昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「・・・・・・?」
ドタドタと激しく降りていく音を聞きながら、首を小さ
く傾げる。
「なんだったんだ、いったい・・・」
ふと、いつもとは違う首筋の感触に違和感を覚えつつ、まあ、いいかと服をぽいぽいと脱ぎ捨てた。
慣れないポニーテールと、うなじを撫でる風に違和感を覚えながら、散歩に赴く。
例の如くクラウの麦わらを強奪したヨルは、犯行現場を目撃される。
が、
「まあ、あなた雑魚だし~...(笑)。いいわよ、持ってきなさいね〜」
という煽りを甘んじる代わりに、麦わらを被っていく許しを得たので、中指を立てながらシャーロット家を後にした。
(とはいっても、別に何も予定、ないんだよな)
と、シャーロット家を出て早々、軒先に腰を下ろし空を眺める。
流れる白い雲が、なにやらお菓子に見えてきて、ふと目を瞑りながら考える。
「こんなことなら、クラウディアのとこについて行けばよかったか……?」
うまい菓子もあったろうな……。と、零していると、ふとグゥ、と気の抜けた音が響く。
「ボオスでも探すか……」
はぁ、と伸びをしながら立ち上がり、フラフラと歩き始めた。
「あ、あちぃ。」
フラフラと歩いていると、クーケン港に着く。
すでにヨルの頬と首筋は赤くなり、その足取りは弱々しいものとなっていた。
たまらず庇に腰を下ろし、足を伸ばす。
「ヨルちゃーん!」と白い素足をなぜか触ってこようとする子供に、「おーよしよし、暑苦しいな、あっちいけ。」とぶった斬りながら一息つく。
「……ん?ヨルか?」
「……アガーテ姉さんか。こんないい天気に何やってんだ?散歩?」
「それはお前のことだろう、馬鹿者。」と軽くゲンコツを喰らわしながら、水を差し出す。
「まったく、お前は見るたびに顔を赤くしてるな。」
「ギャップで可愛い、だろ?」
そう言いながら、ヨルが顔を濡らす勢いでバシャバシャと水を飲む。
「自己管理をしっかりしろ、と言っているんだ。まったく」
「やん、お姉ちゃんこわ、あーうそうそ拳振り上げるな」
ばっと頭を手で隠しながら「これだから姉御は……」と零すが、それを聞いてたアガーテにすかさずゲンコツを喰らわされる。
「……それにしても、今日は暇なのか?」
「……今、暇じゃなくなった。」
「じゃあな」と足早にその場をさろうとするヨルの首根っこを、アガーテがすかさず掴み、引き寄せる。
「実は人手不足でな。暇じゃなくなるまで私と見回りに付き合え。」
「この細い腕をみろよ。肉体労働に耐えれると思うか?」
「たしかに、子供の手すら振り解けてないところをみると人選にミスがあったかもしれんな……」
「だが背に腹は変えられんのでな。手伝え。」と有無を言わさぬ雰囲気で地面に降ろされる。
「人を犬猫みたいに、ほいほい首根っこ掴みやがって……」と言いながら、子供に散れ散れと手をヒラヒラと振る。
「なに、長時間拘束するというわけではない。島を一周するだけだ。」
「それでも長いだろ……。横暴だ」
ヨルは「クーケン島民として断固抵抗するー。」と手を振り上げながら抗議するポーズを取るが、「さあ行くぞ」と抵抗も虚しく、アガーテに手を引かれ、連れて行かれてしまった。
「まったく、姉御は強引だ……」
「たまには新しいことをするのはいいことだろう。」
「勘弁してくれ、俺を振り回すのはライザで十分だ。」
クーケン港から始まり、トレッペの高台を覗き、ボーデン地区へと移動する。
道中、雑貨屋のフレッサや先生のシンシアなどに手を振られ、ヒラヒラと白い手を振りながらアガーテの後を追う。
「もうそろそろボーデン地区だが、見回りと言っても何をするんだよ、姉御。」
「簡単な話だ。困ってる人がいれば手を差し伸べろ。」
「困ってる人、ねえ……」
ふん……、と小さく鼻を鳴らすヨルを尻目に、アガーテがふふっ……、と目を細めながら微笑む。
不意に、ヨルのポニーテールが大きく風に舞う。
髪を押さえながら、ヨルが小さく舌打ちをした。
「だーくそ、これだからポニテってやつは……」
「……ふむ。言われてみれば珍しいな。自分……ではやってないな。」
お前はここまで器用にまとめれん。と言いながら足を止める。
「邪魔になるのであれば髪を縛り直すか?簡単なものであれば私でもできるぞ。」
「あ?いいよ。」
「気にするな、これくらい。」
「いいんだよ別に。」
口元を綻ばせながら手を伸ばしてくるアガーテに、ペシペシと手を叩く。
身を屈めながら「これでいいんだよ」と言いながら避けていると、ふとガサガサと草むらが揺れる。
戯れ合う2人は止まり、そちらを見ていると小さな人影ーーー眉で切り揃えられた前髪に、腰まで届くような髪の毛の少女が飛び出してくる。
「ジェナ!?どうしたんだその格好は」
少女ーーージェナはアガーテとヨルに気づき、照れくさそうに顔を伏せる。
「少し、島を見ながら歩いてたんです」
少し、坂で足を滑らせてしまって……と、顔を赤くするジェナに、ヨルがゆっくりと近づく。
「……髪に花びらがついてるぞ。」
そう言いながら、ジェナの目線まで腰を下ろす。
草の葉っぱや土汚れを払い落とし、乗っていた花びらを手に取りーーー自分の頭に置き直す。
「似合ってるか?」と赤い目を細くしながらジェナの顔を覗き込む。
「……似合ってます。」
「じゃあ、俺の勝ちだな。怪我しないようにさっさと帰れよ」
そう言いながらヨルが立ち上がり、振り返る。
その背中を、ジェナが頬を軽く赤くしながら見送った。
「……随分懐かれたようだな。」
「ああー。ガキは俺のこと好きなんだ。」
「……あまり可哀想なことはしてやるなよ。」
「何の話だよ」