昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「あ!これアンペルさんからもらった本に載ってた……!」
陽は傾き、すでに空はオレンジになっていた。
先ほどまでの不機嫌は嘘のように、ライザが木の根や岩、色とりどりな花などに目を輝かせる。
(ふぅー。まったく、機嫌は戻ったみたいだな。)
(そりゃあれだけ魔物を倒して、素材のために歩き回ってたらね……。少し魔物が不憫だったよ。)
目の前の素材に夢中になりながら採取を続けるライザを見て、レントがため息を吐く。
「あーー。ライザ。そいやあさっきまで何をあんな怒ってたんだ?」
(なにしてるんだよレント!?また再燃させるつもり!?)
(ばっかこのまま帰って、またヨル兄が虎の尾を踏んでみろ!駆り出されるのは俺たちなんだぞ!)
わちゃわちゃと肩を並べて小声で話し合う2人をつゆ知らず、ライザがしゃがみながらポツリと零す。
「……だって、昔はもっと一緒にいたじゃん」
「え?」
「行く先々一緒にいてくれたじゃん!それをさぁ、自分だけ気づけばクラウディアと話したりご飯食べたりさぁ。後で、アンペルさんちにだってお邪魔してたって聞いたし!」
溜まっていたものが一気に噴出し、途中から草むらをゴロゴロと転がる。
「ま、まあ、そうだな。」
「で、でもヨル兄さんって昔からあんな感じじゃない?」
「……そうだけど!」
今まで見たこともないほどの荒ぶり方に、レントとタオが冷や汗をかきながらヨルを少しだけ擁護する。
大の字になりながら、叫ぶようにライザが答える。
「別に毎回こいって言ってるわけじゃないし!」
「錬金術だってわかんないだろうし!」
「寝てたいのも知ってるし!」
夕陽に照らされるライザが、ポツリと零す。
「でも、たまには一緒に来てくれてもいいじゃん……」
「……」
はぁー、とタオとレントが顔を見合わせてため息をつき、ライザに歩み寄る。
「ま、なんだ。……一緒に謝ってやるから仲直りしようぜ。」
「ヨル兄さんもライザも不器用すぎるんだよねぇ……」
そう言いながら、レントとタオがライザの両手を引いて、立たせる。
地面に転がる杖を拾い、服に付いた草を払い落とす。
「……採取、続けよっか。」
その言葉に、レントが剣を担ぎ直す。
「……ああ、そうだな。よし!もっかいあの竜と戦ってみようぜ!」
「えぇ〜?また戦うの?手強かったよあの魔物……」
はぁ〜、と漏れるようなため息を付き、タオが2人の後を追った。
「すっかり暗くなったな。」
「ライザのポーチなんて、ギチギチでもう隙間もないもんね……」
「うるさいなー、それだけ面白いものがいっぱいあったの!」
いいでしょ!とそっぽ向くライザに、レントとタオが、「世話の焼ける……」とため息を吐く。
ライザの家の裏手ーーー寂れた船着場から、七色葡萄の森まで戻ってきた3人。
ふと、ライザが灯りのついた家を見て「……あっ。」と呟く。
最初は、「何かあったのか?」とレントとタオがライザを見ていたが、その視線の先にいる人を見て青ざめる。
そこには、軒先で腕を組んでライザの帰りを待つミオがいた。
「……」
「……」
「……」
ライザが2人の顔を見るが、ばっと顔を背ける。
「あわわわわ……」と動揺するライザを尻目に、2人はそそくさと「じゃあなライザ。俺たちはここまでだ」「気をつけて帰ってね……」と立ち去る。
「うひゃ〜……。カンカンに怒ってない?どうしよう……」
「うー、行くしかないか……」と覚悟を決め、裏手から家に近づくが、それより先に誰かが階段を上がる姿が見える。
(……?え、ヨル兄!?)
シュタウト家の灯りが、白い肌と亜麻色の髪をうっすらと照らす。
ライザはこそこそと、なんて言ってるんだろう、と聞き耳を立てる。
「……ごめん、ミオさん。ちょっと俺がライザのこと連れ出しちゃったんだよ。」
「えぇ?ヨルちゃんが?」
「あぁ。まあ……その……畑のこととかで……手伝いを……」
庇う気はあるのだろうが、いかんせん壊滅的に嘘が下手な様子のヨルを見て、ミオがため息をつく。
「まあ、ヨルちゃんがそういうならいいんだけどねぇ。あんまり無茶に付き合っちゃダメよ。」
「果実水飲む?」「今日はいい」と、少し言葉を交わし、ミオが家に戻って行く。
ヨルはというと、軒先の階段に腰掛け、頬に肘をついて目を瞑っていた。
このまま寝ちゃいそうだな、と思いながら声をかけようとし、開きかけた口を閉じる。
ゆっくりと階段を登り、ヨルの隣に腰掛ける。
「……楽しかったか?」
「……うん。」
目を瞑ったまま、話しかけるヨルに、ライザも目を瞑りながら返事をする。
「……それならいい。」
「……うん。」
お互いの声と、草木の擦れる音だけがはっきりと聞こえる。
「……もう暗いし帰れ。俺も帰る。」
そう言いながら、隣で立ち上がる音が聞こえる。
(帰っちゃうんだ)と一瞬、よぎる。
ふと目を開くと、目の前にはヨルの赤い瞳が同じ高さにある。その口元が、ほんの少しだけ綻んでるように見えーーーー
頭を、撫でられた。
「じゃあな。」
「……」
放心するライザを背に、ヨルがクァ……とあくびをしながら立ち去った。