昼行燈の女神は微笑む   作:匿名

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19話

「あ!これアンペルさんからもらった本に載ってた……!」

 

陽は傾き、すでに空はオレンジになっていた。

先ほどまでの不機嫌は嘘のように、ライザが木の根や岩、色とりどりな花などに目を輝かせる。

 

(ふぅー。まったく、機嫌は戻ったみたいだな。)

 

(そりゃあれだけ魔物を倒して、素材のために歩き回ってたらね……。少し魔物が不憫だったよ。)

 

目の前の素材に夢中になりながら採取を続けるライザを見て、レントがため息を吐く。

 

「あーー。ライザ。そいやあさっきまで何をあんな怒ってたんだ?」

 

(なにしてるんだよレント!?また再燃させるつもり!?)

 

(ばっかこのまま帰って、またヨル兄が虎の尾を踏んでみろ!駆り出されるのは俺たちなんだぞ!)

 

わちゃわちゃと肩を並べて小声で話し合う2人をつゆ知らず、ライザがしゃがみながらポツリと零す。

 

「……だって、昔はもっと一緒にいたじゃん」

 

「え?」

 

「行く先々一緒にいてくれたじゃん!それをさぁ、自分だけ気づけばクラウディアと話したりご飯食べたりさぁ。後で、アンペルさんちにだってお邪魔してたって聞いたし!」

 

溜まっていたものが一気に噴出し、途中から草むらをゴロゴロと転がる。

 

「ま、まあ、そうだな。」

 

「で、でもヨル兄さんって昔からあんな感じじゃない?」

 

「……そうだけど!」

 

今まで見たこともないほどの荒ぶり方に、レントとタオが冷や汗をかきながらヨルを少しだけ擁護する。

大の字になりながら、叫ぶようにライザが答える。

 

「別に毎回こいって言ってるわけじゃないし!」

「錬金術だってわかんないだろうし!」

「寝てたいのも知ってるし!」

 

夕陽に照らされるライザが、ポツリと零す。

 

「でも、たまには一緒に来てくれてもいいじゃん……」

 

「……」

 

はぁー、とタオとレントが顔を見合わせてため息をつき、ライザに歩み寄る。

 

「ま、なんだ。……一緒に謝ってやるから仲直りしようぜ。」

 

「ヨル兄さんもライザも不器用すぎるんだよねぇ……」

 

そう言いながら、レントとタオがライザの両手を引いて、立たせる。

 

地面に転がる杖を拾い、服に付いた草を払い落とす。

 

「……採取、続けよっか。」

 

その言葉に、レントが剣を担ぎ直す。

 

「……ああ、そうだな。よし!もっかいあの竜と戦ってみようぜ!」

 

「えぇ〜?また戦うの?手強かったよあの魔物……」

 

はぁ〜、と漏れるようなため息を付き、タオが2人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり暗くなったな。」

 

「ライザのポーチなんて、ギチギチでもう隙間もないもんね……」

 

「うるさいなー、それだけ面白いものがいっぱいあったの!」

 

いいでしょ!とそっぽ向くライザに、レントとタオが、「世話の焼ける……」とため息を吐く。

 

ライザの家の裏手ーーー寂れた船着場から、七色葡萄の森まで戻ってきた3人。

ふと、ライザが灯りのついた家を見て「……あっ。」と呟く。

 

最初は、「何かあったのか?」とレントとタオがライザを見ていたが、その視線の先にいる人を見て青ざめる。

 

そこには、軒先で腕を組んでライザの帰りを待つミオがいた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ライザが2人の顔を見るが、ばっと顔を背ける。

「あわわわわ……」と動揺するライザを尻目に、2人はそそくさと「じゃあなライザ。俺たちはここまでだ」「気をつけて帰ってね……」と立ち去る。

 

「うひゃ〜……。カンカンに怒ってない?どうしよう……」

 

「うー、行くしかないか……」と覚悟を決め、裏手から家に近づくが、それより先に誰かが階段を上がる姿が見える。

 

(……?え、ヨル兄!?)

 

シュタウト家の灯りが、白い肌と亜麻色の髪をうっすらと照らす。

 

ライザはこそこそと、なんて言ってるんだろう、と聞き耳を立てる。

 

「……ごめん、ミオさん。ちょっと俺がライザのこと連れ出しちゃったんだよ。」

 

「えぇ?ヨルちゃんが?」

 

「あぁ。まあ……その……畑のこととかで……手伝いを……」

 

庇う気はあるのだろうが、いかんせん壊滅的に嘘が下手な様子のヨルを見て、ミオがため息をつく。

 

「まあ、ヨルちゃんがそういうならいいんだけどねぇ。あんまり無茶に付き合っちゃダメよ。」

 

「果実水飲む?」「今日はいい」と、少し言葉を交わし、ミオが家に戻って行く。

 

ヨルはというと、軒先の階段に腰掛け、頬に肘をついて目を瞑っていた。

 

このまま寝ちゃいそうだな、と思いながら声をかけようとし、開きかけた口を閉じる。

ゆっくりと階段を登り、ヨルの隣に腰掛ける。

 

「……楽しかったか?」

 

「……うん。」

 

目を瞑ったまま、話しかけるヨルに、ライザも目を瞑りながら返事をする。

 

「……それならいい。」

 

「……うん。」

 

お互いの声と、草木の擦れる音だけがはっきりと聞こえる。

 

「……もう暗いし帰れ。俺も帰る。」

 

そう言いながら、隣で立ち上がる音が聞こえる。

(帰っちゃうんだ)と一瞬、よぎる。

 

ふと目を開くと、目の前にはヨルの赤い瞳が同じ高さにある。その口元が、ほんの少しだけ綻んでるように見えーーーー

 

頭を、撫でられた。

 

「じゃあな。」

 

「……」

 

放心するライザを背に、ヨルがクァ……とあくびをしながら立ち去った。

 

 

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