昼行燈の女神は微笑む 作:匿名
「……う」
毛布に包まれたヨルが、寝返りを打つ。
上半身に毛布が集中し、息苦しさからゆっくり目を開く。
上半身を起こし、毛布がズレ落ちる。
「……ライザ?」
部屋の主を探すが、姿は見当たらない。
眠気まなこで腕を組みながら、回らない頭で昨日のことを思い出す。
ーーー「あたしだって、女の子なんだけど」
そう呟き、そっぽを向くライザを思い出し、「なんだったんだ、ありゃ」と零した。
「よーし、ついたな。」
レントが小舟を操舵し、桟橋につける。
和気藹々としていた面々のうちの誰かが、「ようやく狭い船から解放されるのか……」と漏らす。
「まさかアンペルさんに聞いた後に、また錬金して資材完成させてたとは思わなかったよ……」
「その熱意が畑仕事にも少しは向いてりゃミオさん達も安心したろうな。」
「うるさいなー、畑はめんどうなんだもん!」
「そんなはっきりいうことじゃないと思うな、ライザ……」
「クラウディアまで!?」
「……」
桟橋を離れ、森を抜けた先の広場。
ライザが錬金した資材をレント、タオ、ボオスが持ち運び、ライザとクラウディアは設計図を見ながら話しあう。
ヨルはそんなみんなの後ろ姿を、腕を組みながら眺めていた。
———特にライザを。
(……静かだな)
いつもならやかましいくらいにダル絡みしてくるだろうに、と心の中で零す。
(……ま、いいか。)
絡んでこないならこないで、好きにしよう。
そう思い立ったが吉日。
腕組みを解き流れるように地面に寝ころぼうとするが、首根っこを容赦なく掴まれる。
「この容赦のなさ、不器用そうな優しさを醸しだす掴み方……ボオスか」
「ボオスか、じゃねえ。何さぼろうとしてやがる。」
「誤解するな、監督役をしてやろうと思っただけだ。」
「監督役は寝転んだりしねえだろ……」
「そら、さっさと行くぞ。」とずるずると地面を引きずられる。
その様子に一瞬、ライザが視線を向けるが———
「?」
タイミングが悪く、ヨルと視線がかち合う。ばっとライザが勢いよく設計図に顔を向け、僅かに肩を跳ねさせながら、クラウディアとまた話し始めた。
「……やっぱ変だな。」
「ようやく自覚したか?さっさと資材の運搬を手伝え」
あぁ……。と、情けない声を口の隙間から垂れ流しながら、ヨルが廃屋の近くまで連れて行かれた。
「え、ヨル兄力仕事できんの?」
「あ、アレじゃない?資材を持つヨル兄さんをレントが持つ、みたいな」
「失礼だなお前ら」
麦わら帽子を被り、袖をまくるヨルに「こんな白い腕で〜?笑」とレントが笑えば、隣のタオもクスクスと笑い出した。
そんな2人の足を、猫のパンチより弱いヨルの蹴りが襲う。
「お前ら何じゃれついてんだ。ったく。」
「お、わりーわりー。……とりあえずこれで運ぶ資材は全部か?」
「まさかボオスが一番やる気があるとはね……」
「やるからには当たり前だろうが。……おいライザ!資材は運び終えたぞ!」
「あ、うん!今行くー!」
廃屋の前には、運び込まれた資材が山になっていた。
レントがその山を眺めながら、「こいつをどう組み立ててくんだ……?」と疑問を口にすると、ライザが元気よく手を上げる。
「はいはい!!完成した形と部品はしっかりイメージできてるから、あたしの指示に従ってね!」
「じゃあ、私はお茶とかの準備しておくね?」
「俺も同行しよう。」
「ヨル兄はこっちな?」
「不安だが、まあいいだろ。早速取り掛かるか?」
「ボオス一言余計だよ!……まあとりあえず、やっちゃおうか!」
「……なあ、ヨル。お前ちゃんと力入れてんのか?」
「当たり前だろう。この木材は八割俺が持ってるぞ。」
レントとボオスが木材の両端を持ち、その間にヨルがすまし顔で真ん中を持つように立っている。———というよりほとんど、手を添えてるだけにしか見えないが。
「なあボオス。一旦手を離してみねえ?」
「もう離してる。」
「……あとで覚えとけよ……」
「ヨル兄さんが潰れた!?!?」
「何やってんのよヨル兄!!?」
資材の下からタオとライザによって引き摺り出されるヨルが、「俺が悪いのか?これ」と悪びれずに言葉を吐いていた。
「もう!バカやらないの!というか無茶しないでよヨル兄は!」
「俺のこと雑魚って言ったか?」
「そこまでは言ってないと思うな……」
「みんなー!お茶が入ったよー!」
クラウディアが四つのティーカップが載ったトレイを片手に、ライザたちに声をかける。
その後ろから、亜麻色の髪の毛がチラチラと存在感を主張する。
「俺も手伝いました。」
片手でティーポットとカップが乗るトレイを持つヨルが、サクッと一枚クッキーを口に入れながら顔をのぞかせる。
「なんでもうクッキー食ってんだ???なあおい穀潰し」
「言い過ぎだろ。」
「残当だね……」
「味方はいないのか……」と絶望したような表情のヨルが、クッキーを一枚、親指で弾いて口に投げ込む。
「うん、うまいぞ。お前たちもさっさと食うべきだ」
「ヨル兄今何枚食べたのよ??」
「片手で収まるくらいだな」
「すでに5枚以上食べてるの見えてたんだけムグッ」
ジト目でティーカップを受け取りながら抗議するライザの口に、クッキーを一枚、人差し指で押し込みながらヨルが無駄に綺麗な姿勢でティーカップを配っていく。
「ムー……」
ライザが口をもごもごと動かしながらジト目でヨルを睨む。けれど、その頬にはほんのりと赤みが差していた。