その星空を見上げる観客の視線は、しかし一様ではない。会場の空気は現状、はっきりと2つに割れていた。
「アイツらが呼んだ人だし、どうせ何かすごい魔法使うんだろーなー」
「間違いない。てか、魔学変態代表の真戸を差し置いてメイン張ってんの、普通にえぐい」
涼葉の観客席からは、期待に満ちた言葉が。
疑う者などいない。
魔学部員の代わりを務めているのであれば、成功するのが当然だと、誰もが思っている。
「なんで、ヒマリちゃん出てきたんだろ……」
「ね。あ、魔力供給のお手伝いとかかな?」
「あーたしかに。あの子、体内魔力量は結構多いんだっけ?」
月葉の観客席からは、疑念と戸惑いの言葉が。
〝姫道ヒマリは魔法が使えない〟という共通認識が、場の空気を縛っている。
教師ですら何人かは、眉間に皺を寄せていた。
相反する2つの空気を抱えたまま、星空に覆われた結界の中心で、先輩は微動だにせず静かに両手を胸の前で重ねる。
『(始めます)』
『(…………!)』
先輩が首を小さく縦に振ったのを確認して、僕も眼鏡を外した。
視界が鮮明になり、会場に充満した魔力の流れが輪郭を持って浮かび上がる。
軽く握った左手を天に指し、人差し指の先から黄色の魔法陣を展開。そこから放たれた光が、星空へと撃ち上がって、ぶつかり、弾けた。
分裂した光は、いくつもの流線となって空を走り、螺旋を描く。
「おお……なんか、すげえ」
「……綺麗」
観客が上を向いて感嘆の声を上げるなか、先輩は足元に桃色の魔法陣を形成する。そのまま、右手の掌を上空へと向けた。
『(先輩、行きますよ……せー、のっ!)』
『(…………ここっ)』
螺旋を描く光の一部を、正確に切り取る。軌道を捻じ曲げ、先輩の掌へと導いた。
光が肌に触れた瞬間、先輩はそれを掴むように強く手を握る。
そして、魔力を流し込んでいく。光の流線が、脈打った。
『(良い感じです!そのまま、光に沿って魔力を動かしてください!)』
『(……っうん!)』
返答は震えて返ってくる。
先輩の魔力は、上へ上へと、星空に伝っていく。
すると、光の軌道上に、次々と魔法陣が展開され始めた。
数十メートル置きに浮かび上がる、桃色の魔法陣。
それは、先輩が足元に展開しているモノと、寸分違わぬ構造をしていた。
「おいおいおいおい何個出すつもりなんだよあの人!?」
「もう15個ぐらいはあるぞ!」
「あんな量、制御しきれるわけなくない?」
「姫道、さん……」
会場には動揺が広がっている。一方で、僕は内心ほくそ笑んでいた。
『(落ち着いてくださいね!先輩が意識するのは、出した魔法陣に魔力を通すイメージを持ち続けること、それだけです!)』
『(……わかっ、て、る!)』
現代の魔法において、魔法陣の役割は多岐にわたる。だが本質は、魔力を魔法へ変換する〝装置〟であること。
科学分野で例えるなら、手回し発電機。数が増えれば増えるほど、回すための手が減っていく。
同じように、魔法陣は沢山出せば出すほど、リソースは削られていく。
それを、同じ魔法とは言え、先輩は何十個も同時に出しているのだ。普通なら破綻する。
でも、問題無い。今星空に浮かんでいる魔法陣は、魔力変換のための魔法陣ではないのだ。
「いけ、る……?」
力強い先輩の声が、耳に届く。
「……いける」
自分の口からも、確信が零れた。高揚感が込み上げてくる。
──しかし。
「…………ぁ」
魔力の供給が途切れた光があった。魔法陣が、その色を失っていく。
そのことに気づいた途端、身体からサッと熱が奪われる感覚に陥った。
バッと反射的に視線を叩き落とし、先輩へ向ける。
『(先輩!)』
「………っ」
【念話】で呼びかけるも、返事はない。
代わりに視えたのは、先輩の魔力が、大きく揺らいでいる光景だった。
身体から地面へと溢れ出している魔力が、力なく落ちる。──これは、マズい。