昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
ゆっくりと扉の取っ手に手をかけ、そーっと開く。
開いた扉の隙間から、ライザが顔だけヒョコっと覗かせると、珍しく頭を出した状態で寝ているヨルが視界に入る。
無言でゆっくり部屋に入り、そーっと顔をのぞく。
窓から差し込む光が、ヨルの白い肌と亜麻色の髪の毛を淡く照らす。
「……」
そーっと、亜麻色の頭に手を伸ばそうとし、一瞬、躊躇する。
ーーー昨日の、軒先でのことを思い出して。
むむむ、と唸っていると、ヨルの赤い瞳がパチっと開き、ライザと目が合う。
「……何してんだ。」
「お、起きてたの!?」
飛び跳ねるように後退りをするライザを尻目に、ヨルはゆっくりと体を起こし、伸びをする。
「あぁー、ついさっきな。」
ベッドから降り、白い足がペタペタと音を鳴らす。
なぜか視線を合わせられず、ライザはその足に視線を落としていた。
「ん?何やってるんだ、早く結べよ。」
「ほれほれ」と亜麻色の髪の毛を指差しながら椅子に座るヨルに、「う、うん!」と答える。
(あ、あれ……。ヨル兄の髪ってこんなにサラサラだっけ……)
亜麻色の髪に櫛を通し、今まで当然のようにしてたことが、なぜか覚束ない。
櫛で梳くごとに顔が熱くなる感覚がはっきりとわかる。
腰まである、絹のような髪を持ち上げ、ふと白いうなじが一瞬あらわになり、手が止まる。
「……う。」
「……ん?絡まってんのか?」
「か、絡まってないよ!?」
「なんだ……?」
ブンブンと手を振るライザを、訝しみながら黙って前を向く。
(お、おちつけ〜。おちつけ〜。)
目を閉じながら落ち着くように念じる。
(……よし、いける!)
そうして、目を開く。しかし、目の前に再度あらわになった白いうなじがありーーー
(やっぱむりーー!!)
バババッ、と手早くポニーテールにし、「はいできた!」とそっぽ向きながらサムズアップする。
「……ポニーテール?珍しいな?」
「た、たまには気分転換したいかなって!!あ、それにほら、昔つけてあげたあたしの髪飾、り……」
ヨルのポニーテールの根元に、ライザと同じデザインの髪飾りが、光る。
「……あ、あたし、クラウディアの家に遊びに行く用事があるから〜〜!!!」
そう叫びながら、ドタドタとヨルの部屋を後にするライザ。
部屋には、なんのこっちゃ……と唐突な展開にフリーズするヨルだけが残されていた。
「ハァ……ハァ……」
「おいおい、どうしたんだよ……。そんな息切れして」
ライザはヨルの家から、レント、タオとの待ち合わせ場所にしていた旧市街の入り口まで一直線に走ってきて、肩で息をしていた。
「……またヨ「何もない!!」えぇ……」
声をかけようとしたが、被せ気味に否定され、思わずタオが怯む。
そんな様子はつゆ知らず、ライザが顔を上げる。
走ってきたからか、真っ赤になった頬を拭いながら「じゃあ、クラウディアの家に遊びに行こっか!!」と元気に話し、歩き始める。
「なんなんだ……?」
「さ、さぁ……?」
「クラウディアー!!遊びに来たよー!」
「まあ、そうなるよな。」
「うん。ライザだもんね」
「な、なによひどいわね!?」
旧市街の一角にある屋敷。
ライザがその扉の前に立つと、おもむろに大声でクラウディアの名前を呼ぶ。
その様子に、レントとタオがため息をつく。
「あ、みんな来てくれたんだね!……なんで二人ともそんなに疲れてるの?」
無言でレントとタオがライザを見るが、ライザがキッと二人を睨む。
「ううん、なんでもないよ!」
「ふふっ、そう?」
そんな様子が面白いのか、クスクスと笑いながら「ついてきて」と三人を招き入れる。
「わぁ……」
クラウディアに案内され、客室に通される。
整然と飾られたアンティークのポットやティーカップが並べられた棚などが目に入る。
そして、本棚にはこれまでルベルトが収集したであろう本が収まっていた。
「す、すげぇな……」
「う、うん。というかそもそも内装から全然違うね……」
「ライザ、あんま触ったりするなよ」
「触んないわよ!?あたしのことなんだと思ってるの!?」
やらかしかねない……といった様子でレントがライザに真顔で注意する。
クラウディアが、その様子をみながら「お茶、淹れるね?」と明るい足取りでポットを取りに行った。
「ーーーで、こいつが朝っぱらからヨル兄を毛布ごと運び出そうって言いだしてさ」
「だって早くアトリエ見せたかったんだもん!」
「ヨル兄さん、びっくりしすぎて毛布すごく握りしめてたね……」
「もー、なによー」と頬を膨らませるライザに、クラウディアが目を丸くしながら聞く。
「……嫌がらなかったの?」
「嫌がってたね」
「嫌がってたの!?」
「中指立ててたな」
「全身毛が逆立ってる猫みたいな表情してたね……」と、タオがしみじみと零す。
「最終的にちゃんと見てくれたからいいの!」
「ふふっ、みんなって昔からそんな感じなの?」
「あー。ライザは昔から思いつくと止まんなかったからな……」
「ヨル兄さんは昔から寝てたね……」
「そういえば昔、ヨル兄と一緒に寝てた時なんかさー、ベッドから蹴り落とされて、ここにこーんな痣できたことあるんだよ!?」
肘を指差しながら話すライザを尻目に、レントとタオも「あー、そんなことあったな。ボオスがそれ見て一瞬吹いてたし。」「ベリルおじさん、めっちゃ申し訳なさそうにしてたよね」と相槌を打つ。
クラウディアは「一緒に寝てたの?」と、頬を赤くしながら聞く。
それをライザが「小さいころだよ!?」とブンブンと手を振りながら否定した。
クラウディアが、お茶を一口飲み、「……なんだかちょっと、羨ましいな。」と零す。
「え?なんで?」
手元のカップを見ながら、クラウディアが話す。
「私、子供の頃からお父様といろんな土地を転々としてたから、あまりそういう経験がなくって。」
「だから、そういうのって素敵だなって。」と、続ける。
その言葉に、ライザは笑顔で即答する。
「じゃあこれからあたし達と作ればいいじゃん!」
その言葉に、一拍置いてクラウディアが顔を綻ばせる。
「うん…うん!」
「まあ、最近はヨル兄とライザに苦労してたもんな。ここらで1人友達が増えるのもいいだろ!」
「体がデカくなった分好き勝手する幅も最近すごいもんね、2人とも……」
「ちょっと!ひどくない!?」
「ふふっ。仲がいいんだね、ほんと」