え、何この能力 作:闇次元の解放
ガキィィィンッ!!!!
ガジルが放った鋼鉄の太柱が、咄嗟に顔面をガードした俺の腕と激突し、街路に重金属の濁音が轟いた。ベエルゼモードの黒い装甲が火花を散らす。
「ケッ、中々硬えじゃねえか」
ガジルが不敵に口元を歪めるが、俺は一切の口を開かない。無駄な軽口を叩くつもりも、己の能力の手の内を明かすつもりもなかった。これはただの喧嘩じゃない、実質的な殺し合いだ。敵にコンマ一秒の猶予も情報も与える気はない。
間髪入れずに放たれたガジルの鉄棒のような蹴りを、俺は左腕の装甲で重々しく受け止める。その衝撃を押し殺すと同時に、その太い脚を力ずくで掴み上げ、強引に石畳の上へ投げ飛ばした。
「ぬぐっ……!?」
ガジルは空中できりもみ回転しながら受身を取り、軽やかに着地する。即座に肺いっぱいに空気を吸い込み、凶暴な魔力を吐き出してきた。
「『鉄竜の咆哮』ッ!!」
鋼鉄の破片を孕んだ渦巻くブレスが、視界を埋め尽くす。俺は両腕を交差し、ベエルゼの黒いオーラを集中させて正面から受け止めた。ガリガリと硬質な装甲が削れる嫌な音が響くが、しっかりとガードしきる。
だが、ブレスが晴れたその瞬間に、すでにガジルの巨体が肉薄していた。
(——速い……ッ!)
「『鉄竜剣』ッ!!」
腕を巨大な鋼鉄の刃へと変貌させたガジルが、不可視の速度で俺の胴体を真横に切り裂く。ジャリッと嫌な手応えとともに黒い装甲に深い亀裂が走るが、守備力3000の装甲の壁は厚い。大ダメージには至らない。
俺は斬撃の衝撃を足腰で強引に押し殺すと、踏み留まった勢いのまま右拳をガジルの顔面へと叩き込んだ。
ドカッ!!
「ぶっ!?」
顔面を撃ち抜かれ、体勢を崩したガジルへ、間髪入れずに左の連撃を腹装甲へ撃ち込む。
バギャンッ!!
「チッ……!」
ガジルは石畳の上をズサーッと数十メートル滑り、鋭い目つきで姿勢を正した。胸の鉄竜の鱗が少し歪んでいる程度で、やはりあちらにも決定打にはなっていない。このままベエルゼモードの互角の装甲戦を続けてもジリ貧だ。
「ちっ、やりやがる……きりがねえな、今潰してやるよ!」
ガジルが身体中の魔力を跳ね上げ、地蹴りの音とともに弾丸のような速度で突撃してくる。
「『鉄竜槍・鬼薪(きしん)』ッ!!」
両腕と足を無数の鋼鉄の槍へと変形させ、目にも留まらぬ超高速の連続突きを繰り出してくる。
(来た……っ!)
俺は冷徹にタイミングを見極め——自ら『ベエルゼモード』を解除した。
漆黒のオーラと装甲が霧のように消え去り、無防備な生の肉体が剥き出しになる。
「なっ!? てめえ、狂い上がったか!?」
突如防御を捨てた俺に驚愕しながらも、その攻撃は止められない。
「どうした、攻撃しないのか……?」
「っ……!?」
俺の冷ややかな呟きに、ガジルは一瞬背筋を冷たいものが走るような悪寒を覚えた。まるで、自ら底なしのトラップへ足を踏み入れさせられているかのような錯覚。だが、すでに繰り出した拳は止まらない。超高速の鉄槍が俺の生身の肉体を容赦なく穿った。
ドドドドドドドドッ!!!!
「っ……! ぐ……ッ!」
激しい轟音とともに、鉄の尖角が皮膚を裂き、肉を穿ち、骨を軋ませる。声を押し殺し、歯を食いしばって激痛に耐える。口から血が滲み出す。
「ハルトーーーーッ!!」
背後でルーシィの悲鳴が上がる。だが、問題ない。意識が飛ばないギリギリの重傷——計算通りだ。
ガジルは血みどろになった俺を見下ろし、何かに気づいたように背後のルーシィへと視線を向けた。
「へっ、見てるだけかよ!? だったら同じ目に合わせてやるッ!」
ガジルが凶悪な笑みを浮かべ、俺を突き穿っていた鉄の槍をルーシィめがけて一気に振り下ろそうとする。ルーシィが恐怖で身体をすくませる。
(……よそ見か……させねえよ……)
俺は流れる血を無視し、足元に仕掛けた罠のトリガーを起動した。
「——セット魔法陣発動、『地縛霊の誘い』ッ!!」
「なっ……!?」
「すべての攻撃は……俺が受ける……!」
地面からドロリとした闇の悪霊が噴き出し、ルーシィへ向かっていたガジルの鉄柱にまとわりついた。空間がぐにゃりと歪み、強引に軌道を曲げられた鉄柱が、再び俺の胸元へと突き刺さる。
ガアァンッ!!
「っ……ふぐっ……!」
再び全身を突き抜ける苛烈な激痛。声を殺し、喉の奥で痛みを飲み込む。だが、俺の肉体は破壊されない。
激痛が脳髄を焼き尽くすと同時に、俺の体内で眠るベエルゼの闇が、狂喜乱舞するように溢れかえった。
生の肉体で喰らった絶大なダメージ。そのすべてが、極上の燃料となって俺の魔力を跳ね上げていく。
ダメージ蓄積完了——攻撃力 爆発的上昇
「……ひ……っ」
口から血を吐きこぼしながら、歪んだ薄笑いを口元に浮かべる。その静かな狂気に、ガジルはゾクりと背筋を凍らせ、「なんだ……こいつ……」と戦慄の表情を浮かべた。
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身体の奥底から噴き出す禍々しい漆黒の魔力が、血みどろの肉体を包み込んでいく。
ゴオオオオオオオッ……!!!!
再展開されるベエルゼモード。だが、先ほどまでの姿とはまるで違っていた。両腕を覆う外骨格はより太く硬質に肥大化し、その指先からは岩盤すら容易く引き裂くであろう凶悪で鋭利な黒爪が伸びている。背後で腰を抜かしているルーシィが、恐怖と困惑に満ちた声を漏らした。
「な……なに……あの魔力……ハルトなの……!?」
助けられた感謝も吹き飛ぶほどの、本物の「化け物」を見るような視線。だが、今の俺には彼女の怯えなどどうでもよかった。
「……今度は、お前が切り裂かれる番だ」
直後、俺の姿が消えた。
あまりの攻撃力の跳ね上がり——その莫大な魔力が爆発的な瞬発力(スピード)へと変換され、空間を置き去りにするほどの踏み込みを生み出したのだ。
「なっ——!?」
ガジルの目が驚愕に見開かれる。不可視の肉薄。俺の鋭利な黒爪がガジルの首元を切り裂かんと迫る。ガジルは冷や汗を流しながら、コンマ一秒の差で間一髪頭を下げて回避するのが限界だった。
ガアッ!!
空を切った俺の爪が、背後の膨大な石畳と建物の外壁を紙やすりのように削り取る。
「調子に乗るなよガキがぁッ!」
ガジルが体勢を崩しながらも反撃の鉄棒を横薙ぎに振るってきた。だが——
バキィィンッ!!
重金属の衝突音とともに、ガジルの鉄棒は俺の腕の外骨格にあっさりと弾き飛ばされた。+3000の威力を宿した今の装甲には、傷一つ付きはしない。
「馬鹿な……ッ!?」
「終わりだ」
空いたガジルの腹郭へ、限界突破の威力を乗せた重い右拳を叩き込む。
ドバゴォォォンッ!!!!
「ガハッ……!?!?!?」
ガジルの巨体が斜め上空へと吹き飛んだ。そのまま激しい衝撃とともに地面を何十メートルも破壊しながら転がっていく。
「くそがぁぁぁッ!!」
血を吐きながら立ち上がったガジルが、狂わんばかりの咆哮とともに口から極太のブレスを撃ち出してきた。
「『鉄竜の咆哮』ッ!!」
「——速攻魔法発動、『収縮』」
俺が冷酷に呟いた瞬間、足元に暗紫色の魔法陣が展開される。放たれたブレスの渦が瞬時に萎縮し、細く弱々しい鉄屑の束へと姿を変えた。
ジャラララッ!!
半減したブレスなど、俺の凶悪な外骨格の前にはただの砂利と同じだ。弾かれた鉄屑が夜の街に散らばる。
「なん……だと……!?」
「無駄だ」
焦燥に駆られたガジルが再び間合いを詰め、渾身の一撃を繰り出そうとする。だが、それすらも俺のカウンターの餌食となり、二度目の重撃がガジルの胸板を粉砕した。
ガギィィンッ!!
「グハァッ……!!」
骨の砕ける嫌な音が響き、ガジルは膝をつく。限界だ。それでもなお、ガジルは血みどろの顔を上げ、最後の力を振り絞って両腕を鉄の槍へと変形させようとした。
「『鉄竜槍・鬼薪』——」
「……もう、お前のターンはねえよ」
俺は無感情に次の魔法陣を解放した。
「——トラップ発動、『威嚇する咆哮』」
ゴアァァァァァッ……!!!!
俺の背後に顕現した巨大な魔王の影が、天を揺るがす狂暴な咆哮を放った。物理的な衝撃波以上の「絶対的な圧力」が空間を支配する。
「がっ……あ……!?」
ガジルの全身が恐怖と圧力で金縛りに遭ったように完全に硬直した。変形しかけた鉄槍が霧散し、攻撃すら許されない。
怯み、完全に無防備となったガジルに向け、俺は容赦なく追撃の蹴りを叩き込んだ。
ドカァァァンッ!!
「ガハッ……!!」
ガジルの巨体が再び吹き飛び、壁を崩落させて埋もれる。
(……勝ち目がないと悟ったか)
瓦礫を押しのけて這い出てきたガジルは、血みどろの胸を押さえながら俺を、そして背後のルーシィを殺気立った目で睨みつけた。
「死に晒せ……『鉄竜の咆哮』ぁぁッ!!」
ガジルは窮鼠の悪あがきとして、俺ではなく背後のルーシィへ向けて最後のブレスを吐き出した。ルーシィが悲鳴を上げる。
「チッ……」
舌打ちとともに、俺は魔法陣を発動する。
「——カウンタートラップ発動、『攻撃の無力化』」
俺とルーシィの間の空間に時空の渦が勢いよく巻き起こった。放たれた鋼鉄のブレスは、ルーシィに届く直前でその渦の中へとすべて吸い込まれ、完全に無へ帰した。
「なっ……!?」
攻撃を完全に無力化されたガジルは、これ以上の深追いは死を意味すると悟ったのだろう。大量の鉄棒を周囲へ撒き散らして視界を遮ると、夜の闇に乗じて蜘蛛の子を散らすように逃走していった。
静寂が戻る。
「ハ……ハルト……?」
ルーシィが声の震えを抑えきれずに俺を見つめている。
助けてもらったはずなのに、その瞳にあるのは圧倒的な不気味さへの恐怖だった。俺はベエルゼモードを解除し、流れる血を乱暴に拭った。
「……行くぞ、ルーシィ」
「え……どこに……?」
「弱った魔力を感じる……誰か、襲われたのかもしれない」
言葉短くに走り出す俺の後ろを、ルーシィは恐る恐るついてくる。
そして、街外れの公園にたどり着いた時——彼女の悲鳴が夜空に響いた。
「……嘘、でしょ……!?」
公園の中央に聳え立つ大木。そこには、鉄と鎖で痛々しく貼り付けにされたシャドウギアの3人——レビィ、ジェット、ドロイの姿があった。
ボロボロに傷つき、意識を失った見せしめの姿。
膝から崩れ落ちるルーシィの横で、俺は惨状を見つめながら冷たく唇を歪めた。
これで、フェアリーテイルとファントムロードの戦争はもう止められない。
俺の内に潜むベエルゼが、更なる戦火と痛みを求めて凶悪に蠢いていた。