え、何この能力 作:闇次元の解放
「遠慮はいらねえぞハッピー!」
「あいさー!」
テーブルの上にドカンと並べられた豪勢な料理の山を前に、ナツとハッピーが大興奮で声を張り上げる。
「あはは、あたしのお金なんだけどね……。ていうか、君は食べないの?」
向かいに座るルーシィが苦笑いしながら肉料理の皿を差し出してくれた。……が、俺の返答は無言の一択。
「……」
俺は今、絶賛げんなり中だった。
さっき魅了(チャーム)を解いてくれたお礼ってことで、ルーシィがレストランで飯を奢ってくれることになったまでは最高だった。金欠高校生からすれば神降臨レベルの展開だし、本来なら大歓喜でガツガツ食うところだ。
でも無理。正直言って完全に食欲が失せていた。
いや、飯が不味いとかそういう次元の話じゃない。
バクバクバクバクッ! ベチャッ! ビチャッ!
いや、無理だわこいつと一緒に食うなんて! 食べ方汚すぎだろ!!
なんで一口噛むたびにそんな勢いで食べカスとソースが飛び散るんだよ! どんな噛む力してんだよ! 綺麗だったテーブルの上が一瞬で地獄絵図と化していく。アニメだとギャグで流せるけど、目の前でリアルにやられるとマジでキツい!!
「……俺、帰るね」
限界を迎えた俺は、静かに席を立った。
「あ、うん。ん? え、いやいや、ちょっ、ちょっと待ってよっ! あたしあんたにお礼がしたかったんだけど!」
ルーシィが慌てて手を引き留めてくる。気持ちはめちゃくちゃ嬉しいんだけど、俺の精神(メンタル)がもう無理なんだって!
ルーシィの隣(=ナツの真向かいで飛び散る弾幕をダイレクトに浴びる射程圏内)は絶対に危険だと判断した俺は、とりあえずナツの隣の席に移動して座り直した。ナツの正面よりはマシなはずだ。
だが、俺の考えは甘すぎた。
隣に座ったところで、ナツの超音波レベルの咀嚼フェスティバルは止まらない。
ベチャッ。
「……」
俺の頬に、飛ばされてきた謎のタレが冷たくヒットした。俺はそっと目を閉じ、ポケットから出したティッシュで静かに顔を拭う。
ダメだこいつ……横に移動しても射程圏内(デッドゾーン)だわ。主人公の食い意地、マジで恐怖すぎるだろ……。
「はあ……」
俺は溜め息をつきながら席を立ち、近くのガラス窓に映る自分の姿をまじまじと見つめた。
……ん? え、うわっ、なんだコレ!?
……え、待って、普通にかっこよくない……!?
思わず二度見した。ガラスの中に映っていたのは、現実世界のパッとしなかった自分とはまるで違う、めちゃくちゃ整った顔立ちの男の姿だった。
サラサラとした質感の、派手すぎず落ち着いた赤紫の髪。肌もキレイで、全体的にかなり清潔感がある。
これ、いま目の前にいるルーシィと同レベルくらいに顔の偏差値高くね……!?
劇的な超絶国宝級イケメン!……とまではいかなくても、今の17歳のルーシィと並んでも全然見劣りしないレベルのイケメンだ。前世の地味なオタク高校生だった俺からすれば、これだけでもお釣りが来すぎる。わお、いい顔じゃん! 鏡見るだけでテンション上がってくるぞ!
じゃあ、身体の方はどうなってんだ……?
半信半疑で自分の袖を少しめくって、腕や胸元を確かめてみる。
うおっ、引き締まりまくってる……!!
そこにあったのは、ボクサーみたいにキュッと引き締まった見事な筋肉だった。
身長は……うん、隣でガツガツ肉を食ってるナツとほぼ同じくらいだな。170cmちょっとってところか。ジェラールみたいな高身長モデル体型ってわけじゃないけど、この等身大のサイズ感がすごく馴染む。
ただ、筋肉の密度とフレームのしっかり感は明らかに俺の方が上だ。ナツと同じくらいの背丈なのに、体重と筋肉量は俺の方がずっしり重い感じがする。
なんていうか……『魔王龍 ベエルゼ』のあの圧倒的な力強さが、絶妙に等身大の17歳として馴染んだ感じだな。
背丈はナツと同等、顔はルーシィと同じくらい可愛げのあるイケメン、そして見えない部分はバッキバキの細マッチョ。
マジかよ……前世の俺からしたら超大進化じゃん! この体、めちゃくちゃ気に入ったわ!
ナツの食べカス被害で沈んでいたテンションは一気に吹き飛び、俺は窓ガラスに映る「新生・自分」のスペックに密かに大満足していた。
「私、魔導士ギルドに入るのが夢なんだ」
ルーシィが嬉しそうに夢を語り始めた。
そこからはもう、完全に原作通りの展開だった。ナツとハッピーのアホみたいな会話と、それに的確なツッコミを入れまくるルーシィ。
目の前で繰り広げられる生のやりとりを見ながら、俺は改めてじわじわと噛みしめていた。
(うわぁ……やっぱりマジでFTの世界に来ちゃったんだな……)
さっきまでは「本棚の下敷きになって死んだ(?)あとの変な夢」くらいに思ってたけど、生で見るナツたちの空気感に、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じる。すごいな、ここから始まるんだ。あの長い冒険の物語が、今まさに俺の目の前でスタートしてるんだ——。
なんて、一人で密かに胸アツな感動に浸っていた、その時だった。
「じゃあ、あたしこの人に用があるから! ナツとハッピーだっけ? ここの会計はあたしが払うからゆっくり食べてね」
ルーシィはそう言うなり、俺の手をガシッと握りしめてきた。
んんん!? ちょっ、俺をどこ連れてく気!?
急に手ぇ握られて、男子高校生の俺の心臓が一瞬でバックバク暴走しそうになる。
「何か奢ってあげるわよ! チャームから解放してもらったのに、何もしないなんてあたしの美学に反するしね」
そう言って俺を引っ張りながら、ルーシィはレストランの出口へ向かおうとする。
すると後ろから——
『『どうもご馳走様でした〜〜〜っ!!!』』
ナツとハッピーが床に額を擦り付けて、全力の土下座をかましていた。
「ちょっとぉ! 恥ずかしいからやめてよも〜〜〜っ!?」
顔を真っ赤にして叫ぶルーシィ。
いやあ、本当に期待を裏切らないキャラだな、ルーシィは。アニメで見たまんまのリアクションに思わず笑いそうになる。
ルーシィは真っ赤になった顔のまま俺の手をグイグイ引き連れて、賑やかな街の中へと足を踏み出した。
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「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……!」
ルーシィから手渡されたのは、バニラとチョコのミックスソフトクリーム。
いや〜、女の子にアイス奢らせるなんてどこの悪い男だよ。……はい、俺です。ほんとすいませんでした。
俺たちは近くの公園のベンチに並んで座り、アイスを食べ始めた。
……が、正直言ってめちゃくちゃ食べづらい。
(……いや、めっちゃ見られてないか??)
横からの視線が痛いほど突き刺さってくる。チラッと横目で見ると、ルーシィがアイスを口に運びつつ、あからさまに俺の顔をじーっと観察しているのだ。
そりゃそうか。今の俺、髪は綺麗な赤紫で肌は真っ白、グレイやジェラール並みとは行かないが超絶イケメンで筋肉バッキバキの男なのだ。そんな奴が隣に座ってたら、そりゃルーシィだって「誰このイケメン……」って二度見三度見するに決まってる。
だがしかし! 中身はさっきまで部屋の床で遊戯王カードを仕分けていたただの17歳高校生である。可愛い女の子に至近距離でジロジロ見られて、平静を保てるわけがない。
俺は心臓がバックバク言うのを必死で隠しながら、アイスを味わう余裕もなく超高速で完食した。ふぅ……マジで緊張で何の味も分からんかったわ。
落ち着かない俺は、場の空気を変えようと気になっていた“アレ”に指をさした。
「そ、それ……見ないのか?」
ルーシィが手にして、さっきから大事そうに抱えている雑誌——『週刊ソーサラー』だ。確かこれ、いろんな魔導士ギルドの最新ニュースが載ってる名物雑誌のはず。
「うん、そうね! それじゃ読もうかしら」
ルーシィは嬉しそうに頷くと、俺にも見えるように雑誌を真ん中に開いて見せてくれた。
うっわ、やっぱルーシィってめちゃくちゃ優しいじゃん……!
誌面には賑やかな写真とともに、各地の事件ニュースがずらりと並んでいた。
【チューリィ村の歴史ある時計台を半壊】
【フリージアの教会の一部を火事に】
【ルピナス城、一部損壊】
【ナズナ渓谷観測所、崩壊により機能停止】
「……」
俺は引きつった顔でその文字を追いかけた。
……待て待て待て、これ全部ナツが暴れまわった被害総額(跡地)なんじゃないのか……!?
やっべぇな、物語前半のナツってこんなテロリスト級の被害出しといたんか。アニメだとギャグで流せてたけど、文字で「教会を火事に」とか「観測所崩壊」って書かれてるの見るとマジで生々しいわ。あの桜髪の暴走機関車、ほんと街一つ吹き飛ばす勢いで生きてるな……。
「まーたフェアリーテイルが問題起こしたの? 今度は何? 『デボン盗賊一家を壊滅するも民家7件壊滅』? アハハハー! やりすぎ〜!」
ルーシィは楽しそうに笑いながら雑誌の記事を読んでいた。
……やべぇ、笑顔超可愛い。間近で見ると威力が半端ない。
「ってか、どうしたらフェアリーテイルに入れるんだろ? やっぱ強い魔法覚えないとダメかなぁ?」
「へぇー、君、フェアリーテイルに入りたいんだ?」
ぬっと、ルーシィの後ろからキザな顔が覗き込んできた。さっきの魅了(チャーム)男だ。
「サ、サラマンダー!?」
ルーシィは悲鳴を上げてガタッと飛び退いた。
「いやぁー、探したよ。君のような美しい子を是非パーティに招待したくてね」
「行くわけないでしょ! アンタみたいなえげつない男のパーティなんて! じゃあね、君!」
ルーシィは俺の手を引いて去ろうとするが、男がニヤリと笑って囁いた。
「君、フェアリーテイルに入りたいんだろ? ——フェアリーテイルのサラマンダーと言えば、分かるかい?」
「え……? あ、あんた、フェアリーテイルの魔導士だったの!?」
ピタッと足を止め、途端に「え〜っ! 本当ですかぁ〜!?」とゴマすりを始めるルーシィ。
う〜ん、現金! 分かりやすすぎるだろルーシィ!!
まんまと罠にハマったルーシィは、パーティの招待状を受け取るとご機嫌で俺に手を振った。
「それじゃあね、君! 気をつけて帰ってね!」
いや、気をつけるのは君の方だよ!!
思わず内心で叫ぶ。君が向かおうとしてるのはパーティ会場じゃなくて奴隷船だからね!?
……と、教えてあげてもいいんだけどさ。今の俺が何か言ったところで「何言ってんの?」って不審がられるだけだろう。
まあ、大丈夫。この会話をすぐ近くでナツとハッピーが聞いてるはずだからな!
ほら、すぐそこの草陰からぬっと顔を出して……さあ、出でよ、本物のサラマンダー!!
「……」
ん? タイミングが悪かったか?
だが、原作主人公はここで満を持して登場するはず!
「……」
おかしいな〜、なんでだろ。いつまで隠れてんだ?
俺はルーシィを見送りつつ、こっそり草陰に近寄って中を覗き込んだ。
……いない。
「……は?」
ガサガサと草をかき分ける。いない。マジでどこにもいない。
なんでだよ!? 何がどうしてこうなったんだよ!?
俺、何も余計なことしてないよな!? ちゃんと原作通りの流れを見守ってただけだぞ!?
おい、冗談だろ……出てこいよドラグニル!! どこ行ったんだよマジで!!
冷や汗がドバッと吹き出す。
頭の中で、最悪のシナリオが猛スピードで組み上がっていく。
ナツがいない=ルーシィを助ける奴がいない=ルーシィ、マジで売られる。
「……嘘だろ」
血の気が引いていくのが分かった。
さっきまで「高画質アニメ鑑賞〜♪」なんてヘラヘラしていた自分が一気にアホらしくなる。
ナツがいない理由は分からない。でも、現実として今この街でボラの企みを知っていて、動ける人間は……俺しかいない。
「マジかよ……マジで行くのかよ俺が……」
自分の手がうっすら震えているのが見えた。
相手は本物の魔導士で、悪党の集団だ。対する俺は、今朝までただのカードオタクだった17歳の高校生。
(痛いの、めちゃくちゃ嫌なんだけど……!)
ボラの炎を喰らったら、死ぬほど熱くて痛いに決まってる。考えただけで吐きそうだ。
だけど——。
脳裏に、さっきまで無邪気に笑っていたルーシィの笑顔が浮かぶ。
あんな良い子が、自分の憧れを踏みにじられて酷い目に遭うなんて、そんな胸糞悪い展開、絶対に見たくない。
「……クソがっ!!」
俺は自分の両頬を強烈にパンッ!! と叩いた。激痛で目が覚める。
「行くしかねえだろ……! ルーシィを助けに!!」
俺は腹をくくると、冷や汗を拭い、ボラの船が待つ港に向かって全速力で走り出した。
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おまけ:ルーシィと俺がソフトクリームを食べていた時のナツ達
「ん? あそこにいるの、さっきの2人じゃねえか?」
魚を咥えたハッピーを肩に乗せ、通りを歩いていたナツがピタッと足を止めた。視線の先には、ベンチに並んで座り、ソフトクリームを食べている俺とルーシィの姿。
「あいつ、魔道士ギルドに入りたいって言ってたよな。誘ってやってもいいな!」
「ダメだよナツ! あれは多分、デートっていうやつだよ!」
腕を組み、ドヤ顔で知ったかぶりを決める青い猫。
「でーと……? なんだそれ、美味いのか?」
「違うよ! 女の子と男の子がふたりで仲良く過ごす儀式だよ! ほら見てごらんよ、男の子の方めちゃくちゃガチガチに緊張してるでしょ? あれは必死に話題を探して頑張ってるところなんだよ!」
ハッピーが指さす先では、超高速でアイスをペロペロ完食し、心臓バックバクで『週刊ソーサラー』を指さしている俺(17歳・中の人はオタク)の姿があった。
「う〜ん……よく分かんねぇけど、邪魔しちゃ悪いのか?」
「あい! 空気を読まないと女の子に嫌われちゃうんだよ。おいら達は邪魔しないように、おとなしくギルドへ帰ろ?」
「そっか〜、残念だな! ……まあいいや、なんか後でまた会える気がするしな!」
「あい!」
こうして、勘違いした青い猫と直感で生きるドラゴンスレイヤーは、最高の笑顔でルーシィの救出フラグをへし折り、さっさとギルドへの帰路についたのだった。
(※なお、この余計な気遣いのせいで、俺はのちに死ぬほどの激痛を味わうことになる)