昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「うーん……」
シャーロット家の扉の前で、唸る人影が一つ。
ーーーライザが、うろうろと腕を組みながら歩いていた。
「……別に、いつも通りでいいよね。」
ライザが何やら胸の上に手を置き、ふぅー、と一息つく。
扉の取っ手に手を伸ばし、開こうとするとーーー
不意にガチャっと扉が開いた。
「わっ!?」
「おや?ライザちゃんじゃないか。おはよう」
思わず手を引っ込め、動揺する。
しかしそんな様子をつゆ知らず、驚いた様子のヨルの父親ーーーベリルが笑いかけてくる。
「今日もヨルを起こしに来てくれたのかい?」
「あ、は、はい!」
不意をつかれたライザがなぜか敬語を使う。
そんなおかしな様子の息子の幼馴染を見て、「どうしたんだい……?」と不思議そうに首を傾げる。
「まあ気にせず上がっていきなさい。」
そう言って、ライザの横を通り抜ける。
ヨルの背中とは似ても似つかない広いベリルの背中を見送りながら、「……よし!」とシャーロット家の扉の敷居を跨いだ。
勝手知ったるように2階に上がり、ヨルの部屋の扉を開けようとし、一瞬止まる。
(なんであたし、こんな気にしてるんだろ)
一瞬疑問が頭をよぎり、ブンブンと頭を振り、ゆっくりと扉を開く。
そこにはいつも通りの、ベッドにくるまり、スゥスゥと寝息を立てる膨らみがあった。
「……」
ゆっくりと近づき、毛布の端をそーっと捲る。
徐々に亜麻色の髪の毛、白い頬、そして長いまつ毛があらわになった。
「……ほんと、気持ちよさそうに寝るなぁ。」
ふっ、と顔を綻ばせながらヨルの白い頬をつんつんと突き、「朝だよー、ヨル兄」と声をかける。
ヨルは「うーーーん……」と唸りながらそっぽを向き、スゥスゥとまた寝息を立て始め、毛布を再度かぶろうとする。
ヨルの白い手が、ぱたぱたと毛布を探す。
その様子をくすくすと笑いながら、しばらく眺める。
ベッドに肘をつき、うんうんと唸りながら毛布を探すヨルをしばらく眺めていると、はっとしながら立ち上がる。
(なにしてるんだろ、あたし)
ブンブンとまた顔を振りながら、「よし!」と毛布を鷲掴みにーーーー
「朝!だよ!ヨル兄ぃー!!!!」
容赦なく毛布を引き剥がす。
一瞬の静寂の後、部屋に掠れるような声が響く。
「返せや……しばくぞ……」
「……本当に寝起き悪いね。」
困ったように笑いながらヨルの頭をパンパンと軽く叩く。
「ほら、朝だよ、あーさー!」
「お水飲んで!ほら!座って!」とベッドから引き摺り下ろし、無理やり水を飲ませる。
亜麻色の長い髪に目元を隠し、寝ぼけながらちびちびとヨルが水を飲む。
髪を梳かれながら水を飲むヨルを眺めていると、段々と頭が冴えてきたのか、あくびをしながらヨルが伸びをする。
「今何時だ……?」
「10時くらいだよ。」
「まだ朝じゃねーか……」
「十分遅いよ!?」
空になったコップを手元で遊びながら、ヨルが見上げるようにライザの顔を覗く。
「今日はどっか行くのか?」
「ん?んー……そうだね、ちょっとやりたいことがあるから。」
「ふーん。」と興味なさそうに鼻を鳴らし、部屋には髪を梳く音だけが響く。
いつもの三つ編みにしていこう、と指を通していく。
「……よし、できた!」
上出来!とばかりに後ろで笑顔を見せるライザ。
ヨルはその様子を尻目に、綺麗に編まれた髪の毛を指先でフリフリと振り、ふん、と鼻を鳴らす。
そして、のそのそと立ち上がりーーーおもむろに服をたくし上げる。
「……え!?ちょ、ヨルちゃん!?」
唐突に白い腰が視界に現れ、混乱しながら後ろを向く。
「なにしてるの!?」と騒ぐライザに、ヨルがまだ寝ぼけてそうな声で答える。
「着替え。」
「なんで始めてるのか聞いてるの!!!」
ライザの背中越しに、衣擦れ音と床に落としていく音が聞こえる。
しばらくすると、音が鳴り止み「もういいの!?」と聞くと、「あぁー」と間延びした声だけが返ってくる。
それと同時に、ガチャっと扉が開き、階段を降りていく音だけが部屋に響いていた。
「……自由、すぎる……」
ふぅ、とため息をつき、誰もいなくなった部屋で一人呟く。
そして、脱ぎ散らかされた服を拾いライザも遅れて階段を降りた。
クラウの麦わら帽子が放置されていたのでパクり、トレッペの高台まで足を伸ばす。
道中ボオスでも拾えれば飯にありつけるだろ、とカスな考えを頭に浮かべ、フラフラと歩く。
感じのいい棒を拾い、フリフリと回しながら歩いていると、旧市街の通りで見知った背中を見つける。
「……クラウディアか。」
ポイっと感じのいい棒を投げ捨てる。
ふとクラウディアがこちらに気付き、手を振る。
「おはよう、ヨル!……今日は1人なの?」
「あぁー。寂しそうに見えるか?美味いもんよこせ。」
「タオも言ってたけどほんとに中身と外見が合ってないんだね、ヨルって」
ふふっ、とクラウディアが笑う。
「ちょうど買い物しようと思ってたの。少し早いけど一緒にお昼食べる?」
「俺にとっては朝だけどな。うまーいスープをつけろよ」
初めて会った時から、一貫したヨルの話し方にふふっ、と笑う。
(最初に会った時と、髪型が違う……)
フリフリと揺れる亜麻色の三つ編みを追いかけるように、ヨルの後ろをついて行った。