昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
木漏れ日が差す森を抜けると、人の手で拓かれた広場があった。
その中心に、崩れかかった廃屋がある。
広場を眺めるライザたちの頬を撫でるように、潮風が優しく吹き抜ける。
「ここは魔物、入ってこないんだね」
「クリント王国の遺跡、なのかな……?森の見張り小屋だったのかも?」
ライザとタオが、飛び出すように廃屋に近づく。
レントが「おいおい、急ぐなって」と言いながら後ろを追いかける。
「ここがお前らが言ってた廃屋か?」
「うん……。でも、しっかり見てたわけじゃないから意識してなかったけど、これはさすがに秘密基地には厳しいかな……?」
クラウディアが、廃屋を眺めながら零す。
その言葉に、すでに肘について寝そべるヨルが口を出した。
「労働力が五つもあんだ、なんとかなるだろ。」
「おい、その労働力にはお前も入ってるのか?ヨル」
「この柔肌と白い手のひらを見ろ。とても耐えれないだろ。」
白く細い手のひらをボオスにひらひらと見せるヨルを無視し、ボオスがライザ、レント、タオを呼び戻す。
「おい!あんまはしゃぐな。見てみる分には十分だろ。この廃屋は使えそうなのか?ライザ。」
ライザが廃屋の近くから叫ぶように返事をし、開けた広場に声が反響する。
「屋根とかは崩れてるけど、資材さえなんとかできればいけそうじゃないー!?」
「肝心の資材をどうするんだよ。」
「……そりゃまあ、あれだろ。」
「窃盗はダメだよ?ヨル」
「俺をなんだと思ってやがる」
クラウディアのツッコミに、中指を立てながらヨルが口を開く。
「レンキンジュツ……ってやつで、考えてみたらいいんじゃないのか」
ヨルたちの近くにまで戻ってきていたライザが、廃屋を眺めながら黙り込む。
「……錬金術……。」
そして、なにかを閃いたように顔をあげる。
「みんな!とりあえず木とか石とか、資材になりそうなもの持って一旦あたしの部屋に戻ろう!」
「……お前も働けよ、ヨル」
「……ちっ」
「とりあえず持ってきたはいいけどさ……」
タオが石を抱え、肩で息をしながら寂れた船着場に降りる。
レントとボオスが片手で木を担ぎながら「大丈夫か?」とタオを労っていた。
「一体何をするつもりなのさ、ライザ」
「ふふん、決まってるでしょ!」
腕を組みながら、自信ありげにライザが答える。
「ーーーー錬金術で、資材を作ればいいのよ!」
「というわけで、がんばってあたしの部屋まで運んでね!」となぜかライザが胸を張る。
その後ろで、石を抱えたヨルが桟橋に倒れ伏した。
「……もう限界だ……」
「ヨル兄さんが死んだ!」
「フィジカルがなさすぎるぜヨル兄!」
「ふー。ようやくついたな。」
「ほんとだよ……。肉体労働なんて向いてないのに……」
資材になりそうなものを抱えながら、七色葡萄の森を抜ける。
が、シュタウト家の軒先で、眉間に皺を寄せるミオと鉢合わせをしてしまった。
「……あんたたち、今度は何をするつもりなんだい?」
「いい加減お父さんの手伝いを……!」と、ライザに叱ろうとするが、クラウディアやヨルが視界に入り、口を止める。
「あら、ヨルちゃんにバレンツのお嬢さん……?」
「こんにちは。すみません、お邪魔します」
「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
ぺこりと会釈をするクラウディアを尻目に、ライザが「お母さん、お菓子よろしくね!」と脇をすり抜けていく。
その後ろを、すでに意気消沈しているヨルが重い足取りで階段を上がる。
「よ、ヨルちゃん大丈夫?」
「大丈夫……」
そう零しながら、シュタウト家に消えていった。
シュタウト家の2階。
屋根裏を改造したライザの部屋。その窓の前。
大きな釜の前にライザが立っていた。
「よし!じゃあ早速錬金していこっか!!」
いつになく真剣に、かつ楽しげに釜に向き合うライザの背中を、各々が眺める。
すでにライザのベッドの毛布にくるまっているヨルが、芋虫のように顔を出す。
「そもそもだが、資材を錬金するってなんなわけ?」
「言われてみれば、よくわからないね。」
「まあてっきりグラスビーンズとか、フラムとか特殊なモン専門ってイメージあったよなぁ。」
「うん、元の原料は必要なんだろうけど、まるまる形自体変えたりするのはすごいよね」
「ふふん!でしょ!」
「ライザは釜をしっかり見ろ。」
自慢げな顔で振り返るライザに、ヨルがベっと舌を出す。
「あんな持ち運びに苦労した資材を無駄にしたら、ゆるさん。」と威嚇するヨルを尻目、クラウディアがくすくすと笑う。
「まあ、錬金術は意外と万に通ずるってことなんだろう。」
「この島もその成果だったりすんのかもな。」
「そんなわけねーだろ。適当言い過ぎだぜヨル兄」
と、レントが呆れたように返した。