昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
窓から入る光が部屋を照らす。
窓辺のベッドのみが日に照らされ、部屋の中は一層暗く感じる。
ベッドの膨らみはゆっくりと、モゾモゾ動き、枕が置かれた真逆の位置から、亜麻色の頭がゆっくりと出てくる。
そして、小柄な体が這いずり出てきてーーーベシャッと地面に落ちる。
「……痛い……」
重い体をゆっくりと上げて目をこすり、壁に手を添えて立ち上がり、部屋の扉を無言で眺める。
……部屋の隅の机に置かれている、ポットの水をコップに注ぎ、ゆっくりと飲み終える。
「……まあいいか。」
クァ……と大きくあくびをし、ポイポイと服を脱ぎ捨ていつもの私服に着替える。
ヨルは1人部屋を後にした。
「あら〜。早起きね〜」
日差しに目を細めながら家を出ると、不意に横から声をかけられる。
そこには麦わら帽子をかぶり、花壇の手入れをしている母親ーーークラウがしゃがんでいた。
「……なんかライザが珍しく来なかったからな。」
「あら、見捨てられたの〜?」
「何言ってんだババア。」
「親不孝するつもり〜?」
クラウがスコップに白い指を這わせ、「まあ冗談は置いといて。」と花壇の土に逆手に持ったスコップを突き刺す。
「ちょうどいいからフレッサさんの売店でお買い物してきてね〜」
「ここに書いてあるものよ〜」とメモを押し付けられる。
かぶっていた麦わら帽子をヨルの頭に投げ捨てるように被せ、さっさと行けと手を振る。
ダルい……とありありと顔に出ているヨルに見向きもせず、クラウは「あとはよろしく〜」と家の中に姿を消す。
口をへの字に曲げたヨルが、麦わら帽子を被り直し、
流れるような亜麻色の髪をわずかに揺らす。
左胸のおさげの、捻れた髪留めを無言で直し、日差しの強い道をすごすごと歩いていった。
「……」
小麦色の麦わら帽子が頭上の日差しを遮っても、石畳が反射する足元からの日差しがヨルの白い頬をわずかに照らす。
白い首筋は気付けば赤く火照っていた。
「ゲロ暑すぎる……」
フレッサの店を目指し、ボーデン地区を通る。
昔は潤沢に流れていたと言われる、今は枯れた噴水を眺め、日陰となっているベンチに倒れ込むように座る。
一旦休憩……と、日陰でなんとか体力を回復しようとゆっくり目を閉じる。
目を瞑っていると、子供が「おねーちゃん、大丈夫?」「あれ、もしかしてヨルちゃん?」と話しかけてくるが、相手をする余力すらなく白い手のひらをヒラヒラとふり、「あっちいけ」と消えゆくような声を溢す。
しばらくすると、コツ、コツと足音が聞こえ、ヨルの前で立ち止まったのがわかる。
だる絡みを相手にする気力はなく、か細い体力を振り絞りながら、誰かもわからず中指を立てる。がーーーーー
「お前、先日の小僧か?」
「……?」
熱った顔を持ち上げると、銀髪に白い肌。
ヨルを射抜くように見下ろすオッドアイ。
ーーーリラが、両手にお菓子を大量に抱えて立っていた。
「アンペル。戻ったぞ。」
「あぁ、ありがとう、リラ。……何だその小僧は」
「知らん。中央の噴水のベンチで拾った。」
「小僧じゃない、ヨルだ。降ろせ……」
その言葉と同時に投げ捨てるように地面に転がされる。
ベシャッと落とされたヨルは、頭からずれ落ちた麦わら帽子をボーッと眺めながら、口を開いた。
「昨日島にいたやつらか……。寝心地のいい床を堪能させてくれてありがとうな礼を言うよ、クソッタレ」
日陰に加え、リラに持ち運ばれて体力が回復したヨルが、礼を述べながら中指を立てる。
「ふん。少しは回復したか。日差しにやられるとは軟弱だな。」
「本当にこの島の住人か?」とリラから辛辣な言葉を浴びるが、ヨルは気にせずふらふらと立ち上がり、麦わら帽子を拾い上げズボンで埃をはたき落とした。
「まぁ待て、さすがにそのまま出たらすぐにまた倒れるぞ。」
アンペルがパタパタと近寄り、水を差し出す。
ヨルは、火照った顔でジーッとアンペルとリラの顔を交互に眺め、「……ふん」と鼻を鳴らし水を飲む。
「お前は猫か何かか?」と頭をぐりぐりと拳で削ってくるリラに、ヨルがキッと睨み、「触んな」と手を払いのけ、空になったコップをアンペルに突き返す。
そして、「じゃあな」とだけこぼし、まだ火照りのある顔で扉を開きーーーー
出て行かずにそのまま閉める。
頭に「?」を浮かべるアンペルを気にせず、ヨルがおもむろに部屋を見渡しーーー
部屋の隅に座り込んだ。
アンペルが顎に手を当て、何かを話そうとして……口を閉じる。
その様子を尻目にリラが話しかける。
「お前は何をしてるんだ?」
「気にするな。小一時間したら出てく。」
その言葉にため息をつきながら、アンペルは作業に戻った。
ふとアンペルが、部屋の隅を見る。
麦わら帽子で顔は見えないものの、途中から寝息を立てていたヨルは跡も形も残さず、いなくなっていた。
「まるで本当に猫だな……」
零すように呟く。
ふーむ、と顎に手を置きながら少し部屋の隅を眺めていると、扉が勢いよく開き、ライザが大手を振って入ってくる。
「アンペルさーん!ナナシ草、採ってきました!……あれ?」
ふと、ライザの視線がなぜか部屋の隅へと吸い寄せられた。