昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「縛れー!かつげー!つれてけー!」
「!!?!?!!?」
時刻は昼過ぎ。
ベッドで舟を漕いでいると、扉を猛烈な勢いで開きライザとレントが入ってきた。
そして、掛け声と共に毛布ごと連れていかれーーー
「ようこそ!我がアトリエへ!」
ヨルの白い右手が、無言で中指をおったてる。
「えー!?なんでー!?」
「いや、まあ、うん。これに関しては俺もヨル兄に同情するわ」
ボサボサな亜麻色の髪の毛に、よれた服といった風貌のヨルが、ジト目になりながらライザに詰め寄り無言の圧力をかける。
「だからいったじゃん、やめたほうがいいよって……」
そう言いながら、タオが遅れてライザの部屋ーーーいや、アトリエに顔を出す。
その腕の中にはヨルの私服があった。
「いやー、はやくヨル兄にもみせたくってーーー……えへへ、許して?」
「許さん。」
直後、「いたたたた!」と、ヨルの拳に頭をぐりぐりと挟まれるライザの声が、アトリエに響いた。
ふん、と鼻を鳴らし、服に袖を通す。
服を着た際に巻き込まれた亜麻色の髪を両手で出し、周りを見渡す。
「……」
ヨルが入れるくらいのでかい釜。
壁にかけられたでかいヘラ。
フラスコやらなんやら。
「んで、アトリエってなんだよ。」
「……あれ、言ってなかったっけ。あたしアンペルさんに錬金術教えてもらったんだよね」
挟まれた頭を押さえ、ライザが振り返る。
「あー、そいやライザ、そんときヨル兄のこと起こしに行ってなかったもんな」
「意外と薄情だね、ライザ」
「こんな可愛い兄貴分をほったらかしにしてたのか?」
「上目遣いやめて??」
幼馴染3人から怒涛の煽りを受ける。
最後に、わざとらしく赤い瞳で上目遣いをするヨルの頭を、チョップで叩く。
「……でもヨル兄にもみてもらいたいじゃん」
「ほっぺた膨らませんな、俺が悪いみたいだろ」
仕返しとばかりにライザの栗色の頭に、白いチョップが突き刺さる。
うー……、と頭をさすりながらライザが唸る。
「いいしー!クラウディアつれてきて褒めてもらうもん!」
そこでふと、「あ!」とライザが思い出したように声を上げる。
「そういえば今度クラウディアの家に行くんだけど、ヨル兄もくるよね?」
当たり前だもんね?となぜか自信ありげなライザに背を向け、ヨルがフラスコを弄びながら答える。
「いや?俺はこの前会ったしな。行かないぞ。」
「……え?」
「偶然会って、昼飯……朝飯か?どっちでもいいか。……まあ、食いにいったんだ」
「……え、2人、で?」
「あぁー。そうだがどうした?」
「変なことを聞くなよ」とばかりに振り返る。
すると、あちゃー、とばかりに顔を押さえるレントとタオ、そして目の座ったライザが立っていた。
「……ふーん。」
「……?」
「よし。俺はリラさんに言われた鍛錬があるからな。ここまでだ。」
「僕もちょっと本の解読があるから……」
「健闘祈るぜ!ヨル兄!」「じゃあね……」と、部屋を後にする2人。
何やら沈黙が続くが、ふとライザがぱっと顔を上げる。
「レントとタオと、素材の採取してくる!!」
べー!と何やら拗ねたように部屋を飛び出るライザ。
何もわからないまま、ヨルだけがライザの部屋に残された。
「……まじでなんなんだ?」
「……」
「……」
「……」
ライザの家の裏手にある寂れた船着場から対岸まで移動した3人。
……いや、ライザと、ほとんど拉致されるような形で連れてこられた2人が、プリプリと怒るライザの背中を見ていた。
(ライザって、ヨル兄さん絡みになるといつにも増して感情的になるよね……)
(ヨル兄もヨル兄だけどな……。人の心、いや女心ってもんをわかってなさすぎるぜ……)
こそこそと後ろで話す2人に、ライザが振り返る。
「……る」
「あ、あー。なんだって?」
「魔物と戦って!素材の採取!する!」
「そ、そうだね、あはは……」
(おいおいおいいつにも増して不機嫌じゃねえか!)
(過去一だねこれは……)
砂浜を踏みしめながら、小妖精の森とは別の道ーーー
旅人の道に向かっていくライザに、タオとレントがついていく。
「まあ探索範囲を広げてみたかったからちょうどいいんだけどよ。」
「やっぱ生態系が違うのか、小妖精の森とは大分違いそうだな」と、レントが続ける。
「うん……。なにあの竜みたいな魔物……。帰りたいんだけど……」
タオが零すようにちらっとライザに視線を向ける。
前衛のレントよりも前に出て、杖を折ってしまうんじゃないかというほど杖を握り締め、目はメラメラと燃えている。
「……そうはいかないよねぇ……」
「まあ、腹括れ、タオ……」
「俺たちは付き合うしかないんだよ、ライザにな……」
肩を落としながら、竜と対峙しつつあるライザの横に、2人が追いついた。