え、何この能力 作:闇次元の解放
木々に囲まれたギルドの裏森。日の当たらない陰の中で、俺とラクサスは一定の距離を保って対峙した。
「てめえがまだいたとはな。ギルドの害虫が……二度と来られねえように、今度こそ叩き潰してやる」
ラクサスは首を鳴らし、凶悪な笑みを浮かべながら雷の火花を散らす。
「俺を叩き潰す? ……あり得ないぜ」
俺は冷たく言い放った。服の下で、赤黒い外骨格が収まりきらない殺意に反応して脈打ち、瞳が暗闇で禍々しい黄色に発光する。
「ハッ! せいぜい喜ぶが良い、クズ以下のムシケラの分際で、俺と2度も勝負できるんだからな」
ラクサスが拳を握り締め、全身にバチバチと激しい雷撃を纏う。
俺もまた、溢れ出す黒い瘴気を解き放ち、凶器の赤黒い腕を構えた。
「「——決闘だ!!」」
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時は少し戻る。
エルザの帰還、アイゼンヴァルト(鉄の森)事件の解決、そしてナツとエルザの決闘からの評議院による一時逮捕——。
嵐のように過ぎ去った事件の騒動が落ち着き、ギルドはいつものけたたましい喧騒を取り戻していた。
予想していたことではあったが、俺はあの事件に一切関与しなかった。エルザが助っ人として選んだのはナツとグレイ、そしてミラの推薦でルーシィ。原作通りの『最強チーム』だ。
俺に声が掛かることなど最初からあり得なかったし、俺自身、彼女たちの「お仲間ごっこ」に付き合う気など毛頭なかった。
だが、影でベエルゼの闇を研ぎ澄ませてきた俺の存在を無視できない『瞬間』は、唐突に訪れた。
——ガチャン。
ギルドの扉が開いた直後、逃げ場のない猛烈な眠気が空間全体を支配した。
(……くっ、これは……!)
ミストガンの『強力睡眠魔法』だ。
床に次々と倒れていくギルドメンバーたち。抗いがたい強烈な睡魔が脳を急速に麻痺させていく。素の肉体のままでは一瞬で意識を刈り取られる。
俺は歯を食いしばり、袖の陰で己の爪を手の甲へと深く突き立てた。
ブスリと肉を穿つ激痛。滴り落ちる血の温かさで、強引に意識を覚醒へと引き戻す。絶望と苦痛が生み出す闇の魔力が背骨を駆け上がり、眠気を力ずくでねじ伏せた。
意識を保ち、カウンターの隅で低い呼吸を繰り返す俺。
歩みを進めていたミストガンが、ふと足を止め、ちらりとこちらに視線を落とした。
仮面の奥にある瞳と、一瞬だけ視線が交差する。
ミストガンは何かを察したようにわずかに眉をひそめたが、追及することもなく、何事もなかったかのように掲示板から依頼書を剥がすとそのまま姿を消した。
直後、眠り魔法の解除と共に、2階の欄干から下を見下ろす別の重圧が姿を現す。
「ハッ、相変わらずシャイな野郎だ」
雷鳴のような威圧感を纏って現れたのは、ラクサスだった。
原作通り、覚醒したナツの威勢の良い挑発を虫ケラでも見るような目で軽くあしらい、不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「フェアリーテイル最強の座は誰にも渡さねえよ。ミストガンにも、エルザにも……あの親父(ギルダーツ)にもな。俺が最強だ」
傲岸不遜な宣言。だが、階下を見渡していたラクサスの視線が、ふとカウンターの陰に佇む俺の姿を捉えた瞬間、その表情が不快感で激しく歪んだ。
「……チッ、まだクズ以下のムシケラが居やがったか」
隠そうともしない嫌悪感を吐き捨て、ラクサスは冷たく身を翻して奥へと消えていく。
かつて自分をボコボコにして泥を舐めさせた男からの、変わらぬ蔑み。
だが——今の俺は、あの時の無力なゴミではない。
立ち去るラクサスの背中を見つめる俺の視界が、一瞬、黒い瘴気と共に禍々しい黄色に光り輝いたのを、自分でもはっきりと自覚していた。
言っていられるのも、今のうちだ……ラクサス……
服の下で、赤黒い外骨格が肉体を締め上げ、狂おしいほどの殺意が静かに脈打ち始めていた。
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夜の静寂が包み込むギルドの裏森。月明かりすら届かない鬱蒼とした木々の中で、俺は一人、滾る闇の魔力を馴染ませるための修行を終えようとしていた。
傷を癒やし、感覚を研ぎ澄ます作業。服の下の赤黒い外骨格が収まり、静けさを取り戻した息を吐き出しながらギルドへ戻ろうとした——その時だった。
「お前か。ラクサスが言う、ギルドの名を汚す害虫というのは」
冷ややかで隙のない声が、静寂を切り裂いて届く。
立ち止まり視線を向けると、木々の影から一人の青年が姿を現した。
緑色の長い髪に、凛とした整った顔立ち。洗練された立ち姿と、体に纏う特異な魔力の気配。
ラクサス直属の親衛隊『雷神衆』のリーダー——フリード・ジャスティーン。
フリードは冷徹な眼差しで俺を頭から足元まで見下すと、心底蔑むような溜め息を一つ漏らした。
「ラクサスの機嫌が悪いと思えば……お前のような新人がチョロチョロと視界に入っていたからか。満足に魔法も使えないくせにギルドに居座るなど、フェアリーテイルの面汚し以外の何物でもないな」
「……」
俺は無言のまま、フリードを見返した。一切の感情を殺し、ただ静かに彼の言葉を聞く。
「ラクサスに目をつけられた以上、お前にこのギルドでの居場所はない。ラクサスはいずれ、このフェアリーテイルを正しく導く新たなマスターとなる男だ。お前のような落ちこぼれが関わっていい存在ではないのだよ」
「……」
何一つ答えない俺に対し、フリードは苛立ちを示すこともなく、淡々と宣告するように言葉を続けた。
「……だんまりか。フン、いいだろう。これは警告だ。ラクサスの機嫌をこれ以上損ねないうちに、自分から静かに消えた方が身のためだぞ。さもなければ……言葉通り、痛い目に遭うことになる。……警告はした。よく覚えておくように」
自分の言いたいことだけを言い捨てると、フリードは蔑みの笑みをかすかに浮かべ、優雅に背を向けて歩き出した。
その背中を見送る俺の胸の奥で——どす黒い何かが、爆発的な勢いで跳ね上がった。
(……害虫? 面汚し……? 消えろ……だと……?)
ドクン、と心臓が激しく脈打つ。
抑え込もうとすればするほど、湧き上がるのは殺意に近い憤怒と狂おしいほどの憎悪。
負の感情を糧とするベエルゼの闇が、制御を失って全身の血を黒く染め上げていくのが分かった。
(殺す……ッ!! 今すぐここで、そのすました面を噛み千切って……!!)
「——くッ……!!」
俺は両拳を血が滲むほど強く握り締め、歯が砕けるほど噛み潰して、あふれ出そうになる闇の瘴気を力ずくで押さえ込んだ。
まだだ。ここでこんな小物に本性(ベエルゼ)を晒すわけにはいかない。
ターゲットはラクサスだ。ラクサス本人の前で、俺をあざ笑った全ての言葉を血反吐と一緒に吐き出させてやるまでは——絶対に出すな、まだ抑え込め……ッ!!
俺の全身から一瞬だけ漏れ出た、あまりにも異常で異質な「闇の気配」。
立ち去ろうとしていたフリードの足が、ピタリと止まった。
「……?」
フリードは怪訝そうに振り返りかけたが、俺が下を向いたまま微動だにしないのを見ると、気のせいだと判断したのか、すぐに興醒めしたように鼻で笑い、夜の闇の中へと去っていった。
一人残された森の中で、俺の足元の草木は、漏れ出た漆黒の瘴気によって黒く枯れ落ちていた。
「……見ていろ、フリード……ラクサス……」
暗闇の中で静かに呟いた俺の瞳は、再び禍々しい黄色い光を帯びて、静かに、だが確実に狂気を宿していた。
——同時刻、俺が夜の森でドス黒い憎悪を滾らせていたその裏で、ナツはルーシィを誘い、ギルド2階から盗み出した『ガルナ島』のS級クエストへと密かに走り出していた。
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翌朝、ギルドの中は朝から異様な緊迫感に包まれていた。
「マスター、2階の依頼書が一枚足りません」
階上から降りてきたミラジェーンが、困惑と焦りを滲ませた声で告げた。
カウンターで呑気に酒を飲んでいたマカロフは、その言葉を聞いた瞬間、ブハッと勢いよく酒を噴き出した。
「な、なんじゃとぉぉ!?」
動揺するマカロフに対し、2階の欄干に肘をついていたラクサスが、鼻で笑いながら嘲るような声を挟む。
「ハッ、羽の生えた青い猫が1枚引っぺがして飛んでいくのを見たぜ。依頼に行ったのはナツとルーシィ、それにあの猫だ」
犯人がナツたちだと判明した瞬間、マカロフの顔色が大きく変わった。S級クエストの危険さを誰よりも知っているからこそ、その怒りと焦燥は凄まじい。
「ラクサス! 今すぐ追いかけて、あのバカ者どもを力ずくで連れ戻してこい!」
マカロフの一喝が響き渡る。だが、ラクサスは動じるどころか、心底面倒そうに肩をすくめた。
「断る。俺にはこれから忙しい用事があるんだよ。……ギルドの中に湧いた『害虫』を、綺麗サッパリ掃除しなきゃいけねえからな」
ラクサスは低い声でそう吐き捨てると、ゆっくりと視線を落とし、下の階のカウンターの影にいる俺を横目で睨みつけてきた。隠そうともしない露骨な敵意と蔑み。
「お前以外に、誰が今のナツたちを力ずくで連れ戻せるというんじゃ!」
激昂するマカロフの怒号すら、今のラクサスには届かない。彼はマカロフの言葉を完全にスルーし、ただ俺だけを鋭く射殺さんばかりの視線で射抜いていた。
昨夜のフリードの言葉、そして目の前のラクサスの態度。
俺の中で、静かに押し殺していたドス黒い何かが、カチリと音を立てて弾けた。
逃げない。もう引き下がりはしない。
俺は下から、ラクサスの視線を逃げずに正面から真っ直ぐに睨み返した。
その瞳の奥で、ベエルゼの闇が蠢き、禍々しい黄色い光が一瞬だけ危険に明滅する。
俺のその視線を受け止めたラクサスは、口元を凶悪に歪め、楽しげに喉を鳴らした。
「……ほう。いい目だ……やる気みてえだな、ムシケラが」
ピリピリとした殺気が、俺とラクサスの間で一気に膨れ上がる。
だがその緊迫した空気を破るように、席を蹴ったグレイが立ち上がった。
「じいさん、その言い方は聞き捨てならねえな。ナツの野郎を止められるのがラクサスだけなんてことはねえだろ!」
グレイは険しい表情で言い放つと、ナツたちを連れ戻すために荒々しくギルドを飛び出していった。
だが、そんな周囲の騒ぎなど、今の俺たちの耳には届いていなかった。
ギルドの喧騒の真ん中で、俺とラクサスの視線がバチバチと火花を散らして衝突する。
かつて無力だった俺を痛めつけ、泥を舐めさせた男との、逃れられない決着の時が刻一刻と近づいていた。