昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「ヨル兄ィーーーー!!!」
「秘密基地!!!」
「作ろう!!!」
「……は?」
「……え、なんだって?」
ボーデン地区の昼下がり。
フレッサの雑貨店の軒先で、腰を据えるボオスと、昼飯にありつくヨルがいた。
「……おいヨル。何個目だそれ。全部食おうとするんじゃねーよ」
「まだ一個目だぞ」
「もう五個目だバカが」
「もう!無視しないでよ!ボオスも!!!!」
サンドイッチが入った包みに手を伸ばすヨルと、その手を叩くボオス。
そして、その様子を見るライザの声が、ボーデン地区に響き渡る。
「……俺の店の軒先でなんでそんな騒ぎを起こすんだい?」
フレッサが可哀想な声を垂れ流す。
ライザが、「あ、ごめんなさい」と照れくさそうにしながらヨルの隣に座り込む。
「ねーねーヨル兄。秘密基地作りたいから手伝ってよ。ボオスも!」
「いやだよ俺はこれ食った後は寝るんだ。」
「勝手に食ってるんじゃねえよヨル。食わずに寝ろ。」
制止する言葉を無視しながらサンドイッチをまた一口、頬張る。
そしてライザの方に顔を向け、ちっちっと指を振る。
「わかってねーな、ライザ。俺が入っても労働的な面で戦力にはならんだろ。その点ボオスくんを見ろ。ブルネン家の跡取りとして威厳がある。だろ?つまりこいつの方が戦力にもなり得るってことだ。そう言うわけだから俺はいくぞ。じゃあな」
ボオスが、足早に立ち去ろうとするヨルの足を掴み、地面に転がす。
「勝手に決めるな。あと食うな。」
「……ま、ちょうどいいや。このまま連れてこーっと。」
そう言いながら、ライザが地面に転ぶヨルの足を掴み、ずるずるとラーゼン地区へと足をすすめる。
「あ、ボオスも来てよね!来なかったらヨル兄毎日ブルネン邸においてくからー!」
「……俺の返答はおかまいなしか。」
そう呟くと、手に残っていた一切れのサンドイッチを頬張った。
「と、いうわけでー!」
ライザの部屋。
ベッドに鎮座させられたヨルと、椅子に座るライザ、レント、タオ、クラウディア、ボオスの姿があった。
ライザがパン!と手を叩きながら話す。
「なんかいいアイデア、ない?」
「丸投げなのかよ。」
レントがため息をついながらツッコミ、タオが「そもそもなんで秘密基地?」と問いかける。
それに対し、「えー、なんかいいじゃん。秘密基地」とライザの理由が思ったより浅かったことが露見する。
ライザのベッドに鎮座するヨルが、そこで口を開く。
「旧市街の廃屋をパクればいいんじゃね?」
「カスが」
「モラルなさすぎるよ」
「私もそれはちょっと、どうかと思うな……」
「いつになったら内面が育つんだよ、ヨル兄」
方々から集中砲火をされ、口を尖らすヨル。
そこでふと、クラウディアが思い出したようにヨルに話しかける。
「私たちが初めて会った、森の奥の廃屋ならどうかな?」
(……私たち?)
「ん……アァー。あそこか。屋根が吹き飛んでる事に目を瞑れば、いいかもな」
「……むっ」
ヨルが話しながら、毛布に包まれたまま横になる。
その光景を、微妙な表情をしたライザが眺める。
「でも、外観から見ても部屋は二つあるだろうし、いいんじゃない?」
「寝れるんならどこだっていいぞ、俺は」
と、クラウディアがヨルという暖簾に腕押ししている光景が繰り広げられる。
さっきまでのヨルのように口を尖らせたライザにレントが話しかけるが、
「お、おい、ライザ?」
「……なに?」
「……いや、別に」
と、あえなく撃沈されていた。
「それで?具体的に廃屋を修繕するとして、資材とかはどうするんだ?」
いままで黙って聞いていたボオスが腕を組んだまま、口を開く。
タオが「ボオスが乗り気なのは意外だなぁ」と感想を漏らす。
「……え!?し、資材かぁ。考えてもなかったなぁ。」
「なんだ、ライザも旧市街の廃屋をまるまるパクる方向だったのか?俺に似てきたな。」
「多分その考えだったのはヨル兄さんだけだよ……」
「うーん。とりあえずみんなで一度見に行ってみない?私も案内できるしさ」
「ここを抜けるともうすぐだよ!」
レント、ボオスが先頭に、その後ろをクラウディア、ライザ、タオ、ヨルの順で森を歩く。
足元の枯葉や小枝がパキパキと音を鳴らす。
「ヨル兄さん、ほんとに一人でこんなとこまで、前に来てたの?」
「アァー、暇だったからな。」
「迷子になってたからでしょ?ヨル」
「俺は迷子になってない。」
「おしゃべりは程々にしとけよ、お前ら。」
クラウディアがクスクスと笑いながら、『道が俺に迷った』と腕を組みながら謎の主張をするヨルに話しかける。
「むー……」
「何むくれてんだ。水分不足か?」
むすっとした表情のライザの隣に、ヨルがくる。
亜麻色の髪がライザの肩に触れる距離まで詰められ、
一瞬たじろぐが、「そんなんじゃない!」とそっぽ向きながらライザが足を早めた。
「……なんだってんだ?」
「……まあヨル兄さんが悪いね。」
「なんでだよ。」
「……あ!みえたよ!」
クラウディアが跳ねるような声をあげる。
森を抜けると、どこまでも広がるような青空が視界に入る。
その正面には、今なお変わらない廃屋が鎮座していた。