え、何この能力 作:闇次元の解放
部屋の床に転がした『FAIRY TAIL』の最終巻(ブックオフで110円だったやつ)を睨みながら、俺は天井に向かってでかい溜め息をついた。
「いやマジでさ……アクノロギア、これで終わりなん?」
納得がいかなすぎる。
だってあいつ、魔法が一切効かないラスボスじゃなかったっけ? 精神世界でナツたちがボコボコにされて「これどうすんの?」って絶望させておいてさ。ウェンディがみんなの魔力をナツに集めた途端、ナツの一撃で沈むとか……いやいや、流石に無理やりすぎでしょ。
「『感情の炎』で全部焼き消せるとか、どんなチートだよ。魔法効かない設定どこ行ったんだよ……」
あの圧倒的な強キャラ感はなんだったんだ。せめて魔力が暴走して自爆したとかならまだ納得できたのに。不完全燃焼すぎてモヤモヤする。俺は漫画を机の上にぽいっと投げて、そのまま床にゴロゴロと寝そべった。
まあ……打ち切られずにハッピーエンドで綺麗に終わったのは良いんだけどさ。でも絶対俺と同じこと思ってるファン多いって、これ。
「はあ……110円とはいえ、なんか損した気分だわ」
ぐちぐち考えてても時間の無駄だし、気分転換にカードでもいじることにした。ガバッと起き上がって、机の引き出しから遊戯王のデッキを取り出す。
パラパラめくっていくと、『スターダスト・ドラゴン』、『セイヴァー・スター・ドラゴン』、『シューティング・スター・ドラゴン』……。
「……あれ? なんで遊星デッキに『魔王龍 ベエルゼ』入ってんの? お前ここじゃないだろ、あかんだろ」
思わず一人でツッコミを入れつつカードを分ける。ぶっちゃけ十年前くらいのカードの方が、効果がシンプルで分かりやすくて好きなんだよな。アクノロギアの能力もこれくらい分かりやすければな……なんて思ってた、その時だった。
グラッ、と足元が揺れた。
「ん……? 地震?」
最初は「すぐ収まるだろ」って高を括ってたんだけど、一瞬でガタガタガタッ!って激しい揺れに変わった。机の上のペン立てが倒れてペンが散らばる。
「うわっ、ヤバっ……!?」
ヤバいと思って起き上がろうとした瞬間、目の前が急に暗くなった。
大量の漫画が詰まったでかい本棚が、俺に向かって倒れてくるのが見えた。
あ、これ無理だ。逃げられへん。
ドガッ!!!
頭にガツンとヤバい衝撃が走って、俺の意識は一瞬で真っ暗になった。
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気がつけば、見覚えのない妙な場所に立っていた。石畳の道に、レンガ造りの建物。なんかヨーロッパの古い街並みみたいな雰囲気だ。
「いや……ここどこだよ。つか俺、さっき本棚の下敷きになって死んだんじゃ……あ、夢か。なんだ、びっくりさせんなよ」
現実逃避気味に納得しかけたその瞬間、後頭部にガツンと硬い衝撃が走った。
「痛っ!!? え、なに!? 誰だよ空き缶投げつけてきた奴!!」
痛む頭を押さえて振り向くと、そこには空き缶を投げ捨ててそそくさと走り去っていく女の子の後ろ姿。おいおい、夢の中とはいえ酷すぎだろ。どんな設定だよこの夢。
少女は何かのお祭りでもあるのか、道端にできている人だかりに向かって走っていく。俺は痛む頭を撫でながら、舌打ち混じりにその人だかりへフラフラと歩き出した。
すると後ろから走ってきた金髪の女の子とガッツリ肩がぶつかった。
「あ、ごめん!」
金髪サイドテールのその子は短く謝るなり、俺の返事も待たずに人混みの奥へと消えていく。忙しないやつだな。
人混みの中心からは、甲高い黄色い声援が響いてきていた。
『キャ〜〜〜っ! サラマンダー様ぁ〜〜〜!!』
「……サラマンダー? イモリだっけ? 確かマダラサラマンダーとかいう毒持ってる種類がいたよな。おいおい危ねぇぞ、なんでそんなもん野放しにしてんだ」
毒イモリの展示会でもやってんのか? てか女子高生(?)たちが毒イモリに群がって『サラマンダー様〜』とかキャーキャー言ってるの、狂気でしかないだろ。気になりすぎて人混みを押し通ろうとするが、背の低い女子ばかりがぎっしり詰まっていて中が見えない。
パチパチパチ……と、何かが燃える怪しい音が聞こえた。
「イグニールはどこだ?」
すぐ後ろから、妙に低い男の声がした。
思った瞬間、ガシッと肩を強く押され、俺はそのまま前の女の子の身体にドスンとぶつかってしまった。
「うおっ……! あ、ごめんね!?」
慌てて謝ると、ぶつかった女の子は「はっ!」と急に金縛りが解けたみたいな顔をして、俺を見上げてきた。んんん? なんかこの子、どこかで見たことあるような顔立ちだな……?
俺を押しのけた張本人は、人混みをグイグイ割って中央へと突っ込んでいく。ツンツンした桜色の髪をした男だ。背中を見送りながら思った。……あれ、あの髪型と色、なんか見覚えあるぞ?
「イグニールはどこだー!?」
人混みの中心で叫ぶ桜髪の男。俺も追っ払われた腹いせにそいつを追いかけようとしたが、さっき肩がぶつかった金髪サイドテールの女の子に腕を掴んで止められた。
「ちょっと、中に入っても碌な目に遭わないわよ。……あ、でもさっきはありがと。あんたのおかげでチャーム(魅了魔法)が解けたわ」
「チャーム……?」
なんだその怪しいゲーム用語。俺は少し視線を下げて、彼女の顔をまじまじと見下ろした。
……え?
ええええええええっ!?!?
嘘だろ、この顔、この金髪、この胸の感じ、もしかして——!?
パニックになりかけて慌ててさっきの桜髪の少年の方を振り返る。
「なんだよ、偽物か〜」
「あい」
ガックリと肩を落とす桜髪の少年と……その隣に並ぶ、青くて二足歩行の猫。
んんんんん!? 猫が喋った!? ていうか『あい』って言ったぞ今!!
驚愕している俺の目の前で、人混みの中央にいた『偽物』に失望した女性客たちが、怒りのあまり桜髪の少年をボコボコにリンチし始めた。そして自称サラマンダーのイケメン気取りは、足元から出た謎の炎に乗ってカッコつけながら空へ飛び去っていく。
カオスすぎる。現場に残されたのは、ボロボロになった桜髪の少年と青い猫、金髪の少女、そして呆然と立ち尽くす俺。
俺はとりあえず、地面に転がっている少年にオドオドと手を差し伸べた。
「お、おい……大丈夫か……?」
「サンキューな! お前いい奴だな! ったく、あいつら何なんだよ〜」
快活に笑いながら、ガシッと俺の手を握り返して立ち上がる少年。顔が近い。近くで見ると、めちゃくちゃ整った顔立ちのイケメンだ。
「本当、いけ好かない男よね」
金髪の少女が腰に手を当てながら、俺たちに近寄ってくる。
うっわ、間近で見ると尋常じゃないくらい可愛い……じゃなくて!!
俺は目の前の金髪少女と、桜髪の少年(+青い猫)を何度も何度も交互に見比べた。
え!? マジで言ってる!?
おいおいおい、これ夢だろ!? どんな贅沢でヤバい夢見てんだ俺!?
だって、俺の目の前に立っているのは——
さっきまで俺が「最終巻の展開に納得いかねぇ!」って床で愚痴りまくっていた『FAIRY TAIL』の主人公ナツ・ドラグニルと、ヒロインのルーシィ・ハートフィリアそのものだったんだから!!