昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「……で、できた。今度こそできた……!」
窓の外は既に暗く。
釜から漏れる光が緩やかに辺りを照らす。
ライザは、錬金した木材や石材を眺め、満足げに笑う。
「よーし、早速今から……!は、流石に無理かあ。外ももう真っ暗だし。」
あーあ、とため息を吐きながら、ベッドに勢いよく腰を下ろすと、むぎゅ!と何かを下敷きにした感触が伝わり、飛び跳ねる。
「わわっ!?な、なに?……て、まさか……」
こんもりとした毛布をゆっくり捲ると、亜麻色の髪の毛が僅かに覗いた。
「……おい、人を下敷きにしといてなんだその態度は」
毛布を被りながら、ゆっくりとヨルが体を起こす。
亜麻色の髪が、赤い瞳が釜から溢れる光に照らされ、淡く反射する。
「う……。ヨ、ヨルちゃん、いたの!?」
「いたもなにも……って、なんでガキ共はいなくなってんだ」
ヨルが眠たげに瞬きをしながら部屋を見渡し、肩にかかる毛布を掛け直しーーーライザに背中を向け、ベッドに潜り直した。
「ちょ、ちょっとヨルちゃん!?なんでまた寝ようとしてるの!?」
毛布越しに体を揺すりながら話しかけるが、すでに毛布の中からは寝息が立ちつつある。
このままではまずい、なにがまずいかはわからないけど、まずいーーーそう考えに至ると、容赦なく毛布を引っぺがす。
勢いよくひっぱられた毛布は、背中を向けるヨルを簡単にひっくり返しーーー
「……あっ。」
ライザの目と鼻の先に、淡い光を優しく反射する亜麻色の髪が流れる。
ヨルが微睡みながら、ゆっくりと瞼を開く。
深い赤の瞳に映った自分の顔が、いつもより赤く見える。
それがヨルの瞳の色を映しているだけなのか、自分自身が赤くなっているのか、ライザにはもう判断がつかなかった。
「ーーわっ!」
近すぎる。
そう思うより先に、体が勝手に後ろへ退いていた。
次の瞬間、ライザはベッドの縁から滑り落ちる。
その様子を眠たげな眼でヨルが見下ろす。
「何してんだ……?」
ふと、クラウディアと手を繋いでいたヨルの姿がよぎる。
ライザは動揺を隠すようにそっぽを向き、呟くように零す。
「……あたしだって女の子なんだけど」
「知ってる」
「知ってるなら……」
「だから知ってる。女の子なんだろ?ライザは。」
ヨルがクァ……とあくびをし、「昔から知ってる」とだけ零し、背中を向けてベッドに再び潜り込んだ。
ムカシカラ、シッテル……?と意味を嚥下するまで、その言葉を頭の中で何度も反芻させる。
顔が火照るのと、意味を理解するのはほぼ同時のことだった。
「……で、なんで俺の家に来たんだよお前は」
机を挟み、目つきの悪い幼馴染ーーボオスが小言を漏らす。
昨晩、シュタウト家からブルネンに邸に逃げてきたライザはパンを頬張りながら、目を逸らす。
「……仕方ないでしょ、色々あったの!」
「答えになってねえだろ……」
はぁ……と呆れながらボオスがパンを一口頬張る。
「そういやあライザ。お前、今朝はヨルを起こしに行かねえのか?」
「……今日はお母さんが起こすよ」
「はぁ?ミオさんが?」
ボオスが呆れながらため息をつき、「何がどうなってそうなるんだよ。……まあいい」と続ける。
「……で、錬金術師に聞きに行って成果は出たのか?」
「あ、うん!家の資材ならなんとか形になったよ!できた頃には外はもう真っ暗だったんだ、けど……」
一瞬、昨晩のヨルの赤い瞳がライザの脳裏をよぎるが、ブンブンと頭を振って追い出す。
「ほんとに大丈夫なんだろうな……」
「だ、大丈夫だって!これ食べ終わったらみんな呼びにいくよ!!」
そう言い切ると、まるでこれ以上の話は受け付けませんとばかりにパクパクとパンを口に運び出す。
その様子を眺めながら、はぁとボオスはため息をついた。
「俺の家は避難所じゃねえんだがな……」